スタッフが集まりにくい。

求人を出しても、応募が来ない。

現場からは「人を増やしてほしい」と言われている。

しかし、人件費を増やしてよいのか、院長としてすぐには判断できない。

クリニックの人手不足に直面すると、「どの求人媒体を使うか」「給与条件を見直すべきか」「どんな人を採用するか」と考えたくなります。

もちろん、求人媒体や待遇の検討は必要です。

一方で、現場の負担を減らしながら、人件費を増やした後も同じ体制を維持できるのか、中長期の運営まで考えなければならないのが院長の立場です。

人口減少や働き手不足が進み、求人を出しても採用できない可能性があります。さらに、医療DXやシステム対応、届出、実績管理など、クリニックが診療以外に担う業務も増えています。

このような環境では、欠員が出たから同じ職種を一人補充するという考え方だけでは、院内の課題を解決できない場合があります。

採用活動を始める前に整理したいのは、「自院は何に困っているのか」「どの業務がボトルネックになっているのか」「どの役割を担ってほしいのか」ということです。

この記事は、応募を増やすテクニックや求人媒体の攻略法を紹介するものではありません。

採用を、続けられるクリニック運営のための経営判断として捉え、自院として納得して次の一歩を考えるための記事です。

採用活動を始める前に確認したい順番

  1. 自院は何に困っているのか
  2. どの業務がボトルネックになっているのか
  3. どの役割を担ってほしいのか
  4. 採用以外の方法で対応できないか
  5. 整理した内容を求人票や採用活動へ反映する

クリニックの採用環境は変化している

採用できることが前提ではなくなっている

人口減少や働き手不足により、医療機関も他の医療機関や他業界と人材を取り合う状況になっています。

求人を掲載すれば応募が来るとは限らず、募集期間や採用費用も読みづらくなっています。

待遇を見直すことは必要ですが、待遇だけで他院との差をつくり続けることには限界があります。

求職者が働く環境を選ぶ際には、給与や勤務時間だけでなく、次のような点も判断材料になります。

  • どのような業務を担当するのか
  • どのような役割を期待されるのか
  • 院内で誰と連携するのか
  • クリニックが何を大切にしているのか

求職者へ役割を伝えるためには、まず院長自身が、自院で担ってほしい役割を整理しておく必要があります。

診療以外に必要な役割も増えている

クリニックでは、受付、会計、電話対応、レセプトといった従来の業務に加え、さまざまな診療外業務が発生しています。

  • Web予約やWeb問診の運用
  • オンライン資格確認や電子処方箋への対応
  • 電子カルテや周辺システムの管理
  • 施設基準や各種届出の確認
  • 算定実績や運用状況の管理
  • 患者さんへの案内や院内周知

2026年度診療報酬改定後も、届出、実績管理、院内運用の見直しなど、診療以外の対応が求められます。

単に人数が足りないのではなく、院内で必要とされる役割そのものが変化しているとも考えられます。

欠員補充だけでは同じ問題を繰り返すことがある

スタッフが退職したとき、退職した人と同じ職種・勤務時間・条件で募集することがあります。

しかし、業務の偏りや役割分担を確認しないまま欠員を補充すると、採用後も同じ負担や属人化が残る可能性があります。

採用環境が厳しくなっているからこそ、採用できなかった場合も含めて運営を考える必要があります。

採用活動を始める前に整理したいこと

まず「何に困っているか」を具体的にする

「人手が足りない」という言葉だけでは、自院の課題は十分に見えてきません。

  • 電話対応が集中し、受付業務が止まる
  • 特定の時間帯に会計が滞る
  • レセプトや返戻対応が特定スタッフに偏っている
  • 届出や実績管理に手が回らない
  • システムの運用を担当できる人がいない
  • 院長への確認が多く、診療が中断される

