ベースアップ評価料とは?制度の背景とクリニック経営への影響を整理
更新日:2026年4月23日
本記事は2026年6月施行予定の制度内容と、2026年4月21日までに公表された関連通知・疑義解釈(その4まで)をもとに整理しています。今後、厚生労働省から追加の疑義解釈や事務連絡等が公表された場合は、内容を順次更新してまいります。
2026年度診療報酬改定では、医療機関の人材確保と賃金改善に関わる制度として、ベースアップ評価料の整理が示されました。
これは単なる点数の追加というよりも、医療提供体制を維持するための政策としての診療報酬という側面が強い制度です。
ベースアップ評価料とはどのような制度なのでしょうか。
本記事では、制度の目的や背景を整理し、クリニック経営への影響という視点から考えていきます。
この記事では、ベースアップ評価料の制度の意味と背景を整理し、クリニックとしてどのように受け止める制度なのかを順に確認していきます。
ベースアップ評価料とは
ベースアップ評価料は、医療機関の職員の賃上げを目的として設けられた診療報酬です。
制度の特徴は、医療機関の利益を増やす制度ではなく、スタッフの処遇改善を目的とした制度であることです。
評価料として得られた原資は、たとえば次のような賃金改善に充てることが前提となっています。
- 基本給の引き上げ
- 毎月決まって支払われる手当の引き上げ
- 恒常的に夜間を含む交替制勤務をとっている職場における夜勤手当の増額
- 上記のベースアップに伴って増加する賞与
- 上記のベースアップに伴って増加する時間外手当
- 上記のベースアップに伴って増加する法定福利費(事業者負担分)
つまり制度としては、
- 売上は増える
- 利益として残すための制度ではない
という特徴があります。
賃上げ率(3.2%・5.7%)は達成しないと算定できないのか
2026年度診療報酬改定では、賃上げの目標として3.2%(看護補助者・事務職員は5.7%)が示されています。
ただし、この数値は各医療機関に義務として課されている達成条件ではありません。厚生労働省としての政策目標として設定されているものであり、この水準に到達していない場合でもベースアップ評価料の算定は可能です。
一方で重要なのは、算定によって得られた評価料は対象職員の賃金改善に充てることが前提となっているという点です。
つまり制度の理解としては、「何%賃上げするか」だけで判断するのではなく、評価料として得られる原資をどのように院内で配分するかという視点が重要になります。
なお、ベースアップ評価料は、医療機関に勤務する職員の賃金改善を目的としています。
対象となるのは主に、
- 看護師
- 医療事務職員
- 看護補助者
- リハビリ職種
- その他医療機関で勤務する職員
などです。
2026年度改定では対象範囲の整理も進み、40歳未満の勤務医師・勤務歯科医師も対象に明記されました。一方で、経営者や法人役員などは対象外です。
また、派遣職員についても、派遣元と相談・協力のうえで同等以上の賃金改善を行う場合には、対象職員に含めて計算する考え方が疑義解釈で示されています。
※ただし、40歳以上の勤務医師・勤務歯科医師や、業務委託(請負)により勤務しているスタッフは対象外です。
参考資料
制度の詳細については、厚生労働省が公表している説明資料・疑義解釈も参考になります。
なぜこの制度が生まれたのか
ベースアップ評価料が設けられた背景には、医療機関を取り巻く環境の変化があります。
- 物価の上昇
- 人件費の上昇
- 医療人材の不足
といった問題が強く意識されてきました。
そのため今回の制度は、医療機関の収益対策というよりも、医療提供体制を維持するための政策的制度という側面があります。
単に「点数が付いた」という話ではなく、現場で働く人を確保し、地域の医療体制を維持するために設計された制度として見る必要があります。
制度の趣旨を理解する意味
診療報酬制度は、単に医療機関の収益を調整する仕組みではありません。
医療提供体制を維持するための政策として設計されることも多くあります。
ベースアップ評価料もその一つであり、医療人材の確保や医療提供体制の維持といった政策目的を背景としています。
そのため、算定するかどうかを考える際にも、目先の増収だけで判断するのではなく、
- 自院の人員体制
