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クリニック開業・経営コラム

循環器内科経営シリーズ 第3回|健診異常から“続けられる外来”へ──初診設計と地域導線をどう整えるか

循環器内科というと、心筋梗塞や心不全、不整脈など「急性期の医療」を思い浮かべる先生が多いと思います。


一方で、前回(第2回)で整理した通り、開業後の経営の安定を支えるのは「生活習慣病を中心とした慢性期のフォロー」です。


では、その慢性期フォローにたどり着く前段階、すなわち「健診異常 → 初診 → 継続通院」という流れは、クリニックの中でどの程度、言語化されているでしょうか。



  • どんな健診結果の方に、どのタイミングで来てほしいのか

  • 初診で、何をどこまで説明するのか

  • 検査・説明・次回予約を、どうひと続きの流れとして設計するのか


これらが曖昧なままだと、生活習慣病を経営の土台に置きたくても、



  • 健診からの受診導線が安定しない

  • 初診で終わってしまい、再診につながらない

  • スタッフとのイメージが揃わず、院長だけが頑張る構造になる


といった「見えにくい不安定さ」が続きがちです。


第3回では、循環器クリニックの経営において重要な「初診設計」と地域導線について、院長先生の頭の中の整理をお手伝いできるよう、ポイントを順番に言語化していきます。




1. 健診 → 受診のあいだにある“見えない溝”をどう埋めるか


まずは、「初診のさらに前」の話から整理してみます。


多くの地域住民にとって、循環器内科は次のようなイメージになりやすい領域です。



  • 重症の人が行くところ

  • 専門的で敷居が高いところ

  • 健診異常の段階で行くには「まだ早い」気がするところ


高血圧や脂質異常症が、将来の心筋梗塞・心不全リスクと直結していることを、循環器医はよく理解しています。
しかし患者さん側の感覚は、



  • 「薬を飲むメリットが実感しづらい」

  • 「症状がないから様子を見てもいいのでは」


というところで止まっていることが少なくありません。


このギャップは、「健診で異常が出たあと、どこに相談すべきか」が患者の頭の中で整理されていないことから生じています。


ここで、循環器クリニックとしてあらためて考えたいのは、


どんな健診結果の方に、どのタイミングで、うちに来てほしいのか


という問いです。


例えば、



  • 「血圧が○○以上の方は、ぜひ一度ご相談ください」

  • 「LDLコレステロールが○○を超えていた方は、循環器内科での評価が役立ちます」

  • 「健診で『再検査』や『要精査』と書かれた方へ」


といったメッセージを、ホームページや院内掲示、地域の健診結果説明などで“見える形”で伝えていくことが、初診設計のスタートになります。


院長の頭の中だけにある「こういう人には早めに来てほしい」という感覚を、地域の人・健診に関わる人と共有できるかどうか。
ここが、「健診 → 初診」の導線を整えるうえでの最初のポイントです。




2. 初診で必ず整理しておきたい“3つの軸”


次に、実際に患者さんが初診で来院した場面を考えてみます。


循環器の初診は、検査項目も多く、情報量も多くなりがちです。そのなかで、最低限ここだけは整理して共有しておきたいという軸を、あえて3つに絞るとすれば、次のようになります。


(1)リスクの「現在地」を共有する


まず大切なのは、患者さんと一緒に、


「いま、どの地点にいるのか」


を確認することです。



  • 現時点での血圧・脂質・血糖などの状態

  • 家族歴や喫煙歴、体重変化などの背景要因

  • すでに心電図やエコーで確認されている所見 など


医師側から見ると「よくある所見」の一つかもしれません。
しかし患者さんは、多くの場合、「自分の状態をどう理解すればいいのか」が分かっていません。


ここで大事なのは、数字の説明だけで終わらせないことです。



  • 「今は症状がないが、このまま続くと、何年〜十数年先にどんなリスクが高まるのか」

  • 「今の段階で対策を始めると、どの程度リスクを減らせるのか」


こうした「今」と「将来」を結ぶ説明を、落ち着いたトーンで共有することで、患者さんは自分ごととして状況を受け止めやすくなります。


(2)通院の「意味」を言葉にする


次に、


「なぜ、ここに通う必要があるのか」
「なぜ、この薬や検査が必要なのか」


という“通院の意味”を、患者さんと共有することが重要です。


生活習慣病は、症状が乏しいがゆえに、



  • 「薬を飲むメリットが実感しづらい」

  • 「飲み忘れや自己判断での中断が起きやすい」


という特徴があります。


ここで、循環器専門医としての視点を活かし、



  • 「この薬は、今の数字を下げるだけでなく、○年後の心筋梗塞や脳卒中のリスクを下げるために必要」

  • 「この検査は、今の状態がどれくらい進んでいるかを“見える化”して、今後の方針を一緒に考えるためのもの」


といった形で、「治療や検査の目的」=「患者さんの未来とのつながり」を丁寧に言語化しておくことが、継続率を高める土台になります。


(3)“これからの道筋”を一緒に描く


最後に、初診の場で、


「これから、どんな流れで診ていくのか」


を、ざっくりとでも共有しておくことが大切です。



  • 今後予定している検査(いつ・何を・どのくらいの頻度で)

