循環器内科経営シリーズ 第1回|中医協が示す次の一歩──循環器クリニックが今から整える4つの準備
【更新日】2025年12月5日
循環器クリニックは、従来「救う医療」の最前線として発展してきました。狭心症・心筋梗塞・心不全といった急性期疾患への対応は、今後も変わらず重要な役割です。
一方で、近年の中医協の議論や、先月公表された令和8年度診療報酬改定の基本方針(骨子案)では、外来医療において「治した後を支える医療」への転換がより明確に示されています。
かかりつけ医機能の評価、生活習慣病の継続管理、ポリファーマシー対策、医療DXによる情報連携などは、その象徴的なテーマです。
本稿では、2025年10月17日の中医協(中央社会保険医療協議会)総会で示された論点を起点に、循環器クリニックが「今から整えておきたい3つの準備」を、“治す医療から、治し支える医療へ”という視点で整理します。
参考:厚生労働省 中医協配布資料(外来医療・生活習慣病・ポリファーマシー 等)
参考:令和8年度診療報酬改定の基本方針(骨子案)
1.かかりつけ医機能の“見える化”──自院の役割を語れる状態に
中医協・診療報酬改定の議論では、かかりつけ医機能の評価が一貫したテーマとなっています。今後は、届出や報告の有無だけでなく、「地域の中で自院がどのような役割を果たしているのか」を示すことが求められます。
循環器クリニックにとって、特に整理しておきたいのは次のような点です。
- 慢性期疾患(高血圧・脂質異常症など)の継続管理体制
- 心不全・不整脈など急変リスク患者に対する病院・在宅との連携ルール
- 在宅医療・訪問看護・薬局・急性期病院との役割分担と連絡経路
これらを院内だけでなく、ホームページや院内掲示などを通じて「見える化」しておくことは、単なる制度対応ではなく、自院のあり方を言葉にするプロセスでもあります。
「自院は、どのような患者に、どこまで責任を持つのか」。この問いに、院長自身とスタッフが同じ言葉で答えられる状態が、これからの循環器クリニックに求められるかかりつけ機能の土台と言えます。
2.生活習慣病管理とデータ提出──感覚から「説明できる診療」へ
生活習慣病管理料や外来データ提出加算に関する議論は、「診療の質をどのように見える形にするか」という問いそのものです。
循環器領域では、日常診療の中で血圧値、脂質・血糖、心電図所見、服薬状況など、非常に多くのデータが蓄積されます。今後は、これらを「何となく診ている」状態から、「根拠を示せる診療」へと高めていくことが求められます。
- 電子カルテと検査システムの連携経路を整理し、記録漏れを防ぐ
- 血圧・LDL・HbA1c・服薬状況などの推移を、一覧で確認できる形に整える
- 外部提出や院内カンファレンスに使えるレベルのデータ品質を意識する
ポイントは、「どれだけの人数を診たか」よりも、「どれだけ説明できるか」です。
たとえば、「3か月ごとに採血する理由」「この血圧目標を設定している理由」「この薬剤構成にしている理由」がカルテや計画書から読み取れるだけでも、患者・地域・行政に対する説得力は大きく変わります。
循環器クリニックにとって、生活習慣病管理はまさに“治し支える医療”の中心であり、そこで扱うデータは、診療の質と信頼を支える資産といえます。
3.ポリファーマシー対応──“減薬”をチームで支える
多剤併用(ポリファーマシー)対策も、今後の診療報酬・中医協議論で引き続き重要なテーマとなっています。循環器診療では、高血圧、脂質異常症、心不全、不整脈、糖尿病、腎機能など、複数の病態が絡み合うことが多く、薬剤数が自然と増加しやすい領域です。
ここで問われているのは、「薬を減らすかどうか」という二択ではなく、“どう支えるか”という視点です。
- 6剤以上服用している患者を定期的にリスト化し、フォロー対象を明確にする
- 薬剤師・看護師を交えたカンファレンスを定期的に行い、方針を共有する
- 経過や判断のプロセスを文書化しておき、担当者が変わっても運用できるようにする
ポリファーマシー対策を、個々の医師の意識や善意に委ねたままにせず、「人に依存しない仕組み」として組み込むことが重要です。
減薬の判断は簡単ではありませんが、そのプロセスをチームで支え、患者にも丁寧に説明できる体制を整えることが、「治し支える医療」における循環器クリニックの責任と言えます。
4.制度を待たず、“先に形にする”という発想
診療報酬や制度の詳細が固まるのを待ってから動こうとすると、どうしても準備が後手に回ります。
一方で、かかりつけ医機能の見える化、生活習慣病管理の標準化、ポリファーマシー対策の仕組み化などは、点数の細部にかかわらず、「やっておくと診療の質と経営の両面で効いてくる整備」です。
たとえば、次のような小さな一歩からでも十分に始められます。
- ホームページで自院のかかりつけ機能や連携体制を簡潔に紹介する
- 外来データ提出や生活習慣病管理を意識した入力テンプレートを整える
- 薬局・訪問看護との連携内容を、文書やチェックリストとして明文化しておく
制度に「対応する」のではなく、制度より一歩早く、自院の診療を“支える医療”のかたちとして先に整えておく。その積み重ねが、次の改定を「リスク」ではなく「チャンス」に変えていく力になります。
おわりに:循環器クリニックは「治す」と「支える」をつなぐ場
循環器クリニックは、命を守る「治す医療」の現場であると同時に、生活を支える「支える医療」の要でもあります。
急性期の治療だけでなく、生活習慣病の継続管理、再入院予防、多職種連携、データに基づく説明──こうした日々の診療の積み重ねこそが、“治し支える医療”の具体的な姿です。
中医協や診療報酬改定の議論は、単なる点数の増減の話ではなく、「これからの地域医療のかたちをどう描くか」という問いかけでもあります。
循環器クリニックが、自院の役割を整理し、診療と仕組みの両面から支える医療を形にしていくことが、地域にとっての大きな一歩となるはずです。
▶ 循環器内科経営シリーズ第2回|循環器内科経営の基盤は“生活習慣病”である
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