- 今後の採用・定着
- 賃金改善をどう継続するか
といった経営全体の視点で整理することが大切です。
制度の背景を理解したうえで、まず届出期限を確認したい方は、ベースアップ評価料はいつまで?届出期限の考え方と院長が最初に整理しておきたいこともあわせてご覧ください。
制度の内容は理解できたものの、「自院として算定するかどうか」の判断が難しい場合は、判断整理の入口ページも参考になります。
制度は永続するとは限らない
診療報酬制度は、社会状況や政策の影響を受けて変化します。
現在の制度が長期的に続くとは限らないという視点も持っておく必要があります。
特にベースアップ評価料は、物価・賃金・人材確保という社会的課題への対応として設計されているため、今後の経済状況や政策判断によって見直される可能性があります。
一方で今回の改定では、国としては単年度の賃上げではなく、継続的な賃上げを促す方向がより明確になっています。
令和7年度以前から継続して賃上げを行っている施設には、令和8年度から賃上げを始める施設よりも手厚い評価が設定され、令和9年度には評価額が段階的に引き上げられる設計も示されました。
制度があるうちに対応するだけでなく、制度に頼らなくても人材を維持できる体制づくりまで考えておくことが重要です。
クリニック経営という視点
ベースアップ評価料は、単なる制度対応ではなくクリニック経営にも関わるテーマです。
制度の背景を整理することで、院長としての経営判断を考えやすくなります。
たとえば、
- どこまで賃金改善を継続できるのか
- 採用や定着にどうつなげるのか
- 自院の役割や診療体制と整合しているのか
といった視点は、単なる届出実務だけでは見えてきません。
制度の理解だけでは判断は決まりません。
自院としてどう考えるかの整理が必要になります。
今回の改定では、届出時の賃金改善計画書の作成は不要となり、入口のハードルは下がりました。
その一方で、毎年8月の実績報告書に加えて、同じく8月に賃金改善中間報告書の提出が求められる運用となっています。
なお、毎年の賃金改善実績は、前年の給与総額との単純比較で判定されるわけではありません。賃金改善前の給与体系を、当該年度に勤務している職員へ当てはめた場合の基本給等総額と、実際の基本給等総額との差分で判断されます。
そのため、スタッフの増減がある中でも説明できる給与設計や、昇給ルールの整理が求められます。どんぶり勘定ではなく、制度に耐えうる労務管理が必要になります。
制度対応は「算定するかどうか」だけでなく、今後の人員体制や賃金改善の考え方、そして継続的に運用管理できるかどうかとも関わる判断になります。
診療報酬制度は政策の影響を受けながら変化していきます。制度の意味を理解することは、院長として経営判断を整理するうえでも重要です。
制度の意味を理解したあとに多くの院長が悩まれるのは、「誰と相談しながら判断するのか」という点です。
経営判断の整理については、こちらの記事でも解説しています。
制度の背景を理解したあとに多くの院長が迷われるのは、
- 算定すべきかどうか
- いつまでに判断すればよいか
- スタッフ説明をどう考えるか
判断整理の流れとしては、次の記事も参考になります。
補足しておきたい実務上の注意点
直近4月に公表された疑義解釈では、派遣職員の賃金改善に伴う取扱いなど、労務・経理上の細かなルールも追加で整理されています。
届出や運用にあたっては、院内だけで判断を完結させず、必要に応じて社労士や税理士と早めに情報共有しておくことが重要です。
制度判断が重くなり始めた院長へ
ベースアップ評価料のような制度対応は、要件を読めばすぐに決まるものばかりではありません。
算定するかどうか、どこまで賃金改善を続けるか、スタッフにどう説明するか。判断が重くなり始めた段階でご相談いただくことが多くあります。
こちらで行っているのは、正解を提示することではなく、制度判断に関わる論点と優先順位を整理する支援です。
相談内容が整理できていない段階でも問題ありません。むしろ、何から考えるべきかを整理するところから始まることが多くあります。
臨床と同じように、経営判断も「症状が出てから」ではなく、「違和感の段階」で整理することに意味があります。
はじめて利用される方に向けて、支援の考え方をこちらにまとめています。