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クリニック開業・経営コラム

なぜ開業医は経営者意識を持ちにくいのか(クリニック経営の基本視点シリーズ第1回)


本記事は「クリニック経営の基本視点」シリーズの一つです。
医学部や研修では学ぶ機会の少なかった「経営の考え方」を、制度や現場の視点から整理しています。




医学教育に「経営」の学びはない


医学部や研修では、診療や研究に集中します。解剖学・病理学・臨床実習など膨大なカリキュラムを経て医師国家試験に合格することが最優先であり、経営やマネジメントを体系的に学ぶ機会はほとんどありません。
そのため医師にとっては「医療の質=医師としての評価」となり、経営の視点はどうしても後回しになってきました。




制度と環境がもたらした安心感


日本には国民皆保険制度があり、診療報酬は全国一律で決められています。かつては患者さんの数さえ確保できれば、診療を行うだけで一定の収益が成り立つ仕組みでした。
また、地域によっては医療機関そのものが少なく、近隣に開業すれば自然に患者さんが集まる環境も整っていました。
このように、医師が診療に専念できる環境が整っていたため、経営を深く考える必要性があまり意識されなかったという側面があります。




経営者意識が生まれにくい理由



  • 「経営=お金儲け」と見られることへの抵抗感

  • 院長自身がプレイヤーと経営者を兼務しており、物理的に経営に割く時間が少ない

  • 経営の悩みを相談できる相手が限られており、孤立しやすい


このように、医師が経営者意識を持ちにくいのは「個人の問題」というより「環境や仕組みの問題」と言えます。




一般の起業家との共通点と違い


実は「経営を学ぶ機会が少ない」のは医師だけの話ではありません。サラリーマンから独立して経営者になる方も、学校で経営を体系的に学んできたわけではないのです。
ただし一般の起業家は市場競争に直面するため、「経営を学ばなければ生き残れない」と早めに気づきます。
一方で医師は、安定した制度や環境の中で診療に専念できる時代が長く続いたため、経営を考える必要性に触れる機会が少なかったという違いがあります。




当社の視点


当社は「依存させない伴走型支援」を掲げています。
経営リテラシーが生まれにくい背景を理解したうえで、先生ご自身の考えを整理し、次の一歩を踏み出すための壁打ち相手として寄り添います。
「判断は院長先生、当社は整理と実行の伴走役」という立ち位置を明確にすることで、先生が専門である診療に集中できる環境を整えることを重視しています。




まとめ


これまで開業医が経営を意識してこなかったのは、教育・制度・環境から見れば自然な流れです。
しかし、診療報酬制度は年々複雑化し、体制整備やマネジメントを前提とする方向に進んでいます。これからは「医師」としての専門性に加え、「経営者」としての視点も欠かせません。



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