小児科経営シリーズ②|理念を“器”にする施設整備の考え方
施設整備は「経営方針を形にする器づくり」。制度・現場・経営をつなぎ、子どもと保護者の“安心”を設計に落とし込みます。
はじめに
本稿は「小児科経営シリーズ②|施設整備の視点」です。前回(総論)で描いた未来像を、実際の空間・設備に落とし込む章として、“方針を実現する器”という視点で整理します。単なる快適性ではなく、安心感・オペレーション・費用対効果がつながる設計を意識します。(前回:小児科クリニック経営のこれから――制度変化から読み解く“治す×支える”医療)
1. 施設は“方針の器”である
1-1. 経営理念から逆算する
「どんな患者像に、どんな価値を、どの同線とスタッフ体制で届けるか」。この設計要件は理念・診療方針から逆算します。院内掲示やHPのメッセージと、空間で体験する事実が一致しているかを点検します。
1-2. 「治す × 支える」の両輪を空間へ
治療(急性対応)と支援(育児・慢性・予防)の両輪を、スペース配分・表示・可視性で表現します。例:健診・予防接種の安心導線、相談のしやすさを高める半個室カウンター、育児相談の掲示物と連動したサイン計画など。
2. 小児科特有の機能要件
2-1. 待合・処置・感染分離
- 発熱系と健診/予防接種の動線(入口〜待合〜診察室)分離(可能な範囲で明確化)
- 陰圧・換気・前室の有無に応じた現実的ゾーニングと掲示
- 処置室はベビーカー動線とストレッチャー通行幅を両立
2-2. 授乳・おむつ・ベビーカーと心理的安全性
- 授乳スペース/おむつ替え台/ベビーカー置き場の最小寸法と視線配慮
- 音・におい・照明・色彩の調整(落ち着くトーン/直射・反射の抑制)
- 初診でも迷わないサイン計画(年齢別・目的別ピクト)
3. 動線とスタッフオペレーションの整合
3-1. 発熱/健診/予防接種の同時運用
- 予約・事前問診で来院目的を把握し、受付前に動線を自動/準自動で振り分け
- 時間帯ブロック制で「発熱帯」「健診・ワクチン帯」を平準化
- 会計・次回予約を受付渋滞しない導線で設計(POSと窓口配置)
3-2. 連携点と視認性
- 受付⇄看護の視認ライン(死角をなくす窓・スリット・モニター)
- スタッフ動線は最短移動よりも安全・見守りを優先
- バックヤード(物品・廃棄・リネン)の交差最小化
4. 投資と回収:費用対効果の考え方
4-1. 優先順位の軸
- 感染対策:分離・換気・滞在時間短縮の仕組み
- ICT:Web予約/事前問診/電子掲示/コール削減(AI電話等)
- 快適性:授乳・おむつ・音/照明。保護者の安心体験に直結
4-2. 「コスト」ではなく「体験価値への投資」
投資判断は「診療の安全性」「保護者の不安減」「スタッフ負荷減」「再診率・口コミ」など、体験価値KPIで語れるようにします。小さく試し、使い勝手を検証してから拡張する段階投資が有効です。
5. 今日の問い
3年後の診療像を仮置きし、次の二つを点検してみてください。
- 必要な機能:理念実現に直結する“なくせない”ものは何か?
- 無理している部分:導線・配置・運用で毎日つまずく場所はどこか?
違和感の言語化から、整備の優先順位が見えてきます。