  • 次回受診までに意識しておいてほしい生活習慣

  • どのくらいの間隔で通っていただきたいか(例:最初の3ヶ月は○週間ごと、落ち着いたら○ヶ月ごと など)


といった「今後の道筋」を先に示すことで、患者さんは



  • 「次に何をされるのか分からない不安」

  • 「どれくらい続ける話なのか分からないモヤモヤ」


から解放されやすくなります。


初診は、情報提供の場であると同時に、「一緒に道筋を描き始める場」でもあります。




3. 検査・説明・次回予約を“ひとつの流れ”として設計する


循環器の外来では、どうしても検査が中心になりがちです。


・とりあえず検査をして、
・結果は次回説明して、
・予約は患者さんの都合に委ねて…


という流れが、悪い意味で「当たり前」になっているケースも少なくありません。


しかし、生活習慣病を外来の軸に据えるという視点に立つと、検査は単発のイベントではなく、


「継続フォローの中に位置づけられた通過点」


として設計した方が、患者さんの理解も、経営の安定性も高まりやすくなります。


例えば、次のような流れをイメージしてみてください。


(1)なぜこの検査をするのかを、最初に言葉にする


初診時に、



  • 「心電図で何が分かるのか」

  • 「エコーで何を確認しているのか」

  • 「ホルター心電図が、どんな場面で役に立つのか」


といった“この検査で何が分かるか”を、あらかじめ言葉にしておきます。


あわせて、



  • 「3割負担の場合の、おおまかな自己負担の目安」


まで伝えておくと、患者さんは



  • 「何をされるか分からない不安」

  • 「いくらかかるか分からない不安」


の両方から、少し距離を置くことができます。


ここでは、細かい点数をすべて説明する必要はありません。
「ざっくりとした金額のイメージ」と「検査の意味」が伝われば十分です。


(2)結果の伝え方に“型”をつくる


検査結果の説明は、数値の良し悪しだけを伝えるのではなく、



  • 前回からどう変化しているか

  • 今の状態を、将来のリスクという観点からどう評価するか

  • これからどこを目指していくのか

  • そのために次の○ヶ月で何を一緒に頑張るのか


といった「ストーリー」で伝えることが大切です。


ここでも、「検査で分かったこと」→「これからどうしていくか」という流れを意識するだけで、患者さんの納得感は大きく変わります。


(3)次回予約を“結果を聞く日”から“また一歩進む日”へ


次回予約の位置づけも、


「結果を聞きに来るだけの日」


ではなく、


「結果を踏まえて、また一緒に少し前に進む日」


として説明しておくと、継続の意味づけが変わってきます。



  • 「最初の数ヶ月は少しこまめに診ていきましょう」

  • 「数値が安定してきたら、通院間隔も一緒に見直していきましょう」


といった言葉を添えることで、「通い続けること」に対する心理的なハードルを下げることができます。




4. 検査と費用の“見える化”は、初診設計の一部として考える


近年、多くのクリニックがホームページで医療機器の写真を掲載しています。
しかし患者さんの立場から見ると、



  • 「この機械で自分の何が分かるのか」

  • 「この検査が、自分の将来にどう役立つのか」

  • 「だいたいどのくらいの費用がかかるのか」


といった「意味」と「目安」がセットになった情報の方が、はるかに役に立ちます。


(1)患者さんが本当に知りたいのは「写真そのもの」ではない


例えば、同じエコーの写真でも、



  • 「心臓の動きや弁の状態を確認し、心不全や弁膜症の早期発見につながる検査です」

  • 「3割負担の場合、○○〜○○円程度が目安です」


といった一文が添えられているだけで、患者さんの安心感は違ってきます。


「この検査で分かること」「受けるメリット」「おおよその自己負担額」をセットで示す。
それだけで、検査は「言われるがままに受けるもの」から「自分の将来のために受けるもの」へと位置づけが変わっていきます。


(2)ホームページとGoogleマップでの“見える化”


ホームページの情報設計については 「クリニック経営はホームページから始まる ― 患者の安心を生む情報設計」 「クリニックホームページの新しい見られ方 ― AI Overviewで変わる検索の入口」 、スマホ検索・MEO(Googleマップ)の整え方については 「スマホ検索で“選ばれない理由”|患者の検索行動から考えるAI×SEO×MEOの整え方」 で詳しく整理していますので、ここでは、


「初診で伝えたいことを、そのまま外部の情報にも反映させる」


という発想を持っておく、という位置づけで十分です。




5. 初診設計を「院長の頭の中だけ」に留めない —— チームで共有する重要性


初診設計は、どうしても院長の頭の中にある「感覚」「こだわり」に依存しがちな領域です。



  • 「このくらいの健診結果なら、早めに来てほしい」

  • 「初診では、ここまで説明したい」

  • 「こういう患者さんには、次回の予約をしっかり押さえておきたい」


といった思いは、多くの院長が持っています。
しかしそれが、スタッフとどこまで共有されているかは、また別の話です。


例えば、次の3つのポイントだけでも、スタッフと具体的に共有しておくことで、初診の質は大きく変わります。



  1. 「こういう健診結果の方には、うちを案内してほしい」というイメージ
    電話問い合わせや受付対応の際に、「その結果なら、一度循環器で詳しく確認しておくと安心ですよ」と背中を押せるか。

