ベースアップ評価料は算定すべき?算定しない選択もあるのか|クリニック経営の判断をどう整理するか【院長の経営相談Q&A】
本記事は、2026年6月施行予定の制度内容および2026年3月23日公表の疑義解釈時点の情報をもとに整理しています。今後、厚生労働省から追加の疑義解釈や事務連絡等が公表された場合は、内容を順次更新していきます。
「ベースアップ評価料は算定した方がいいのでしょうか。算定しないといけない制度なのでしょうか。」
ベースアップ評価料の届出期限を確認したあと、多くの院長が次に迷うのがこの論点です。
2026年度の診療報酬改定を受けて、ベースアップ評価料に関する関心は高まっていますが、クリニック経営という視点で見ると判断に迷う場面も少なくありません。
結論から言えば、ベースアップ評価料はクリニックとして前向きに検討したい制度と考えます。
ただし、無床クリニックでは制度上の義務として算定が求められているわけではなく、クリニックごとの判断で算定しない選択も可能です。
また、この制度はクリニックの利益を増やすための診療報酬ではなく、医療現場の賃上げを目的とした制度です。
賃上げ率(3.2%・5.7%)は達成しないと算定できないのか
2026年度診療報酬改定では、賃上げの目標として 3.2%(看護補助者・事務職員は5.7%) が示されています。
ただし、この数値は各医療機関に義務として課されている達成条件ではありません。 この水準に到達していない場合でもベースアップ評価料の算定は可能です。
一方で重要なのは、 算定によって得られた評価料は対象職員の賃金改善に充てる必要がある という点です。
つまり判断のポイントは 「3.2%を達成できるかどうか」ではなく、 算定後の賃金改善をどのように運用できるか になります。
そのため、「算定するか、しないか」を点数だけで決めるのではなく、制度の趣旨と自院の体制を整理したうえで判断することが重要です。
実際には、
- スタッフへの説明
- 患者さんへの説明
- 賃金制度の整理
などを踏まえ、クリニックとしてどのように運用するのかを整えていく必要があります。
ベースアップ評価料とは(制度の背景)
ベースアップ評価料は、医療機関で働く職員の賃上げを支えるために設けられた診療報酬です。
近年、医療現場では、看護職、医療事務、看護補助者など、医療を支える職種の人材不足が課題となっています。
こうした状況の中で、医療提供体制を維持するために医療現場の処遇改善を進める必要があり、そのための制度としてベースアップ評価料が設けられました。
ベースアップ評価料の制度概要や届出期限の考え方を先に確認したい方は、こちらの記事もご覧ください。
ベースアップ評価料はいつまで?届出期限の考え方と院長が最初に整理しておきたいこと
2026年度改定のポイント
2026年度の診療報酬改定では、ベースアップ評価料についていくつかの見直しが行われました。
主なポイント
- 対象職員の考え方の見直し
- 点数の段階的な引き上げ
- 継続的な賃上げを行う医療機関への評価の整理
- 手続きの簡素化と報告の見直し
今回の改定では、対象職員の考え方が広がり、事務職員や40歳未満の勤務医師・勤務歯科医師などを含めた、幅広い職種の賃上げを支える方向性がより明確になりました。
また、外来・在宅ベースアップ評価料は、令和8年度だけで完結する制度設計ではなく、令和8年度・令和9年度にかけて段階的に評価される仕組みになっています。
さらに、継続的に賃上げを実施している医療機関と、それ以外の医療機関で評価が分かれる設計となっており、単年度の判断ではなく、継続を前提とした整理が求められます。
手続き面では、届出時の賃金改善計画書の作成が不要となり、以前より着手しやすくなりました。一方で、算定年度の8月に中間報告、翌年度の8月に実績報告が必要になるため、届出後の運用まで見据えておくことが大切です。
つまり今回の改定は、単なる点数の増減というよりも、クリニックが人材を維持しながら地域医療を支えていくための体制整備を促す意味合いが強いといえます。
ベースアップ評価料を算定するメリット
ベースアップ評価料を算定することで、スタッフの処遇改善を進めやすくなります。
医療機関では人材確保が重要な課題となっており、賃金水準は採用や定着にも影響します。
また、医療政策として賃上げが求められている中で、制度に沿った運用を行うことは、医療提供体制を維持するという意味でも重要です。
