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クリニック開業・経営コラム

【生活習慣病と内科クリニック経営②】ポリファーマシー対策──薬を「減らす」ではなく「支える」へ

本記事は、2026年6月施行予定の制度内容および2026年3月23日公表の疑義解釈時点の情報をもとに整理しています。今後、厚生労働省から追加の疑義解釈や事務連絡等が公表された場合は、内容を順次更新します。

「薬が増え続ける患者に、どこまで介入できるのか」──院長としての悩みはありませんか?

ポリファーマシー(Polypharmacy)は、単に「薬が多い」ことを指す言葉ではありません。
本質は、患者にとって本当に必要な治療になっているかを見直し続けることにあります。
特に高齢患者では、服薬アドヒアランスの低下、副作用リスク、転倒、食欲低下、せん妄、残薬の増加など、診療と生活の両方に影響が及びます。
内科クリニックにとっても、これは単なる処方の問題ではなく、慢性疾患管理の質と地域での信頼を左右する経営課題です。

2026年度診療報酬改定では、ポリファーマシーや残薬対策に関して、単なる推奨ではなく、外来・在宅・薬局連携それぞれに具体的な制度上の動きが示されました。
ただし、ここで大切なのは「とにかく薬を減らす」ことではありません。
むしろ、診療所としてどこまで関与し、誰と連携し、どこまでを自院で担うのかを整理することが、これからの内科クリニック経営では重要になります。

ポリファーマシーとは

一般的には「5種類以上の薬を継続服用している状態」がひとつの目安として使われますが、重要なのは数そのものではありません。
同じ5剤でも、患者の病態や生活背景に合っていれば問題にならないことがありますし、逆に数がそれほど多くなくても、副作用や重複、飲みづらさ、理解不足があれば大きな問題になります。

つまりポリファーマシーの本質は、薬剤数ではなく、必要性とリスクのバランスが崩れていないかという視点です。
治療の積み重ねが惰性化し、「以前始めた薬」「他院で出ている薬」「何となく続いている薬」が整理されないまま残ると、患者にも医療者にも負荷が蓄積していきます。

背景と課題:高齢化社会における構造的リスク

高血圧症、糖尿病、脂質異常症、慢性心不全、慢性腎臓病など、複数の慢性疾患を抱える患者は珍しくありません。
ガイドラインに沿って治療を重ねれば、薬剤数が増えること自体は自然です。問題は、その後の見直しが十分に行われないまま、処方が固定化しやすいことにあります。

さらに、複数診療科への通院、入退院、在宅移行、家族による服薬管理、認知機能の変化などが重なると、薬の全体像が見えにくくなります。
その結果、重複処方、飲み忘れ、残薬、副作用、患者の不安といった問題が起こりやすくなります。

この構造的なリスクに対して、院長先生が「薬の整理は薬局任せ」「他院の処方は触れにくい」と感じる場面もあるかもしれません。
ただ、これからの制度はむしろ、診療所側が薬局や他院と連携しながら全体を整えていくことを後押しする方向に進んでいます。

2026年度診療報酬改定で何が変わったのか

今回の改定では、ポリファーマシー・残薬対策は「重要テーマ」として位置づけられ、実務に直結するルールが明確化されました。
つまり、「大事だとは分かっているが、日々の外来では後回しになりがち」というテーマから、診療所として体制や連携を見直すべきテーマへと変わってきています。

1.処方箋様式が見直され、薬局での残薬対応が進めやすくなった

処方箋様式の見直しにより、保険薬局が調剤時に残薬を確認した場合、あらかじめ医師が指示していれば、「調剤する薬剤を減量した上で、保険医療機関へ情報提供する」という運用が可能になりました。
これにより、毎回すべてを疑義照会ベースで処理するだけでなく、薬局との役割分担を前提にした残薬対応を設計しやすくなっています。

2.在宅では、残薬確認と処方調整がより明確に求められるようになった

在宅医療等では、患家での残薬を確認した上で適切な服薬管理を行うことが、これまで以上に重視される流れになっています。
在宅時医学総合管理料等を算定する診療所にとって、残薬を把握せずに処方だけを継続する運用は、今後さらに整合しにくくなります。

3.医師と薬剤師の同時訪問に新たな評価が設けられた

在宅医療におけるポリファーマシー対策・残薬対策を進める観点から、訪問診療を行う医師と、訪問薬剤管理指導等を行う薬剤師が同時に患家を訪問し、処方調整等を共同して行った場合の評価として、訪問診療薬剤師同時指導料(6月に1回・300点)が新設されました。
これは、薬剤師連携が「望ましい」だけでなく、制度上も具体的に評価される行動になったことを意味します。

4.外来でも、他院通院患者の薬剤整理が評価されやすくなった

地域包括診療加算・地域包括診療料を算定する患者については、他の保険医療機関にも通院している場合に、処方内容や薬歴等に基づいて相談・提案を行い、結果として薬剤種類数が減少した場合でも、薬剤適正使用連携加算の算定が可能とされました。
つまり、自院だけで完結する処方管理だけでなく、地域全体の処方を整理する視点が制度上も重視されています。

