都市部でのクリニック開業は、制度と市場の変化により設計の前提が変わりつつあります。本稿では、医師偏在是正の流れを踏まえつつ、 日本の商いにルーツを持つ「三方よし(売り手・買い手・世間)」の視点で、持続可能な開業戦略を整理します。
はじめに:制度変化を“設計条件”として受け止める
2024年度以降、「医師偏在是正」の方針が強まり、開業支援や診療報酬の配分は 医師少数地域の優先へと舵が切られています。都市部・医師多数地域での開業は、 従来以上に差別化と連携、そして経営の持続性が問われます。 ここでの拠り所が「三方よし」です。
三方よしとは:3者が同時に満たされる設計
- 売り手よし:医師・クリニックが安心して診療を続けられる(経営の持続性)
- 買い手よし:患者が「ここで診てもらいたい」と感じる体験価値(選ばれる理由)
- 世間よし:地域医療体制の一翼として機能し、社会に資する(連携・貢献)
誰か1者だけが得をする設計は長く続きません。3者の釣り合いが取れたとき、 はじめて都市部でも“続けられる開業”が実現します。
売り手よし:経営を「続ける」ための体制づくり
- 収益の多柱化:保険診療に加え、健診・自費(予防・皮膚・睡眠・栄養)・企業契約などで収益の揺らぎを平準化。
- 属人化の回避:勤務医・非常勤・看護師・事務の役割を明確化し、院長が不在でも止まらない運用。
- 診療圏の解像度向上:人口動態・競合・来院動線・交通利便を数と地図で把握。ポジションを“避ける”より“創る”。
ポイントは、点ではなく流れの設計。採用・教育・評価・シフト・DXが一本のラインで回ると、日々の負担が目に見えて軽くなります。
買い手よし:患者が“通い続けたくなる”体験の設計
- 来院前のストレス低減:Web予約/Web問診/リマインド配信で「迷い・不安・手間」を削減。
- 強みの言語化:生活習慣病、SAS、皮膚、小児、在宅など“得意領域”を明確に掲示し、症状から選べる導線へ。
- 予防と生活支援:健診・栄養・運動・禁煙など、病気になる前から関わる仕組みをルーティン化。
「医療の正しさ」に加えて「わかりやすさ・速さ・親切さ」。この3点の体験価値が、都市部ではとくに効きます。
世間よし:地域の“つながり”の中で機能する
- 病診・診診連携:紹介・逆紹介の標準様式、返書テンプレ、検査共有のフローを整備。
- 地域包括ケア:ケアマネ・訪看・調剤薬局との情報連携を“決め事”として固定化。
- 社会的信頼の積み上げ:健康講座・学校・企業との協働を定例運用に。発信も院内だけで完結させない。
“単独で完結”から“連携で支える”へ。これが制度が変わっても強いクリニックの共通点です。
三方よし経営の実践:小さく始めて、回しながら整える
- 現状の見取り図を作る:診療圏・導線・人員・KPI(待ち時間・電話・会計)を1枚に。
- 優先順位を決める:“患者の困りごと”と“現場の詰まり”の重なる所から。
- 90日単位で実装:予約導線短縮/Web問診定着/返書テンプレ導入など、効果と手間のバランスで選択。
- 数で効果確認:3指標だけ(例:平均待ち時間、電話件数、会計締め時間)を毎週チェック。
- 標準化:うまくいった運用を“手順書+掲示”で固定化。人が替わっても落ちない仕組みに。
「一気に理想」は要りません。小さく確実に、回しながら整えることが都市部開業の近道です。
まとめ:続けられる形で、地域に根を張る
医師多数地域では、制度・競合・人材の制約が強まります。だからこそ、三方よしという古くて新しい設計思想が効きます。 自院の持続性(売り手)、患者体験(買い手)、地域貢献(世間)を同時に満たすことで、制度が揺れても折れない経営が育ちます。
関連記事
- 人が採れない前提で設計する採用戦略|クリニック経営の現実解
- 地域包括ケア時代に生き残る ― かかりつけ医機能と持続可能なクリニック経営
- クリニック経営で気をつけたい5つの思い込み ― これからの時代に必要な視点
頭の中の“もやもや”を整理し、次の一歩を見つけたいときに
都市部での開業設計や差別化、連携づくりに迷いがあるときは、まず状況の言語化から始めましょう。
初回整理セッションでは、前提・課題・選択肢を丁寧に整理し、納得感のある方向性を一緒に見つけます。
即答よりも、「腑に落ちる」時間を大切にしています。まずは話すことから、整理がはじまります。
▶ 「即答より、納得を。」──まえやまだ純商店の考え方はこちら