ベースアップ評価料は算定すべき?|クリニック経営の判断をどう整理するか【院長の経営相談Q&A】
「ベースアップ評価料は算定した方がいいのでしょうか。」
2026年度の診療報酬改定を受けて、このような相談を受ける機会が増えています。
ベースアップ評価料は、医療現場の賃上げを支えるために設けられた診療報酬ですが、クリニック経営という視点で見ると判断に迷う場面も少なくありません。
結論から言えば、ベースアップ評価料はクリニックとして前向きに検討したい制度と考えます。
ただし、この制度はクリニックの利益を増やすための診療報酬ではなく、医療現場の賃上げを目的とした制度です。
そのため、「算定するか、しないか」を点数だけで決めるのではなく、制度の趣旨と自院の体制を整理したうえで判断することが重要です。
実際には、
- スタッフへの説明
- 患者さんへの説明
- 賃金制度の整理
などを踏まえ、クリニックとしてどのように運用するのかを整えていく必要があります。
ベースアップ評価料とは(制度の背景)
ベースアップ評価料は、医療機関で働く職員の賃上げを支えるために設けられた診療報酬です。
近年、医療現場では、看護職、医療事務、看護補助者など、医療を支える職種の人材不足が課題となっています。
こうした状況の中で、医療提供体制を維持するために医療現場の処遇改善を進める必要があり、そのための制度としてベースアップ評価料が設けられました。
なお、ベースアップ評価料の制度概要については、こちらの記事でも整理しています。
ベースアップ評価料の制度概要を整理した既存記事はこちら
2026年度改定で何が変わったのか
2026年度の診療報酬改定では、ベースアップ評価料についていくつかの見直しが行われました。
主なポイント
- 対象職員の拡大
- 点数の引き上げ
- 手続きの簡素化
評価は段階的に引き上げられる仕組みとなっており、医療機関が継続的に賃上げを行うことを後押しする制度設計となっています。
つまり今回の改定は、単なる点数の増減というよりも、クリニックが人材を維持しながら地域医療を支えていくための体制整備を促す意味合いが強いといえます。
ベースアップ評価料のメリット
ベースアップ評価料を算定することで、スタッフの処遇改善を進めやすくなります。
医療機関では人材確保が重要な課題となっており、賃金水準は採用や定着にも影響します。
また、医療政策として賃上げが求められている中で、制度に沿った運用を行うことは、医療提供体制を維持するという意味でも重要です。
特に、看護職や医療事務など、クリニック運営を支える職種の処遇改善は、今後の経営の安定にもつながります。
ベースアップ評価料の注意しておきたい点
一方で、算定にあたっては注意しておきたい点もあります。
- 患者負担が増える可能性があること
- 事務手続きの負担があること
- 制度の将来が不透明であること
そのため、算定するかどうかは点数だけで判断するのではなく、制度の趣旨や自院の体制も含めて整理する必要があります。
ベースアップ評価料は売上に反映されても、そのまま利益になるわけではない
ベースアップ評価料について誤解されやすい点の一つが、売上に反映されても、そのまま利益が増えるわけではないということです。
ベースアップ評価料はスタッフの賃上げを目的とした診療報酬であり、得られた収入は基本的に賃金改善に充てることが前提となっています。
そのため、売上としては反映されるものの、クリニックの利益が大きく増える仕組みではありません。
ここは重要です。
ベースアップ評価料は、「クリニックの利益を増やすための点数」ではなく、「スタッフの処遇改善のための原資」として整理しておく必要があります。
業務効率を高めることも重要
ベースアップ評価料は、単に賃上げを行う制度というだけではなく、クリニックの働き方を見直すきっかけとして捉えることもできます。
例えば、
- 業務の役割分担
- 記録業務の整理
- 診療体制の見直し
などを進めることで、スタッフが働きやすい環境を整えることにつながります。
結果として、スタッフの働く満足度や患者さんへの対応の質の向上にもつながる可能性があります。
売上に反映されても利益が増えにくい制度だからこそ、体制を整え、業務効率を高めることが大切です。
賃金の上げ方はクリニックごとに検討が必要
ベースアップ評価料では、賃金改善の総額が確保されていることが求められます。
そのため、
- 基本給を引き上げるのか
- 賞与で調整するのか
- 手当で対応するのか
といった方法は、クリニックの給与体系や経営状況に応じて検討する必要があります。
また、賃金制度の変更は就業規則などにも関わるため、必要に応じて社会保険労務士などの専門家に相談することも一つの方法です。
