ベースアップ評価料はどう配分する?賞与・手当・配分差をどう考えるか【院長の経営相談Q&A】
本記事は、厚生労働省が公表している令和8年度ベースアップ評価料関連資料をもとに、無床クリニックを中心に整理しています。制度内容や運用は、今後の疑義解釈や事務連絡等により変更される可能性があります。最新情報は厚生労働省および各地方厚生局の公表資料をご確認ください。
ベースアップ評価料について、制度の趣旨は理解できても、実際には「どう配分するか」で迷うことがあります。
特に、賞与で調整してよいのか、毎月の手当として支給すべきなのか、全員に同じように配分する必要があるのかは、院長が悩みやすい論点です。
さらに、配分方法を決めたあとには、スタッフへどのように説明するかという問題も残ります。
結論
- ベースアップ評価料は、自由に使える収入ではありません。
- 評価料として得られた原資は、対象職員の賃金改善に充てることが前提です。
- 全員に一律・同額で配分しなければならない制度ではありません。
- 原則は、基本給または毎月決まって支払われる手当としての賃金改善です。
- 賞与での還元は、毎月の賃金改善で使い切れない場合などの調整として考える必要があります。
- 配分に差をつける場合は、その理由を院内で説明できる状態にしておくことが重要です。
- 制度上可能な方法を確認したうえで、自院の給与体系、人員体制、スタッフへの説明、今後も続けられるかを踏まえて配分方法を決める必要があります。
なお、職員一人あたりの金額や毎月の手当額は、評価料収入、対象職員数、賃金改善計画、実績などによって変わります。
この記事では金額の計算方法ではなく、得られた原資をどのような考え方で配分し、自院として運用を決めるかを中心に整理します。
目次
ベースアップ評価料は自由に使える収入ではない
まず整理しておきたいのは、ベースアップ評価料の位置づけです。
ベースアップ評価料は、医療機関の利益として自由に使える収入ではありません。
制度として得られた収入は、対象職員の賃金改善に充てることが前提となっています。
そのため、次のような点について、制度の趣旨と整合する形で整理する必要があります。
- どの職種を対象とするのか
- どの程度の賃金改善とするのか
- どのような形で給与へ反映するのか
- スタッフへどのように説明するのか
一方で、対象職員の範囲や配分方法については、医療機関側で考えなければならない部分もあります。
制度上可能かを確認するだけでなく、自院の人員構成、給与体系、経営状況、今後の採用方針などを踏まえて検討することが重要です。
配分方法は一律である必要はない
スタッフへの配分方法については、全員に同じ金額を配分しなければならないという決まりはありません。
制度上は、次のような考え方も可能とされています。
- 職種ごとに差をつける
- 役割に応じて配分する
- 人材確保が難しい職種を重視する
実際の現場では、看護職、医療事務、コメディカル職、勤務医など、職種ごとの役割や人材確保の難しさが異なります。
そのため、配分方法には医療機関ごとの考え方が反映されます。
ただし、配分に差を設ける場合には、院長自身がその理由を説明できる状態にしておくことが重要です。
制度上も、賃金改善の方法について職員へ周知し、照会があった場合には、書面等を用いて分かりやすく回答することが求められています。
配分差を考える前に確認したいこと
配分に差をつけること自体が問題なのではありません。
「なぜこの職種を重視するのか」「なぜ対象になる人とならない人がいるのか」「現在の給与体系との関係をどう考えたのか」を、自院として説明できる状態にしておく必要があります。
基本給または毎月の手当として反映するのが原則
配分方法を検討する際に迷いやすいのが、どの形で賃金に反映するかという点です。
- 基本給に反映するのか
- 毎月の手当として支給するのか
- 賞与で還元するのか
制度上は、ベースアップ評価料による賃金改善は、基本給または毎月決まって支払われる手当として反映することが原則です。
賞与による還元が認められないわけではありません。
ただし、最初から賞与による還元を中心に設計するのではなく、まずは毎月の賃金としてどのように反映するかを整理することが基本です。
毎月の手当として考える理由
ベースアップ評価料は、継続的な賃金改善を目的とした制度です。
