「スタッフが辞めたから、すぐに募集をかけよう」――多くのクリニックで当たり前のように繰り返されてきた反応パターンです。
しかし現実には、募集しても応募が集まらなかったり、採用しても数か月で退職してしまうケースが少なくありません。
「採用=人を増やすこと/退職時の欠員補充」という発想のままでは、いずれ立ち行かなくなります。人口減少と価値観の多様化が進む今、「人を採ることで解決する」から「仕組みで支える」への転換が求められています。
中医協が示す「人材」と「DX」──制度も変わり始めている
中央社会保険医療協議会(中医協)では、医療現場の人手不足と働き方改革を両立するためのDX(デジタルトランスフォーメーション)推進が継続的に議論されています。要点は次の通りです。
- 業務効率化と負担軽減:DXで業務効率化・負担軽減を図り、結果として人材確保や働き方改革につなげる視点。
- 診療報酬での評価:「医療DX推進体制整備加算」など、DXの取組を診療報酬で評価(マイナンバーカード保険証や電子処方箋の実装などが要件)。
- IT人材不足:多くの医療機関でIT人材が不足し、DX推進の現実的なボトルネックになっている。
- 情報連携の標準化:全国医療情報プラットフォーム構築に向け、診療情報提供書などの標準化(3文書6情報)が進展。
- 人員配置基準の柔軟化:DX進展を踏まえた配置基準の柔軟化も、今後の検討課題に。
2040年には医療・福祉分野で約100万人規模の人材不足が予測されるなか、“人を増やす”より“人を支える仕組み”に投資する時代に入っています。
参考資料: 「医療DX推進体制整備加算等の要件の見直しについて」(厚生労働省・中医協資料)、 中央社会保険医療協議会 総会資料一覧(厚生労働省)
採用に踏み切る前に見直す、4つのステップ
ここからは、採用に進む前に整理しておきたい4つのステップです。採用を「最初の選択肢」ではなく「最後の手段」とするための考え方です。
ステップ1:業務の棚卸しから始める
欠員が出たときこそ、「何を、誰が、どのように行っているか」を整理するチャンスです。
- その業務は本当に必要か?
- 他のスタッフが兼務できないか?
- マニュアル化・標準化できないか?
棚卸しでムダや重複が見え、改善の糸口が見えてきます。
「採用」より先に「仕組み」を整える発想が、長期的な安定につながります。
ステップ2:チーム内での再配置・分担を工夫する
「医師にしかできない」「看護師でなければできない」業務は、実は限られています。役割を再整理し、スタッフの得意を活かす設計で、チームの柔軟性を高めましょう。これは単なる省力化ではなく、やりがいと定着を生む仕組みづくりでもあります。
ステップ3:外部・システム・AIの力を取り入れる
内部で工夫しても限界がある場合は、外部委託やAIを含む仕組み化を検討します。
- 書類作成:紹介状・診断書など定型文書をAIで下書き
- 問い合わせ対応:診療時間・持ち物などのFAQを自動応答化
- 教育・研修:マニュアルや説明資料をAIで作成・共有(動画化含む)
AI導入は「人を減らす」ためではなく、人が本来の仕事に集中できる環境を整えるための手段です。AIは、チームを支える“デジタル同僚”と考えるのが現実的です。
AI活用を検討する際は、以下の記事も参考になります。
・クリニック採用の新基準:生成AIスキルをどう確認するか
・クリニックに生成AIを導入する際の注意点|安全性と経営リスクを考える
ステップ4:それでも人が必要なら採用へ
ここまでの整理を経てもなお人手が必要な場合、初めて採用に踏み切りましょう。そのときには「なぜこの人が必要か」「どんな価値を期待するか」が明確になります。採用は“欠員補充”ではなく、未来をつくる投資に変わります。
まとめ
人材不足の時代に必要なのは「採用力」よりも「再設計力」です。
業務の見直し → チーム再構成 → AI・外部活用 → 採用。
この順序を習慣化することが、持続可能な経営の基盤になります。
「どの業務から整理すべきか」「AIをどの範囲で使うべきか」――その答えは、院長先生ご自身の経営方針や価値観の中にあります。
このままでいいのか、一度整理したほうがいいと感じたときに
開業準備や日々の診療を続けるなかで、「何となく引っかかっていること」をそのままにしていませんか。
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即答よりも、「腑に落ちる」時間を大切にしています。まずは話すことから、整理がはじまります。
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