賃金改善の状況は定期的に確認する仕組みがある
ベースアップ評価料を算定する医療機関では、賃金改善の状況について一定の時期に整理し、行政へ報告する仕組みが設けられています。
例えば、算定している年度の途中段階では賃金改善の進捗状況を確認し、また翌年度には実際の取り組み状況を整理する手続きが設けられています。
このように、ベースアップ評価料は継続的な賃上げを前提とした制度となっています。
届出をして終わりではなく、運用の中身が問われる制度として理解しておくことが重要です。
ベースアップ評価料は患者負担に影響するのか
ベースアップ評価料を算定すると、診療報酬の点数が加算されるため、患者さんの自己負担額にも一定の影響が生じる可能性があります。
例えば、初診料や再診料にベースアップ評価料が加わる場合、患者さんの自己負担割合に応じて数十円程度の負担増となるケースがあります。
ただし、この制度は医療機関の利益を増やすためのものではなく、医療現場の賃上げを支える仕組みとして設けられています。
医療提供体制を維持するという意味でも、制度の趣旨を理解しておくことが重要です。
そのため、クリニックとして算定する場合には、
- ホームページでの説明
- 院内掲示による周知
などを通じて、制度の目的について患者さんに理解を求めることも大切です。
ベースアップ評価料を算定したあと、売上が下がったらどうなるのか
院長からよく受ける質問の一つに、「もし売上が下がった場合でも賃上げを続けなければならないのでしょうか」というものがあります。
ベースアップ評価料は賃金改善を目的とした制度であり、算定している医療機関では賃金改善の取り組み状況を整理する仕組みが設けられています。
そのため制度を運用する際には、
- 賃金改善の方法
- 将来の経営環境
- スタッフへの説明
などを踏まえ、無理のない形で制度を運用していくことが重要になります。
ベースアップ評価料は「算定したら終わり」ではなく、「どう続けるか」を考える必要がある制度です。
ベースアップ評価料を算定しない選択はあるのか
制度上、ベースアップ評価料の算定は義務ではありません。
そのため、クリニックによっては算定を見送るという判断をすることもあり得ます。
ただし、この制度は医療人材の処遇改善を目的として設けられているため、今後算定する医療機関が増える可能性もあります。
その意味で、算定しないという選択は制度上可能であっても、経営判断としては慎重な整理が必要です。
私は、すべてのクリニックが一律に同じ判断をすべきだとは考えていません。
一方で、制度の趣旨や今後の流れを踏まえると、まずは前向きに検討し、そのうえで自院にとって無理のない運用ができるかを整理するという順番が現実的ではないでしょうか。
制度は永続するとは限らない
診療報酬は政策制度であり、将来にわたって同じ形で続くとは限りません。
医療財政や政策の方向によって制度が見直される可能性もあります。
そのため、ベースアップ評価料を前提とした賃上げを行う場合には、
- 制度の趣旨
- 将来の制度変更の可能性
について、スタッフにも理解を求めながら運用していくことが重要です。
一時的な収入増として捉えるのではなく、制度変更の可能性も含めて、クリニックとして納得感のある運用方針を整えておく必要があります。
まとめ
ベースアップ評価料は、クリニックとして前向きに検討したい制度と考えます。
ただし、この制度はクリニックの利益を増やすためのものではなく、スタッフの処遇改善を目的とした診療報酬です。
そのため、算定する場合には、
- スタッフへの説明
- 患者さんへの説明
- 賃金制度の整理
などを踏まえ、クリニックとしてどのように運用するのかを整理することが重要になります。
算定するかどうかを一律に決めるのではなく、制度の趣旨と自院の体制を照らし合わせながら、納得感のある判断につなげていくことが大切です。
開業準備やクリニック経営の判断を整理したい先生へ
診療報酬改定、スタッフ体制、患者さんへの説明など、クリニック経営では複数の要素が重なって判断が難しくなる場面があります。
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※院内の状況や先生の考え方に合わせて、整理の視点を一緒に確認していきます。
参考資料
本記事は、厚生労働省が公表した診療報酬改定説明資料を参考に、クリニック経営の視点から整理しています。
- 令和8年3月5日付 令和8年度診療報酬改定説明資料
「令和8年度診療報酬改定の概要1.賃上げ・物価対応(賃上げ)」
https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001666306.pdf