正解を急がず、納得して続けるために。 クリニック開業・経営の判断の前提を、静かに整える時間。

クリニック開業・経営コラム

医療法改正で「開業は本当に難しくなるのか?」──2025年改正後の自由開業制とクリニック経営の現実

更新日:2025年12月7日
※本記事は、2025年10月6日に公開した内容を、2025年12月5日に成立した医療法改正(自由開業制見直し部分)を踏まえて加筆修正したものです。
※2025年12月21日:タイトル・メタディスクリプション(検索表示)を調整。

「医療法改正で、これからはクリニック開業が難しくなるのではないか」──そう感じて検索された先生も多いのではないでしょうか。

2025年12月5日、「医療法等の一部を改正する法律」が成立しました。報道では 「自由開業制の見直し」「開業抑制」「規制強化」 といった見出しが目立ち、これから開業を考えている先生や、すでに開業されている先生の中にも、 「今後、開業はしづらくなるのか」「自院の経営はどうなるのか」 と不安を感じている方も多いのではないでしょうか。

一方で、実際の条文や厚労省の資料を丁寧に追っていくと、 「開業禁止」や「一律の開業制限」といった強い規制とは性質が異なる ことも見えてきます。

本記事では、 2025年医療法改正後の自由開業制見直しのポイント を整理したうえで、 「本当に開業しづらくなるのか?」 という疑問に答えつつ、 制度に振り回されずに、制度の枠内で持続可能な経営をつくる視点 を、開業準備中の先生・すでに開業されている先生向けにまとめます。

今回の医療法改正で、開業は「どこまで」変わるのか

メディアが強調する「開業抑制」は、やや誤解ぎみ

一部メディアやSNSでは、

  • 「自由開業制が実質的に崩れる」
  • 「開業が規制されるらしい」
  • 「都心部ではもう開業できなくなる」

といったニュアンスで語られることがあります。

しかし、法律や厚労省資料を確認すると、今回の改正は 「開業を禁止する仕組み」ではなく、「地域医療の観点から、自治体が開業医に役割を要請しやすくする仕組み」 に近い性格を持っています。

言い換えると、 「強制」ではなく「調整の枠組み」を整えた改正 であり、報道で受ける印象ほど 「自由開業制が一気に終わる」 ものではありません。

外来医師多数区域では、6ヶ月前の「事前届け出」が必要に

改正点の中でも、これから開業を考えている先生に関係が深いのが、外来医師多数区域における新規開業の扱いです。

  • 外来医療が過密な地域(外来医師多数区域)で新たに診療所を開設する場合
  • 開設の6ヶ月前までに、都道府県への事前届け出が必要になる
  • あわせて、「地域医療の中でどのような機能を担うのか」といった内容の提出が求められる

ここで押さえておきたいのは、これは 「許可制への移行」ではなく、あくまで「届出制のまま、事前に情報を出してもらう仕組み」 であるという点です。

自治体は“やってほしい医療”を要請できるが、強制ではない

事前届け出に基づき、都道府県(自治体)は、

  • 小児医療が不足していれば「小児への対応」
  • 在宅医療が不足していれば「在宅医療の一部担い手」
  • 夜間・休日の外来が不足していれば、その補完

といった形で、 地域医療の中で担ってほしい役割を開業医に「要請」できる 仕組みが整理されました。

これは まったく新しい制度がゼロからできたわけではなく、これまでの「要請」スキームを整理し直したもの と考えると、イメージしやすいと思います。

従わない場合も、段階的な「要請」と「説明」が中心

では、自治体からの要請に従わなかった場合、どうなるのでしょうか。条文上は、次のようなステップが用意されています。

  1. 自治体からの要請
  2. 従わない場合に、理由の説明を求める
  3. 医療審議会での説明を求める(努力義務
  4. なお従わない場合の「勧告」
  5. それでも従わない場合の「公表」(「勧告に従っていません」と知らせる)
  6. 必要に応じて、厚生労働大臣への通知

この流れを見てもわかるように、中心となるのは 「要請」や「説明」「公表」など、いわば“ソフトな手段” です。開設の許可・不許可を左右するような 直接的な強制力は持っていません

