循環器内科経営シリーズ 第1回|循環器クリニックは「治す医療」からどう変わるのか──2026年診療報酬改定から考える役割の整理
【更新日】2026年4月27日
循環器クリニックは、従来「救う医療」の最前線として発展してきました。狭心症・心筋梗塞・心不全といった急性期疾患への対応は、今後も変わらず重要な役割です。
一方で、2026年度診療報酬改定や地域医療提供体制の見直しでは、外来医療において「治した後を支える医療」の重要性がより明確になっています。
かかりつけ医機能の見える化、生活習慣病の継続管理、心不全患者の再入院予防、ポリファーマシー対策、医療DXによる情報連携などは、その象徴的なテーマです。
本稿では、2026年度診療報酬改定の内容を踏まえながら、循環器クリニックが「今から整えておきたい3つの準備」を、“治す医療から、治し支える医療へ”という視点で整理します。
参考:厚生労働省 中医協配布資料
参考:厚生労働省 令和8年度診療報酬改定について
1.かかりつけ医機能の“見える化”──自院の役割を語れる状態に
2026年度診療報酬改定では、かかりつけ医機能や外来機能の分化が、より具体的な制度対応として示されています。
循環器クリニックにとっても、単に「循環器疾患を診る」だけではなく、地域の中でどのような患者を受け入れ、どこまで継続的に支えるのかを明確にしておくことが重要になります。
特に整理しておきたいのは、次のような点です。
- 高血圧・脂質異常症・糖尿病など、生活習慣病の継続管理体制
- 慢性心不全・慢性腎臓病など、長期管理が必要な患者への対応方針
- 急性期病院からの逆紹介を、どのような条件で受け入れるか
- 心不全・不整脈など急変リスク患者に対する病院・在宅との連携ルール
- 紹介・返書のテンプレートや、時間外対応の考え方
今回の改定では、地域包括診療料・地域包括診療加算の対象疾患に、慢性心不全や慢性腎臓病が関係してくる流れも示されています。
これは、循環器クリニックに対して、急性期治療の後を支える地域のかかりつけ医機能が、より強く求められているということでもあります。
自院がどのような患者を診て、どのような場合に病院へつなぎ、退院後をどう支えるのか。
その考え方を、院内だけでなくホームページや院内掲示、連携先への案内資料などを通じて「見える化」しておくことは、単なる制度対応ではありません。
それは、自院のあり方を言葉にするプロセスでもあります。
「自院は、どのような患者に、どこまで責任を持つのか」。この問いに、院長自身とスタッフが同じ言葉で答えられる状態が、これからの循環器クリニックに求められるかかりつけ医機能の土台と言えます。
2.生活習慣病管理と充実管理加算──感覚から「説明できる診療」へ
循環器クリニックにとって、生活習慣病管理は外来診療の中心にあります。
高血圧、脂質異常症、糖尿病、慢性腎臓病、心不全リスクなどを、長期的にどう診ていくかは、診療の質だけでなく経営の安定にも直結します。
2026年度改定では、従来の外来データ提出加算の流れを引き継ぎながら、生活習慣病管理に関する評価は充実管理加算として整理されています。
ここで問われているのは、単にデータを提出するかどうかではなく、検査の実施状況や継続管理の実績を含めて、診療の質をどのように説明できる形にするかです。
なお、充実管理加算の制度的な意味合いや評価の考え方については、関連記事として 生活習慣病管理加算・充実管理加算をどう受け止めるか──“正解”ではなく“納得解”で考える でも整理しています。
- 血圧・LDL・HbA1c・腎機能などの推移を確認しやすい形に整える
- 少なくとも一定期間ごとに必要な検査を行う運用を院内で標準化する
- 療養計画書やカルテに、管理間隔や治療方針の理由を短く残す
- 患者への説明日・説明者・説明内容を、無理なく記録できる動線にする
- 電子カルテや検査データを、外来の流れの中で活用できる状態にしておく
ポイントは、「どれだけの人数を診たか」よりも、「どれだけ説明できるか」です。
たとえば、同じ3か月ごとの採血でも、「安定しているため3か月ごとに確認する」のか、「合併症リスクが高いため短い間隔で確認する」のかでは、診療の意味が変わります。
また、同じ薬剤調整でも、「血圧が高いから増やした」のではなく、「家庭血圧の推移、腎機能、ふらつきの有無を踏まえて調整した」と記録できるかどうかで、診療の説明力は大きく変わります。
循環器クリニックにとって、生活習慣病管理はまさに“治し支える医療”の中心です。
日々の外来で蓄積されるデータを、単なる記録で終わらせず、診療の質と信頼を支える資産として整えていくことが重要になります。
3.ポリファーマシー対応──“減薬”をチームで支える
多剤併用、いわゆるポリファーマシー対策も、これからの循環器クリニックにとって重要なテーマです。
循環器診療では、高血圧、脂質異常症、心不全、不整脈、糖尿病、腎機能低下など、複数の病態が重なりやすく、薬剤数が自然と増えやすい特徴があります。
ここで問われているのは、「薬を減らすかどうか」という二択ではありません。
