医療法改正で「開業は本当に難しくなるのか?」──外来医師過多区域と自由開業制見直しの実務ポイント
更新日:2026年4月29日
※本記事は、2025年10月6日に公開した内容を、2025年12月に成立した医療法改正および2026年度診療報酬改定の内容を踏まえて加筆修正したものです。
「医療法改正で、これからはクリニック開業が難しくなるのではないか」──そう感じて検索された先生も多いのではないでしょうか。
2025年12月、医療法等の一部を改正する法律が成立しました。報道では、「自由開業制の見直し」「開業抑制」「規制強化」といった言葉が目立ち、これから開業を考えている先生や、すでに開業されている先生の中にも、「今後、開業はしづらくなるのか」「自院の経営はどうなるのか」と不安を感じている方も多いと思います。
ただし、今回の改正は、すべての地域で一律に開業を禁止するものではありません。一方で、単なる「お願い」に留まるものでもありません。
本記事では、2025年医療法改正後の自由開業制見直しのポイントを整理したうえで、開業準備中の先生・すでに開業している先生が、制度変化をどう受け止め、自院の経営判断につなげるかを整理します。
今回の医療法改正で、開業は「どこまで」変わるのか
「開業禁止」と見るのは、やや行き過ぎ
一部メディアやSNSでは、
- 自由開業制が実質的に終わる
- 都心部ではもう開業できなくなる
- 開業そのものが規制される
といった受け止め方も見られます。
しかし、今回の改正は、特定の地域における無床診療所の新規開設について、事前届出や協議、地域で不足する医療機能への協力を求める仕組みを強めるものです。
つまり、開業そのものを一律に禁止する制度ではありません。
一方で、従来のように「要請されても、実質的な影響は大きくない」と軽く見ることもできません。要請や勧告に応じない場合には、保険医療機関の指定期間短縮という経営上の重い措置につながる可能性があるためです。
対象は「外来医師過多区域」──全国一律の話ではない
「外来医師多数区域」ではなく「外来医師過多区域」
今回、特に注意したいのは、対象となる区域の名称です。
従来の議論で使われてきた「外来医師多数区域」ではなく、今回の改正で新たに重い手続きの対象となるのは、「外来医師過多区域」です。
外来医師過多区域は、外来医師偏在指標や可住地面積あたりの診療所数などを踏まえて指定される、特に外来医療が過密な区域です。現時点では、全国のすべての都市部が一律に対象となるわけではありません。
そのため、まず押さえるべきことは、「どこでも開業できなくなる」という話ではないという点です。
外来医師過多区域では、開設6か月前までの事前届出が必要に
外来医師過多区域で無床診療所を新たに開設しようとする場合、原則として、開設の6か月前までに都道府県への事前届出が必要になります。
届出では、単に所在地や診療科を届け出るだけでなく、地域医療の中でどのような機能を担うのかについても確認される流れになります。
ただし、親の死亡により子が急きょ承継する場合など、やむを得ない事情がある場合には、事前届出義務の扱いについて例外的な整理がなされる可能性があります。実務上は、該当する地域の都道府県や保健所の案内を確認する必要があります。
自治体から求められ得る医療機能
都道府県は、外来医療に関する協議の場での議論を踏まえ、地域で不足する医療機能について、開業予定者に対応を求めることがあります。
想定される内容としては、たとえば次のようなものがあります。
- 夜間・休日等の初期救急への対応
- 在宅医療への対応
- 学校医、予防接種、産業医などの公衆衛生に係る医療
- 都道府県内外の医師不足地域での定期的な外来診療
- 医師不足地域の夜間休日急患センター等への出務
ここで大切なのは、これらを単なる「行政対応」として見るのではなく、自院が地域の中でどのような役割を担うのかを整理する材料として捉えることです。
要請に応じない場合の経営上のリスク
「ソフトなお願い」だけではなくなっている
従来の説明では、自治体からの要請に従わない場合でも、要請、説明、勧告、公表といった段階的な対応が中心とされてきました。
しかし、今回の改正と2026年度診療報酬改定をあわせて見ると、「開業の許可・不許可を直接左右するものではないが、保険診療上の評価には影響し得る」という点を押さえる必要があります。
具体的には、地域で不足する医療機能等に係る医療提供の要請に応じず、保険医療機関の指定期間が3年以内とされた診療所については、一定の診療報酬上の評価や届出が制限される方向が示されています。