また、外来医師多数区域での要請は、これまでも 「仕組みはあるが、強くは運用されていない」 状態が長く続いてきました。今回の改正で枠組みは整理されましたが、 いきなり一斉に強硬な運用が始まる、というイメージからは距離があります

なぜ「強い規制」にはなりにくいのか(届出制と職業選択の自由)

背景には、法律上の前提があります。

  • 無床診療所は「届出制」であり、都道府県が「許可・不許可」を判断する仕組みではない
  • 医師の開業は、憲法上の「職業選択の自由」のもとにある
  • 閉鎖命令などの強い制限が認められるのは、「6ヶ月診療を行わず放置している」「重大な法令違反や犯罪行為」など、例外的なケース

そのため、 「特定地域での開業そのものを禁止する」ような強い規制をかけることは、法律上も簡単ではありません。今回の改正は、こうした前提の上で、 「地域医療に資する形で、医師にどのように協力をお願いするか」 という調整の枠組みを整えたものと言えます。

「見えざる手=市場の自浄作用」が、実際の開業環境を変えていく

ここまで整理すると、 「医療法改正で突然、開業ができなくなる」というイメージは過剰 であることが見えてきます。

むしろ、これからの開業環境に影響を与えるのは、法律そのものよりも、次のような 「市場の変化」 です。

  • 都心部ではすでにクリニックの競争が過密になっている
  • 建設費・人件費・物価の上昇などにより、開業コストが増加している
  • 診療報酬全体は大きく伸びにくく、高コスト構造のままでは利益が残りにくい
  • スタッフ採用が難しくなり、人が集まらない・続かないリスクが高まっている

こうした状況を踏まえると、 制度で「開業抑制」をかけなくても、市場の変化だけで自然と開業ハードルが上がっていく 可能性があります。

つまり、これからの開業環境を左右するのは、 見えざる手=市場の自浄作用 であり、医療法改正は その流れを補正・調整するための枠組み と捉えるほうが実態に近いと言えます。

制度は「前提」であり、「経営の制約」ではない

日本の医療は、国民皆保険制度と診療報酬というルールのもとで成り立っています。この仕組みは、すべての患者が一定の負担で医療を受けられるという安心を支える一方で、開業医にとっては 価格の自由度が限られる という現実も伴います。

ここで重要なのは、 制度を変えようとすることではなく、制度を理解したうえで戦略を立てること です。制度そのものは個人の力で変えることはできませんが、 その枠内でどのように価値を届けるか は、院長先生の意思と工夫に委ねられています。

「できないこと」を数えるのではなく、 「できる範囲の中で最大の価値を生み出す」視点 を持つこと。これが、不確実な制度環境のなかでも、クリニック経営を続けていくための基本姿勢になります。

制度の枠内で工夫できるクリニック経営の領域

制度のルール自体は個人で変えられませんが、その枠内には多くの工夫余地があります。たとえば次のような領域です。

① 採用や広告コストを抑えながら、地域に届く情報発信を行う

高額な広告費をかけなくても、 ホームページやSNS、口コミ などを通じて地域とつながる方法は多数あります。「どんな患者さんに来てほしいのか」「自院がどのような役割を担うのか」を整理したうえで、情報発信の軸を整えることが大切です。

② 予約・会計などのDX活用で、患者体験を改善する

オンライン予約、キャッシュレス決済、問診のデジタル化など、 診療報酬は変えずとも患者体験と業務効率を同時に高める工夫 は増えています。少人数で運営するクリニックほど、DXを「人を減らすため」ではなく 「人が医療に集中できるようにするため」の仕組み として位置づけることが重要です。

③ スタッフが定着しやすい職場づくりを、仕組みとして整える

採用が難しい時代だからこそ、 「辞めにくい職場」「続けやすい職場」 をどう設計するかが問われています。院長の想いだけでなく、業務の見える化・マニュアル・面談の場づくりなど、仕組みとして定着を支えることで、制度改正の波があっても日々の診療を続けやすくなります。

④ 自費診療・予防医療など、制度外収益を無理なく組み合わせる

すべてを保険診療で賄おうとするのではなく、 地域ニーズに合った自費診療や予防医療 を組み合わせることで、経営の安定性を高める選択肢もあります。「何を売るか」ではなく、 「どのように患者さんの生活を支えるか」 という視点から、自院らしいサービス設計を考えていくことがポイントです。

