小児科経営シリーズ④|採用と定着の実務:ミスマッチを減らす“人材設計”
小児科クリニックの人材は、単なる労働力ではなく「経営を支える資産」です。
とくに小児科では、採用時のミスマッチが定着・現場負担に直結しやすく、「採って終わり」では経営が不安定になります。
本記事では、採用・育成・働きやすさ・定着を分断せずに設計することで、人が育ち、続く職場をつくる考え方を整理します。
はじめに
小児科クリニックでは、「子どもの成長を支える」だけでなく、保護者への説明や安心感の提供も欠かせません。
そのため、スタッフには専門知識だけでなく、共感力や柔軟な対応力が求められます。
こうした現場の中で安定した経営を続けるには、採用・育成・働きやすさ・定着支援の4つの視点を一貫して整えることが大切です。
「人が辞めない仕組み」をつくるのではなく、人が育ち、関係が続く環境をどう育てるか──。本稿ではその考え方を整理します。
小児科経営シリーズ④では、
「制度」や「診療設計」を前提にしたうえで、実際に現場を支える“人”をどう設計するかに焦点を当てます。
採用・育成・定着を切り分けず、ひとつの流れとして捉えることが、本記事の軸です。
(関連:制度から考える小児科クリニックの未来像)
1. 採用:ミスマッチを減らす“入口設計”
小児科で働く魅力は、「子どもの成長に寄り添えること」です。
この想いを、求人情報やホームページでどれだけ伝えられるかが第一歩になります。
「患者から選ばれるクリニックは、スタッフからも選ばれる職場」という視点で、情報発信を整えることが重要です。
小児科の採用トラブルの多くは、能力不足ではなく「想定していた働き方・空気感のズレ(ミスマッチ)」から生じます。
そのため採用では、スキル以上に前提条件をどこまで共有できているかが重要になります。
- 募集要項に、業務内容だけでなく「どんな想いで診療しているか」を明記
- スタッフの声や1日の流れを紹介し、働くイメージを具体化
- 院内の雰囲気やチームの姿勢が伝わる写真・動画・イラストを活用
- 「忙しい日の現実」も含めて、良い点だけを盛りすぎない(入職後の落差を減らす)
採用は「欠員補充」ではなく、「理念を共有できる仲間づくり」と捉えることが、長期的な定着につながります。
2. 育成:安心して成長できる仕組み(“最初の不安”を減らす)
小児科スタッフには、医療知識と同じくらい「伝え方」の力が求められます。
初診時の声かけ、発熱時の説明、予防接種後のフォローなど、日常の小さな場面で信頼が育まれます。
そのために、マニュアルやOJTだけでなく、“なぜそうするのか”を共有する時間を設けることが欠かせません。
- 受付〜会計までの標準フローと話法例を整理し、迷わず対応できるように
- 「子どもが泣いてしまった」「保護者が不安そうだった」などの場面を題材にロールプレイ
- 「判断が必要な場面」は、院長に上げる基準を先に決めておく(抱え込みを減らす)
- 月1回の振り返りミーティングで、気づきや改善点を共有
研修は“教える”こと以上に、スタッフが「ここでやっていけそうだ」と感じるための設計です。
この初期の安心感が、その後の定着率や現場の安定度を大きく左右します。
3. 働きやすさ:制度よりも、空気づくり
働きやすさは制度だけでなく、「安心して相談できる空気」から生まれます。
特に子育て世代が多い小児科では、シフトの柔軟性やチーム内の助け合いが、日々の安心感につながります。
- シフトの柔軟性:家庭との両立を支える勤務体制(急な欠勤時の補完ルールも先に決める)
- ICT活用:AI電話・Web予約・Web問診などによる事務負担の軽減
- 動線と環境:スタッフが動きやすい院内設計とバックヤードの整備
- 情報共有:口頭依存を減らし、連絡・引き継ぎの型を作る
「スタッフが笑顔でいられる」環境は、保護者の安心感にも直結します。
働きやすさの改善は、最終的に患者満足度の向上にもつながる投資です。
参考|働きやすさを伝える・整える
4. 定着:関係を“続ける”マネジメント
定着は「結果」であり、採用と育成の設計がそのまま反映される指標でもあります。
だからこそ、定着だけを単独で改善しようとしても、うまくいかないケースが少なくありません。
定着を支えるのは、制度や給与だけではありません。
日々の感謝や小さな声かけ、意見を聞く姿勢など、「気にかけてもらえている」実感こそが人をつなぎます。
- 終礼や週次ミーティングでの成功事例・課題の共有(短時間・定例)
- 新人フォロー担当(プリセプター)の明確化と定期面談
- チャットツールや掲示などでの情報共有と感謝の可視化
- 「困ったら誰に何を言えばいいか」を明文化し、抱え込みを減らす
「離職を防ぐ」よりも「ここで働きたい」と思える関係性を育てる。
この姿勢が、結果として安定したチームと経営を支えます。
まとめ
小児科クリニックの経営において、人材はもっとも大切な“地域資産”です。
保護者の信頼は、医師だけでなくスタッフ全員で築いていくもの。
採用でミスマッチを減らし、育成で不安を減らし、関係性を積み重ねて定着につなげる。
この一連の「人材設計」が回り始めると、現場も経営も安定していきます。
採用・育成・働きやすさ・定着支援の4つを意識して整えることで、
「子ども・保護者・スタッフの三者にやさしいクリニック」を実現できます。
それは、地域にとっても「続く医療」をつくる第一歩になるでしょう。
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