欠員が出たとき、「すぐに補充する」こと自体を目的にするのではなく、 その時点でのクリニックにとって何がいちばん無理のない「納得解」かを、一緒に整理することを大切にしています。

クリニックを経営していく中で、スタッフのライフイベント(産休・育休など)は喜ばしいことである反面、経営者としては「現場が回らなくなる」という現実的な焦りに直面する瞬間でもあります。

「一人が欠けるから、すぐに新しいスタッフを募集しなければ」

そう考えるのは当然のことかもしれません。しかし、私はあるクリニックのご相談で、あえて「今は採用を止めましょう」という提案をしました。今回はその舞台裏をお話しします。

1. 「欠員」に対する焦りと、立ち止まる勇気

ある院長先生から、「スタッフが産休に入るため、その期間を埋める代替スタッフを募集したい」とのご相談をいただきました。院長先生の頭の中には、すでに求人広告の予算や、いつまでに面接を終えるべきかというスケジュールが浮かんでいました。

しかし、私はすぐに求人票を作るのではなく、一度立ち止まって「課題の棚卸し」をすることをご提案しました。

  • そのスタッフがいなくなった時、具体的に何の業務が、どの程度滞るのか?
  • その業務は、本当に「新しく雇用するスタッフ」でなければ解決できないことか?

【経営の視点】「コスト」ではなく「時給換算」で投資を考える

外部支援の導入やDX化を検討する際、どうしても「月額◯万円」といった総額に目が向き、導入を躊躇してしまうことがあります。しかし、私はそこで「時給換算」で考えることを推奨しています。

一例を挙げると、ファミレスなどで見かける配膳ロボットは、1台300万円ほどかかります。これだけ聞くと高価に感じますが、稼働時間で時給換算してみると、スタッフを新たに一人採用し続けるよりも、圧倒的にコストパフォーマンスが良いことがわかります。

今回のケースでも、「新たにスタッフを雇用し、教育し、社会保険料を負担し続けるコスト」を時給換算し、外部支援やシステムへの切り替えと比較しました。その結果、仕組みで解決する方が長期的にはクリニックの利益と安定を守れることが明確になったのです。

2. 「採用しない」という選択がもたらした結果

ヒアリングと整理を重ねた結果、院長先生は「今回は新しいスタッフを募集しない」という決断を下されました。一部の業務を外部支援に切り替え、残りを既存スタッフの役割分担の調整で対応することにしたのです。

この決断によって、以下のような変化が生まれました。

  • 教育コストのゼロ化: 新しいスタッフに一から教える時間と労力が必要なくなりました。
  • チームの結束: 「誰かが欠けても、仕組みと工夫で回せる」という成功体験が、スタッフの自信に繋がりました。
  • ミスマッチの回避: 焦って採用して、万が一組織に合わない方を招いてしまうリスクを事前に防ぐことができました。

3. 伴走者としての私の視点

「人がいなくなれば、スタッフを足す」。これは一見、迷いのない正解に見えます。しかし、安易に人を増やすことが、かえって現場のコミュニケーションを複雑にしたり、経営を圧迫したりすることもあります。

私の役割は、先生の「募集しなきゃ」という焦りを一度受け止め、「本当に今、そこにエネルギーとコストを投じるべきか?」を一緒に考えることです。

無駄な手間をかけずに済んだことを「あの時、整理して本当に良かった」と笑って話してくださる院長先生の姿を見て、手段(採用)ありきではない伴走の価値を、私自身も改めて実感することができました。

今いちど。
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