特に、看護職や医療事務など、クリニック運営を支える職種の処遇改善は、今後の経営の安定にもつながります。
今回の改定では対象職員の考え方が広がったため、医療事務を含む体制全体の処遇改善として位置づけやすくなった点も、前向きに検討しやすい材料といえます。
ベースアップ評価料を算定する際の注意点
一方で、算定にあたっては注意しておきたい点もあります。
- 患者負担が増える可能性があること
- 届出後も報告を含めた事務対応が続くこと
- 制度に合わせて賃金改善の運用を整理する必要があること
そのため、算定するかどうかは点数だけで判断するのではなく、制度の趣旨や自院の体制も含めて整理する必要があります。
ベースアップ評価料は売上に反映されても、そのまま利益になるわけではない
ベースアップ評価料について誤解されやすい点の一つが、売上に反映されても、そのまま利益が増えるわけではないということです。
ベースアップ評価料はスタッフの賃上げを目的とした診療報酬であり、得られた収入は基本的に賃金改善に充てることが前提となっています。
そのため、売上としては反映されるものの、クリニックの利益が大きく増える仕組みではありません。
ここは重要です。
ベースアップ評価料は、「クリニックの利益を増やすための点数」ではなく、「スタッフの処遇改善のための原資」として整理しておく必要があります。
また、院長からは「算定したあとに売上が下がったらどうなるのか」という質問を受けることもあります。
ベースアップ評価料は賃金改善を目的とした制度であり、算定している医療機関では賃金改善の取り組み状況を整理する仕組みが設けられています。
そのため制度を運用する際には、
- 賃金改善の方法
- 将来の経営環境
- スタッフへの説明
などを踏まえ、無理のない形で制度を運用していくことが重要になります。
ベースアップ評価料は「算定したら終わり」ではなく、どう続けるかを考える必要がある制度です。
ベースアップ評価料を運用するために整理しておきたいこと
ベースアップ評価料は、単に賃上げを行う制度というだけではなく、クリニックの働き方や体制を見直すきっかけとして捉えることもできます。
例えば、
- 業務の役割分担
- 記録業務の整理
- 診療体制の見直し
などを進めることで、スタッフが働きやすい環境を整えることにつながります。
結果として、スタッフの働く満足度や患者さんへの対応の質の向上にもつながる可能性があります。
売上に反映されても利益が増えにくい制度だからこそ、体制を整え、業務効率を高めることが大切です。
また、賃金の上げ方はクリニックごとに検討が必要です。
- 基本給を引き上げるのか
- 賞与で調整するのか(※基本給等の引き上げに連動して増加した分に限る)
- 毎月支払う手当で対応するのか
といった方法は、クリニックの給与体系や経営状況に応じて検討する必要があります。
単なる一時的なボーナスの上積みという整理ではなく、どのような賃金改善として位置づけるのかを明確にしておくことが大切です。
賃金制度の変更は就業規則などにも関わるため、必要に応じて社会保険労務士などの専門家に相談することも一つの方法です。
さらに、派遣スタッフを活用している場合には、一定の条件を満たせば派遣職員を対象に含める考え方も示されています。
ただし、派遣元と相談・協力した上で、院内職員と同程度以上の賃金改善を行うことなどが前提となるため、実際に運用する場合は個別の確認が必要です。
また、ベースアップ評価料を算定する医療機関では、賃金改善の状況について一定の時期に整理し、行政へ報告する仕組みが設けられています。
届出をして終わりではなく、運用の中身が問われる制度として理解しておくことが重要です。
制度の内容は理解できたものの、自院としてどう位置づけるか迷う場合は、判断整理の入口ページも参考になります。
スタッフへの説明に論点を絞って整理したい方は、こちらの記事もご覧ください。
ベースアップ評価料はスタッフにどう説明する?院長が整理しておきたいポイント
ベースアップ評価料は患者負担に影響するのか
ベースアップ評価料を算定すると、診療報酬の点数が加算されるため、患者さんの自己負担額にも一定の影響が生じる可能性があります。
例えば、初診料や再診料にベースアップ評価料が加わる場合、患者さんの自己負担割合に応じて数十円程度の負担増となるケースがあります。
ただし、この制度は医療機関の利益を増やすためのものではなく、医療現場の賃上げを支える仕組みとして設けられています。
