正解を急がず、 クリニック経営で重なりやすい論点を整理するために。 患者さんの視点も踏まえながら、 開業準備や日々の経営で迷いやすい場面の前提を整える時間です。

クリニック開業・経営コラム

ベースアップ評価料から考えるクリニックの考え方|院長が整理しておきたい視点

本記事は、2026年6月施行予定の制度内容と、2026年3月31日公表の改定概要、および2026年3月23日・4月1日時点で公表されている疑義解釈等をもとに整理しています。今後、厚生労働省から追加の疑義解釈や事務連絡等が公表された場合は、内容を順次更新してまいります。

ベースアップ評価料は、2024年度(令和6年度)の診療報酬改定で創設された制度です。医療機関で働くスタッフの賃上げを支援することを目的として設けられました。

クリニックでは、この制度について次のような疑問を持つ院長先生も多いと思います。

  • ベースアップ評価料は算定すべきなのか
  • 制度はいつまで続くのか
  • 患者負担はどうなるのか
  • スタッフにはどのように説明すればよいのか

このブログでも、ベースアップ評価料について制度や実務の整理を行ってきました。ただ、ベースアップ評価料を考えるときには、もう一つ大切な視点があります。

それは、この制度を通してクリニック経営をどう整理するかという視点です。

この記事では制度の細かな解説ではなく、ベースアップ評価料という制度をきっかけに、院長としてどのような視点を整理しておくとよいのかについて考えてみたいと思います。

ベースアップ評価料とはどのような制度か

ベースアップ評価料は、2024年度の診療報酬改定で創設された制度です。

背景には、日本の医療を取り巻く環境の変化があります。特に大きいのは、医療人材の不足、医療機関の人件費の上昇、賃上げへの社会的な流れです。

医療機関ではこれまで、診療報酬の枠の中で人件費をやりくりする構造が続いてきました。しかし近年は、医療機関以外の業界でも賃上げが進み、人材確保が難しくなっています。

その中で、医療機関でも賃上げを進める必要があるという議論が進み、ベースアップ評価料という制度が創設されました。

つまり、この制度は単なる点数ではなく、医療人材の確保という医療政策の流れの中で生まれた制度といえます。

診療報酬の制度は固定されたものではない

一方で、診療報酬の制度について整理しておきたいことがあります。

それは、診療報酬の制度は固定されたものではないということです。

診療報酬は、原則として2年ごとに改定されます。そのため、新しく創設された制度でも、次の改定で見直されることがあります。

実際、ベースアップ評価料も「将来変わる可能性がある制度」にとどまりません。2026年度の改定では、点数の見直しや評価の考え方の変更が行われ、制度の枠組み自体がすでに動いています。

この点は大切です。制度は一度作られたらそのまま続くものではなく、政策の方向性や社会状況を踏まえて、実際に見直されていきます。

そのため、「点数があるから算定する」「制度が続きそうだから対応する」だけで考えないことが大切です。制度の表面だけでなく、この制度が医療政策として何を意味しているのかまで見ておくと、判断の前提が整理しやすくなります。

ベースアップ評価料から見える医療政策

ベースアップ評価料の背景を整理すると、医療政策としていくつかの方向性が見えてきます。

  • 医療人材の確保
  • 医療機関の賃上げ
  • 地域医療の維持

医療機関の経営は、診療報酬の制度に大きく影響されます。しかし、制度は医療政策の中で設計されています。

つまり、制度の点数だけを見るのではなく、政策の流れを読むという視点も大切です。

ベースアップ評価料は、「医療機関の人材確保をどう支えるか」というテーマの中で生まれた制度です。そして2026年度改定では、単なる一時的対応ではなく、継続的な賃上げをどう後押しするかという方向性が、より明確に打ち出されました。

ここで整理しておきたいこと

制度は見直されますが、人材確保・賃上げ・地域医療の維持という課題そのものは、今後も続いていく可能性があります。だからこそ、制度の有無だけではなく、自院として何を引き受けるのかを考えることが重要になります。

院長が整理しておきたいクリニックの考え方

ここで整理しておきたい制度理解の前提

ベースアップ評価料について検討する際に、誤解されやすい点があります。

  • 賃上げ率(例:3.2%)は必ず達成しなければ算定できない条件ではありません
  • 評価料として算定された原資は、対象職員の賃金改善に充てる前提で整理されています

つまり、この制度は「目標となる賃上げ率を達成できるかどうか」だけで判断するものではありません。

むしろ重要なのは、自院として継続可能な賃上げの考え方をどう設計するかという視点になります。

ベースアップ評価料をきっかけに、院長として整理しておきたい視点はいくつかあります。ここでは、クリニック経営の観点から特に重要だと思う3つの視点を挙げてみます。

人材確保という視点

クリニック経営では、人材の問題が大きなテーマになります。

  • 採用が難しい
  • スタッフが定着しない
  • 人件費が上昇している

ベースアップ評価料は、こうした状況の中で医療機関の賃上げを支援するという目的で設けられた制度です。

2026年度改定では、対象職員の考え方も見直され、これまでより広い職種を視野に入れて整理する必要が出てきました。事務スタッフを含め、クリニック運営を支えるさまざまな職種に対して、限られた原資をどう配分し、どう納得感をつくるかは、院長の重要な経営判断になります。