大切なのは、患者の生活に合った治療へ整えていくという視点です。
- 6剤以上服用している患者を定期的に把握する
- ふらつき、残薬、飲み忘れ、副作用の有無を確認する
- 薬局と残薬対応や処方調整のルールを事前にすり合わせる
- 電子処方箋などを活用し、他院処方も含めた服薬状況を確認する
- 減薬・変更の判断プロセスをカルテに残し、担当者が変わっても運用できるようにする
ポリファーマシー対策を、個々の医師の意識や善意に委ねたままにせず、「人に依存しない仕組み」として組み込むことが重要です。
特に高齢の心不全患者では、薬を減らせばよいという単純な話ではありません。
利尿薬、降圧薬、抗凝固薬、糖尿病薬、睡眠薬などが絡み合う中で、何を守り、何を見直すのかを、医師・看護師・薬剤師が同じ前提で考える必要があります。
患者に対しても、「薬を減らします」とだけ伝えるのではなく、ふらつきを防ぐため、飲みやすくするため、今の生活に合った治療に整えるためという説明が大切です。
その説明ができる体制を整えることも、“治し支える医療”における循環器クリニックの大切な役割です。
4.心不全再入院予防──急性期の後を地域でどう支えるか
2026年度改定では、循環器領域に関係する重要な動きとして、心不全患者の再入院予防を評価する考え方が示されています。
急性心不全で入院した患者を、退院後に地域でどう支えるかは、これからの循環器クリニックにとって大きなテーマです。
心不全は、急性期病院で治療して終わる疾患ではありません。
退院後の食事、服薬、体重管理、息切れ、むくみ、活動量、家族の理解など、日常生活の中で再増悪のサインを拾い続ける必要があります。
- 退院後の受け入れルールを病院と共有する
- 看護師・管理栄養士・薬剤師と連携した療養支援の流れを整える
- 体重・血圧・症状変化を確認する外来テンプレートを用意する
- 再入院リスクが高い患者を院内で共有する
- 必要に応じて、在宅医療・訪問看護・薬局と連携する
これは、まさに「治す医療」と「支える医療」をつなぐ領域です。
循環器クリニックが心不全患者の退院後を受け止め、生活の中で悪化を防ぐ体制を整えることは、地域医療の中でも大きな意味を持ちます。
今後は、高齢者救急の受け皿としても、心不全患者の地域管理はさらに重要になります。
急性期病院だけで完結させるのではなく、地域のクリニックが日常管理を担うことで、患者の生活を守り、地域全体の医療提供体制を支えることにつながります。
5.制度を待たず、“先に形にする”という発想
診療報酬や制度の詳細だけを追いかけていると、どうしても対応が後手に回ります。
一方で、かかりつけ医機能の見える化、生活習慣病管理の標準化、心不全再入院予防の体制づくり、ポリファーマシー対策の仕組み化などは、点数の細部にかかわらず、診療の質と経営の両面で効いてくる整備です。
たとえば、次のような小さな一歩からでも始められます。
- ホームページで自院のかかりつけ医機能や連携体制を簡潔に紹介する
- 逆紹介を受ける患者像や受け入れ条件を整理する
- 生活習慣病管理や心不全管理の入力テンプレートを整える
- 薬局・訪問看護との連携内容を、文書やチェックリストとして明文化する
- 患者説明や療養支援の記録方法を、スタッフが無理なく続けられる形にする
制度に「対応する」のではなく、制度より一歩早く、自院の診療を“支える医療”のかたちとして先に整えておく。
その積み重ねが、次の改定を単なる負担ではなく、自院の役割を見直す機会に変えていく力になります。
おわりに:循環器クリニックは「治す」と「支える」をつなぐ場
循環器クリニックは、命を守る「治す医療」の現場であると同時に、生活を支える「支える医療」の要でもあります。
急性期の治療だけでなく、生活習慣病の継続管理、心不全の再入院予防、多職種連携、データに基づく説明、服薬管理。
こうした日々の診療の積み重ねこそが、“治し支える医療”の具体的な姿です。
また、循環器クリニックで扱う患者の背景には、慢性腎臓病、睡眠時無呼吸症候群、フレイル、認知機能の低下、独居や家族支援の不足など、複数の要素が重なっていることも少なくありません。
疾患を単独で診るのではなく、患者の生活全体を見ながら、どこまで自院で支え、どこから地域の他職種や医療機関につなぐのか。
その判断が、これからの循環器クリニックにはより強く求められていきます。
診療報酬改定は、単なる点数の増減の話ではありません。
「これからの地域医療の中で、自院はどのような役割を担うのか」を問い直す機会でもあります。
循環器クリニックが、自院の役割を整理し、診療と仕組みの両面から支える医療を形にしていくことが、地域にとっての大きな一歩になるはずです。
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相談内容が整理できていない段階でも問題ありません。
むしろ、何から考えるべきかを整理するところから始まることが多くあります。
臨床と同じように、経営判断も「症状が出てから」ではなく、「違和感の段階」で整理することに意味があります。