クリニック経営を「需要と供給」から考える|地域で求められる医療と自院の役割を整理する
更新日:2026年8月11日
「患者数が思ったように増えない」 「以前より新患が減った気がする」 「近隣にクリニックが増えている」――。
こうした状況になると、広告を増やすべきなのか、 診療内容や診療時間を見直すべきなのか、 あるいはもう少し経過を見るべきなのか、判断に迷うことがあります。
そのとき、現在の状況を整理する一つの方法として、 本記事では「需要と供給」という言葉を使います。
なぜ医療で「需要と供給」という言葉を使うのか
「需要と供給」という言葉は、 医療の現場では少し馴染みにくく感じるかもしれません。
医療は、一般の商品やサービスとは異なります。 患者さん自身が医学的な必要性をすべて判断できるわけではなく、 保険制度、診療報酬、医療安全、専門性、地域医療としての役割など、 多くの前提があります。
そのため、 「需要があるものを提供すればよい」 という市場原理だけで医療を考えることはできません。
それでも、あえて「需要と供給」という言葉を使うのは、 「地域で何が求められているのか」と「それに対してどのような医療が提供されているのか」を分けて考えることで、自院の立ち位置を整理しやすくなるから です。
本記事では、需要と供給を経営判断の答えとして使うのではなく、 地域と自院の関係を整理するための考え方として扱います。
この記事でいう「需要」とは何か
クリニック経営で「需要」と聞くと、 患者数や受診回数、診療圏人口などを思い浮かべるかもしれません。
もちろん、こうした数字は重要です。 ただし、本記事ではもう少し広く捉えます。
この記事でいう需要
- 患者さんが抱えている症状や不安
- 生活上の困りごと
- 医療機関へ相談したいこと
- 受診する前に迷っていること
- 診療時間やアクセスなど、受診するうえで必要としている条件
- 地域の中で必要とされている医療や支援
つまり需要とは、 「何人の患者さんが来院しているか」だけではなく、その手前にある困りごとや受診ニーズまで含めて考えるもの です。
需要は患者数だけでは見えない
患者さんは、症状や不安が生じた瞬間に、 必ずクリニックを受診するわけではありません。
まずインターネットで調べることもあれば、 家族や知人に相談したり、市販薬で様子を見たりすることもあります。
また、 「どこへ相談すればよいか分からない」 「仕事を休みにくい」 「予約が取りにくそう」 「この程度で受診してよいのか迷う」 といった理由で、受診をためらうこともあります。
そのため、患者数が少ないという結果だけを見て、 「この地域には需要がない」 と判断するのは早い場合があります。
例えば、次のような問いを置いてみます。
- 地域の患者さんは、どのようなことで困っているのか
- その困りごとは、どこへ相談されているのか
- 医療機関を受診する前に、どこで立ち止まっているのか
- 自院が対応できることが、必要な人に知られているのか
人口構成や競合医療機関など、 診療圏調査で確認できる情報も参考になります。 ただし、数字だけではなく、 その地域で患者さんが何に困り、どのように受診先を探しているのか まで考えることで、需要の見え方は変わります。
診療圏調査を、推計患者数だけでなく 「地域の需要と供給を整理する材料」としてどう考えるかについては、 診療圏調査シリーズのまとめ でも整理しています。
この記事でいう「供給」とは何か
供給も、単純に 「地域にクリニックが何院あるか」だけではありません。
この記事でいう供給
- 地域にある医療機関や診療科
- 提供されている診療内容
- 診療時間や予約方法
- アクセスや駐車場などの受診環境
- 人員、設備、院内体制
- どのような患者さんや相談を受け止めているか
- 地域の中で担っている役割
同じ診療科でも、実際に担っている役割は異なります。
- 急な症状を広く受け止める
- 生活習慣病を継続的に診る
- 特定の疾患や検査に重点を置く
- 働く世代が受診しやすい時間帯に診療する
- 高齢患者の継続的な通院を支える
- 必要に応じて病院や他の医療機関へつなぐ