業務を具体的にすると、単純な人数不足なのか、業務の偏りなのか、役割分担や院内運用の問題なのかを分けて考えやすくなります。

あわせて、一日中人手が足りないのか、午前中や診療終了前など特定の時間帯だけ不足しているのかも確認します。

例えば、受付が忙しいと感じている場合

「医療事務を一人増やしたい」と考えていても、確認すると、午前中の電話対応と予約変更が集中しているだけかもしれません。

その場合、常勤採用の前に、勤務時間の調整、電話対応の見直し、予約方法の変更を検討する選択肢もあります。

「どんな人」より「どの役割を担ってほしいか」を考える

困っている業務が見えてきたら、次に、採用する人にどの役割を担ってほしいのかを整理します。

「医療事務を一人採用したい」だけでは、採用の目的は十分に明確ではありません。

  • 電話対応を担当してほしい
  • 受付・会計を分担してほしい
  • レセプトや返戻対応を担ってほしい
  • Web予約やWeb問診の運用を担ってほしい
  • 届出・実績管理を補助してほしい
  • 患者さんへの説明を支援してほしい

さらに、単に作業をお願いしたいのか、一定の判断まで任せたいのかも分けて考えます。

必要な役割が整理できると、職種、勤務時間、必要な経験や資格を具体的に検討しやすくなります。

反対に、役割が曖昧なままだと、採用できても何を任せるのかが定まらず、院長や既存スタッフの負担が変わらない可能性があります。

採用だけが選択肢とは限らない

必要な業務と役割が見えてくると、採用以外の方法も比較しやすくなります。

  • 採用する:院内で継続的に役割を担ってもらう
  • 業務を整理する:やめる業務、減らせる作業、手順を変えられる業務を確認する
  • システムを活用する:予約、問診、会計、電話対応などを見直す
  • 外部委託を利用する:専門業務や一部のバックヤード業務を外部へ任せる

どれか一つが正解なのではなく、それぞれの利点と懸念点を比較することが大切です。

比較するときに確認したいこと

  • 人件費や外部委託費
  • 教育や引き継ぎに使う時間
  • 院長やスタッフが管理に使う時間
  • 担当者が不在になった場合の継続性
  • 院内に経験やノウハウが残るか

例えば、レセプト業務を外部委託したり、自動化したりすることで、院内の作業負担を減らせる場合があります。

一方で、院内で算定の考え方を理解する機会が減り、査定・返戻や診療報酬改定への対応時に、原因を判断しにくくなる可能性もあります。

すべて院内で行うか、すべて外部へ任せるかの二択ではありません。どこまで院内で理解・管理し、どこから外部へ任せるのかを決める必要があります。

整理した内容は求人票や採用活動にも活かせる

自院が困っていることと、担ってほしい役割が整理できると、その内容を求人票や採用活動にも反映できます。

  • 担当してほしい業務
  • 勤務してほしい時間帯
  • 院内で期待する役割
  • 必要な経験や資格
  • 入職後に覚えてほしい業務
  • 院内で大切にしている考え方

