更新日:2026年6月14日
都市部開業・医師多数地域都市部や医師多数地域でのクリニック開業は、以前よりも難しくなっています。
人口が多く、患者ニーズもある一方で、競合クリニックが多く、スタッフ採用も簡単ではありません。さらに、医師偏在是正や医療法改正の流れにより、これからの開業では地域医療の中でどのような役割を担うのかも問われやすくなっています。
本記事では、医師多数地域で開業を検討する先生に向けて、競争がある地域で、どう続けられるクリニックを設計するかを整理します。
結論から言えば、医師多数地域での開業では、単なる差別化だけでなく、経営の持続性・患者から選ばれる理由・地域医療とのつながりを同時に考えることが重要です。
私はこの考え方を、売り手・買い手・世間の三方によい状態を目指す視点として大切にしています。ただし、本記事では「三方よし」の説明ではなく、実際の開業戦略としてどう考えるかを中心に整理します。
医師多数地域での開業をどう考えるか
医師多数地域とは、医師数が相対的に多いとされる地域を指します。都市部や人口が集中する地域では、すでに多くの医療機関があり、患者さんにとって選択肢が多い状態になっています。
そのため、医師多数地域で開業する場合、単に「人口が多いから患者さんが来る」と考えるのは危険です。
人口が多くても、競合が多ければ、患者さんから見た自院の位置づけが曖昧になります。駅から近い、内装がきれい、Web予約がある、といった要素だけでは、長く選ばれ続ける理由になりにくいこともあります。
また、医師偏在是正の流れが強まる中で、開業場所を選ぶ際には、地域医療との関係も無視できなくなっています。
開業予定地が医師多数地域や外来医師過多区域に該当する可能性がある場合、制度面の確認だけでなく、自院がその地域でどのような役割を担うのかを言葉にしておくことが重要です。
※開業場所を決める前に考えたい視点は、医師偏在是正とクリニック開業への影響を整理した記事でも詳しくまとめています。
なぜ競争が激しくなるのか
医師多数地域では、患者さんの数が多い一方で、医療機関の数も多くなります。
そのため、開業直後から一定の患者数が見込める場合でも、時間が経つにつれて競争環境の影響を受けやすくなります。
競争が激しくなる理由には、次のようなものがあります。
- 近隣に同じ診療科のクリニックが多い
- 駅前や商業施設周辺など、似た立地条件の医療機関が集まりやすい
- Web予約、Web問診、キャッシュレス決済など、利便性の差が比較されやすい
- 口コミや検索結果で、患者さんが複数のクリニックを比較しやすい
- スタッフ採用でも、近隣医療機関との競争が起こりやすい
こうした環境では、「他院より目立つ」だけでは不十分です。
一時的に広告やキャンペーンで認知を取れても、診療体制やスタッフ体制が追いつかなければ、患者体験が崩れ、院内も疲弊します。
差別化だけでは続かない
医師多数地域では、差別化は必要です。しかし、差別化だけを目的にすると、院長やスタッフに負担が偏ることがあります。大切なのは、選ばれる理由と、続けられる体制を同時に設計することです。
続けられる経営体制をつくる
医師多数地域で開業する場合、まず考えたいのは、院長自身とクリニックの持続性です。
患者数を増やすことだけに意識が向くと、診療時間の拡大、過剰なサービス、スタッフへの負荷増加などにより、開業後に無理が出ることがあります。
続けられる経営体制をつくるためには、次のような視点が必要です。
- 収益の柱を一つにしない
保険診療だけでなく、健診、予防医療、慢性疾患管理、在宅医療、自費サービスなど、自院の専門性と地域ニーズに合った組み合わせを考える。 - 院長に業務を集中させすぎない
診療、説明、スタッフ対応、業者対応、経営判断がすべて院長に集中すると、早い段階で疲弊しやすくなります。 - 少人数でも回る業務設計にする
予約、問診、受付、会計、検査、説明、返書などの流れを整理し、人が増えない前提でも回る形を考える。 - 数字を見る習慣を持つ
患者数、再診率、待ち時間など、経営と運用の両面から状況を確認する。
ここで大切なのは、最初から完成形を作ることではありません。
開業前にすべてを決めきるのではなく、開業後に見直せる余白を持った設計にしておくことです。
患者から選ばれる理由をつくる
医師多数地域では、患者さんにとって選択肢が多くなります。
そのため、「近いから」「新しいから」だけでは、長く選ばれ続ける理由になりにくいことがあります。
患者さんから選ばれる理由をつくるには、自院が提供したい医療と、患者さんが感じる価値をつなげる必要があります。
- 来院前の不安を減らす