そのため、単発の賞与だけでなく、基本給または毎月決まって支払われる手当として反映する方が、制度の趣旨に沿いやすくなります。
一方で、基本給へ組み込む場合と、毎月の手当として分ける場合では、今後の給与設計やスタッフへの説明方法も変わります。
制度上可能な方法だけでなく、自院で無理なく管理し、継続できる方法かという視点も必要です。
賞与で調整してよいのか
院内で配分方法を検討する際に、「賞与で調整してよいのか」という点で迷うことがあります。
結論として、賞与での還元が一切認められないわけではありません。
ただし、基本は毎月の賃金改善です。
患者数の変動などにより想定より評価料収入が多くなり、追加の基本給等の引き上げだけでは使い切れない場合などには、例外的に賞与等で還元する考え方が示されています。
賞与で調整する場合の考え方
- まずは基本給または毎月の手当として反映する
- それでも使い切れない部分がある場合に、賞与等での還元を検討する
- 最初から賞与中心で設計しない
- 毎月の賃金改善と賞与による調整を分けて考える
- 賞与で調整する理由を、院内で説明できる状態にしておく
そのため、賞与は「自由に調整できる便利な支給方法」としてではなく、毎月の賃金改善を基本としたうえでの補完的な方法として考える必要があります。
また、賞与で調整することだけを先に決めるのではなく、評価料収入の見込み、現在の給与体系、対象職員数、スタッフへの説明時期などを合わせて確認することが大切です。
対象外となる職員についても整理しておく
配分を検討する際には、対象となる職員だけでなく、対象外となる職員についても整理しておく必要があります。
制度上、次のような職員は対象外と整理されています。
- 業務委託として勤務する職員
- 法人の役員
- 40歳以上の勤務医師および歯科医師
なお、業務委託として勤務する職員は対象外ですが、派遣職員については、派遣元と連携して賃金改善を行うことを前提として対象に含めることが可能とされています。
院内では、「なぜ対象になる人とならない人がいるのか」という疑問が出ることもあります。
その際に、院長の考えで対象外にしたのではなく、制度上の整理である部分と、自院として判断した部分を分けて説明できるかどうかが重要です。
雇用形態と院内での役割を分けて確認する
常勤・非常勤・派遣・業務委託など、院内で働く人の雇用形態は医療機関によって異なります。
配分を考える前に、制度上の対象者を整理したうえで、院内での役割、現在の待遇、スタッフ間の受け止めも確認しておくことが大切です。
スタッフへどう説明するかも整理しておく
ベースアップ評価料では、配分方法そのものだけでなく、スタッフへどのように説明するかも重要です。
制度上の対象者、配分の考え方、毎月の手当と賞与の扱い、対象外となる職員の理由などは、スタッフから質問が出やすい部分です。
説明の方法も、自院の状況によって変わります。
- まず全体で制度の趣旨や院内方針を説明するのか
- 個別に給与や配分の説明を行うのか
- 全体説明を行ったうえで、必要に応じて個別説明を行うのか
- 職種ごとに説明する内容を分けるのか
- 対象外となる職員に、どこまで説明するのか
例えば、全体説明だけでは、個別の給与に関する疑問が残ることがあります。
一方で、最初から個別説明だけを行うと、制度全体の趣旨や院内としての考え方が共有されにくくなることもあります。
そのため、全体説明で伝えることと、個別説明で扱うことを分けて整理すると、院内での受け止めが安定しやすくなります。
説明方法も院長が決める経営判断です
制度資料には、院内でどの順番で説明するか、配分差をどこまで共有するかまでは書かれていません。
スタッフ構成、院内の関係性、給与体系、説明する時期を踏まえて、自院として伝え方を決める必要があります。
制度上の答えが分かっても、自院の配分方法は別に決める必要がある
院長に最終判断が残る理由
ベースアップ評価料の配分方法について、「どの方法が正しいのか」と考え始めると、判断が難しくなることがあります。
制度として求められているのは、対象職員の賃金改善に充てること、そして制度の趣旨に沿って運用することです。
しかし、次のような点は、医療機関ごとの状況によって判断が変わります。
- どの職種を重視するのか
- 基本給、毎月の手当、賞与をどう組み合わせるのか
- どの程度の賃金改善とするのか
- スタッフへどのように説明するのか
- 制度が見直された場合にも続けられる運用か
