ベースアップ評価料を算定しないとどうなる?無床クリニックの判断ポイント
本記事は、厚生労働省が公表している令和8年度ベースアップ評価料関連資料をもとに、無床クリニックを中心に整理しています。制度内容や運用は今後変更される可能性があります。最新情報は厚生労働省および各地方厚生局の資料をご確認ください。
「ベースアップ評価料を算定しないと、何か不利益があるのでしょうか。」
制度内容や届出期限を確認したあと、多くの院長が迷いやすいのがこの論点です。
制度上は算定しなくてもよいと分かっても、スタッフへの説明、採用・定着、人件費、患者負担まで考えると、簡単には決められないことがあります。
診療の合間に制度資料を確認し、賃金設計や院内説明まで院長一人で考えるのは、簡単ではありません。
結論
無床クリニックでは、ベースアップ評価料を算定しないこと自体は制度上可能です。
算定しないことだけを理由に、直ちに制度違反になるわけではありません。
ただし、算定しない場合でも、スタッフ処遇、採用・定着、患者負担、事務負担、将来の制度見直しについては整理しておく必要があります。
大切なのは、算定するかどうかを急いで決めるのではなく、自院として何を基準に判断するかを明確にすることです。
ベースアップ評価料は、必ず算定すべきと一律に決めるものではありません。
一方で、算定しない場合には、スタッフの処遇改善、採用・定着、患者さんへの説明、将来の人件費設計などをどう考えるかを整理しておく必要があります。
つまり、ベースアップ評価料は単なる点数の問題ではなく、自院の人材と経営をどのように支えるかを考える制度でもあります。
ベースアップ評価料を算定しないとどうなる?
まず確認しておきたいのは、ベースアップ評価料を算定しないこと自体が、直ちに制度違反になるわけではないという点です。
少なくとも無床クリニックでは、必ず算定しなければならないと一律に義務づけられている制度ではありません。
そのため、届出をしない、算定しないという判断も制度上はあり得ます。
ただし、何も考えずに見送ってよいという意味ではありません。
算定しない場合には、次の点を確認しておく必要があります。
- スタッフの賃金改善を別の形でどう考えるか
- 近隣医療機関の処遇改善が、自院の採用・定着に影響しないか
- スタッフから質問されたときに、どう説明するか
- 患者負担への配慮と、職員処遇改善をどう両立するか
- 今後どのタイミングで再検討するか
算定しない判断をする場合でも、院長としての説明軸を持っておくことが大切です。
算定しない選択はあり得るのか
無床クリニックであれば、ベースアップ評価料を算定しない選択もあり得ます。
算定しない理由としては、次のようなものが考えられます。
- 届出後の報告や運用を含めた事務負担が気になる
- 書類や確認事項が煩雑で、現場の手間が増えることを懸念している
- 制度が見直された後も同じ水準の給与を維持できるか不安がある
- 院内の賃金制度や役割分担を整理してから判断したい
- スタッフ人数や現在の体制を踏まえて慎重に考えたい
これらは単なる消極姿勢ではなく、院長として考えておきたい論点です。
算定を見送る場合には、なぜ今は見送るのか、どの時点で見直すのか、スタッフへどう説明するのかまで整理しておくと、判断がぶれにくくなります。
算定しない場合も、判断理由の整理が必要です。
制度上、算定しない選択があることと、経営判断として何も整理しなくてよいことは別です。
人員体制、給与設計、採用環境、事務負担を踏まえ、今決めることと保留することを分けて考える必要があります。
それでも前向きに検討されやすい理由
ベースアップ評価料は、無床クリニックにとって必ず算定すべき制度とまでは言い切れません。
ただし、スタッフの処遇改善を進める必要があるクリニックでは、前向きに検討しやすい制度です。
医療機関では、看護職、医療事務、看護補助者など、医療を支える職種の確保が課題となっています。
賃金水準は、採用や定着にも影響します。
そのため、ベースアップ評価料は単なる診療報酬上の加算ではなく、自院として職員処遇にどう向き合うかを考えるきっかけにもなります。