開業準備中の先生・すでに開業している先生が今考えたいこと

制度改正のニュースに触れたとき、開業準備中の先生と、すでに開業されている先生とでは、見直すべきポイントが少し異なります。

開業準備中の先生:どこで・何をするかの整理を優先する

「開業が制限されるのでは?」という不安から、開業そのものをためらってしまう先生もいます。しかし大切なのは、 「開業できるか/できないか」ではなく、「どこで・どのような医療を提供したいのか」 を言葉にしておくことです。

医師偏在是正の流れと開業への影響を整理した記事 でもお伝えしているように、立地や診療圏、地域ニーズを踏まえながら、 自院の役割を具体化すること自体が、制度変化への備え になります。

すでに開業している先生:制度より先に「自院の前提」を見直す

すでに開業している先生にとっては、「制度がどう変わるか」以上に、 「自院は何を大切にしているのか」「どのような患者さんに、どのような価値を届けたいのか」 という前提の見直しが重要になります。

診療報酬改定や財務省提言の内容を追いかけることも必要ですが、 診療報酬改定を“読み解く力”を持つ記事 でも触れているように、 制度を「恐れる対象」ではなく、「自院の方針を確認するきっかけ」として捉え直す ことが、変化の時代における院長の役割と言えます。

制度に流されず、制度を活かす経営へ(まとめ)

2025年の医療法改正は、 自由開業制をいきなり終わらせる「禁止の法律」ではなく、地域医療の観点から開業医に役割を要請する仕組みを整理した法律 と捉えることができます。

そして、実際の開業環境を大きく変えていくのは、法改正そのものよりも、 見えざる手=市場の自浄作用 です。都心部の過当競争やコスト上昇、人材難などの変化を前提に、 「どこで、どのような医療を、どんな体制で続けたいのか」 を言葉にしていくことが、これからの開業医に求められる視点だと考えています。

国民皆保険制度・診療報酬・療養担当規則といったルールは、 「何をしてはいけないか」だけでなく、「どのように地域の医療を支えるか」を考えるための土台 でもあります。 療養担当規則のチェックリスト記事 のように、足元のルールから自院のあり方を見直すこともひとつの方法です。

制度の動きにばかり目を奪われるのではなく、 自院の理念・地域ニーズ・制度という三つの層 を行き来しながら、「自分たちはどこで、どのように役割を果たしたいのか」を言葉にしていくこと。それこそが、不確実な時代においてもぶれないクリニック経営の土台になります。

関連記事

今いちど。
「詰まっている一点」だけ、ほどきませんか

開業準備や日々の経営のなかで、決めなければいけないのに決めきれない考えが堂々巡りしている──そんな瞬間はありませんか。
初回整理セッションは、正解や結論を急ぐ場ではなく、いま詰まっている論点を言葉にして整理し、「次に何を考えるか」を絞り直すための時間です。

うまく説明できなくても大丈夫です。
「何が詰まりの正体なのか」から一緒に整理します。

🗂 初回整理セッション

料金:5,000円(税別)

最初に30分だけZoomで顔合わせを行い、
その後14日間、Chatworkまたはメールで整理を進めます。

よくある詰まりの例

  • 選択肢が多く、何から決めるべきかが分からない
  • 「制度・数字・理想」の間で、判断の軸が揺れている
  • 業者や身近な人には話しづらく、頭の中だけで抱えている

【お問い合わせ内容|記入例】

  • 開業について考え始めたが、何から整理すればいいか分からない
  • 経営のことで引っかかっているが、うまく言葉にできていない
  • とりあえず今の状況を一度整理したい

※箇条書き・数行で大丈夫です。
※まとまっていなくても、大丈夫です

🧩 「詰まり」を整理する(初回整理セッション)

※この時点で何かを決める必要はありません。
売り込みや即決を前提とした場ではありません。

詳細(進め方・位置づけ)はこちら

※整理を進めた結果、必要だと感じた場合のみ、
月額の伴走(開業・経営整理セッション)を選ぶこともできます: 詳細

即答より、納得を。── まえやまだ純商店の考え方

先に雰囲気を知りたい先生へ(5分前後):Podcastで「整理の仕方」を聴けます

※外部サービスが新しいウィンドウで開きます

参考URL

記事一覧