まえやまだ純商店

クリニック開業・経営コラム

診療報酬改定は「制度を知ること」で終わらない|自院として判断するための考え方

更新日:2026年7月10日
※本記事は、2026年診療報酬改定の施行後の状況を踏まえ、診療報酬改定を「点数の上下」だけでなく、院長の経営判断にどう活かすかという視点で整理したものです。

この記事でわかること

  • 診療報酬改定を「点数表」だけで見ない理由
  • 制度対応後に生じる違和感をどう整理するか
  • 診療報酬改定を自院の経営判断に落とし込む視点
  • 生活習慣病管理料を例に、自院として判断する考え方
  • 制度対応を一度きりで終わらせず、運用改善につなげる考え方

診療報酬改定は、制度を知るだけでは終わらない

診療報酬改定への対応として届出を行い、新しい運用を始めたクリニックも多いのではないでしょうか。

一方で、実際に運用を始めてみると、次のような悩みや違和感が出てくることがあります。

  • スタッフの負担が想定より大きい
  • 患者さんへの説明に時間がかかる
  • 制度上は算定できていても、自院に合った運用なのか迷う
  • 院内で運用方法が統一できていない
  • 「このまま続けてよいのだろうか」という違和感がある

診療報酬改定では、制度を理解し、届出を行うことがゴールではありません。

本当に重要なのは、制度の方向性を理解したうえで、自院の診療方針や地域での役割、スタッフ体制に照らし合わせながら、自院としてどう判断するかを考えることです。

例えば、2026年診療報酬改定では、生活習慣病管理料(Ⅰ)について、原則として6か月に1回以上の血液検査等が求められるようになりました。

この変更を受けて、「生活習慣病管理料(Ⅰ)と(Ⅱ)のどちらを選ぶべきか」と考える場面もあるかもしれません。

しかし、本当に考えるべきなのは点数の違いだけではありません。患者さんへの負担、スタッフの運用、自院の慢性疾患診療の方針、そして地域でどのような役割を担っていくのかまで含めて判断することが大切です。

本記事では、診療報酬改定を「点数の上下」だけではなく、自院の経営判断にどう落とし込むかという視点で整理します。


1.診療報酬改定は「政策のメッセージ」でもある

診療報酬改定は、医療機関の収入に関わる制度です。

そのため、「点数が上がった」「点数が下がった」「この加算を取れるのか」といった話に目が向きやすくなります。

もちろん、点数や施設基準を確認することは大切です。クリニック経営にとって、診療報酬は収入の土台であり、制度変更が経営に与える影響は小さくありません。

ただ、診療報酬改定を点数の上下だけで見てしまうと、本来読み取るべきものを見落としてしまうことがあります。

診療報酬改定には、国が医療機関にどのような役割を期待しているのか、どのような医療提供体制を評価しようとしているのかが反映されています。

つまり、診療報酬改定は単なる点数表ではなく、医療機関に向けた政策のメッセージでもあります。

院長に必要なのは、「どの点数を取るか」だけではありません。

その前に、制度の方向性を読み取り、自院の役割や運営にどう関係するのかを整理する視点です。


2.院長が見るべき3つの視点

診療報酬改定を経営判断に活かすためには、情報をただ集めるだけでは足りません。

院長としては、少なくとも次の3つの視点で整理しておくことが重要です。

① 国は何を評価しようとしているのか

まず見るべきなのは、国が何を評価しようとしているのかです。

新しい項目や評価の見直しが行われたとき、そこには何らかの政策意図があります。

単に「点数がついた」「要件が変わった」と捉えるのではなく、なぜその項目が評価されるのか、どのような医療提供体制に誘導しようとしているのかを考えることが大切です。

ここを読み飛ばしてしまうと、制度対応が表面的な作業になりやすくなります。

② 自院の役割と合っているのか

次に見るべきなのは、その方向性が自院の役割と合っているかです。

診療報酬改定で評価される項目があったとしても、すべてのクリニックが同じように追う必要はありません。

自院の診療科、患者層、地域での立ち位置、スタッフ体制、院長の考え方によって、重視すべき項目は変わります。

大切なのは、制度に合わせて自院を無理に変えることではありません。

制度の方向性を踏まえたうえで、自院が何を引き受け、どこは無理に追わないのかを整理することです。

③ 院内で継続できるのか

3つ目は、院内で継続できるかです。

診療報酬改定では、新しい評価や要件が示されることがあります。

しかし、制度上は対応できそうに見えても、実際の院内運用に落とし込むと負担が大きい場合があります。

  • スタッフの業務量が増えすぎないか
  • 院長の確認作業が過度に増えないか
  • 患者さんへの説明が複雑になりすぎないか
  • 書類や記録の運用が属人的にならないか
  • 一時的にはできても、半年後・1年後も続けられるか

