医師偏在是正対策の流れを踏まえた、医師多数地域での開業戦略〜三方よしの視点〜

はじめに
ビジネスの世界には、昔から「三方よし(さんぽうよし)」という考え方があります。これは近江商人が大切にしてきた商いの哲学で、
- 売り手よし:お店や経営者が利益を得られる
- 買い手よし:お客さんが満足できる
- 世間よし:社会や地域全体にも役立つ
という三つを同時に満たすことを意味します。つまり「自分だけが得をする」ではなく「みんなが得をする」ことを目指す考え方です。 この「三方よし」は、現代のクリニック経営にもそのまま当てはまります。都市部や医師多数地域での開業は競争が激しく、 診療報酬上の不利(減算)が予想されています。だからこそ、患者・クリニック・地域社会の三方によしを実現する経営が、 持続可能なクリニックのあり方につながります。
売り手よし(医師・クリニック側の満足)
まずはクリニック自身が安定していなければ、地域への貢献は継続できません。
- 経営基盤の安定化:診療報酬だけに頼らず、自費診療・健診・企業契約など複数の収益源を持つ。
- 持続可能な診療体制:院長一人に負担を集中させず、勤務医やスタッフと役割を分担する。
- 診療圏の精緻な分析:人口動態や競合状況を把握し、立地に合った経営戦略を立てる。
「売り手よし」とは、医師・クリニック自身が安心して診療を続けられる体制を整えることです。
買い手よし(患者さんの満足)
医師多数地域では、患者はクリニックを自由に選ぶことができます。だからこそ「選ばれる理由」をつくる必要があります。
- 安心して通える環境:Web予約や待ち時間短縮、わかりやすい説明で利便性と安心感を提供。
- 信頼できる診療:生活習慣病管理、SAS、ポリファーマシー対応など、強みを明確に打ち出す。
- 予防と生活支援:健診や栄養相談など、病気になる前から支援する体制を整える。
「買い手よし」とは、患者が「このクリニックに通ってよかった」と実感できる医療体験を提供することです。
世間よし(地域社会の満足)
最後に、地域社会全体にとっての価値を生み出すことが「世間よし」です。
- 地域医療体制の一翼を担う:病診連携・診診連携を活用し、紹介・逆紹介を適切に行う。
- 地域包括ケアへの参画:高齢化が進む都市部でも「かかりつけ医」として在宅医療や多職種連携に関わる。
- 地域貢献活動:健康講座、企業健診、学校との協働などを通じて、地域にとって欠かせない存在になる。
「世間よし」とは、地域の医療提供体制の一部として機能し、住民にとって必要不可欠な存在になることです。
まとめ
医師多数地域での開業は、診療報酬制度の変化や競合激化により、厳しさを増していくと予想されます。そのなかでクリニックが持続可能な経営を実現するためには、
- 売り手よし:経営基盤を安定させ、診療を継続できる体制をつくる
- 買い手よし:患者に安心と信頼を提供し、選ばれるクリニックとなる
- 世間よし:地域医療の一翼を担い、住民にとって不可欠な存在となる
この三方よしの視点を満たすことが不可欠です。単なる競争優位を超え、地域に根差した持続可能なクリニック経営を実現するための道標となります。
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まえやまだ純商店では、医師多数地域での開業を検討される先生に対し、 経営基盤の安定化策/患者に選ばれる仕組みづくり/地域包括ケア・医療連携の実装 を含めた「三方よしのクリニック経営」を伴走支援いたします。制度変更や市場環境の変化の中でも、安心して診療を継続できる体制づくりをご一緒します。
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