役割が明確になると、求職者も「自分に合った仕事か」「どのような働き方を求められるのか」を判断しやすくなります。

求人票、面接、入職後の説明で伝える内容もそろうため、院長、既存スタッフ、応募者の認識のずれも減らしやすくなります。

整理することは、採用活動を止めるためではありません。

自院に必要な人へ、必要な役割を伝えるための準備でもあります。

採用は、続けられる運営を考える経営判断

採用は、人を増やすことだけが目的ではありません。

目の前の業務負担を減らし、必要な診療を続け、院長やスタッフが疲弊しすぎない体制を整えるための選択肢です。

そのため、採用判断では、今すぐ必要な対応と、数年先も無理なく続けられる運営の両方を考える必要があります。

  • 採用する
  • 採用を見送る
  • 勤務時間や役割を変えて募集する
  • 業務を見直す
  • システムや外部委託を活用する

どの方法が自院に合っているかを確認し、自院として納得して判断することが大切です。

必要な診療を続け、地域で自院の役割を果たしていくためにも、採用を単なる欠員補充ではなく、続けられるクリニック運営を考える経営判断として捉える必要があります。

院長や特定スタッフへの依存が気になるとき

新しく人を採用しても、院長や特定スタッフに業務や判断が集中したままでは、同じ課題が繰り返される可能性があります。

属人化を減らし、院内で引き継げる仕組みを考える視点については、次の記事で整理しています。

欠員が出た直後に、すぐ採用するか迷っているとき

スタッフが退職すると、残ったスタッフの負担を考え、「すぐに求人を出さなければ」と焦ることがあります。

すぐに採用が必要な場合もあります。一方で、退職をきっかけに、これまでの業務分担や必要な役割を見直した方がよい場合もあります。

欠員が出たときに、求人を出す前に院長と整理した内容については、次の相談事例で紹介しています。

一人で整理しきれないときは、院外の立場と確認する

採用には、正解が一つではありません。

次のような状態では、院長一人で考え続けても、なかなか判断が進まないことがあります。

  • 現場から人を増やしてほしいと言われている
  • 人件費を増やしてよいか判断できない
  • 採用とシステム導入を比較しきれない
  • 外部委託の費用とリスクを整理できない
  • どの役割を募集すべきか決められない
  • 求人票に書けるほど考えがまとまっていない

こうしたときは、院内の当事者だけで考え続けるのではなく、クリニック外の、利害関係の少ない立場と確認する方法もあります。

院外の人に答えを決めてもらうことが目的ではありません。

現在の状況、これまでの背景、本当に判断する必要がある論点、確認できている事実、判断基準、選択肢、優先順位を確認することで、院長自身が次に何を考えるべきかを見えやすくします。

判断理由が言葉になると、スタッフや関係者へ、なぜその選択をするのかも説明しやすくなります。

現状を理解し、自院として納得して次の一歩を考える時間を持つことで、比較に使う時間や迷い続ける時間を減らし、診療やスタッフ対応へ意識を戻しやすくなります。

まとめ

クリニックの採用は、求人媒体を選ぶことから始まるとは限りません。

  • 自院は何に困っているのか
  • どの業務がボトルネックになっているのか
  • どの役割を担ってほしいのか
  • 本当に人を採用する必要があるのか
  • 業務整理、システム活用、外部委託で対応できないか

必要な役割が明確になると、採用する職種や勤務時間を考えやすくなり、求人票や面接でも自院の考えを伝えやすくなります。

採用することだけが正解とは限りません。

複数の選択肢を比べ、自院の状況に合った方法を選ぶことが、これからの採用判断では重要です。

採用は、必要な診療を続け、地域で自院の役割を果たし続けるための体制を考える経営判断です。

採用すべきか、別の方法を選ぶべきか。

選択肢が増え、一人では比較しきれないときは、現状を理解し、自院として納得して次の一歩を考える時間を持つ方法もあります。

採用やスタッフ体制について、次の一歩を考えたい院長へ

まえやまだ純商店では、採用を勧めたり、院長の代わりに経営判断をしたりすることはありません。

一方で、話を聞くだけで終わる支援でもありません。確認できた事実や制度、見落としている可能性のある論点や懸念点は、必要に応じて率直にお伝えします。

そのうえで、現在の状況、背景、必要な役割、判断基準、選択肢、優先順位を一緒に確認します。

採用するのか、業務を見直すのか、システムや外部委託を活用するのかを比較し、院長が自院として納得して次の一歩を考えられる状態を整えます。

相談後には、今決めること、あとで決めること、誰に何を確認するのか、次に行う小さな一歩が見えやすくなります。

支援内容を確認したうえで、相談するかをご判断ください。

まえやまだ純商店 前山田純

この記事を書いた人

前山田 純まえやまだ純商店

2011年から医療機関の開業・経営支援に従事。院長が一人では整理しきれない経営課題について、現状、背景、論点、選択肢を確認し、自院として次の一手を決めやすい状態を整えています。

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