制度対応は、始めることよりも、続けられることが大切です。

そのため、改定情報を見るときは、点数や要件だけでなく、院内で無理なく続けられる運用かどうかまで確認しておく必要があります。


3.具体例:生活習慣病管理料(Ⅰ)・(Ⅱ)をどう考えるか

ここで、診療報酬改定を自院の経営判断に落とし込む具体例として、生活習慣病管理料(Ⅰ)・(Ⅱ)を考えてみます。

2026年診療報酬改定では、生活習慣病管理料(Ⅰ)について、原則として必要な血液検査等を少なくとも6か月に1回以上行うことが求められるようになりました。

この変更を見たとき、単純に次のように考えたくなることがあります。

  • 生活習慣病管理料(Ⅰ)は運用が大変そうだから、(Ⅱ)にした方がよいのではないか
  • 点数を考えると、できるだけ(Ⅰ)を算定した方がよいのではないか
  • 他院が(Ⅰ)を算定しているなら、自院も同じように対応すべきではないか

もちろん、点数や要件を比較することは必要です。

しかし、経営判断として考えるなら、それだけでは十分ではありません。

例えば、次のような視点で整理する必要があります。

  • 自院の患者さんにとって、定期的な採血はどのような意味を持つのか
  • 患者さんへの説明は、無理なく行えるか
  • 健診結果や他院で実施した検査結果を活用する場合、院内で確認・記録する運用を整えられるか
  • スタッフが無理なく続けられる業務設計になっているか
  • 院長の確認負担が増えすぎないか
  • 自院が地域で担いたい慢性疾患診療の役割と合っているか

生活習慣病管理料(Ⅰ)・(Ⅱ)のどちらが正しい、という話ではありません。

重要なのは、制度上の違いを理解したうえで、自院としてどちらを選び、その選択を継続できる運用にできるかです。

同じ制度改定であっても、患者層、診療方針、スタッフ体制、地域で求められる役割によって、選択すべき対応は変わります。

このように、診療報酬改定では「算定できるか」だけではなく、自院としてどう判断するかを整理することが重要です。


4.点数だけを見ると判断を誤りやすい理由

診療報酬改定を点数だけで見ると、判断を誤りやすくなります。

理由は、点数だけを追うと、制度対応の目的がずれてしまうことがあるからです。

加算取得や算定が目的化してしまう

加算や新しい評価が示されると、「取れるなら取った方がよい」と考えたくなります。

もちろん、適切に取得できるものを見落とさないことは大切です。

ただし、加算取得や算定そのものが目的になると、自院の診療方針や患者さんへの提供価値とズレる場合があります。

本来考えるべきなのは、算定できるかどうかだけではなく、その対応が自院の役割や運営に合っているかです。

スタッフ負担が見えにくくなる

点数だけを見ると、院内で発生する業務負担が見えにくくなります。

記録、説明、同意、書類、算定確認、患者さんへの案内など、制度対応には現場の実務が伴います。

院長の頭の中では整理できていても、受付・看護師・事務スタッフの業務に落とし込むと、想像以上に負担が増えることもあります。

制度対応は、経営判断であると同時に、院内運用の設計でもあります。

自院の方向性と合わない対応をしてしまう

他院が対応しているから、自院も対応しなければならない。

そのように考えると、自院に合わない対応まで抱え込んでしまうことがあります。

しかし、クリニックごとに診療科、地域、患者層、スタッフ体制、院長の考え方は異なります。

大切なのは、他院と同じ対応をすることではありません。

自院の役割に照らして、どこまで対応するのか、どこは今すぐ追わないのかを判断することです。


5.改定情報を経営判断に落とし込む流れ

診療報酬改定を経営判断に活かすには、情報を集めるだけで終わらせないことが大切です。

私なら、次のような流れで整理します。

① 情報を集める

まずは、改定の全体像、基本方針、答申、疑義解釈、関係団体の資料などを確認します。

ただし、最初からすべてを細かく理解しようとすると、情報量に圧倒されます。

最初は、自院に関係しそうな領域を大きく掴むことが大切です。

② 自院への影響を整理する

次に、集めた情報を自院に引き寄せて整理します。

  • 自院に直接関係する項目は何か
  • 患者さんへの説明が必要になる項目は何か
  • 院内運用を変える必要がある項目は何か
  • 収支に影響しそうな項目は何か
  • 今すぐ対応するものと、様子を見るものは何か

