正解を急がず、 クリニック経営で重なりやすい論点を整理するために。 患者さんの視点も踏まえながら、 開業準備や日々の経営で迷いやすい場面の前提を整える時間です。

クリニック開業・経営コラム

ベースアップ評価料はスタッフにどう説明する?院長が整理しておきたいポイント【院長の経営相談Q&A】

本記事は2026年6月施行予定の制度と、2026年4月21日までに公表された関連通知・疑義解釈(その4まで)をもとに整理しています。今後、厚生労働省から追加の疑義解釈や事務連絡等が公表された場合は、内容を順次更新してまいります。

2026年度(令和8年度)の診療報酬改定では、医療従事者の処遇改善を目的としたベースアップ評価料の見直しが進められました。クリニックの院長にとっては、制度を算定するかどうかだけでなく、スタッフにどう説明するのかで悩む場面もあるのではないでしょうか。

特に現場では、「結局、給料は上がるのか」「どの職種が関係するのか」「うちのクリニックではどう考えるのか」といった問いが出やすくなります。ただ、ベースアップ評価料は制度の趣旨があっても、実際の運用は医療機関ごとに異なります。

そのため、院長としては正解を一つ決めて伝えるというより、自院としてどう考え、どう説明するのかを整理しておくことが大切です。この記事では、ベースアップ評価料をスタッフに説明する前に、院長が整理しておきたいポイントをまとめます。

最初に押さえておきたいこと

制度の理解だけでは判断は決まりません。
自院としてどう考えるかの整理が必要になります。

ベースアップ評価料とはどのような制度か

ベースアップ評価料は、医療従事者の賃上げを後押しするために設けられた診療報酬上の評価です。医療分野では、人材確保や定着が大きな課題になっており、今回の改定でも処遇改善が重要なテーマの一つとして位置づけられています。

クリニックにとっては、診療報酬を通じて賃金改善の原資を確保しやすくする制度と考えると分かりやすいでしょう。ただし、これは「算定すれば一律に同じように昇給できる制度」という意味ではありません。制度の趣旨は共通でも、実際の運用は患者数、スタッフ数、職種構成、経営状況によって変わります。

また、診療報酬は原則として2年ごとに改定される仕組みです。そのため、ベースアップ評価料についても、将来にわたって今と同じ形で続くとは限りません。今後の医療政策や改定の方向によって見直される可能性があることも、院長として頭の片隅に置いておきたいところです。

ベースアップ評価料でスタッフに影響すること

ベースアップ評価料は、医療機関の利益を増やす制度ではなく、評価料として得られた原資を対象職員の賃金改善に充てることが前提となっている制度です。

ベースアップ評価料の見直しによって、スタッフにとっては「医療分野でも賃上げを進める方向がより明確になった」という影響があります。現場で働く人にとっては、制度の細かな点数や届出の仕組みよりも、まず「自分たちの働き方や待遇にどう関係するのか」が気になるはずです。

今回の見直しでは、従来よりも幅広い職種で賃上げを進める方向が示されており、医療事務を含めたスタッフにも関心が広がりやすいテーマです。そのため、院長としては「うちには関係ない」「一部の職種だけの話」と受け取られないように、制度の目的を落ち着いて説明する必要があります。

また今回の見直しでは、医療事務職だけでなく、40歳未満の勤務医師も対象として整理されています。さらに疑義解釈では、一定の条件のもとで派遣職員についても対象に含めることが可能とされています。

一方で、院長が準備しておきたいのは「対象外となるスタッフへの説明」です。直近の疑義解釈では、一定条件を満たす派遣職員が対象となり得る一方で、業務委託(請負)として勤務するスタッフや、40歳以上の勤務医師・歯科医師は対象外と整理されています。

「なぜあの人は上がって、私は上がらないのか」という疑問が出ることは自然です。そのときに、「院長の判断」ではなく、制度上のルールとして線引きされていることを説明できるかどうかは、院内の納得感に大きく影響します。

一方で、スタッフ側からすると、制度がある以上「実際にどのような形で還元されるのか」が気になるのは自然なことです。ここを曖昧にしたままにすると、制度そのものへの理解よりも、「結局どうなるのか分からない」という不信感につながることがあります。

ここで整理しておきたいこと

ベースアップ評価料は、スタッフにとって「制度の存在」よりも「自院でどう扱うのか」が大事なテーマです。制度説明だけで終わらせず、院長としての考え方まで整理しておくことが重要です。

スタッフの給与はどのくらい上がるのか

なお、2026年度改定では賃上げの目標として3.2%(看護補助者・事務職員は5.7%)が示されていますが、この数値は各医療機関に義務として課されている達成条件ではありません。

そのため、スタッフの給与が「必ず何%上がる」と一律に言える制度ではありません。実際にどのくらい上がるのかは、医療機関ごとに確保できる原資や、どの職種を対象にするのか、どのような形で配分するのかによって変わります。