内科クリニックで実践したいポイント

処方レビューを「たまに」ではなく「流れ」にする

ポリファーマシー対策は、気になった患者だけを個別に見直す運用では続きにくいものです。
定期受診時、検査結果が悪化したとき、転倒や食欲低下がみられたとき、入退院後、訪問診療導入時など、見直しのタイミングを院内で決めておく方が実務に落とし込みやすくなります。

薬局との連携を「問い合わせ対応」から「共同設計」に変える

今回の処方箋様式の見直しは、残薬確認や減量調整をめぐる薬局との連携を前に進めやすくするものです。
単に疑義照会へ対応するだけでなく、どのようなケースなら事後報告で回しやすいか、残薬が起こりやすい患者像は何か、院外薬局と共有しておくと、外来の運用負荷も下がります。

「薬を減らす説明」ではなく「生活を支える説明」を意識する

患者さんにとっては、「薬を減らします」と言われること自体が不安につながることがあります。
そのため、説明の軸は「減薬」ではなく、今の生活に合った治療に整えていくことに置いた方が伝わりやすくなります。
飲みづらさ、残薬、眠気、ふらつき、家族の管理負担などを一緒に確認しながら、治療の納得感を支える視点が重要です。

在宅では、多職種で見ないと見えない情報がある

在宅では、実際の服薬状況、残薬の置かれ方、家族の関わり方、生活リズム、副作用の出方など、外来だけでは見えにくい情報があります。
訪問看護、薬剤師、ケアマネジャーと連携しながら、処方そのものだけでなく、服薬が成立する生活環境まで含めて見ることが、結果的に処方の適正化につながります。

また、ポリファーマシー対策は、医師だけで完結する取り組みではありません。
看護師、事務、薬剤師、地域の関係職種とどう役割を分けるかを整理しておくことで、外来は無理なく回りやすくなります。
生活習慣病外来全体の役割分担については、生活習慣病外来を無理なく回すために ──職種ごとの役割整理の一例でも整理しています。

経営の視点で見ると、これは「薬の問題」だけではない

ポリファーマシー対策は、医療安全や薬剤適正使用の問題として語られがちです。
ただ、内科クリニック経営の視点で見ると、実際には「どこまで診療所で担うか」を整理するテーマでもあります。

たとえば、残薬確認を誰が拾うのか、薬局からの情報提供を誰が院内で受け止めるのか、他院処方との整合をどのタイミングで確認するのか、在宅移行時にどこまで関与するのか。
こうした点が曖昧なままだと、院長先生に判断が集中しやすくなり、現場の負荷も増えていきます。

すべてを抱え込む必要はありません。
ただし、どこまで関与するかを決めておくことは、外来を無理なく回し続けるための前提になります。
ポリファーマシー対策とは、薬を減らす技術論というよりも、診療所の守備範囲と連携の設計を見直す機会と捉えた方が、実務には落とし込みやすいと思います。

患者・地域への周知と連携の形

ポリファーマシー対策は、院内で静かに行うだけでも一定の効果はあります。
ただ、地域での信頼につなげるには、患者さんや家族、薬局、他院に対して、クリニックの考え方が伝わる状態をつくることも大切です。

  • 院内掲示や説明資料: 「薬を減らすこと」が目的ではなく、生活に合った治療へ整えるための見直しであることを伝える
  • ホームページやブログ: 薬剤整理の考え方や、残薬確認の意味を発信し、不安の軽減につなげる
  • 地域連携: 薬局・訪問看護・他院と、患者ごとの情報共有がしやすい関係をつくる

こうした取り組みは、「薬を減らす活動」ではなく、慢性疾患マネジメントの質を上げる活動です。
生活習慣病を多く診る内科クリニックほど、この視点は今後の差になりやすいと感じます。

まとめ:薬の“数”ではなく、“納得して続けられる治療”を支えるへ

ポリファーマシー対策の目的は、単純に薬剤数を減らすことではありません。
必要性とリスクを見直しながら、患者さんが納得して続けられる治療へ整えていくことにあります。

2026年度診療報酬改定では、残薬確認、薬局連携、在宅での服薬管理、医師と薬剤師の同時訪問など、「どう支えるか」を制度として後押しする方向がより明確になりました。
だからこそ、内科クリニックに求められるのは、「薬を出すこと」だけではなく、処方全体を整理し、支える仕組みを持つことです。

そしてもう一つ大切なのは、これを「薬の話」で終わらせないことです。
誰が確認し、誰と連携し、どこまでを診療所で担うのか。
その判断を整理しておくことが、結果として医療の質と経営の安定の両方につながっていくのではないでしょうか。

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役割分担や連携の整理が必要になってきたときに

ポリファーマシー対策は、単に薬を減らすかどうかではなく、誰と連携し、どこまで診療所で担い、何を優先して整えるかという判断が重なるテーマでもあります。
実際には、判断が重くなり始めた段階でご相談いただくことが少なくありません。

まえやまだ純商店では、正解を提示するというより、論点と優先順位を整理し、判断の前提を整える支援を行っています。
相談内容が整理できていない段階でも問題ありません。むしろ、何から考えるべきかを整理するところから始まることが多くあります。

臨床と同じように、経営判断も「症状が出てから」ではなく、違和感の段階で整理することに意味があります。
制度対応、連携の組み方、診療所としてどこまで取り組むかが曖昧なときは、その前提を一緒に言語化していくことができます。

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