また、スタッフに対して、自院として処遇改善に向き合っているという姿勢を示す材料にもなり得ます。
ベースアップ評価料は、自由度の高い収入ではありません。
一方で見方を変えると、確実に人件費へ回すための仕組みとして設計されているとも言えます。
利益として自由に使えないからこそ、処遇改善を進める際の説明材料として使いやすい面があります。
ベースアップ評価料とは
ベースアップ評価料は、医療機関で働く職員の賃上げを支えるために設けられた診療報酬です。
医療現場では、看護職、医療事務、看護補助者など、医療を支える職種の人材確保が重要な課題となっています。
こうした状況の中で、医療提供体制を維持しながら処遇改善を進めるための制度として設けられました。
制度背景を確認したい方は、以下の記事をご覧ください。
ベースアップ評価料とは?制度の意味とクリニックで考えておきたいこと
届出期限を確認したい方は、以下の記事をご覧ください。
ベースアップ評価料の届出はいつまで?2026年の提出期限と判断ポイント
2026年度改定のポイント
2026年度の診療報酬改定では、ベースアップ評価料について複数の見直しが行われました。
- 対象職員の考え方の見直し
- 点数の段階的な引き上げ
- 継続的な賃上げを行う医療機関への評価
- 手続きや報告方法の見直し
- 複数分院を持つ法人の計算・報告ルールの整理
対象職員の考え方が広がり、事務職員や40歳未満の勤務医師・勤務歯科医師などを含めた、幅広い職種の賃上げを支える方向性がより明確になりました。
また、令和8年度と令和9年度にかけて段階的に評価される仕組みとなっています。
届出時の賃金改善計画書の作成が不要となった一方で、算定年度の8月に中間報告、翌年度の8月に実績報告が必要になります。
単なる点数の増減ではなく、クリニックが人材を維持しながら地域医療を支えていくための体制整備を促す意味合いがあります。
算定する場合の注意点
ベースアップ評価料を算定する場合、次の点に注意が必要です。
- 患者負担が増える可能性がある
- 届出後も報告を含めた事務対応が続く
- 制度に合わせて賃金改善の運用を整理する必要がある
- スタッフへの周知や照会対応が必要になる
算定するかどうかは点数だけで判断するのではなく、制度の趣旨や自院の体制も含めて整理する必要があります。
提出対応の全体像を確認したい方は、以下の記事も参考になります。
ベースアップ評価料|令和8年度の提出対応の全体像を整理
自由に使える収入ではなく、人件費へ回す仕組み
ベースアップ評価料は、売上に反映されても、そのまま利益が増える仕組みではありません。
得られた収入は、基本的に対象職員の賃金改善に充てることが前提です。
クリニックの利益を増やすための点数ではなく、スタッフの処遇改善のための原資として考える必要があります。
賃金改善は、原則として基本給または毎月支払われる手当の引き上げを中心に考えます。
賞与については、基本給等の引き上げに連動して増加した分へ充てる整理が基本です。
患者数の変動等により評価料収入が想定を上回った場合などには、例外的に賞与等で還元することが認められる場合があります。
一時的なボーナスで済ませる制度と捉えるのではなく、原則と例外を分けて整理する必要があります。
※就業規則や賃金規程の変更、個別の労務上の取り扱いは、必要に応じて社会保険労務士へご確認ください。
スタッフへの説明と周知
届出する場合、対象となるスタッフへ制度の趣旨や賃金改善の考え方を説明することも重要です。
制度の目的、対象職員、賃金改善の方法、患者負担への影響、今後の報告など、院内で共有しておきたい論点があります。
スタッフから照会があった場合に、書面等を用いて分かりやすく説明・回答することも求められています。
賃金改善の方法によっては、スタッフの受け止め方が分かれることもあります。
必要に応じて意向や受け止めを確認し、院内で認識をそろえた方が運用は安定しやすくなります。
ただし、最終的な制度運用や賃金設計は、経営判断として院長側が責任を持って整理する必要があります。
スタッフ説明に論点を絞りたい方は、こちらの記事もご覧ください。
ベースアップ評価料はスタッフにどう説明する?