スタッフへの説明で最も聞かれやすいのが、「給与はどのくらい上がるのか」という点です。ただ、この問いに対して、全国一律の金額や率をそのまま示すことは難しいと考えた方が現実的です。

なぜなら、ベースアップ評価料によって確保できる原資は、医療機関ごとに大きく異なるからです。患者数や算定状況、スタッフの人数、職種の構成が違えば、同じ制度でも使える原資の大きさは変わります。さらに、クリニック全体の経営状況や、他の人件費とのバランスも考える必要があります。

さらに、過去から継続して賃上げを行ってきた医療機関については、制度上より高い評価が設定されている場合があります。そのため、他院と単純に比較できる制度ではない点も説明しておきたいポイントです。

また今回の制度では、定期昇給とベースアップ評価料による賃上げは別物として整理されています。年齢や勤続年数に応じて自動的に上がる定期昇給分を、この評価料による賃金改善の実績として扱うことは認められていません。

つまり、今回の評価料は、毎年の自動的な昇給とは別に、給与表そのものの底上げや毎月の手当の見直しなど、純粋なベースアップとしてどう反映するかを考える必要がある制度です。ここを曖昧にしたまま説明すると、「いつもの昇給をベースアップと言い換えただけではないか」という不信感につながるおそれがあります。

さらに、国が想定している賃上げは、ベースアップ評価料だけで目標を達成する仕組みではありません。実際には、定期昇給など医療機関自身による賃上げ、ベースアップ評価料による上乗せ、賃上げ促進税制の活用などを組み合わせながら進める設計になっています。

なお今回の制度は単年度で完結する設計ではなく、令和9年度には評価料の水準が引き上げられることがあらかじめ示されています。そのため、今年度だけで判断するのではなく、中長期的にどのように処遇改善を進めていくかという視点で説明することも大切になります。

そのため、スタッフに説明する際は、「制度として賃上げを目的とした評価であること」と、「具体的な改善の幅は医療機関ごとに異なること」を分けて伝える方が誤解が少なくなります。無理に具体額を先に示すよりも、まずは「一律には言えない理由」と「自院としてどう考えるのか」を丁寧に整理した方が、結果として納得につながりやすいでしょう。

そのためスタッフへの説明では、「制度として賃上げの原資は確保されているが、実際にどの程度・どのように反映するかは医療機関ごとに異なる」という整理で伝えると理解されやすくなります。

※ 具体的な昇給額は、患者数・スタッフ数・職種構成・経営状況・配分方法などによって変わるため、一律には示しにくい制度です。

スタッフへの説明で迷いやすいポイント

実際の現場では、院長が迷いやすいポイントがいくつかあります。たとえば、「評価料を算定するなら、必ず給与を上げなければならないのか」「どの職種が対象になるのか」「いつから、どのような形で反映するのか」といった点です。

これらの問いに共通しているのは、制度の説明だけでは答えきれず、自院としてどう運用するかという判断が必要になることです。つまり、制度の話と経営の話、そして組織運営の話が重なってきます。

なお制度上は、ベースアップ評価料として得られた収入は、対象職員の基本給等の引き上げや、それに伴う賞与・時間外手当・法定福利費の増加分に充てることが求められています。つまり、評価料として確保した原資はスタッフの処遇改善に用いる前提の制度です。

そのうえで実際の現場では、「誰に」「どのような形で」「どの程度配分するか」という判断が必要になります。制度の趣旨と自院の経営状況の両方を踏まえて整理することが重要になります。

なお制度上、対象職員の中で全員に一律の金額を配分しなければならないという決まりはありません。定着させたい職種や、貢献度の高いスタッフへ手厚く配分することは院長の裁量として認められており、ここにも自院の経営方針が反映されます。

また、スタッフから見れば、「制度があるなら、すぐに分かりやすい形で変わるのではないか」と感じることもあるでしょう。一方で、院長から見れば、「制度の趣旨は理解していても、自院としてどのように反映するかは整理が必要」というのが実際の感覚に近いかもしれません。このズレを埋めるためには、制度の説明だけでなく、院長としてどう考えているのかも含めて伝えることが大切です。

スタッフへの説明の一例

実際の説明では、例えば次のように整理すると伝わりやすくなります。

  • 今回の制度は、医療分野の賃上げを進めるために国が用意した仕組みであること
  • 評価料として得られた原資は、スタッフの処遇改善に充てる前提の制度であること
  • ただし具体的な金額や配分の形は医療機関ごとに異なること
  • 自院としてどのような形で反映するかは段階的に整理していくこと

制度の内容だけでなく、「自院としてどう考えているか」をあわせて伝えることで、スタッフとの認識のズレを小さくすることにつながります。

説明で迷いやすい問い

  • ベースアップ評価料を算定すると、必ず給与は上がるのか
  • 医療事務を含め、どの職種が関係するのか
  • いつから、どのような形で反映するのか
  • クリニックの経営状況とどう両立させるのか