ホームページで診療内容、対象疾患、予約方法、持ち物、受診の流れを分かりやすく示す。 - 自院の強みを言葉にする
生活習慣病、睡眠時無呼吸症候群、小児、皮膚、在宅医療、予防医療など、何を得意としているのかを明確にする。 - 患者層を曖昧にしすぎない
誰にでも来てほしいと考えると、かえって自院の特徴が伝わりにくくなることがあります。 - 診療後の体験まで考える
説明の分かりやすさ、会計、次回予約、検査結果の伝え方など、再診につながる体験を整える。
医療の質は当然大切です。
そのうえで、患者さんが「ここなら通い続けられそう」と感じられるように、受診前・受診中・受診後の体験を設計することが重要になります。
地域医療の中で役割を持つ
医師多数地域では、クリニックが多いからこそ、地域の中で自院の役割が見えにくくなることがあります。
一方で、役割がはっきりしたクリニックは、患者さんだけでなく、近隣医療機関、介護事業所、調剤薬局、行政からも認識されやすくなります。
地域医療の中で役割を持つためには、次のような視点が考えられます。
- 病診連携・診診連携を整える
紹介状、返書、検査依頼、逆紹介の受け入れなど、連携先がやり取りしやすい仕組みを整える。 - 地域包括ケアの中で関われる範囲を考える
ケアマネジャー、訪問看護、調剤薬局、介護事業所との情報共有の形をつくる。 - 公衆衛生や予防医療との接点を持つ
予防接種、健診、学校医、産業医、健康講座など、地域との接点を検討する。 - 地域で不足している機能を確認する
初期救急、在宅医療、慢性疾患管理など、自院が無理なく担える役割を考える。
制度の変化を踏まえても、地域医療の中で役割を持つことは、今後ますます重要になります。
ただし、すべてを引き受ける必要はありません。
大切なのは、自院の専門性・体制・院長の考え方を踏まえて、どこまでなら継続して担えるのかを整理しておくことです。
※医療法改正や外来医師過多区域の制度面については、自由開業制見直しと外来医師過多区域を整理した記事もあわせてご覧ください。
小さく始めて、回しながら整える
医師多数地域で続けられるクリニックをつくるには、開業時点ですべてを完成させようとしないことも大切です。
むしろ、最初は小さく始めて、運用しながら整える方が現実的です。
- 現状の見取り図を作る
診療圏、競合、患者層、スタッフ体制、予約導線、電話対応、会計などを一度見える形にする。 - 優先順位を決める
患者さんの困りごとと、院内の詰まりが重なるところから着手する。 - 90日単位で見直す
予約導線、Web問診、説明資料、返書テンプレートなど、小さな改善を一定期間試す。 - 数字で確認する
待ち時間、電話件数、再診率、会計締め時間、キャンセル率など、確認する指標を絞る。 - うまくいった運用を標準化する
手順書、院内掲示、チェックリストなどに落とし込み、人が替わっても続く形にする。
競争がある地域では、最初に完璧な設計を作ることよりも、変化に合わせて整え続けられることが大切です。
そのためにも、院長一人で抱え込むのではなく、スタッフや外部の視点も使いながら、現状を定期的に見直すことが必要になります。
まとめ|競争がある地域で、どう続けるか
医師多数地域での開業は、人口が多いから簡単というわけではありません。
競合、採用、患者体験、制度対応、地域医療との関係など、複数の要素を同時に見ながら判断する必要があります。
だからこそ、単に「どう差別化するか」だけでなく、どう続けるかを考えることが重要です。
自院の経営が続くこと。患者さんから選ばれる理由があること。地域医療の中で役割を持つこと。
この三つのバランスを確認しながら開業戦略を考えることで、制度や競争環境が変わっても、ぶれにくい経営の土台を作りやすくなります。
医師多数地域だから難しい、と考える前に、その地域で自院は何を担い、どのように続けていくのかを一度言葉にしてみることが大切です。
関連記事
医師多数地域での開業戦略に迷ったときに
都市部や医師多数地域での開業では、物件、競合、患者層、採用、制度対応、地域連携など、複数の論点が重なります。
情報を集めても、「自院ではどう考えるか」で判断が止まることがあります。
まえやまだ純商店では、院長の代わりに結論を決めるのではなく、現状・論点・優先順位・次の一歩を整理し、納得して判断しやすい状態をつくる支援を行っています。
相談内容がきれいにまとまっていない段階でも問題ありません。何から考えるべきかを整理するところから始めることもできます。
※実務代行ではなく、判断の前提を整理する支援です。
※判断整理(初回)の開始前に、事前確認オンライン面談を行います。