患者負担に影響するのか
ベースアップ評価料を算定すると、診療報酬の点数が加算されるため、患者さんの自己負担額にも一定の影響が生じる可能性があります。
ただし、この制度は医療機関の利益を増やすためではなく、医療現場の賃上げを支える仕組みとして設けられています。
算定する場合には、ホームページや院内掲示を通じて制度の目的を説明することも大切です。
また、「なぜ窓口負担が上がったのか」と聞かれた際に受付スタッフが困らないよう、回答方針をそろえておく必要があります。
患者負担や説明方法は、以下の記事でも整理しています。
ベースアップ評価料で患者負担は増える?
算定するか迷ったときに確認したい順番
算定するか、今回は見送るかを考えるときは、次の順番で確認すると論点を分けやすくなります。
- 算定要件を確認する
自院が算定できる区分や必要な届出、報告内容を確認します。 - 算定見込み額を確認する
見込まれる収入と、どの職員へどのように反映するかを整理します。 - 運用負担を確認する
報告、給与計算、周知を誰が担うか確認します。 - 算定する場合と見送る場合を比較する
処遇、採用、患者負担、事務負担への影響を比較します。 - 説明方針を決める
なぜ算定するのか、または見送るのかを説明できる状態にします。 - 見直す時期を決める
今回の結論だけでなく、再検討する時期も整理します。
算定見込み額は把握できても、基本給へ反映するのか、毎月の手当とするのか、制度が変わった後も維持できるのかまで考えると、簡単には決められません。
さらに、スタッフへの説明や報告業務を誰が担うかまで含めると、制度の知識だけでは判断しきれないことがあります。
院長が整理しておきたい3つの視点
- 自院の人員体制と今後の採用・定着にどう影響するか
- 賃金改善をどのような形で、どこまで継続するか
- スタッフや患者さんにどう説明するか
ベースアップ評価料は、点数が付くから算定するという単純な制度ではありません。
人材体制、賃金制度、患者負担、スタッフへの説明、届出後の運用まで含めて、自院にとってどう位置づけるかを整理することが判断の土台になります。
論点が分かれると、比較に使う時間や迷う時間を減らしやすくなります。
何を今決め、何を後で見直すかが見えることで、制度対応だけに時間を取られすぎず、スタッフへの説明や診療に向き合いやすくなります。
また、判断の前提を言語化することで、クリニックとしての方針を示しやすくなります。
制度の内容は理解できた。それでも、自院ではどうするか決まらないことがあります。
算定するか見送るかだけでなく、賃金設計、採用・定着、患者負担、院内説明、届出後の運用など、複数の論点が関係します。
算定見込み額は分かっても賃金へどう反映するか決められない、複数の意見を聞いても自院の判断基準が定まらない、制度変更後も続けられるか判断できない場合は、一度論点を分けて考える必要があります。
まとめ
ベースアップ評価料を算定しない選択は、無床クリニックでは制度上あり得ます。
ただし、算定しない場合でも、スタッフの処遇改善、採用・定着、患者負担、事務負担、将来の人件費設計を整理する必要があります。
一方で、ベースアップ評価料は、スタッフの処遇改善を進めるうえで前向きに検討しやすい制度でもあります。
大切なのは、算定すべきかどうかを急いで決めることではありません。
制度の趣旨を理解したうえで、人員体制、賃金制度、事務負担、将来の経営リスク、スタッフへの説明まで含め、何を基準に考えるかを整理することです。
制度の理解だけでは、判断は決まりません。
論点、選択肢ごとの影響、今決めることと後で見直すことを分けることで、自院として判断理由を持ち、次の一手を決めやすくなります。
参考資料
本記事は、厚生労働省が公表している令和8年度診療報酬改定関連資料をもとに整理しています。
制度は分かった。それでも、自院として決めきれないときに
ベースアップ評価料は、算定するか見送るかだけでなく、賃金設計、スタッフへの説明、患者負担、届出後の運用、制度変更後の継続性まで関係します。
一つずつの情報は確認できても、複数の事情や意見が重なると、何を判断する必要があるのか、何を基準に決めるのかが分かりにくくなることがあります。
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