制度情報を読むだけでは、経営判断にはなりません。

自院にとって何が影響するのかを整理して初めて、次の判断につながります。

③ 優先順位を決める

すべてに一度に対応しようとすると、院内が混乱しやすくなります。

そのため、対応すべき項目を並べたうえで、優先順位をつける必要があります。

  • 患者さんへの影響が大きいもの
  • スタッフの業務に直結するもの
  • 収支への影響が大きいもの
  • 早めに準備しないと間に合わないもの
  • 自院の今後の方向性に関わるもの

優先順位が決まると、院内で何から手をつけるべきかが見えやすくなります。

④ 実行する

優先順位を決めたら、実際に院内運用へ落とし込みます。

この段階では、院長だけで考えるのではなく、受付、看護師、事務スタッフなど、実際に運用を担う人と共有することが重要です。

制度対応は、院長の理解だけでは回りません。

患者さんへの説明、受付での案内、記録、算定確認、スタッフ間の役割分担まで含めて、現場で動く形にする必要があります。

⑤ 実行後に振り返り、改善点を洗い出す

実行したら終わりではありません。

制度対応を始めてみると、事前には見えていなかった課題が出てくることがあります。

  • 患者さんへの説明に時間がかかる
  • スタッフの確認作業が増えている
  • 予約や会計の流れに詰まりが出ている
  • 記録の方法が人によってばらついている
  • 院長の確認負担が想定より大きい

こうした違和感を放置せず、実行後に振り返り、改善点を整理することが大切です。

⑥ 改善して、再度実行する

振り返りで見えた課題は、次の実行に反映します。

たとえば、説明資料を整える、スタッフの役割分担を見直す、予約導線を調整する、記録方法を統一する、患者さんへの案内文を変えるなど、小さな改善を重ねていきます。

診療報酬改定対応は、一度決めたら終わりではありません。

実行し、振り返り、改善し、また実行するという循環で捉えることが、クリニック経営では重要です。


6.おわりに――制度を理解することと、自院として判断することは別の話

診療報酬改定では、新しい点数や施設基準、届出方法などに注目が集まりがちです。

もちろん、制度を正しく理解することは重要です。

しかし、制度を理解することと、自院としてどのように受け止め、どのような運営につなげるかは別の話です。

本記事で具体例として挙げた生活習慣病管理料(Ⅰ)・(Ⅱ)のように、診療報酬改定では「制度上どちらが正しいか」ではなく、「自院としてどのような判断をするか」が問われる場面も少なくありません。

また、届出を行い運用を始めた後も、「スタッフの負担が想定より大きい」「患者さんへの説明に時間がかかる」「この運用を続けてよいのだろうか」といった違和感が生まれることもあります。

だからこそ、診療報酬改定への対応は、一度判断して終わりではありません。

制度の方向性を理解し、自院への影響を整理し、実行し、振り返り、改善を重ねながら、自院として納得できる運営を続けていくことが大切です。

診療報酬改定は、単なる制度対応ではなく、自院の診療方針や地域で果たす役割を見つめ直す機会でもあります。

本記事が、制度を理解するだけでなく、自院として納得して判断し、無理なく続けられる運営を考えるきっかけになれば幸いです。

診療報酬改定を、自院でどう判断するか迷うときは

診療報酬改定への対応を進める中で、「この運用でよいのだろうか」「自院として何を優先すべきだろうか」と迷うこともあるかもしれません。

そのようなときは、まず現在の状況や課題を整理することが大切です。

制度の正解を一方的にお伝えするのではなく、自院の診療方針、スタッフ体制、患者さんへの影響、地域での役割などを整理しながら、次の一歩を考えるための入口としてご覧ください。

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