スタッフの産休・育休や急な退職によって欠員が出ると、多くの院長は「早く求人募集を始めなければ」と考えます。

退職の背景には、本人の転職だけでなく、配偶者・パートナーの転勤、家族の介護、体調の変化など、クリニック側では事前に予測しにくい事情もあります。

診療や受付業務への影響を考えると、すぐに求人募集へ動きたくなるのは自然なことです。

この記事の結論

焦る気持ちはよく分かります。ただ、スタッフの欠員が出たからといって、すぐに求人募集を始める必要があるとは限りません。

まずは、次の点を整理します。

  • 不足する業務
  • 既存スタッフへの影響
  • 業務や役割分担を見直せないか

そのうえで、人員補充や求人募集、役割分担の変更、業務運用の見直しなどの選択肢を比較することが、自院に合った判断につながります。

欠員対応で最初に確認したいのは、「一人不足する」という人数だけではありません。

どの業務が不足するのか、既存スタッフへどの程度影響があるのか、現在の運用を見直す余地があるのかを具体的に整理することが大切です。

産休・育休のように復帰時期が想定される場合は、欠員期間や復帰後の働き方も、その後の判断材料として確認します。

今回は、スタッフの産休をきっかけに人員補充を検討していたクリニックで、業務や体制を整理した結果、「今回は新たな人員補充を行わない」という判断になった事例をご紹介します。

1. 欠員が出たとき、最初に整理したいこと

スタッフの産休・育休や急な退職が分かると、院長は診療を続けながら欠員への対応を考えなければなりません。

特に小規模なクリニックでは、一人のスタッフが担っている役割が大きく、欠員による影響も見えにくいことがあります。

「受付スタッフが一人減る」「医療事務が一人不足する」といっても、実際に不足するものは人数だけではありません。

例えば、次のような影響が考えられます。

  • 患者さんの受付や会計に時間がかかる
  • 電話対応や予約管理が滞る
  • レセプトや請求業務を担う人が不足する
  • 特定のスタッフしか把握していない業務を引き継げない
  • 既存スタッフの残業や心理的な負担が増える
  • 休憩や有給休暇を取りにくくなる

診療を止めることはできませんし、患者さんをお待たせし続けるわけにもいきません。

そのため、「早く人を採用する」という発想になりやすいのは自然なことです。

一方で、現在の業務や役割分担を見直すことで対応できる場合もあります。

求人募集を始める前に、まず「欠員によって何が不足するのか」を具体的に確認することが、その後の判断をしやすくします。

2. 欠員対応で確認したい5つのポイント

欠員が出たときは、人員補充や求人募集をすぐに始めるのではなく、次の5つのポイントを整理すると、自院に合った選択肢を比較しやすくなります。

不足する業務は何か

まず確認したいのは、「誰がいなくなるのか」ではなく、「どの業務が不足するのか」です。

「受付」「医療事務」といった職種名だけではなく、患者受付、会計、電話対応、予約管理、レセプト、書類作成など、実際の業務まで整理します。

毎日発生する業務なのか、週に数回なのか、月に一度なのかによっても、対応の優先順位は変わります。

既存スタッフへどのような影響があるか

欠員分の業務を既存スタッフで分担できる場合もあります。

ただし、単純に仕事を振り分ければよいわけではありません。

現在の業務量、勤務時間、経験、教育に必要な期間、残業や休暇取得への影響まで確認する必要があります。

表面上は対応できそうでも、一部のスタッフへ負担が集中する状態では、長く続けられる院内運用とはいえません。

業務や役割分担を見直せないか

欠員をきっかけに、現在の業務の進め方や役割分担を見直せる場合があります。

例えば、重複している確認作業を減らす、紙で行っている管理方法を見直す、予約や問診の運用を変更するなどです。

また、特定のスタッフだけが分かる業務があれば、この機会に手順を共有し、属人化を減らすことも重要です。

人員補充を考える前に、「今の運用で改善できることはないか」という視点を持つことで、選択肢が広がることがあります。

人員補充を行う場合、受け入れと教育ができるか

人員補充には、求人媒体への掲載や採用活動だけでなく、面接、入職手続き、教育、既存スタッフとの役割調整など、多くの時間と労力が必要です。

欠員を補うために人員補充を行った結果、教育を担当するスタッフの負担が増え、現場がさらに忙しくなることもあります。

そのため、「採用できるか」だけではなく、「受け入れられるか」という視点も欠かせません。

欠員期間や復帰後の体制をどう考えるか

産休・育休のように一時的な欠員であれば、欠員期間や復帰後の働き方も判断材料になります。

ただし、復帰時期や勤務時間が確定しているとは限りません。

現在分かっていることと、まだ分からないことを分けて整理することが大切です。

急な退職の場合は、欠員期間を予測できないこともあります。その場合は、短期的に現場を回す方法と、長期的な人員補充や体制見直しを分けて考える必要があります。

欠員対応で最初に整理したい順番

  1. 不足する業務は何か
  2. 既存スタッフへどのような影響があるか
  3. 業務や役割分担を見直せないか
  4. 人員補充を行う場合、受け入れと教育ができるか
  5. 欠員期間や復帰後の体制をどう考えるか

