令和6年度医療費の動向から見るクリニック経営のポイント

本記事は、2025年9月17日に公表された中医協資料「令和6年度 医療費の動向」をもとに、 クリニック経営に直結する要点を簡潔に整理したものです。 外来患者数の動向や診療科別の変化を踏まえ、感染症依存からの脱却と安定収益源の確保について考えます。
参考:中医協資料(厚生労働省・PDF)
令和6年度 医療費の動向(概算医療費)
1.医療費全体の動向(ポイント)
- 概算医療費は増加する一方、医科入院外(外来)の伸びは鈍化。
- 小児科・内科・耳鼻咽喉科では外来患者の落ち込みが目立つ。
- 産婦人科は不妊治療の保険適用拡大の影響で増加傾向。
- 若年層の受診は低下傾向、高齢者の一人当たり医療費は増加。
2.外来の“感染症依存”が高まる背景
小児科・内科・耳鼻咽喉科では、風邪・インフルエンザ等の流行に外来数が左右されがちです。近年はこれに加え、 少子化、予防接種や衛生習慣の定着、物価高による受診控えと市販薬の利用、 オンライン診療や薬局相談の普及が重なり、外来依存のリスクが顕在化。 とりわけ「処方中心」の収益モデルは、不安定化しやすい構造です。
3.診療科別の課題と対応策
小児科
課題(現状)
- 急性疾患(発熱・かぜ等)依存で季節変動が大きい。
- 少子化で患者母数が縮小。
- 軽症は市販薬+様子見の行動が増加。
対応策(実務)
- 予防医療・健診・発達相談の体系化(定期接種+自費ワクチン/乳幼児健診・発達外来)。
- 保護者への啓発:「市販薬で済む症状」「必ず受診すべき症状」の情報提供。
- 地域薬局との連携(薬局→必要時に確実に受診へ)。
- 家族単位のかかりつけ機能(親世代の健康相談も受け、受診機会を広げる)。
内科
課題(現状)
- 急性疾患依存で季節性の波が大きい。
- 軽症は市販薬・オンラインに流れやすい。
- 診療報酬の影響もあり、処方依存モデルが弱体化。
対応策(実務)
- 慢性疾患管理を柱化(高血圧・糖尿病・脂質異常症/管理料の確実取得)。
- 付加価値診療の拡充(心電図・エコー・SAS等、「薬では代替できない」検査・指導)。
- 健診・予防医療の展開(企業健診・地域健診→新規患者導線)。
- 在宅医療・訪問診療で高齢者ニーズに対応し、収益を安定化。
耳鼻咽喉科
課題(現状)
- 感染症(中耳炎、扁桃炎等)やアレルギー性鼻炎の患者数に左右。
- 花粉症シーズン/冬季感染症など季節要因で外来数が大きく変動。
- 軽症は市販薬・点鼻薬で対応され受診控えが増加。
対応策(実務)
- 花粉症・アレルギー診療の体系化(舌下免疫療法、環境・生活指導のセット化)。
- 補聴器外来・耳の健康相談など慢性期・高齢者対応を強化。
- 学校・企業と連携した健診や啓発で新規患者を確保。
産婦人科
課題(現状)
- 不妊治療の保険適用拡大で患者数は増える一方、単価は下がりやすい。
- 周産期・婦人科検診など診療内容で収益構造が大きく異なる。
対応策(実務)
- 自費診療(高度不妊・婦人科自費メニュー等)との組み合わせで収益を安定化。
- 婦人科健診・更年期外来などライフステージ別の診療を強化。
- 地域の女性健康支援(学校・職場)と連携し継続受診の導線を構築。
4.開業・運営で押さえたい視点
- 感染症依存からの脱却:外来数の波を小さくする診療構成。
- 安定収益源の確保:慢性疾患・検査・健診・在宅・一部自費の組み合わせ。
- 患者層の変化への対応:少子化を踏まえ、家族単位+高齢者対応を強化。
- 診療科特性に応じた戦略:小児科・内科・耳鼻科は安定化、産婦人科は領域拡張の設計。
- 情報発信による信頼形成:「市販薬で済む/受診すべき」の線引きを明確に。
おわりに(伴走型サポートのご案内)
中医協資料が示すのは、外来依存のリスクと患者構成の変化、そして診療科ごとの明暗です。 診療の多様化、付加価値の創出、安定収益源の設計が今後の鍵となります。 当社は、先生方とご一緒に「正解提示」ではなく選択肢の提示を重ね、 現場に合った実装まで伴走します。お気軽にご相談ください。