ベースアップ評価料はどう配分するか|院長が整理しておきたい3つの視点
本記事は2026年度(令和8年度)診療報酬改定におけるベースアップ評価料について、2026年5月1日時点で公表されている関連通知・疑義解釈等をもとに整理しています。今後、厚生労働省から追加の疑義解釈や事務連絡等が公表された場合は、内容を順次更新してまいります。
2026年度(令和8年度)の診療報酬改定では、医療従事者の処遇改善を目的として、ベースアップ評価料の見直しが行われました。
制度としての趣旨は理解できても、実際の現場では、院長として判断に迷う場面が少なくありません。
- どの職種にどの程度配分するのか
- 基本給に反映するのか、手当として支給するのか
- 賞与で還元してよいのか
- スタッフにどのように説明するのか
ベースアップ評価料は「算定するかどうか」の判断だけでなく、どのように配分するかという整理も必要になる制度です。ただし、配分方法に全国共通の正解があるわけではありません。
大切なのは、制度上の前提を理解したうえで、自院としてどのように位置づけるのかを整理しておくことです。
この記事では、ベースアップ評価料の配分を考える際に、院長として整理しておきたい視点をまとめます。
最初に押さえておきたいこと
ベースアップ評価料は、自由に使える収入ではありません。
制度の前提を踏まえたうえで、自院としてどう配分するかを整理する必要があります。
目次
ベースアップ評価料は「自由に使える収入」ではない
まず整理しておきたいのは、ベースアップ評価料の位置づけです。
ベースアップ評価料は、医療機関の利益として自由に使える収入ではありません。制度として得られた収入は全額、対象職員の賃金改善に充てることが前提となっています。
そのため、次のような点については、制度の趣旨と整合した形で整理する必要があります。
- どの職種を対象とするのか
- どの程度の賃金改善とするのか
- どのような形で反映するのか
一方で、対象職員の範囲や配分方法については、一定の裁量が認められている部分もあります。制度の前提を理解したうえで、自院の人員構成や経営状況に合わせて検討することが重要になります。
配分方法は一律である必要はない
スタッフへの配分方法については、「全員に同じ金額を配分しなければならない」という決まりはありません。
制度上は、次のような考え方も可能とされています。
- 職種ごとに差をつける
- 役割に応じて配分する
- 定着させたい職種に重点を置く
実際の現場では、看護職、医療事務、コメディカル職、勤務医など、職種ごとの役割や人材確保の難しさが異なります。そのため、配分方法には医療機関ごとの考え方が反映されることになります。
ただし、配分に差を設ける場合には、院内で説明できる状態にしておくことが重要になります。
今回の制度では、賃金改善の方法について職員に周知し、照会があった場合には書面を用いて説明すること等により分かりやすく回答することが求められています。配分にメリハリをつける場合ほど、「なぜその配分になるのか」を整理しておくことが院内の納得感につながります。
ここで整理しておきたいこと
配分に差をつけること自体が問題なのではありません。大切なのは、その配分について院内で説明できる状態にしておくことです。
毎月の手当として反映するのが原則になる
配分方法を検討する際に迷いやすいのが、どの形で賃金に反映するかという点です。
- 基本給に反映するのか
- 毎月の手当として支給するのか
- 賞与で還元するのか
制度上は、ベースアップ評価料による賃金改善は、基本給または毎月決まって支払われる手当(基本給等)として反映することが原則とされています。
賞与による還元が認められないわけではありませんが、これは毎月の手当として還元しきれなかった部分を補う調整として位置づけられています。
そのため、最初から賞与還元を中心に設計するのではなく、まずは毎月の賃金としてどのように反映するのかを整理することが基本になります。
なお、有床診療所など恒常的に夜間を含む交替制勤務をとっている医療機関では、夜勤手当の増額についても毎月の手当(基本給等)として賃金改善に充てることが認められています。勤務体制によって活用できる配分方法が変わる点も整理しておきたいところです。
賞与還元を考える際の注意点
賞与での還元は、毎月の手当等で還元しきれない場合の調整として考える方が安全です。制度の原則は、基本給または毎月決まって支払われる手当としての賃金改善にあります。
対象とならない職員についても整理しておく