3. 実際の相談で業務を整理して見えてきたこと

ある院長先生から、「スタッフが産休に入るため、その期間を補う人員補充を検討している」とご相談をいただきました。

院長先生としては、スタッフが一人不在になることで現場が回らなくなる不安があり、求人媒体への掲載時期や募集条件についても考え始めている状況でした。

ただ、すぐに求人募集を始めるのではなく、まず現在の業務と欠員による影響を整理することをご提案しました。

具体的には、次のような点を一緒に確認しました。

  • 産休・育休に入るスタッフが現在担っている業務
  • 各業務が発生する頻度と必要な時間
  • 不在になった場合に影響が出る業務
  • 既存スタッフが対応できる業務と難しい業務
  • 引き継ぎや教育に必要な期間
  • 特定のスタッフしか把握していない業務の有無
  • 産休・育休の予定期間
  • 復帰後に想定される勤務日数や勤務時間

業務を一つずつ言葉にしていくと、「人が一人足りない」という状況だけではなく、複数の論点が見えてきました。

既存スタッフで分担できる業務もあれば、引き継ぎ方法を決めておかなければ対応が難しい業務もあります。

また、特定のスタッフしか把握していない業務もあり、このままでは人員補充を行っても、すぐに対応できる状態ではないことが分かりました。

そこで、「誰がどの業務を担当するか」だけではなく、手順を共有する必要がある業務、一時的に頻度を見直せる業務などを分けて整理しました。

欠員対応では、「人員補充を行うかどうか」を急いで決めることよりも、まず現場で何が起きるのかを見える状態にすることが大切です。

現状が整理されると、院長だけで考え続ける必要がなくなり、既存スタッフとも具体的な話を進めやすくなります。

4. 人員補充以外に検討できる選択肢

欠員対応には、人員補充以外にも複数の選択肢があります。

どの対応が適しているかは、不足する業務、既存スタッフの状況、患者さんへの影響、欠員期間などによって異なります。

「欠員が出たから求人募集を始める」ではなく、自院で取り得る選択肢を比較することが大切です。

既存スタッフの役割分担を一時的に見直す

欠員による業務量の増加が限定的な場合は、既存スタッフの役割を一時的に見直す方法があります。

ただし、単純に業務を振り分ければよいわけではありません。

一部のスタッフだけに負担が集中すると、残業の増加や有給休暇が取得しづらくなるなど、新たな課題が生まれる可能性があります。

「誰が担当するか」だけではなく、「無理なく続けられるか」という視点で考えることが重要です。

業務の進め方そのものを見直す

これまで当たり前に行ってきた業務でも、頻度や進め方を見直せる場合があります。

例えば、重複している確認作業を減らす、紙で管理しているものを見直す、予約方法を変更するなどです。

欠員への対応をきっかけに、院内運用を見直せることも少なくありません。

勤務時間や勤務日数を相談する

既存のパートスタッフへ、勤務時間や勤務日数の変更を相談できる場合もあります。

ただし、生活事情や家庭の状況もあるため、「欠員が出たからお願いする」のではなく、本人の意向も確認しながら進めることが大切です。

必要な曜日・時間帯だけ人員補充を行う

フルタイムで一人募集するのではなく、不足する曜日や時間帯だけ募集する方法もあります。

業務内容が整理されていれば、「どのような人に、何をお願いしたいのか」が明確になるため、求人内容も具体的にしやすくなります。

システムや外部サービスを活用する

予約受付、電話対応、問診など、一部の業務をシステムや外部サービスで補える場合もあります。

ただし、「導入すれば解決する」と考えるのではなく、導入や教育にかかる時間、患者さんへの影響、欠員対応が終わった後も継続して使うのかまで整理して判断することが重要です。

