皮膚科経営シリーズ第4回|忙しいのに利益が残らない皮膚科へ|保険と自費(物販・施術)を両立させる導線設計
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第1回では「保険×自費の再構築」、第2回は「地域連携」、第3回は「スタッフ育成」を扱いました。
第4回は、皮膚科で必ず話題に上がる「保険診療と自費(施術・物販・ケア提案)のバランス設計」がテーマです。
自費を増やす/保険を増やす…という“割合の話”に寄せすぎると、現場は疲弊しやすくなります。
本稿では、理念(Why)・運用(How)・患者(For whom)の3点で整え、押し売りにならず、スタッフも回り、患者さんの納得感が増える形に落とすための考え方をまとめます。
この記事で持ち帰れること
✅ 自費を「売上づくり」ではなく「再発予防・生活支援の延長」に位置づける考え方
✅ 物販・施術を“無理なく提案できる”導線(誰が/いつ/何と言うか)の作り方
✅ 保険診療の土台を崩さず、経営を安定させる「両輪」の役割分担
1.皮膚科の「保険×自費」は“ツインエンジン”で考える
皮膚科は、保険診療だけでも一定の来院が見込める一方で、スキンケア・季節対策・再発予防など、日常支援の延長線に自費(物販・施術)が生まれやすい科目です。
重要なのは「自費を増やすこと」ではなく、保険と自費それぞれの役割を明確にして、院内の運用に落とすことです。
- 保険診療:標準化しやすい診療フローを整え、待ち時間と説明の質を両立する(基盤)
- 自費(物販・施術):治療の延長として、再発予防・セルフケア・季節対策を“体系化”して支える(差別化・継続支援)
この役割分担が曖昧だと、現場は「売る空気」になったり、逆に「何も提案できない」状態になったりします。
まずは“両輪の設計図”を言語化するところから始めます。
2.なぜ「バランス設計」が経営の安定につながるのか
自費に偏ると、広告・価格競争の影響を受けやすく、集客の波がそのまま売上の波になります。
一方で保険に偏ると、外来は回っているのに利益が残りにくい、スタッフが疲弊する…という形に陥りがちです。
皮膚科で“続く経営”を作る鍵は、短期の単価ではなく、信頼と通院継続が自然に積み上がる構造を作ること。
そのために、以下の3点をセットで整えます。
- 理念(Why):何のために自費を扱うのか(再発予防/生活支援/安心の提供)
- 運用(How):現場が無理なく回る導線(スタッフが言える・続けられる)
- 患者(For whom):誰のどんな悩みに価値を届けるのか(対象と範囲)
3.自費(物販・施術)を始める前に整える3つの視点
- ① 理念の一致:
自費を「収益手段」として前に出すと、提案が歪みやすくなります。
まずは“生活支援の延長である”という位置づけを、院長の言葉で明文化します。 - ② 対象と価値:
いきなり幅広く扱うと、説明も在庫も運用も破綻します。
まずは既存患者の“ちょっとした困りごと”(例:乾燥、花粉、汗かぶれ、刺激への不安、再発不安)に対して、再発予防・セルフケア・季節対策を整理します。 - ③ 仕組み化:
“押し売り”を避けるには、気合ではなく設計が必要です。
問診 → 診察 → 会計(掲示物/一枚資料/LINE)の中で、自然に提案できる導線を作ります。
特に③はスタッフ教育とセットです。
「誰が」「いつ」「どの言葉で」を決めて標準化すると、現場の心理的負担が一気に減ります。
4.「売る医療」ではなく、“生活提案のサポート”として位置づける
自費は“販売”ではなく、患者さんの生活に寄り添う提案です。
商品や施術は目的ではなく手段。治療後も患者さんが自分の肌を理解し、日常で実践できるよう支えることが、長期的な信頼につながります。
皮膚科の「また来たい」は、派手な効果ではなく、納得感・説明の一貫性・安心から生まれます。
その“安心”を作るために、自費の言葉や見せ方こそ丁寧に整える必要があります。
5.提案の“伝え方”を設計する:HPと院内の小さな仕掛け
ホームページ(HP)
- メニュー名を「美容・販売」ではなく、「日常ケア」「再発予防」「季節対策」の文脈で表記
- 「誰に」「何のために」「どう使うか」を簡潔に。価格より目的と使い方を先に提示
- 院長コメント/スタッフの声を添え、提案の“背景”を可視化(押し売り感が減る)
院内掲示・声かけ
- 待合に「今月の肌テーマ(花粉・乾燥・汗かぶれ等)」を掲示 → 会計時の自然な会話のきっかけに
- 受付・看護・会計で共通の“一言フレーズ”を用意(例:「日常で気をつけるポイントを1枚にまとめています」)
- LINEで「季節カード」配信 → 受診後のセルフケア継続を支援
ポイントは、派手な販促ではなく“小さな一貫性”です。
小さな仕掛けが積み重なると、患者さんにとって「ここは押し売りではなく、生活支援をしてくれる場所」という認識が育っていきます。
6.制度面と信頼形成:自由度が高いほど“誠実さ”が効く
自費の情報発信は、誤解を招きやすい領域でもあります。
医療広告ガイドラインや療養担当規則への配慮を前提に、表現・費用目安・保険との関係の説明を丁寧に整えます。
自由度が高い領域だからこそ、誠実な運用そのものが差別化になります。
“売上を作るための自費”ではなく、“信頼を深めるための自費”という姿勢が、最終的に経営を安定させます。
まとめ:皮膚科の「保険×自費」は“割合”ではなく“役割分担”
保険と自費のバランスは、「増やす/減らす」の議論ではなく、自院らしい役割分担の設計です。
生活提案のサポートとしての自費、地域の基盤としての保険——両輪を整えることで、患者・スタッフ・地域の三者が安心して関われる“続く皮膚科経営”が実現します。
次にやるなら:
✅ 自費の“対象(誰に)”と“範囲(どこまで)”を1枚に整理する
✅ 受付〜会計までの導線で「どこで一言を添えるか」を決める
✅ スタッフが言いやすいフレーズを3つ作って、まずは小さく試す
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