循環器内科経営シリーズ 第4回|心不全・心房細動の再発予防と外来フォロー体制──急性期と慢性期をつなぐ「支える医療」
循環器内科の外来には、心不全や心房細動の患者さんが継続的に来院されます。
これらは「専門性が高い疾患」と捉えられがちですが、実際にはクリニック経営と深く連動する領域です。
なぜなら、再発予防・服薬継続・再診導線づくりといった“外来の仕組み”が、そのまま
院長の働き方・外来の安定性・収益の安定に直結するからです。
とくに心不全と心房細動は、厚労省が掲げる「地域で診る力」「支える医療」の象徴的な領域です。
病院が急性期を担い、クリニックが慢性期を支える。
その境界にこそ、循環器内科の本質的な役割があります。
1.心不全・心房細動は“経営と直結するテーマ”
循環器の中でもこの2つの疾患は、
- 患者数が多い
- 長期の継続診療が前提である
- 外来フォローの質で再発率が変わる
- 病院や多職種との情報連携が欠かせない
- 地域全体で支える必要がある
といった特徴があります。
医学的に難しいからというよりも、「仕組みの完成度」で結果が変わる疾患と言えます。
だからこそ、院長の悩みの多くも“医学”ではなく“運営・導線設計”の領域にあります。
たとえば、次のような疑問です。
- どこまで外来でフォローすべきか
- 病院との連携をどう作るか
- 再診の頻度や説明内容をどう整えるか
- 訪問看護をどのタイミングで活用するか
これらはすべて、経営・運営の悩みそのものです。
心不全・心房細動の外来フォローは、「専門の話」ではなく、むしろクリニック経営の土台に位置づけられます。
2.“急性期と慢性期の橋渡し”が循環器の核であり、経営の勝ち筋
心不全も心房細動も、急性期は病院で扱い、退院後の長期フォローはクリニックが中心となります。
この構造は、診療報酬改定の議論の中でも示されている
- 地域で診る力の強化
- 継続管理の評価
- 多職種連携の推進
といった方向性と完全に一致します。
言い換えると、循環器外来のフォロー体制づくりそのものが、これからの時代のクリニック経営に必要な方向性です。
「急性期と慢性期の橋渡し」をどう設計するかは、循環器らしさであると同時に経営の勝ち筋でもあります。
3.【心不全】再入院を防ぐ外来フォロー体制は“支える医療”の典型
心不全の患者さんは、退院後の3ヶ月が再発リスクの高い期間です。
このタイミングで外来の導線をどう整えるかが、再入院率を大きく左右します。
実際の外来でも、退院後1〜2週間で「またむくみが出てきた」「息切れが強くなってきた」と再受診される方は決して珍しくありません。
3-1.初診〜3ヶ月のフォロー設計
心不全外来の入り口で重要になるのは、「最初の3ヶ月」をどうデザインするかです。
- 体重・むくみ・息苦しさなど、患者さん自身が気づきにくい変化をどう“見える化”するか
- 家族や介護者と共有するポイントをあらかじめ決めておくか
- 「最初の3ヶ月は頻回の再診が必要です」と、診療方針と説明内容を統一できているか
ここを仕組みとして整えておくことで、再診率が安定し、1日の外来患者数の変動幅が小さくなるという経営上のメリットも生まれます。
ばらばらに対応していると「忙しい日とそうでない日」の差が大きくなりがちですが、フォロー設計をそろえることで、外来全体のリズムも整っていきます。
3-2.病院→クリニックの連携導線
心不全の再入院を防ぐうえでは、病院との連携も欠かせません。
ポイントは、特定の担当者の頑張りに頼るのではなく、ルールとして仕組みにしておくことです。
- 心不全患者さんの情報提供書のテンプレート化(必要な項目を明確にしておく)
- 退院直後の受診タイミング(例:退院後1〜2週間以内)をあらかじめ設定しておく
- スタッフが迷わず案内できるように、院内マニュアルに「受け皿プロトコル」を明文化しておく
こうした取り組みは、いずれも経営・運営の整備です。