人員補充だけに選択肢を絞らず、自院の状況に合った方法を比較することで、より納得した判断につながります。

5. 今回は「人員補充を行わない」という判断になった

今回のクリニックでは、現在の業務と既存スタッフへの影響を整理したうえで、次のような選択肢を比較しました。

  • 新たに人員補充を行う
  • 既存スタッフの役割分担を見直す
  • 業務の進め方を見直す
  • 不足する時間帯だけ補助的な人員を確保する

その結果、今回は新たな人員補充を行わず、既存スタッフの役割調整と業務運用の見直しで対応する判断になりました。

これは、「人員補充をしない方がよい」という意味ではありません。

今回の状況では、求人募集から採用、教育までにかかる時間や負担、産休・育休から復帰した後の人員配置まで考えると、まずは既存体制を見直す方が現実的だと整理されたということです。

一方で、欠員期間が長くなる場合や、既存スタッフへの負担が大きい場合、患者さんへの影響が避けられない場合は、人員補充を優先した方がよいケースもあります。

大切なのは、最初から「人員補充を行う」「行わない」と結論を決めることではありません。

まず現状を整理し、複数の選択肢を比較したうえで、自院として判断理由を持って決めることです。

今回の事例では、求人募集を始める前に現状を整理したことで、「今回は本当に人員補充が必要なのか」という論点を確認できました。

その結果、必要のない求人募集に時間を使うのではなく、引き継ぎや既存スタッフとの役割調整に時間を使うという判断につながりました。

6. 欠員対応で大切にしたいこと

私は、「人員補充を行うべきかどうか」を決める立場ではありません。

また、「求人募集を始めない方がよい」と決めつけることもありません。

大切にしているのは、院長が焦りの中で求人募集を始める前に、現状、背景、論点、選択肢、優先順位を整理し、自院として判断しやすい状態を整えることです。

欠員対応では、求人媒体、紹介会社、勤務条件、人件費、教育、既存スタッフへの影響など、多くのことを同時に考えなければなりません。

しかし、判断の前提が整理されていなければ、比較する情報が増えるほど迷いも大きくなります。

最初に不足する業務や既存スタッフへの影響を整理できれば、本当に比較する必要がある選択肢が見えてきます。

その結果、人員補充を行う場合でも判断理由を持ちやすくなり、比較や迷いに使う時間を減らし、診療や院内運用へ意識を戻しやすくなります。

目の前の欠員へ対応することは重要です。

一方で、その対応によって既存スタッフへ負担が集中したり、産休・育休から復帰した後に人員配置が過剰になったりすれば、長く続けられる運営にはつながりません。

応急処置だけではなく、欠員への対応が落ち着いた後も無理なく続けられる体制まで考えることが、地域で役割を果たし続けられるクリニックづくりにもつながります。

スタッフの欠員が出たときは、すぐに求人募集を始める前に、まず次の点を確認してみてください。

  • どの業務が不足するのか
  • 既存スタッフへどのような影響があるのか
  • 業務や役割分担を見直せないか
  • 人員補充を行う場合、受け入れと教育ができるか
  • 欠員期間や復帰後の体制をどのように考えるか
  • 対応後も無理なく続けられる運営になっているか

これらを整理することで、「人員補充を行うかどうか」だけではなく、「自院では何を優先して判断するのか」が見えやすくなります。

一人で比較し続ける前に、まず状況を整理してみませんか

スタッフの欠員対応では、人員補充、求人募集、教育、既存スタッフへの影響など、短期間で多くのことを判断する必要があります。

当事者だけで考えていると、日々の診療やこれまでの経緯もあるため、論点がまとまらなかったり、目の前の対応だけに考えが偏ったりすることがあります。

そのようなときは、院内の利害関係から少し離れた立場の人と一緒に整理することで、自院として何を優先して判断するのかが見えやすくなることがあります。

まえやまだ純商店では、答えや結論を代わりに決めるのではなく、 現在の状況・背景・論点・判断基準・選択肢・優先順位を整理し、院長ご自身が自院として判断理由を持ち、次の一手を決めやすい状態を整えること を大切にしています。

まずは状況確認面談(無料)から

現在の状況やこれまでの経緯を伺い、 何を整理する必要があるのか、 まえやまだ純商店の支援がお役に立てそうかを双方で確認します。

状況確認面談は、無料で答えや解決策を提示する場ではありません。サービス内容や進め方をご説明しますが、その場で契約を決めていただく必要もありません。

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まえやまだ純商店 前山田純

この記事を書いた人

前山田 純 まえやまだ純商店

2011年から医療機関の開業・経営支援に従事。院長が一人では整理しきれない経営課題について、現状や論点、判断基準、選択肢を整理し、自院として判断理由を持ち、次の一手を決めやすい状態づくりを支援しています。

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