Q. スタッフが退職したとき、すぐに採用活動を始めるべきでしょうか?
スタッフから退職の申し出があったとき、多くの院長先生が最初に考えるのは、「次の人を探さなければ」ということかもしれません。
受付スタッフが辞める。看護師が辞める。常勤スタッフが退職する。そうなると、来月のシフト、診療中の受付対応、電話対応、会計、検査補助など、目の前の運営に一気に不安が出てきます。
さらに、「求人を出しても応募が来るだろうか」「残ったスタッフに負担が集中しないだろうか」「また同じように辞めてしまわないだろうか」「今の人件費で採用してよいのだろうか」と、複数の判断が重なります。
そのため、すぐに求人を出すという判断は自然です。ただし、退職が起きたタイミングは、単なる欠員補充だけでなく、退職理由、業務の偏り、役割分担、患者さんの流れを見直し、自院として次の判断をしやすくする機会でもあります。
この記事では、スタッフが退職したときに、すぐ採用活動へ進む前に確認しておきたい視点を整理します。
A. すぐ採用が必要な場合もありますが、反射的に同じ人数を補充する前に確認したいことがあります
スタッフが退職すると、どうしても「同じ職種を、同じ人数で補充する」という考えになりやすくなります。
受付が辞めたから受付を募集する。看護師が辞めたから看護師を募集する。診療を続けるために、すぐ採用が必要な場合もあります。
一方で、実際には単純に人が足りないのではなく、業務の偏り、患者導線の詰まり、システム活用不足、役割分担の曖昧さが負担を大きくしていることもあります。
また、退職理由を確認しないまま同じ条件で採用すると、新しく入ったスタッフにも同じ負担が集中し、「思っていた仕事と違った」「現場が忙しすぎる」と感じ、再び早期退職につながる可能性があります。
大切なのは、採用するかどうかを急いで決める前に、目の前の診療をどう維持するかと、数か月先も続けられる運用を分けて考えることです。
1. まずは診療を止めないための応急処置を考える
退職の申し出を受けた直後は、長期的な業務改善だけでなく、まず診療を止めないための対応が必要です。
- 退職日までに引き継ぐ業務を決める
- 一時的に既存スタッフへ分担できる業務を確認する
- 受付時間や予約枠を一時的に調整できるか検討する
- 院長が一時的に対応する業務を限定する
- 外部委託や短時間勤務者で補える業務がないか確認する
ただし、残ったスタッフへすべての業務を上乗せしたり、院長先生が診療の合間に対応し続けたりする状態は、長くは続きません。
応急処置は必要ですが、一時的にしのぐ対応を、そのまま通常運用にしないことが大切です。
2. 退職理由と再発の可能性を確認する
採用活動へ進む前に、可能な範囲で退職理由を確認します。
退職理由は、給与や家庭の事情など、クリニック側だけでは変えられない場合もあります。一方で、次のような背景が隠れていることもあります。
- 特定のスタッフに業務が集中していた
- 仕事内容や役割分担が曖昧だった
- 入職前に聞いていた仕事との違いがあった
- 院長やスタッフへ相談しにくい雰囲気があった
- 教育や引き継ぎが十分ではなかった
- 勤務時間や休憩の取り方に無理があった
- 患者対応や電話対応の負担が大きかった
本人からすべての理由を聞けるとは限りません。また、退職者の言葉だけで原因を決めつける必要もありません。
大切なのは、誰かを責めることではなく、同じ負担や曖昧さが残ったままになっていないかを確認することです。
退職理由を確認せずに同じ職種、同じ勤務条件、同じ業務内容で募集すると、採用できても同じ問題が繰り返される可能性があります。
3. 退職するスタッフの業務を洗い出す
次に確認したいのは、退職するスタッフが実際に担っていた業務です。
- 受付対応
- 電話対応
- 会計
- 予約変更
- 問診案内
- 検査案内
- レセプト補助
- ワクチン予約
- 物品管理
- 院内清掃や掲示物管理
- 新人スタッフへの説明
- 院長と他スタッフとの調整
「受付スタッフ」「医療事務」「看護師」と一言でいっても、実際には職種名からは見えない業務を多く担っていることがあります。
まずは、何を、誰が、どのタイミングで行っているのかを確認します。