制度を算定するかどうかだけでなく、スタッフとどのような関係を築くのか、どのような体制で診療を行うのかといった視点も整理しておくことが重要になります。

クリニックの役割という視点

クリニックは地域医療の中で、それぞれ役割を持っています。

たとえば、生活習慣病の継続管理、地域のかかりつけ医、専門外来など、診療内容や地域によって役割は異なります。

診療報酬の制度は、こうした医療の役割をある程度誘導する仕組みでもあります。ベースアップ評価料も、医療人材を確保しながら地域医療を維持するという政策の中で設計されています。

そのため、制度の点数だけを見るのではなく、自院が地域でどのような役割を担うのかという視点で整理しておくことが大切です。

経営の持続性という視点

もう一つ大切なのは、クリニック経営の持続性です。

クリニック経営は、患者数、診療内容、人件費、地域の人口構造など、さまざまな要素の影響を受けます。

制度の点数だけを基準に経営を考えると、制度が変わったときに大きな影響を受けることがあります。

今回の改定では、継続的に賃上げを実施している施設をより評価する設計や、令和9年度に向けた段階的な引上げの方向も示されました。これは、「その年だけ対応する」よりも、継続可能な給与設計や人件費の見通しが、これまで以上に問われているということでもあります。

そのため、自院の診療の特徴、スタッフ体制、地域の医療ニーズといった視点も含めて、長く続くクリニック経営の形を考えておくことが重要になります。

特にベースアップ評価料のような制度では、「制度が続くかどうか」だけで判断するのではなく、制度の設計意図や運用前提まで含めて整理しておくことが重要になります。

制度に振り回されないクリニック経営

診療報酬の制度は、医療政策の中で設計されています。そのため、制度の内容は今後も変わっていきます。

ベースアップ評価料も、すでに2026年度改定で見直しが行われましたし、今後も政策の動向によって変化していく可能性があります。

しかし、クリニックの役割、医療人材の確保、地域医療の維持といったテーマは、これからも続いていく課題です。

そのため、制度をどう使うかだけではなく、制度をどう捉えるかという視点も大切になります。

制度の理解だけでは判断は決まりません。
自院としてどう考えるかの整理が必要になります。

クリニック経営には、必ずしも一つの正解があるわけではありません。地域や診療内容、院長の考え方によって、経営の形はそれぞれ異なります。

だからこそ、自院にとって納得できる経営の形を整理していくことが大切だと思います。

このブログで大切にしている考え方

制度があるから動く、他院がやっているから取り入れる、という形だけでは、自院に合わない判断になることがあります。クリニック経営では、正解を急ぐことよりも、自院として何を大切にするのかを言葉にすることが、長く続けるための土台になることがあります。

ベースアップ評価料は経営を考えるきっかけ

ベースアップ評価料は、単に点数を算定するかどうかだけの制度ではありません。

この制度をきっかけに、人材、診療体制、クリニックの役割といったテーマを整理する機会になるかもしれません。

診療報酬の制度は今後も変わる可能性があります。しかし、クリニック経営の根本的な課題は簡単には変わりません。

ベースアップ評価料という制度を、クリニック経営を考えるきっかけとして捉えることも一つの考え方です。

制度に振り回されるのではなく、自院の状況や地域医療の役割を踏まえて、院長自身が納得できる経営の形を整理していくことが大切だと思います。

制度対応や人件費の判断が少し重くなってきた院長へ

判断の前提と優先順位を整理する支援を行っています

ベースアップ評価料のような制度は、算定するかどうかだけでなく、人件費をどう考えるか、スタッフにどう説明するか、自院として何を優先するかまで含めて判断が必要になることがあります。

実際には、判断が重くなり始めた段階でご相談いただくことが多くあります。
まえやまだ純商店では、正解を提示するのではなく、論点と優先順位を整理し、院長が自院として納得できる判断をしやすくするための支援を行っています。

こんなときに見直されることがあります

  • 制度対応と人件費の判断がつながってきている
  • スタッフへの説明をどう組み立てるか迷っている
  • 採用や定着も含めて、どこから整理すべきか分からない
  • 専門家の説明は聞いたが、自院としての優先順位が決めきれない

相談内容が整理できていない段階でも問題ありません。
むしろ、何から考えるべきかを整理するところから始まることが多くあります。

臨床と同じように、経営判断も「症状が出てから」ではなく、「違和感の段階」で整理することに意味があります。

※売り込みを前提とした場ではありません。
※実務代行ではなく、判断の前提と整理を支援する形です。

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