制度や給与処理については、社会保険労務士、税理士、院内担当者などへ確認できます。
それでも、「制度上可能か」「人件費として続けられるか」「採用や定着へどのような影響があるか」「スタッフへどう説明するか」を一つにまとめ、自院として決める役割は院長に残ります。
相談先がないというよりも、異なる立場から得た情報を、一つの判断にまとめる場を持ちにくいことが、院長が一人で抱え込みやすい理由です。
配分方法を決めるための確認順序
配分方法を考える際は、次の順番で確認すると論点を分けやすくなります。
- 制度上の対象者を確認する
誰が対象となり、誰が対象外となるのかを整理します。 - 評価料収入の見込みを確認する
どの程度の原資が見込まれるのかを把握します。 - 現在の給与体系と照らし合わせる
基本給、毎月の手当、賞与、既存の賃金改善の状況を確認します。 - 基本給・毎月の手当・賞与を比較する
制度の趣旨、管理のしやすさ、継続性、スタッフへの説明を踏まえて比較します。 - 配分差を設ける理由を言葉にする
職種、役割、人材確保、現在の待遇などを踏まえ、判断理由を整理します。 - スタッフへの説明方法を決める
全体説明と個別説明で何を伝えるか、説明時期も含めて考えます。 - 専門家へ確認することを分ける
労務、税務、給与処理など、社会保険労務士や税理士へ確認する事項を整理します。
例えば、毎月の手当を選ぶ場合でも、制度の趣旨に沿っているかだけではなく、評価料収入が変動した場合にどう扱うか、スタッフへいつ説明するか、制度変更後も支給を続けられるかを確認する必要があります。
最後に、判断理由を説明できるか確認する
どの配分方法を選ぶ場合でも、最終的には、院長自身が「なぜ自院ではこの方法を選ぶのか」を説明できる状態にしておくことが大切です。
判断理由を言葉にできれば、スタッフや関係者へ説明しやすくなり、後から状況が変わった場合にも、何を基準に見直すべきかが分かりやすくなります。
ベースアップ評価料は、単なる診療報酬上の評価ではありません。
院長が、どのような人員体制をつくり、どのようにスタッフとの関係を築き、今後も患者さんに必要な医療を提供し続けるかにも関係するテーマです。
だからこそ、他院の方法をそのまま当てはめるのではなく、自院として何を優先し、どこまで対応するかを整理することが大切です。
判断を整理する目的は、資料や選択肢を増やすことではありません。
比較を繰り返す時間や、判断をやり直す負担を減らし、院長が診療やスタッフとの対話に時間を使いやすくすることです。
また、目先の制度対応だけでなく、数年先も無理なく続けられ、地域で役割を果たし続けられる運用かという視点から考えることも重要です。
この記事のまとめ
- ベースアップ評価料は自由に使える収入ではなく、対象職員の賃金改善に充てる制度である
- 配分方法は一律である必要はないが、院内で理由を説明できる状態にしておく必要がある
- 基本給または毎月決まって支払われる手当として反映することが原則である
- 賞与は、毎月の賃金改善で使い切れない場合などの調整として考える
- 対象外となる職員や派遣職員の扱いも整理する必要がある
- 配分方法だけでなく、スタッフへの説明方法も自院に合わせて決める必要がある
- 制度上の可否が分かっても、自院の人員体制、人件費、採用方針を踏まえた判断は別に必要である
- 配分方法を決める際は、対象者、原資、給与体系、選択肢、説明方法、専門家への確認事項の順に整理する
- 最終的には、なぜ自院でその方法を選ぶのかを院長自身が説明できる状態にしておく
制度は理解できた。では、自院ではどう判断するか。
ベースアップ評価料は、制度上できることが分かっても、賞与、毎月の手当、配分差、スタッフへの説明を自院としてどう決めるかは別の判断です。
まえやまだ純商店では、現在の状況やこれまでの経緯、給与体系、関連する論点を確認し、専門家へ確認することと院長が決めることを分けながら、次の行動へ移りやすい状態を整えます。
必要に応じて、配分方法の比較、確認が必要な事項、スタッフへ説明する論点などを見える形にします。
同じような場面で何を一緒に確認するのかは「クリニック経営で相談できる場面」、具体的な支援内容や料金は「支援内容・料金・進め方」でご確認いただけます。
今すぐ相談する段階でなくても、「自院だけでは整理しきれない」と感じたときに、クリニック外の相談先の一つとして思い出していただければと思います。