算定・届出に影響し得る項目
2026年度診療報酬改定では、保険医療機関の指定期間が3年以内とされた診療所について、たとえば次のような項目が影響を受けることになります。
- 機能強化加算
- 地域包括診療加算
- 地域包括診療料
- 小児かかりつけ診療料
- 在宅療養支援診療所の届出
これは、単に「行政から注意される」という話ではありません。かかりつけ医機能、地域包括ケア、小児、在宅といった、これからのクリニック経営において重要な機能評価と関係する話です。
したがって、今回の改正は、「開業禁止の法律」ではない一方で、「地域医療との関係を軽視しても大きな影響はない」と考えられる制度でもないと整理しておく必要があります。
強制ではないが、経営判断には重く関わる
無床診療所の開設は、引き続き届出制を前提としています。都道府県が開業そのものを自由に許可・不許可として判断する制度に変わったわけではありません。
ただし、地域医療への協力姿勢や、自院が担う機能の説明が、今後はより問われやすくなります。
その意味で、開業準備中の先生にとっても、すでに開業している先生にとっても、「自院は地域の中で何を担うのか」を言葉にしておくことの重要性は高まっています。
市場の変化が、実際の開業環境を変えていく
制度改正だけを見ると、「開業が規制されるのか」という話に意識が向きがちです。
しかし、実際の開業環境を大きく変えているのは、制度だけではありません。
- 都心部ではすでにクリニック間の競争が過密になっている
- 建設費、内装費、医療機器、人件費が上がっている
- 診療報酬全体は大きく伸びにくい
- スタッフ採用が難しくなっている
- 賃上げ対応や医療DX対応が経営課題になっている
制度で開業を抑制しなくても、市場環境そのものが、自然に開業のハードルを上げています。
つまり、これからの開業判断では、「制度上、開業できるか」だけでなく、「その地域で、どのような役割を持って、どのような体制で続けられるか」を考える必要があります。
制度の見直しは、その流れを補正する一要素です。むしろ、経営上は、市場の変化、地域ニーズ、制度要件を同時に見ながら判断することが重要になります。
制度の枠内で工夫できるクリニック経営の領域
制度のルール自体を、個々のクリニックが自由に変えることはできません。
しかし、その枠内で、院長が設計できることは多くあります。
① 地域に届く情報発信を整える
高額な広告費をかけなくても、ホームページやSNS、院内掲示、地域との関係づくりを通じて、自院の役割を伝えることはできます。
大切なのは、単に「集患する」ことではなく、どのような患者さんに、どのような医療を提供したいのかを言葉にすることです。
② 医療DXを患者体験と業務設計の両面から考える
予約、問診、会計、マイナ保険証、電子処方箋、電子カルテ情報共有サービスなど、医療DXへの対応は、患者体験だけでなく、今後の診療報酬上の評価や施設基準とも関係していきます。
DXは「流行っているから入れるもの」ではありません。少人数で回すクリニックほど、スタッフが本来の業務に集中できるようにするための仕組みとして考える必要があります。
③ スタッフが定着しやすい職場づくりを仕組みにする
採用が難しい時代には、「辞めにくい職場」「続けやすい職場」をどう作るかが問われます。
2026年度診療報酬改定では、ベースアップ評価料など、医療従事者の処遇改善に関する評価も重要な論点になっています。
賃上げは単なるコストではなく、採用・定着・診療継続のための経営判断です。給与だけでなく、業務分担、面談、教育、マニュアル、院長とのコミュニケーションも含めて、職場づくりを仕組みとして整えることが大切です。
④ 自費診療・予防医療を無理なく組み合わせる
すべてを保険診療だけで支えようとすると、診療報酬改定や患者数の変動に影響を受けやすくなります。
一方で、自費診療を無理に広げればよいわけでもありません。
地域ニーズと自院の専門性を踏まえながら、患者さんの生活をどう支えるかという視点で、予防医療や自費サービスを検討することが重要です。
開業準備中・開業後の先生が今考えたいこと
開業準備中の先生:どこで・何を担うかを整理する
開業準備中の先生にとって大切なのは、「開業できるか/できないか」だけで判断しないことです。
むしろ、次のような問いを整理しておくことが重要です。
- なぜその地域で開業したいのか
- その地域では、どのような医療機能が不足しているのか