配分を検討する際には、対象となる職員だけでなく、対象外となる職員についても整理しておく必要があります。
制度上、次のような職員は対象外と整理されています。
- 業務委託として勤務する職員
- 法人の役員
- 40歳以上の勤務医師および歯科医師
なお、業務委託として勤務する職員は対象外ですが、派遣職員については、派遣元と連携して賃金改善を行うことを前提として対象に含めることが可能とされています。院内の雇用形態によって扱いが変わる点は整理しておきたいポイントです。
院内では、「なぜ対象になる人とならない人がいるのか」という疑問が出ることもあります。その際に、院長の判断ではなく制度上の整理であることを説明できるかどうかは、院内の納得感に大きく影響します。
雇用形態の整理も重要です
常勤・非常勤・派遣・業務委託など、院内で働く人の雇用形態は医療機関によって異なります。配分を考える前に、誰が制度上の対象となるのかを整理しておくことが大切です。
制度の継続性には不確実性がある
もう一つ整理しておきたいのが、制度の継続性です。
診療報酬は原則として2年ごとに見直される仕組みです。そのため、ベースアップ評価料についても、将来にわたって現在と同じ形で続くとは限りません。
過去の制度の経過を見ると、次のような形で見直される可能性も考えられます。
- 評価の方法が見直される
- 基本診療料に組み込まれる
- 点数水準が変更される
そのため、配分方法を検討する際には、「今年度の制度としてどう扱うか」と同時に、「制度に依存しすぎない形でどう位置づけるか」という視点も持っておくことが重要になります。
ベースアップ評価料は、今ある制度を前提に賃金改善を進めるための仕組みです。一方で、将来の改定で制度の形が変わる可能性がある以上、院長としては、継続性と不確実性の両方を見ながら判断する必要があります。
配分方法の正解ではなく、自院としての整理が重要になる
ベースアップ評価料の配分方法について、「どの方法が正しいのか」と考え始めると判断が難しくなることがあります。
制度として求められているのは、対象職員の賃金改善に充てること、そして制度の趣旨に沿って運用することです。
そのうえで、次のような点については、医療機関ごとの状況によって整理が変わります。
- どの職種を重視するのか
- どの形で反映するのか
- どの程度の水準とするのか
- スタッフにどのように説明するのか
ベースアップ評価料は、単なる診療報酬上の評価ではなく、院長が組織のあり方や人材との関係をどのように考えるのかが問われる制度でもあります。
だからこそ、正解を探すというよりも、自院としての考え方を整理することが大切ではないでしょうか。
この記事のまとめ
- ベースアップ評価料は自由に使える収入ではなく、全額を対象職員の賃金改善に充てる制度である
- 配分方法は一律である必要はないが、院内で説明できる状態にしておくことが重要である
- 基本給または毎月決まって支払われる手当として反映することが原則になる
- 対象外となる職員や派遣職員の扱いも整理しておく必要がある
- 制度の継続性には不確実性があるため、自院としての位置づけを整理しておくことが大切である
制度対応と院内配分のあいだで、判断が重くなり始めた院長へ
制度判断の前提を整理したいときに、ご相談いただくことがあります
ベースアップ評価料のように、制度の趣旨は理解できても、どの職種に、どのような形で、どこまで配分するかで判断が重くなることがあります。
そのような場面では、すぐに正解を決めるというより、制度上の前提、院内の人員構成、スタッフへの説明、今後の見通しを分けて整理することが必要になる場合があります。
まえやまだ純商店では、実務代行や御用聞き型の支援ではなく、院長が自院として判断するための前提を整理し、論点と優先順位を整える支援を行っています。
このようなタイミングで相談されることがあります
判断が重くなり始めた段階で相談されることが多くあります。
相談内容が整理できていない段階でも問題ありません。むしろ、何から考えるべきかを整理するところから始まることが多くあります。臨床と同じように、経営判断も「症状が出てから」ではなく、「違和感の段階」で整理することに意味があります。
制度対応、院内配分、スタッフ説明、今後の制度変更への備え。複数の論点が重なっているときほど、個別の答え探しではなく、判断の前提を整えることが役立つ場合があります。
※実務代行は行っていません。
※相談内容がまとまっていない段階でも問題ありません。