「いつから反映されるのか」という問いについては、制度上は原則として評価料の算定を開始した月から給与に反映させることが求められています。

さらに今回の改定からは、余った評価料を翌年度のために繰り越すことが原則できなくなり、年度内で確実にスタッフへ還元することが求められる点も押さえておきたいポイントです。

院長とスタッフの距離感によって説明の形は変わる

ベースアップ評価料の説明で見落としにくいのが、院長とスタッフとの日常業務の距離感です。制度の説明は同じでも、ふだんから経営方針や考え方を共有しているクリニックと、そうでないクリニックでは、伝わり方が大きく変わります。

たとえば、小規模で院長が直接スタッフと話す場面が多いクリニックでは、院長の言葉で意図や背景を説明した方が納得を得やすいことがあります。一方、人数が多い組織では、事務長や管理者を通して段階的に共有した方がスムーズな場合もあります。

つまり、スタッフへの説明には「これが正しいやり方」という一つの型があるわけではありません。むしろ、それぞれの医療機関で築いてきた関係性や組織のあり方に合わせて、無理のない形を考えることが大切です。

ベースアップ評価料は、賃上げの制度であると同時に、院長がスタッフとどのような距離感で組織を運営しているのかが問われるテーマでもあります。

院長が整理しておきたい3つのポイント

スタッフに説明する前に、院長として整理しておきたいことは大きく3つあります。

1つ目は、制度の目的です。
ベースアップ評価料は、医療従事者の賃上げを後押しするための制度です。ここを曖昧にすると、「結局何のための評価なのか」が見えにくくなります。

2つ目は、賃上げと経営のバランスです。
制度として得られた原資は処遇改善に充てる前提ですが、実際には配分方法や反映時期、院内での説明の仕方など、自院として整理すべき論点が残ります。スタッフへの還元を考えつつ、無理のない形でどう進めるかを整理しておく必要があります。

特に今回の改定からは、余った原資を来年のために貯金しておく(繰り越す)ことが原則できなくなり、入ってきた原資はその年度内で確実にスタッフへ還元することが求められます。そのため、単年度でのシミュレーションをより丁寧に行うことが重要になります。

3つ目は、制度の継続性に不確実性があることです。
診療報酬は改定で見直されるため、今後も同じ形で続くとは限りません。だからこそ、「今ある制度をどう使うか」と同時に、「制度に依存しすぎない体制をどう考えるか」という視点も持っておきたいところです。

院長が整理しておきたい3つの視点

  • 制度の目的をどう理解するか
  • 賃上げと経営のバランスをどう考えるか
  • 制度が今後も同じ形で続くとは限らないことをどう見るか

正解ではなく医療機関ごとの納得感を整理する

ベースアップ評価料をスタッフにどう説明するかについて、画一的な正解を探そうとすると、かえって苦しくなることがあります。制度の趣旨は共通していても、実際の経営状況や人員体制、院長とスタッフとの関係性は医療機関ごとに異なるからです。

そのため大切なのは、「他院がどうしているか」をそのまま真似することではなく、自院としてどのように考え、どのような説明なら無理なく伝えられるのかを整理することです。

ベースアップ評価料は、単なる診療報酬の加算ではありません。院長が組織をどう引き受けるのか、スタッフとどのような距離感で働くのか、そして経営と処遇改善をどう両立させるのかが問われる制度でもあります。だからこそ、正解ではなく、それぞれの医療機関にとっての納得感に寄せて考えていくことが大切ではないでしょうか。

制度対応とスタッフ説明のあいだで、判断が重くなり始めた院長へ

制度判断の前提を整理したいときに、ご相談いただくことがあります

ベースアップ評価料のように、制度の趣旨は理解できても、スタッフにどう伝えるか、どこまで決めてから共有するかで迷うことがあります。

そのような場面では、答えを急ぐというより、何を先に整理するべきか、どの論点から考えるべきかを落ち着いて見直すことが必要になることがあります。

まえやまだ純商店では、正解を提示するのではなく、院長が自院として判断するための前提を整理し、論点と優先順位を整える支援を行っています。

このようなタイミングで相談されることがあります

判断が重くなり始めた段階で相談されることが多くあります。

相談内容が整理できていない段階でも問題ありません。むしろ、何から考えるべきかを整理するところから始まることが多くあります。臨床と同じように、経営判断も「症状が出てから」ではなく、「違和感の段階」で整理することに意味があります。

制度対応、スタッフ説明、院内の配分、今後の見通し。複数の論点が重なっているときほど、個別の答え探しではなく、判断の前提を整えることが役立つ場合があります。

※実務代行は行っていません。
※相談内容がまとまっていない段階でも問題ありません。

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