循環器内科経営シリーズ第2回|循環器内科経営の基盤は“生活習慣病”である
循環器内科というと、急性期のイメージが強い領域です。心筋梗塞、不整脈、心不全――医師としてキャリアを積むほど、どうしても「専門的な治療」が頭に浮かびます。
しかし、開業後の経営において中心になるのは、実はまったく別の領域です。それが「高血圧・脂質異常症などの生活習慣病」です。
多くの院長が「生活習慣病は、どの内科でも診る領域」という印象を持っていますが、これは誤解に近いものです。
循環器の専門性は、むしろこの生活習慣病の継続管理で最大限に活きるからです。そして、地域医療政策・診療報酬の方向性・患者ニーズのすべてが、生活習慣病を診療所の中心に置く流れになっています。
1. 循環器にとって生活習慣病は「最も得意で、最も地域に必要とされている」領域
高血圧・脂質異常症・境界型糖尿病――これらはすべて循環器疾患の入口であり、放置するとリスクが急上昇することを、循環器医はよく知っています。
しかし地域の患者さんは、そうは思っていません。生活習慣病に関しては、
- 薬だけもらえればよい
- 症状がないから後回しでよい
という考えが根強く、医師の危機感とは大きなギャップがあります。
このギャップこそ、循環器内科が地域で果たせる役割の大きさを示しているポイントです。
さらに、生活習慣病の管理は、地域の心血管イベントを減らし、医療費の適正化にも直結します。
循環器内科が生活習慣病を「きちんと診る」ことは、個々の患者の予後だけでなく、地域医療全体の質と持続可能性を支える重要な役割にもつながっています。
2. 地域の患者にとって「循環器内科は受診ハードルが高い」という現実
多くの地域住民は、循環器内科を次のように捉えています。
- 重症の人が行くところ
- 専門的で敷居が高いところ
- 健診異常の段階で行くには「まだ早い」と感じるところ
つまり、「軽症(無症状)の段階で行く場所ではない」という誤解があるのです。
生活習慣病と循環器の関連性を理解していない患者が多いため、高血圧・脂質異常症の段階では受診が遅れやすいのが現状です。
だからこそ、「どんな人が、どのタイミングで来ればよいのか」を明確に伝えることが、地域導線をつくる第一歩になります。
3. 「経営が安定しない…」と感じる背景にある“再診設計(継続率)”の問題
開業後に多くの院長が抱える悩みの一つが、
「どう経営を安定させるべきかわからない」
というものです。
この答えは、実はシンプルです。
経営は「患者数」より「継続率」で安定する。
そして生活習慣病の強みは、この「継続性」にあります。
- 定期診察
- 服薬管理
- 検査計画
- 目標設定
- 合併症予防
多くの要素が「続けること」を前提に設計されているため、適切な仕組みをつくれば、経営も自然と安定していきます。
特に、再診率が安定すると、1日あたりの外来患者数の変動幅が減るため、スタッフ配置や検査枠の組み立てがしやすくなります。
「たまたま忙しい日」「たまたま空いている日」に振り回されにくくなり、院長・スタッフ双方にとって“続けやすい外来”が実現しやすくなります。
循環器専門医は、この継続管理でこそ圧倒的に強みを発揮できます。患者さんの心血管リスクを診る目、検査の選択、説明の説得力――いずれも生活習慣病のフォローに直結する能力です。
裏を返せば、生活習慣病の再診設計が曖昧なままだと、経営の不安定さも続きやすいということでもあります。
4. 健診 → 初診 → 定期通院の導線を「地域に見える形」で設計する
生活習慣病が経営の柱になる最大の理由は、健診がそのまま初診導線になるという点です。
健診異常が出た患者は、「次に何をすればいいか分からない」状態になりがちです。ここに、循環器の専門性は大きく響きます。
- 高血圧が放置されるリスク
- LDLコレステロールが心血管リスクに与える影響
- 生活習慣病の段階で介入する価値
これらを初診時に丁寧に説明すると、継続率は大きく改善します。
「初診の質=経営の安定性」と言っても過言ではありません。
あわせて、地域に対しても「健診でこういう結果が出たら、循環器内科を受診してください」とメッセージを出していくことで、
- 誰が来るべきクリニックなのか
- どのタイミングで受診すべきなのか
が、患者さんや地域住民の中で少しずつ言語化されていきます。
5. 続けやすい「支援設計」こそ循環器内科の差別化ポイント
生活習慣病は、仕組みを整えるだけで継続率が伸びる領域です。例えば、次のような支援が考えられます。
- スマホアプリなどを使った血圧・体重の記録サポート
- 薬局との連携による服薬フォローアップ・残薬確認
- 検査の定期化と、その理由・目的の共有
- 目標値やリスクを「見える化」するシートや説明資料
- 初診・再診で伝える内容をシンプルに整理した「説明の型」づくり
これらはすべて、患者さんが「続けやすくなる」ための支援です。
支援が整う → 継続率が上がる → 経営が安定する、という構造がはっきりと存在します。
循環器内科は専門性の高さゆえに、こうした支援に「説得力」が生まれやすいのが強みです。生活習慣病の管理を通じて、患者さんに「ここに通っている意味」を実感してもらいやすくなります。
6. 結論:循環器内科経営の基盤は、やはり生活習慣病である
生活習慣病を経営の柱にすると、次の3つが同時に整います。
- 地域が必要としている役割が明確になる
- 経営が「継続率」という安定した軸で成り立つ
- 循環器の専門性を、地域の健康維持に活かせる
生活習慣病は、「どの内科でも診る領域」に見えますが、循環器の専門性が最もダイレクトに活きる領域でもあります。同時に、慢性期・再発予防を重視するこれからの医療政策とも合致しており、地域からも求められているテーマです。
専門領域で勝負する前に、まずは「地域の循環器」として生活習慣病を軸に据えることが、最も現実的で、最も効果的な一歩です。循環器内科経営の本当の基盤は、ここにあります。
【次回】第3回:循環器内科における「初診設計」と地域導線
第3回では、「循環器内科における初診設計」を取り上げます。
健診異常 → 初診 → 継続診療という流れの中で、
- どのような患者さんに、どのタイミングで来てほしいのか
- 初診時に何をどこまで説明するのか
- 検査・次回予約・フォローの流れをどう設計するのか
といったポイントを整理しながら、循環器内科が「支える医療」の入り口として機能するための具体的な初診設計を、クリニック経営の視点から解説していきます。
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