- 自院は初期救急、在宅、公衆衛生、慢性疾患管理などのどこを担うのか
- 医師不足地域への支援を求められた場合、どこまで対応できるのか
- 制度対応と自院の理念をどう両立させるのか
医師偏在是正の流れと開業への影響を整理した記事でもお伝えしているように、立地や診療圏、地域ニーズを踏まえながら、自院の役割を具体化すること自体が、制度変化への備えになります。
すでに開業している先生:既存クリニックも無関係ではない
すでに開業している先生にとっても、今回の制度改正は無関係とは言い切れません。
新規開設者だけでなく、外来医師過多区域における既存の無床診療所についても、将来的に提供している医療機能の実態把握が検討される流れがあります。
つまり、既存クリニックであっても、今後は「地域の中でどのような役割を果たしているか」がより見えやすくなる可能性があります。
そのため、制度が変わるたびに慌てるのではなく、
- 自院は何を大切にしているのか
- どの患者さんに、どのような価値を届けたいのか
- 地域の中で、どこまで役割を担うのか
- 賃上げ、DX、データ提出、施設基準対応をどう整理するのか
といった前提を、改めて言葉にしておくことが必要です。
診療報酬改定を“読み解く力”を持つ記事でも触れているように、制度は「恐れる対象」であると同時に、自院の方針を確認する材料でもあります。
制度に流されず、制度を活かす経営へ(まとめ)
2025年の医療法改正は、自由開業制をいきなり終わらせる「禁止の法律」ではありません。
しかし、地域医療の観点から開業医に役割を求め、それに応じない場合には、保険医療機関の指定期間短縮や診療報酬上の制限につながり得る、より踏み込んだ仕組みが整理されたと見る必要があります。
その意味で、今回の制度改正は、過度に怖がる必要はありませんが、軽く見るべきものでもありません。
これからの開業医に問われるのは、「どこで、どのような医療を、どんな体制で続けたいのか」を言葉にすることです。
国民皆保険制度、診療報酬、療養担当規則、医療法改正、医療DX、賃上げ対応。これらはすべて、院長の判断に影響します。
ただ、制度の動きにばかり目を奪われると、自院の軸が見えにくくなります。
制度・地域ニーズ・自院の理念という三つの層を行き来しながら、自分たちはどこで、どのように役割を果たしたいのかを整理すること。
それが、不確実な時代においてもぶれにくいクリニック経営の土台になると考えています。
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制度改正と自院の判断を整理したい院長へ
制度の情報を、自院の判断に落とし込む整理を行っています
医療法改正、診療報酬改定、医療DX、賃上げ対応。
制度の情報を追うほど、自院として何から考えるべきかが見えにくくなることがあります。
まえやまだ純商店では、制度の正解を一方的に示すのではなく、院長が自院の立地・役割・体制を踏まえて判断できるように、論点と優先順位を整理する支援を行っています。
ご相談は、判断が重くなり始めた段階でいただくことが多くあります。
制度対応、開業準備、地域での役割、スタッフ体制など、複数の論点が重なっている段階でも問題ありません。
このような整理から始まることが多いです
- 制度改正の内容を、自院に関係する論点に分けたい
- 開業予定地や診療圏を踏まえて、自院の役割を整理したい
- 医療DX、賃上げ、施設基準対応の優先順位を考えたい
- 情報は集めているが、経営判断としてどう扱うか迷っている
相談内容が整理できていない段階でも問題ありません。
むしろ、何から考えるべきかを整理するところから始まることが多くあります。
臨床と同じように、経営判断も「症状が出てから」ではなく、「違和感の段階」で整理することに意味があります。
※実務代行ではなく、判断の前提を整理する支援です。
※売り込みを目的とした面談は行っていません。
参考URL
- 衆議院:法案本文(医療法等の一部を改正する法律案)
https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/houan/g21709021.htm - 厚生労働省「医療法等の一部を改正する法律案の概要」
https://www.mhlw.go.jp/content/001601149.pdf - 厚生労働省「個別改定項目について」
https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001655176.pdf