  2. 初診時に大事にしている説明のポイント
    看護師や検査技師が、「先生はこの点を特に大切にしている」という理解を持って説明に加われるか。

  3. 次回予約までの声かけ
    受付・看護師が、「ここから○ヶ月くらいは少しこまめに診ていきたいので…」といった言葉を添えられるか。


そのためのツールとして、



  • 初診用の問診票・チェックリスト

  • 説明のポイントを1枚にまとめたシート

  • 検査と次回予約の流れを図にしたフロー


など、「見える化された型」を院内で共有しておくと、院長一人の「頑張り」ではなく、チームとしての「初診設計」になっていきます。




6. よくあるつまずきパターンと、その整理のしかた


ここまで読んでいただいて、「頭では分かるが、現場ではなかなか…」という感覚をお持ちの先生もいらっしゃると思います。


循環器クリニックの初診設計で、よく見られるつまずきパターンを、あえて3つに整理してみます。


パターン①:初診で「全部説明しようとして」患者さんが疲れてしまう


真面目な先生ほど、初診でありとあらゆるリスクや治療選択肢を説明しようとしてしまいます。その結果、



  • 患者さんは情報量の多さに圧倒され、

  • かえって「自分には難しい話だ」と感じてしまう


ことがあります。


こうした場合には、



  • 「初診で伝えること」と「2回目以降で深めていくこと」を分けて整理する

  • 初診のゴールを「安心してもらうこと」「通院する意味を分かってもらうこと」に絞る


といった発想が役立ちます。


パターン②:健診からの受診はあるが、その後の再診につながらない


健診と連携して導線はできているものの、



  • 初診での説明が「検査と薬の話」に終始してしまう

  • 「次に何を一緒に目指していくのか」の話が十分にできていない


といった場合、患者さんにとって通院の意味がぼやけたままになり、自己判断での中断が起きやすくなります。


「あなたと一緒に、何を防ぎたいのか」
「どんな状態を目指していきたいのか」

という“目的の共有”を、初診の中に丁寧に組み込めるかどうかがポイントです。


パターン③:スタッフと「誰に来てほしいか」のイメージが揃っていない


院長の頭の中には、「この地域では、こういう患者さんの受け皿になりたい」というイメージがある。
しかし、スタッフにはそこまで伝わっておらず、



  • 電話対応での案内がまちまち

  • 健診結果を持参した患者さんに対する声かけが統一されていない


というケースも見られます。


この場合は、



  • 「こういう健診結果の方には、積極的に受診を勧めたい」

  • 「こういう背景を持つ方は、慎重にフォローしていきたい」


といった具体的な人物像(ペルソナ)を、一度スタッフと一緒に整理しておくことで、初診導線の質が大きく変わっていきます。




7. 結論:初診設計は、“循環器クリニックの経営と医療をつなぐハブ”である


本稿で整理してきたように、循環器クリニックにおける初診は、



  • 健診異常の患者さんが「どこに相談すべきか」を理解する入り口であり、

  • 生活習慣病の継続フォローへつながる橋渡しであり、

  • スタッフと共有できる「経営戦略」としての側面も持つ


“ハブ”のような役割を担っています。


第1回・第2回でお伝えしてきたように、



  • 循環器の専門性を、地域の生活習慣病管理にどう活かすか

  • 継続率を軸に、経営の安定をどう図るか


といったテーマを現実のものにするには、
「初診の設計」から見直していくことが、遠回りに見えて最も確実な一歩です。


初診設計を整えることで、



  • 患者さんは、自分の状態と通院の意味を理解しやすくなり、

  • スタッフは、院長の考え方に沿った対応がしやすくなり、

  • 院長自身も、「なぜこの外来を続けているのか」に納得を持ちやすくなります。


循環器内科の経営は、「専門的な治療」だけで決まるものではありません。
“生活習慣病を軸にした、続けやすい外来”の入口をどう設計するか。
そこに、これからの循環器クリニック経営の土台があると私は考えています。




【次回予告】第4回:心不全・心房細動の再発予防と外来フォロー体制


第4回では、今回の「初診設計」を土台に、心不全・心房細動などの慢性期フォローを、外来経営の視点から整理していきます。



  • どのような患者さんを、どの層としてフォローしていくか

  • 再発・再入院を防ぐために、外来で整えておきたい支援体制

  • 診療報酬・地域連携の流れと、クリニックの役割の重ね方


といったテーマを通じて、
「治す医療」と「支え続ける医療」を、循環器クリニックの外来でどう両立させるかを一緒に考えていきます。







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