その上で、業務を次のように分けて考えます。
- 必ず人が対応しなければならない業務
- 別のスタッフへ分担できる業務
- 手順を変えることで減らせる業務
- 掲示物やホームページで案内できる業務
- システムや外部サービスで補える業務
- 現在は行わなくてもよい業務
ここまで整理すると、単に「1人採用する」という判断だけでなく、どの業務を残し、どの業務を減らし、どの役割を新しいスタッフに任せたいのかを考えやすくなります。
4. 既存スタッフの業務負担を確認する
退職者が出たとき、院長先生は「人が1人減る」と考えがちです。しかし、現場では退職前から、すでに特定のスタッフに業務が集中していることがあります。
- ベテランスタッフだけが電話対応を抱えていないか
- 新人スタッフに説明しづらい業務が残っていないか
- 受付と看護師の役割分担が曖昧になっていないか
- 院長に確認しないと進まない業務が多すぎないか
- 欠勤や休暇が出ると運営が止まる業務がないか
この確認をせずに採用活動を始めると、求人票では「受付募集」と書いていても、実際には電話、予約、会計、患者対応、院内調整まで幅広く任せることになり、入職後のギャップが生まれやすくなります。
また、既存スタッフに一時的な負担をお願いする場合でも、どこまでなら無理なく続けられるのかを確認しておく必要があります。
残ったスタッフが「今だけなら対応できる」と考えていても、その状態が数か月続けば、疲労や不満、次の退職につながることがあります。
だからこそ、誰かの頑張りで補う運用から、無理なく続けられる運用へ移すことを考える必要があります。
5. 業務フローと患者導線を確認する
人手不足に見えている問題が、実は業務フローや患者導線の問題であることもあります。
例えば、受付が忙しい原因が「スタッフ数が少ないこと」ではなく、電話問い合わせの集中、予約変更の多さ、問診票の記入漏れ、会計待ちの滞留にある場合もあります。
- 患者さんはどこで待っているのか
- 受付で何が滞留しているのか
- 電話が集中する時間帯はいつか
- 予約、問診、診察、会計の流れに無理はないか
- スタッフが同じ説明を何度も繰り返していないか
- 患者さんから同じ質問を受け続けていないか
例えば、受付スタッフが1人退職した場合でも、負担の中心が電話対応なのか、会計なのか、予約変更なのかによって、必要な対策は変わります。
電話が主な負担であれば、案内方法や電話受付時間、自動音声案内の見直しが先になることがあります。会計が滞留しているのであれば、決済方法や受付動線の見直しが有効な場合もあります。
予約運用、WEB問診、FAQ、掲示物、ホームページなどを見直すことで、採用前に負担を減らせることもあります。
もちろん、すべてをシステムや掲示物で解決できるわけではありません。患者さんの年齢層、診療内容、スタッフの習熟度、院内のスペースによって、合う方法は変わります。
重要なのは、採用・業務改善・システム活用を別々に考えるのではなく、患者さんの流れとスタッフの動きを合わせて確認することです。
6. 採用・勤務体制・業務改善・システム活用を比較する
業務と負担を確認した後は、採用するかどうかだけでなく、複数の選択肢を比較します。
- 常勤スタッフを採用する
- パートや短時間勤務者を採用する
- 勤務時間やシフトを組み替える
- 既存スタッフの役割分担を見直す
- 行っている業務自体を減らす
- 外部サービスへ委託する
- 予約、問診、電話、会計などのシステムを見直す
採用には、求人広告費や紹介会社への手数料だけでなく、採用後の人件費も発生します。
- 給与
- 賞与
- 社会保険料
- 制服や備品
- システムアカウントや端末
- 早期退職した場合の再採用コスト
さらに見落としやすいのが、採用活動にかかる時間です。
- 求人票を作成する時間
- 応募者へ対応する時間
- 面接や見学へ対応する時間
- 入職手続きを進める時間
- 教育や引き継ぎにかかる時間
- 入職後にフォローする時間
これらは会計上の支出としては見えにくいものの、院長先生や既存スタッフの時間を確実に使います。
