医療法改正で開業しづらくなる?──本当に起きていることを誤解なく解説します
「医療法が変わるらしい」「自由開業制が終わるのでは?」「都市部はもう開業できないのでは」──最近、開業を検討している先生方から、こうした声を伺うことが増えてきました。
本記事では、今回の医療法改正の“受け止め方”を、できるだけ平易な言葉で整理します。
結論からお伝えすると、
- 「開業そのものが禁止される」「自由開業制が終わる」という性質の改正ではない
- ただし、地域によって「歓迎されやすい開業」「そうでない開業」の差は、これまで以上に明確になる
- そして、本当に開業の成否を分けるのは“制度”よりも「市場環境」と「経営設計」である
という3点を押さえておくことが大切です。
1.よくある不安「開業しづらくなる?」を整理する
① 「自由開業制がなくなる」のか?
今回の医療法改正は、ニュースやSNSで「開業を止めるための法律ではないか」と受け止められることもあります。
しかし、条文の枠組みを丁寧に確認していくと、
- 開業には引き続き許可制ではなく、届出ベースで対応する
- 自治体が「こうした医療機能を担ってほしい」と要請・協議するための仕組みを整える
- 地域の医療提供体制を守るために、情報提供や協議のプロセスを明確にする
といった性質の改正であり、自由開業制そのものを否定するものではないことがわかります。
② 「要請されたら従わないといけない?」
改正後は、自治体が医療機関に対して「地域として、こういう医療機能を担ってほしい」と要請できる仕組みが整えられます。
ここで大切なのは、
- 要請=強制ではないこと
- 要請 → 協議 → 必要に応じて勧告や公表…といった段階的なプロセスであること
- あくまで地域の医療を守るための「調整の仕組み」であること
です。
「開業したら、すぐにどこかに移れと言われる」「好きな診療をやらせてもらえない」といったイメージとは、性質が異なります。
③ 「都市部はもう開業できない?」
確かに、今後は医師多数地域での「新規開業・病床増設」について、これまで以上に慎重に議論される場面が増えるでしょう。
一方で、
- 都市部であっても、地域ニーズに合った機能を担うクリニックは“歓迎される存在”であり続ける
- 逆に、既存の医療提供体制と全く調和しない開業は、これまで以上に厳しく見られる
という方向性が見えてきます。
つまり、「どこでも自由に好き勝手に」から「地域の中で役割を持って」へ、という流れが少しずつ強まっていると捉えるとわかりやすいかもしれません。
2.今回の医療法改正で“変わること”と“変わらないこと”
① 変わること:地域との「対話の場」が増える
今回の改正でポイントになるのは、
- 自治体が医療機関の整備方針を示しやすくなる
- 個別の医療機関と役割分担や機能に関する協議を行いやすくなる
という「対話の場」が制度として整えられることです。
開業を検討する先生にとっては、
- 計画段階から自治体や医師会と対話する重要性が増す
- 地域全体の医療提供体制の中で、自院の位置づけをどう描くかがより問われる
という意味合いが強くなっていきます。
② 変わらないこと:最終的には「開業後の経営」で評価される
一方で、改正があっても変わらない点もあります。
- 開業の成否は、これまで通り「患者さんから選ばれ続けるかどうか」で決まる
- 医療機関同士の連携の質・地域との関わり方が評価を左右する
- 院長の働き方・スタッフの定着・数字の見方など、院内マネジメントの重要性はむしろ増している
つまり、法律の文言そのものより「開業後の経営設計」の比重が、相対的に高まり続けているとも言えます。
3.では、何が本当にクリニック経営を左右するのか
① 「制度」よりも「市場環境」の変化
多くの先生が不安を感じている背景には、
- 人口減少・高齢化の進行
- 物価高・人件費高騰など、コスト構造の変化
- 感染症流行後の患者行動の変化(受診控え・受療形態の多様化)
といった市場環境の大きな変化があります。
これらは医療法改正の有無にかかわらず、すでにじわじわと経営に影響を与えている要素です。
「法改正そのもの」だけを見て不安になるよりも、
- 自分が開業を考えているエリアの人口・競合・患者層
- どのような診療スタイル・働き方で経営を続けたいのか
といった“土台となる前提”を整理することの方が、実務的な意味を持ちます。
② 「どこで開業するか」より先に、「何を担うか」
医療法改正や医師偏在対策の流れの中で、今後ますます重要になるのは、
- 「この地域で、自院は何を担うのか」という役割の言語化
- 「患者・地域・自分(家族)」の三方よしのバランスをどう設計するか
という視点です。
「空いているエリアを探す」「補助金が出る場所を探す」といった発想だけでは、
制度や市場の変化があるたびに不安定になります。
それよりも、
- 自分の臨床経験・価値観からどんな医療を届けたいか
- その医療はどのような地域・患者層と相性が良いのか
を整理したうえで、立地・診療圏・連携先を選び取っていくことが、結果として“続けられる開業”につながります。
4.制度に振り回されず、「変化に耐えられる経営」を描く
① 「制度×経営」をセットで見る時代
これからのクリニック経営では、
- 法改正や診療報酬改定の方向性を押さえつつ
- 実際の現場では、どのような患者像・疾患構成・働き方を軸にするのか
をセットで考えることが欠かせません。
制度だけを追いかけても、日々の経営の悩みは解消されません。
一方で、制度を全く見ないまま計画を立てると、数年後に「こんなはずでは…」というズレが生じやすくなります。
大切なのは、
- 制度の“方向性”を理解する(細部の点数を暗記する必要はない)
- 自院の強みや役割を言語化し、そこに沿った経営設計を行う
という2つのバランスです。
② 「不安」ではなく「問い」から始める
医療法改正のニュースに触れたとき、多くの先生が最初に抱くのは漠然とした不安です。
その不安を少しずつほぐしていくには、
- この改正で、自分の開業計画のどの部分が影響を受けうるのか?
- どの地域であれば、自分の臨床経験やスタイルがより活きるのか?
- どのような形なら、患者・地域・自分の三方よしを実現できそうか?
といった「問い」を言葉にすることが第一歩になります。
5.開業を考える先生へ──「考えの整理」から始める
今回の医療法改正は、「開業を止めるための法律」ではなく、
地域全体で医療提供体制を守るための“調整の枠組みを整える”改正と捉えると、過度な不安からは少し距離が取れるかもしれません。
そのうえで、本当に大切なのは、
- どの地域で、どのような医療を届けたいのか
- 自分の臨床経験・価値観を、地域のニーズとどう結びつけるか
- 家族・スタッフ・自分自身の働き方をどう守るか
といった“経営の前提”を整理することです。
制度の動きや数値は、その前提を支える「材料」のひとつに過ぎません。
医療法改正や2026年診療報酬改定の流れを踏まえつつ、「自分はどうしたいのか」を一緒に言葉にしていければと思っています。
医療法改正の概要や条文のポイントを整理した記事は、
「医療法改正で“開業しづらくなる”は本当か?──2025年改正後の自由開業制とクリニック経営の考え方」 にまとめています。
制度の全体像を把握したうえで、本記事とあわせてご覧いただくと、よりイメージが掴みやすくなると思います。
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