自由開業制の見直し時代に問われる、制度を“活かす”クリニック経営
厚生労働省が示した「医療法等の一部を改正する法律案の概要」では、医師偏在の是正や地域医療提供体制の再構築を目的とした方針が示されています。その中には、「自由開業制の見直し」「保険医療機関で一定年数の勤務義務」といった、開業医やこれから開業を検討している先生方に関わる論点も含まれています。
こうした報道を目にした院長先生の中には、「今後、開業は制限されるのか」「自分のクリニック経営はどうなるのか」と不安を感じる方も少なくありません。一方で、制度の行方だけを追い続けても、明確な答えが見えないことも事実です。
本記事では、自由開業制見直し・医療法改正の議論のポイントを整理したうえで、制度に振り回されず、「制度の枠内で、どのように持続可能な経営をつくるか」という視点から、開業準備中の先生・すでに開業されている先生が今考えたいことをまとめます。
自由開業制見直し・医療法改正の議論のポイント
まずは、自由開業制見直しや医療法改正の議論がどのような背景で行われているのかを押さえます。
医師偏在是正という大きな流れ
議論の出発点は、都市部への医師集中と、地域・診療科による医師偏在です。都市部の診療所・病院に医師が集まりやすい一方で、地方や特定の診療科では医師不足が続いており、「どこに、どのくらい医師が必要か」という視点から医療提供体制を見直す必要性が指摘されています。
自由開業制の見直し・勤務義務の検討
こうした流れの中で、自由開業制のあり方や、一定期間の勤務義務などが議論されています。具体的には、
- 医師多数地域での新規開業をどうコントロールするか
- 医師不足地域での診療体制をどう確保するか
- 研修後一定期間の勤務義務などを通じて、偏在を是正できるか
といった観点から、「どの地域・どの機能に医師を配置するか」を国がより強く関与しようとする動きと捉えることができます。
決まっていることと、まだ議論段階のこと
注意したいのは、すべてがすぐに全面的な開業制限につながるわけではないという点です。法案として成立し、具体的な制度設計が進む部分もあれば、今後の検討課題として議論が続く部分もあります。
「自由開業制が完全になくなる」「開業できなくなる」と短絡的に受け取るのではなく、どのような方向性を目指している議論なのかを冷静に押さえることが大切です。
制度は「前提」であり、「経営の制約」ではない
日本の医療は、国民皆保険制度と診療報酬というルールのもとで成り立っています。この仕組みは、すべての患者が一定の負担で医療を受けられるという安心を支える一方で、開業医にとっては価格の自由度が限られるという現実も伴います。
ここで重要なのは、制度を変えようとすることではなく、制度を理解したうえで戦略を立てることです。制度そのものは個人の力で変えることはできませんが、その枠内でどのように価値を届けるかは、院長先生の意思と工夫に委ねられています。
「できないこと」を数えるのではなく、「できる範囲の中で最大の価値を生み出す」視点を持つこと。これが、不確実な制度環境のなかでも、クリニック経営を続けていくための基本姿勢になります。
制度の枠内で工夫できるクリニック経営の領域
制度のルール自体は個人で変えられませんが、その枠内には多くの工夫余地があります。たとえば次のような領域です。
① 採用や広告コストを抑えながら、地域に届く情報発信を行う
高額な広告費をかけなくても、ホームページやSNS、口コミなどを通じて地域とつながる方法は多数あります。「どんな患者さんに来てほしいのか」「自院がどのような役割を担うのか」を整理したうえで、情報発信の軸を整えることが大切です。
② 予約・会計などのDX活用で、患者体験を改善する
オンライン予約、キャッシュレス決済、問診のデジタル化など、診療報酬は変えずとも患者体験と業務効率を同時に高める工夫は増えています。少人数で運営するクリニックほど、DXを「人を減らすため」ではなく「人が医療に集中できるようにするため」の仕組みとして位置づけることが重要です。
③ スタッフが定着しやすい職場づくりを、仕組みとして整える
採用が難しい時代だからこそ、「辞めにくい職場」「続けやすい職場」をどう設計するかが問われています。院長の想いだけでなく、業務の見える化・マニュアル・面談の場づくりなど、仕組みとして定着を支えることで、制度改正の波があっても日々の診療を続けやすくなります。
④ 自費診療・予防医療など、制度外収益を無理なく組み合わせる
すべてを保険診療で賄おうとするのではなく、地域ニーズに合った自費診療や予防医療を組み合わせることで、経営の安定性を高める選択肢もあります。「何を売るか」ではなく、「どのように患者さんの生活を支えるか」という視点から、自院らしいサービス設計を考えていくことがポイントです。
開業準備中の先生・すでに開業している先生が今考えたいこと
制度改正のニュースに触れたとき、開業準備中の先生と、すでに開業されている先生とでは、見直すべきポイントが少し異なります。
開業準備中の先生:どこで・何をするかの整理を優先する
「開業が制限されるのでは?」という不安から、開業そのものをためらってしまう先生もいます。しかし大切なのは、「開業できるか/できないか」ではなく、「どこで・どのような医療を提供したいのか」を言葉にしておくことです。
医師偏在是正の流れと開業への影響を整理した記事でもお伝えしているように、立地や診療圏、地域ニーズを踏まえながら、自院の役割を具体化すること自体が、制度変化への備えになります。
すでに開業している先生:制度より先に「自院の前提」を見直す
すでに開業している先生にとっては、「制度がどう変わるか」以上に、「自院は何を大切にしているのか」「どのような患者さんに、どのような価値を届けたいのか」という前提の見直しが重要になります。
診療報酬改定や財務省提言の内容を追いかけることも必要ですが、診療報酬改定を読み解く力でも触れているように、制度を「恐れる対象」ではなく、「自院の方針を確認するきっかけ」として捉え直すことが、変化の時代における院長の役割と言えます。
制度に流されず、制度を活かす経営へ(まとめ)
自由開業制見直しや医療法改正の議論は、外部環境として注視すべき大切なテーマです。一方で、制度の先行きを「不安」として受け取るか、「前提」として受け入れるかによって、日々の経営の質は大きく変わります。
国民皆保険制度・診療報酬・療養担当規則といったルールは、「何をしてはいけないか」だけでなく、「どのように地域の医療を支えるか」を考えるための土台でもあります。療養担当規則のチェックリスト記事のように、足元のルールから自院のあり方を見直すこともひとつの方法です。
制度の動きにばかり目を奪われるのではなく、自院の理念・地域ニーズ・制度という三つの層を行き来しながら、「自分たちはどこで、どのように役割を果たしたいのか」を言葉にしていくこと。それこそが、不確実な時代においてもぶれないクリニック経営の土台になります。
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参考URL
- 厚生労働省「医療法等の一部を改正する法律案の概要」
https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/001471571.pdf - 衆議院:議案の審議経過(医療法等の一部を改正する法律案)
https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_gian.nsf/html/gian/keika/1DDE412.htm - 衆議院:法案本文(医療法等の一部を改正する法律案)
https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/houan/g21709021.htm