医療提供体制を維持するという意味でも、制度の趣旨を理解しておくことが重要です。
そのため、クリニックとして算定する場合には、
- ホームページでの説明
- 院内掲示による周知
などを通じて、制度の目的について患者さんに理解を求めることも大切です。
患者負担や説明方法を中心に確認したい方は、こちらの記事も参考になります。
ベースアップ評価料で患者負担は増える?患者負担・クリニック収入と説明ポイント
ベースアップ評価料を算定しない選択はあるのか
無床クリニックであれば、制度上、ベースアップ評価料の算定は義務ではありません。
そのため、クリニックによっては算定を見送るという判断をすることもあり得ます。
実際には、
- 賃金制度の見直しをすでに行っている
- スタッフ人数や体制を踏まえて慎重に考えたい
- 制度運用に伴う事務負担を見てから判断したい
などの理由から、まずは算定を見送るという判断をするクリニックもあります。
ただし、この制度は医療人材の処遇改善を目的として設けられているため、今後算定する医療機関が増える可能性もあります。
また、今回の改定では継続的な賃上げを前提にした評価設計がより明確になっており、単年度の損得だけで判断すると整理がぶれやすくなります。
その意味で、算定しないという選択は制度上可能であっても、経営判断としては慎重な整理が必要です。
制度は永続するとは限らない
ベースアップ評価料は、現時点では医療現場の賃上げを支える制度として設けられています。
ただし、診療報酬制度は社会情勢や政策によって見直されるため、現在の制度が長く続くとは限りません。
一方で、令和8年度・令和9年度にかけて段階的な評価が組まれていることからも、少なくとも短期的には「継続してどう運用するか」という視点を外しにくい制度になっています。
そのため、制度がある間だけ対応するのではなく、制度が見直された後も含めて、どのように人材を維持していくかを考えておく必要があります。
ベースアップ評価料は前向きに検討したい制度ですが、それだけに依存しない体制づくりも重要です。
院長が整理しておきたい3つの視点
ベースアップ評価料を算定するかどうかを考えるとき、院長としては少なくとも次の3つの視点を整理しておきたいところです。
院長が整理しておきたい3つの視点
- 自院の人員体制と今後の採用・定着にどう影響するか
- 賃金改善をどのような形で、どこまで継続するか
- スタッフや患者さんにどう説明していくか
ベースアップ評価料は「点数が付くから算定する」という単純な制度ではありません。
クリニックの人材体制、賃金制度、患者負担、そして届出後の運用まで含めて、自院にとってどのように位置づけるのかを整理しておくことが、納得できる判断につながります。
まとめ
ベースアップ評価料は、クリニックとして前向きに検討したい制度です。
ただし、無床クリニックでは算定は義務ではなく、算定しないという選択も制度上は可能です。
そのため大切なのは、
- 制度の趣旨を理解すること
- 自院の体制に照らして考えること
- 算定後の運用まで見据えること
です。
ベースアップ評価料は、点数の問題というよりも、自院の人材と経営をどう支えるかという判断につながる制度です。
算定する/しないの二択で急いで決めるよりも、制度の意味と自院の状況を一度整理してから判断することが大切です。
制度の理解だけでは、判断は決まりません。
自院としてどう考えるかの整理が必要になります。
参考資料
本記事は、厚生労働省が公表している令和8年度診療報酬改定関連資料をもとに整理しています。
制度判断をどこから整理するか迷った院長へ
ベースアップ評価料は、制度の内容を理解しても、自院としてどう判断するかで立ち止まりやすいテーマです。
判断が重くなり始めた段階で相談されることが多くあります。
事前ミーティングでは、結論を急いで出すのではなく、制度判断に関わる論点と優先順位を整理するところから進めます。
相談内容が整理できていない段階でも問題ありません。
むしろ、何から考えるべきかを整理するところから始まることが多くあります。
臨床と同じように、経営判断も「症状が出てから」ではなく、「違和感の段階」で整理することに意味があります。
制度の理解だけでは判断が決まりにくいと感じたときは、まず入口ページをご覧ください。
※実務代行ではなく、判断の前提を整理するための時間です。