診療圏調査シリーズ①:クリニックにおける「需要」を考える

クリニック開業を検討するとき、多くの先生がまず注目されるのは「競合は何件あるか?」という点です。もちろん重要ですが、その前に考えるべきは 「需要」──つまり、その地域でどんな医療が求められているのか です。
需要とは何か
医療における需要とは、「その地域に暮らす人々が、どのような診療を必要としているか」ということです。小売業でいえば「お客さんがどんな商品を求めているか」にあたります。
需要を読み解くときのポイントには、次のような要素があります。
- 人口構成
子どもが多いのか、高齢者が多いのか。 - 疾病構造
糖尿病や高血圧など生活習慣病が多いのか、皮膚疾患やアレルギーが目立つのか。 - 生活背景
共働き世帯が多ければ夜間診療や予約制のニーズが高まり、外国人住民が多ければ多言語対応のニーズが生まれます。
将来人口を見る視点も大切
需要を考えるときには「今」だけでなく「将来」にも目を向けることが重要です。
- 5年後、10年後に人口は増えるのか減るのか
- 高齢化はさらに進むのか
- 新しい住宅地や工場ができて人口が流入するのか
こうした将来人口の推計は、自治体や国のデータで確認できます。ただし、あくまで「予測」であり、経済や社会の変化によってズレる可能性があります。“確定した未来”ではなく、“参考にできるシナリオ” として捉えることが肝要です。
勤務医と開業医では「見える景色」が少し違う
勤務医の先生方は、病院に集まってこられる患者さんを日々診療されています。診療そのものに集中できるのは大きな強みです。
一方で、開業を考えると「患者さんがどのようにして自分のクリニックに来てくださるのか」という視点が加わります。地域にどのくらいの方が住んでいるのか、どんな医療を求めているのか、将来の人口はどう変化していくのか──。
つまり、勤務医から開業医へと移るときには、「患者さんを診る」視点に加えて「患者さんに来てもらう」視点が広がる、そんなイメージを持っていただくと分かりやすいと思います。
数字は血液検査のようなもの
人口や将来人口といった数値は、診療圏を考えるうえで欠かせません。ただし、それは「血液検査のデータ」と同じです。
血液検査は診断の大切な根拠ですが、それだけで診断を下すことはありません。患者さんの症状や生活習慣、背景を重ねて初めて正しい診断に至ります。
需要のデータも同じです。数字だけで「成功できるか」を判断するのではなく、先生の診療コンセプトや働き方と組み合わせて考えることが大切です。
おわりに
クリニックにおける需要とは、単なる人口統計の数字ではなく、「地域の人々がどんな医療を求めているのか」を理解することです。そこには今の人口や生活背景だけでなく、将来の変化を見据える視点も欠かせません。
ここで役立つのが、近江商人の「三方よし」の考え方です。
詳しくはこちらの記事 → クリニック開業と地域医療 ― 「三方よし」の視点で考える
大切なのは、
- 今の需要を正しく把握すること
- 将来人口の変化を予測データから読み取ること
- そのうえで先生ご自身のビジョンと重ね合わせること
こうして初めて、地域に根差し、長く続くクリニック像が見えてくるのです。
次回は、この「需要」に対して地域でどのような医療がすでに提供されているのか──つまり「供給」をテーマに考えていきます。
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→クリニック開業の立地選び ― 鍵は「提供する医療サービス」と「地域ニーズ」から考える
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→診療圏調査シリーズ③:クリニックにおける「競合」を考える
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