一方で、システムを導入する場合にも、導入費用だけでなく、スタッフへの説明、患者さんへの案内、運用変更にかかる負担を考える必要があります。
どの方法が正しいという話ではありません。重要なのは、費用だけでなく、必要な時間、既存スタッフへの影響、患者さんへの影響、数か月先も続けられるかを比較することです。
比較する軸が整理されると、例えば次のような判断がしやすくなります。
- まずは短時間勤務者を採用し、その間に業務を見直す
- 予約運用を変えてから、必要な採用人数を決める
- 常勤採用ではなく、繁忙時間だけ人員を補う
- 採用せず、行っている業務の一部を減らす
- システム導入と採用を組み合わせる
その結果、比較や迷いに使う時間が減り、院長先生が診療やスタッフとの対話へ使える時間を確保しやすくなります。
7. 採用する場合は、整理した内容を求人票へ反映する
業務、既存スタッフの負担、患者導線を確認した結果、採用が必要だと判断することもあります。
その場合は、整理した内容を求人票へ反映します。
整理前の求人票では、「受付スタッフ募集」「医療事務募集」といった職種名だけの表現にとどまりがちです。
しかし、採用前に業務を確認していれば、次のような内容を具体的に伝えやすくなります。
- 電話対応、会計、予約管理のうち、何が中心なのか
- WEB問診や予約システムをどの程度使用するのか
- 既存スタッフとどのように役割を分担するのか
- 未経験者でも取り組める業務設計になっているのか
- 入職後にどのように仕事を覚えてもらうのか
- どの時間帯や曜日の勤務を必要としているのか
仕事内容が具体的な求人票は、求職者にとっても応募後の働き方を想像しやすくなります。
また、院長先生にとっても、求人票を作る前に任せたい役割が言語化されていると、応募者との面接で確認すべきことが明確になります。
採用活動の前に整理することは、求人票を分かりやすくするだけでなく、入職後の認識のずれや早期退職を減らすことにもつながります。
まとめ:退職直後の応急処置と、続けられる運用を分けて考える
スタッフが退職したとき、すぐに採用活動を始めること自体が間違いというわけではありません。
診療を止めないために、早急な採用が必要な場合もあります。
ただし、同じ職種を同じ人数だけ補充する前に、次の点を確認することが大切です。
- 退職理由と同じ問題が残っていないか
- 退職者が実際に担っていた業務は何か
- 既存スタッフへ負担が偏っていないか
- 患者導線や業務フローに詰まりがないか
- 採用以外に選べる方法はないか
その結果、採用しない選択肢が見えることもあります。採用が必要だと分かった場合でも、必要な職種、勤務時間、任せたい業務を具体的にできます。
大切なのは、「辞めたから補充する」と反射的に考えるのではなく、目の前の診療をどう維持するかと、数か月先も無理なく続けられる運用をどう整えるかを分けて考えることです。
業務を洗い出すこと自体は、一人でもできます。しかし、「人を採用する」「勤務時間を組み替える」「業務を減らす」「システムを導入する」といった選択肢を、費用・時間・スタッフへの影響まで含めて比較し、優先順位を決めるところで止まりやすくなります。
そのようなときは、正解を急いで決めるのではなく、現在の状況、背景、論点、選択肢を分け、自院として納得して判断しやすい状態を整えることが次の一歩になります。
スタッフ退職後の判断を、一人で抱え込みそうなときに
スタッフが退職した後は、目の前のシフトを埋めることに加えて、退職理由、既存スタッフの負担、採用条件、患者さんの流れ、システム活用など、複数の判断が重なります。
一人で考えていると、何から確認し、どの選択肢を優先するべきか分からなくなることもあります。
まえやまだ純商店では、採用するかどうかを一方的に決めるのではなく、現在の状況、退職の背景、業務の偏り、採用以外の選択肢を整理し、自院として次の一歩を判断しやすい状態を整えます。
支援内容と進め方を確認する
相談内容がまとまっていない段階でも、今の状況を確認するところから始められます。
その場で利用を決めていただく必要はありません。
どのような相談が対象になるか確認したい方は、相談できる内容もご覧ください。
