心療内科・精神科経営シリーズ 第7回|医療DXと診療方針の関係を考える

近年、医療DX(デジタルトランスフォーメーション)は急速に広がりつつあります。予約システムやAI電話、オンライン問診、さらには自動精算機など、多様なツールが登場し、クリニックの業務効率化を後押ししています。しかし、心療内科・精神科においては「便利だから導入する」だけでは不十分です。患者さんの安心感を損なう可能性や、先生ご自身の診療方針とのズレが生じることもあるため、慎重に考える必要があります。
1. DX導入の現状
- 予約管理:Web予約やLINE予約が普及し、電話依存からの脱却が進む。
- AI電話:患者対応を自動化し、スタッフの負担軽減につながる。
- オンライン問診:来院前に症状を入力してもらい、診察効率を高める。
- オンライン診療:遠方や通院困難な患者さんへの対応が可能。
2. 自動精算機の導入
メリット
- 会計待ち時間の短縮
- スタッフ業務の効率化(釣銭・現金管理・締め処理の負担軽減)
- 非接触による感染症対策
デメリット
- 「最後に人に声をかけてもらって安心する」体験が減る可能性
- 高齢の方や機械操作に不慣れな患者さんには負担になり得る
導入の工夫
- 完全自動ではなく、スタッフが横でサポートできる体制を残す
- 機械が難しい患者さんには有人会計を併用できるようにする
- 効率化と安心感のバランスを設計段階から意識する
3. 患者体験への影響
プラス面
- 待ち時間の短縮、利便性の向上
- 予約・会計がスムーズになり、通いやすさが増す
マイナス面
- 入力や機械操作を負担に感じる患者さんもいる
- 人とのやり取りが減り、不安が残るケースがある
4. 診療方針との関わり
- 「患者さんと直接話す時間を大切にする」方針なら、DXは段階的導入が望ましい。
- 「効率性を重視して多くの患者さんを診る」方針なら、DXを積極活用しやすい。
- いずれも、先生の診療方針と患者さんのニーズを軸に判断することが大切。
5. 導入の進め方
- 一度にすべてではなく、部分的・段階的に始める
- 予約・問診・会計など「効果が大きく、負担が少ない部分」から取り入れる
- 運用しながら患者さんとスタッフの声を集め、改善を重ねる
まとめ
心療内科クリニックにおける医療DXは、単なる効率化の仕組みではなく、患者さんの安心感や診療方針そのものに直結する要素です。自動精算機のようなツールも効率化には有効ですが、患者さんとの最後の対面をどう位置づけるかという課題を伴います。大切なのは「便利だから導入する」のではなく、診療方針と患者ニーズに合うかどうかを基準に導入を検討することです。
次回は「経営の持続可能性」をテーマに、リスクと安定性をどう考えるかを整理します。