「病院任せにしないフォロー体制」をクリニック側から提案できると、病診連携の信頼度も高まります。
3-3.訪問看護・薬局との協働
心不全では、在宅での生活状況や服薬状況の変化にどれだけ早く気づけるかが重要になります。
ここで力を発揮するのが、訪問看護や薬局との連携です。
- 訪問看護による体重・バイタル・生活状況の定期的な観察
- 薬局による服薬状況の確認と、飲み忘れ・自己中断の早期発見
- 変化があった際に、どのタイミングでクリニックへ連絡・再受診につなげるかのルール化
これらが“点”ではなく“線”として循環することで、心不全の再発予防は地域全体の取り組みになります。
クリニックは、その中心として「支える医療」のハブとなることができます。
4.【心房細動】服薬継続率を高めることが経営の安定にもつながる
心房細動の外来で最も重要なテーマのひとつが、抗凝固薬(NOACなど)の服薬継続率です。
継続率には地域差があり、その多くは“医学の差”ではなくフォロー体制の違いによって生まれています。
外来の現場でも、服薬の不安は一度説明しただけでは解消されず、次回診察であらためて質問されることが多いのではないでしょうか。
4-1.継続率が上がるクリニックの共通点
- 副作用や出血リスク、費用・通院頻度など、患者さんの不安になりやすいポイントを丁寧に説明している
- 説明項目をテンプレート化し、誰が説明しても「伝えるべきこと」がブレない
- 薬局と連携し、飲み忘れ・自己中断・残薬状況の共有を行っている
- 不安が強い患者さんに対して、「気になる症状があれば早めに相談してください」という窓口を明確にしている
こうした取り組みは、いずれも仕組みづくりの話です。
服薬継続率が高いクリニックでは、
- 再診率が安定する
- 外来患者数の変動幅が小さくなる
- 経営の見通しが立てやすくなる
- 患者さんや家族からの信頼が高まり、紹介が増える
といった“経営に直結するメリット”が生まれます。
心房細動のフォロー体制を整えることは、再発予防と同時にクリニック経営の安定化にもつながります。
5.病院→クリニック→訪問看護→薬局という“循環”をつくる
循環器疾患は、ひとつの医療機関だけでは完結しません。
むしろ、医療機関・在宅・薬局をつなぐ“循環”が完成して初めて、地域での再発予防が成立すると言えます。
イメージとしては、次のような流れです。
- 病院で急性期治療を行う
- クリニックで慢性期の継続フォローを担う
- 訪問看護が日常生活や体調の変化を継続的に観察する
- 薬局が服薬状況の確認と不安の吸い上げを行う
- 変化や不安があれば、クリニックへ早期に戻ってきてもらう
この循環モデルは、まさに「支える医療」の具体的な姿です。
循環器内科は、その中心として地域の医療資源をつなぎ、患者さんと家族の生活を支える役割を担うことができます。
6.循環器は「専門」ではなく「仕組みを作る診療科」へ
心不全・心房細動は、一見すると専門性の高い領域に見えます。
しかし、クリニックが取り組むべき本質は、医学の解説よりも仕組みづくりです。
- 再発予防の仕組み
- 再診導線の設計
- 病院との連携ルール
- 多職種との情報共有
- 外来での説明内容の標準化
- 長期フォローの見える化
これらを整えることが、患者さんの安心とクリニック経営の安定を同時に実現します。
「心不全・心房細動は、循環器内科の専門性ではなく“仕組みづくり”が問われる領域」。
外来フォローの設計を見直すことは、再発予防の強化であると同時に、院長にとっての働き方と経営の安定を整える取り組みでもあります。
循環器内科は、急性期と慢性期をつなぎ、地域で“支える医療”の中心を担う診療科です。
だからこそ、心不全・心房細動の外来フォロー体制は、専門的な話ではなく、院長が今まさに向き合うべき「経営の話」と言えるのではないでしょうか。
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