即答より、納得を。──医師の思考スタイルと、伴走する支援のかたち
                医師の世界では、「即答できること」が信頼の証になります。
診察室では、患者さんの言葉を聞きながら、数秒のうちに判断を下す。
遅れれば命に関わることもある。
だからこそ、「迷いのない説明」「100点に近い回答」が求められるのは当然のことです。
私はこの姿勢を心から尊敬しています。
ただ、医療経営や組織運営の支援に携わる中で感じるのは、
経営の世界では、即答が必ずしも正解とは限らないということです。
前職では、金融機関の営業出身の方々と一緒に仕事をしていました。
数字の作り方も、言葉の運びも、迷いがありません。
会話のテンポも、判断のスピードも、まさに“即答のプロ”でした。
一方の私は、話を聞くほどに考えこんでしまう。
「今、即答しないと失礼だ」と分かっていても、どうしても一拍置いてしまう。
その間に、相手が離れていくような気がしていました。
明確にそう言われたわけではありませんが、周囲の雰囲気やお客様の反応から、
「テンポが悪い」「営業に向いていない」と見られているような感覚を覚えることがありました。
そうした無言の圧のようなものを感じるたびに、自分のやり方に自信が持てなくなっていきました。
医療機関を対象にしたポータルサイトの営業に携わっていたときも、その違和感は強くなりました。
飛び込みで医院やクリニックを訪ね、情報の掲載をお願いし、その流れで営業提案へとつなげる──。
「まずは数を当たる」「断られてからが勝負」。
そういう世界では、「即答」は武器でした。
けれど私は、どうしてもそのやり方を好きになれなかった。
院長先生が話す「地域のこと」や「スタッフのこと」を聞くうちに、
一人一人考えが違うので、その人が“どうありたいか”を整理し、
そのことを踏まえて提案することの方が大切なのではと思うようになりました。
医師は、常に即答を求められる仕事です。
一瞬の判断が命を救うこともある。
だからこそ、迷わず、誤らず、100点を出すことが信頼になる。
けれど、経営や組織づくり、これからの方向性の話になると、“100点の答え”は存在しません。
医療行為のように明確な根拠やガイドラインがあるわけではなく、
その都度、状況や人との関係の中で答えを見つけていく必要があります。
私は、そんなときに少し立ち止まり、そのプロセスをともに整理し、納得して進めるよう支援する立場でありたいと思っています。
私は「即答」はできません。
でも、「整理」はできます。
話を聞きながら、
「いま起きていることは、こういう構造かもしれません」
「この部分は、少し時間を置いて考える余地がありそうです」
そんなふうに、少しずつ考えを形にしていく。
即答しないことは、逃げではなく、
“相手の思考を尊重する姿勢”だと思うようになりました。
“即答”が信頼の証になる場面もあります。
でも、“考えてくれる人”への信頼は、少し時間がかかるけれど、より深く、長く続きます。
私の仕事は、すぐに答えを出すことではなく、
相手が自分の中にある答えを見つけるための伴走です。
焦らず、急かさず、考える時間を取り戻す。
それが、私が大切にしている「即答しない仕事」です。
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