そのため供給を見るときには、 「何院あるか」だけでなく、「誰の、どのような相談を、どこで受け止めているのか」 まで確認した方が、自院の立ち位置を整理しやすくなります。
需要と供給の「ズレ」を見る
需要と供給を分けて考えると、 患者数が多い・少ないという結果だけでは見えにくいことがあります。
例えば、地域では仕事帰りに受診したい患者さんが一定数いる一方で、 その時間帯に診療している医療機関が少ないことがあります。
反対に、自院ではある診療や支援に力を入れていても、 そのことが患者さんに十分伝わっていなければ、 必要としている人から見つけてもらえない可能性があります。
また、地域で求められている役割と、 自院が現在提供している診療や体制が少しずれていることもあります。
「患者さんが少ない」ことと「需要がない」ことは同じではありません。 また、「競合が多い」ことと「自院に役割がない」ことも同じではありません。
すぐに「需要不足」「供給過多」と結論づけるのではなく、 地域で求められていること、自院が提供できること、その伝わり方のどこにズレがあるのか を分けて確認します。
患者数が少ないとき、すぐに施策を増やさない
患者数が思うように増えないと、 「広告を増やす」 「SNSを始める」 「ホームページを作り直す」 といった新しい施策を考えたくなることがあります。
ただし、その前に確認したいことがあります。
- 地域の患者さんは何に困っているのか
- その困りごとに対して、自院は何ができるのか
- 患者さんは、そのことを知ることができるのか
この3つが整理されていないまま施策や媒体を増やしても、 「誰に何を伝えるのか」が曖昧なままになる可能性があります。
反対に、この関係が整理できると、 ホームページ、Googleビジネスプロフィール、院内案内など、 どの接点を見直す必要があるのかも考えやすくなります。
開業後の患者数が気になっている場合は、もう一段具体的に整理できます
- クリニック開業後、患者数はいつ安定する?|現在地を確認する3つの段階 開業後の患者数を、単純な「多い・少ない」ではなく、 現在どの段階にいるのかという時間軸から整理します。
- クリニックの患者数が少ないと感じたら|最初に確認したい7つのこと 患者数が少ないと感じたときに、 新しい施策を増やす前に何を確認するかを整理しています。
- 開業後、「患者が来ない」と感じた院長と整理したこと【相談事例】 患者数への不安から、患者層や地域からの見え方などを 実際にどのように整理したかを紹介しています。
需要と供給を整理した後に、 自院が提供できることを患者さんにどう伝え、 実際の受診につなげていくかは、 次の実務として考えていきます。
需要と供給は、経営判断の答えではない
需要と供給を整理したからといって、 「広告を増やすべき」 「診療時間を変えるべき」 「新しい診療を始めるべき」 といった結論が自動的に出るわけではありません。
医療には、医学的な必要性、医療安全、 院長やスタッフの負担、設備、人員、収支、 地域医療としての役割など、 ほかにも確認すべき条件があります。
需要と供給を整理した後に、例えば次の点も確認します。
- 現在の患者数や新患・再診の動き
- 自院の診療内容や受入体制
- スタッフ数や業務負担
- 収支や必要な診療量
- 地域で求められている役割
- その役割を無理なく継続できるか
そのうえで、 自院として何を変えるのか、何を変えないのか を考えていきます。
需要と供給は、経営判断そのものではありません。 患者数や競合数といった一つの数字だけで判断せず、 現在の状況や前提を整理するための一つの考え方 です。
「自院ではどうするか」を整理したいときに
地域の状況、患者数、診療内容、スタッフ体制、収支など、 クリニック経営では複数の条件が重なります。
まえやまだ純商店では、 現在の状況や必要な情報を確認し、 選択肢や優先順位を整理しながら、 自院として次に何をするかを一緒に検討しています。
必要に応じて、比較表、確認事項、チェックリスト、 クリニックホームページ文章などの叩き台作成にも対応します。
相談内容を最初からきれいに整理していただく必要はありません。 現在気になっていることや、これまでの経緯から確認します。
