正解を急がず、納得して続けるために。 クリニック開業・経営の判断の前提を、静かに整える時間。

クリニック開業・経営コラム

オンライン診療を「広げない」という判断 ──制度が進む中で、あえて線を引いた理由を整理する

オンライン診療は、国として非常に積極的に推進されている医療の形です。
医師不足、高齢化、地域格差といった構造的な課題を背景に、「不可欠なインフラ」として位置づけられ、制度整備も急速に進んでいます。

そのため、

  • 「オンライン診療を本格的に導入すべきなのではないか」
  • 「やっていないと、時代に取り残されるのではないか」

そんな焦りに近い感覚を抱いたことのある院長先生も、少なくないのではないでしょうか。

今回の記事は、ある院長との対話の中で出てきた
「オンライン診療をどう扱うべきか」という問いを、一緒に整理していった過程をまとめたものです。
答えを出すというより、判断の軸を言葉にしていく時間でした。

「国が推進している」ことと、「自院でどう扱うか」は別の話

最初に立ち止まって整理したのは、この前提でした。

国がオンライン診療を推進しているのは、医療提供体制全体をどう維持するかという視点からです。

  • 医師の偏在
  • 通院が難しい患者の増加
  • 対面診療だけでは回らなくなる地域の存在

こうした状況に備え、「使える選択肢を増やしておきたい」という意図があります。

ただし、それは決して、

すべての医療機関が
すべての患者に
オンライン診療を積極的に提供すべき

という意味ではありません。

制度は整えられた。
あとは、各医療機関が自院の診療構造に合わせて選ぶ
その余白が、意図的に残されています。

二択で考えない──「どこまでにするか」を決める

オンライン診療の話題になると、どうしても「やる/やらない」という二択になりがちです。

しかし、対話を重ねる中で浮かび上がってきたのは、その間に、実は多くの選択肢があるという事実でした。

  • 完全に導入しない
  • 再診のみ、限定的に行う
  • 特定の疾患・状態に限る
  • 時間帯を固定して実施する

この院長が選んだのは、「制度としては理解しているが、今は広げない」という立ち位置でした。

「やらない」と決めた、というより、
「どこまでなら無理なく続けられるか」を整理した結果でした。

整理①:なぜ「初診オンライン」を主軸にしなかったのか

制度上、初診からオンライン診療を行うことは可能になりました。
ただし、可能であることと、適していることは別です。

初診では、

  • 患者の背景情報が限られている
  • 表情や全身所見が取りづらい
  • 医師と患者の関係性がまだ築かれていない

といった条件が重なります。

当初、この院長も
「制度がここまで進んでいるなら、何かしなければいけないのでは」
という迷いを感じていたそうです。

しかし整理していく中で、

  • 判断が慎重になりやすいこと
  • 結局「一度は対面で診たい」という判断に戻る場面が多いこと

が言葉になっていきました。

であれば、

初診は、まず対面で関係性をつくる。
その上で、必要に応じてオンラインを組み合わせる。

この考え方は、消極的でも、時代遅れでもなく、現場に即した合理的な整理です。

整理②:再診・継続診療なら成立しやすい理由

一方で、再診については状況が異なります。

  • すでに診療歴がある
  • 病状や生活背景を把握できている
  • 患者も医師の診療スタイルを理解している

この状態であれば、オンライン診療は
「診察の一部を置き換える手段」として機能しやすくなります。

この院長は、

  • 状態が安定している患者
  • 定期フォローや処方継続が中心のケース

に限って、オンライン診療を選択肢として残しました。

広げすぎないが、閉じすぎない。
そのバランスを意識した線引きです。

整理③:「診療科」ではなく「症状の性質」で考える

対話の中で印象的だったのは、
「診療科名で一律に判断することへの違和感」でした。

同じ診療科でも、

  • 状態が安定しているケース
  • 症状の変動が大きいケース

は混在しています。

そこでこの院長は、診療科ではなく、「症状の性質」で整理するという考え方を採りました。

比較的、オンラインと相性がよいと整理したケース

  • 慢性疾患の安定期フォロー(高血圧、脂質異常症、糖尿病など)
  • 検査結果の説明(数値が安定している場合)
  • 症状変化の少ない再診
  • 生活指導や服薬状況の確認

対面を基本にしたいと整理したケース

  • 初診全般
  • 症状の変動が大きい場合
  • 身体診察や検査が重要なケース
  • 患者背景の把握がまだ不十分な場合

これは「オンライン診療が良い・悪い」という話ではなく、
どの場面で使えば診療の質を保てるかを整理した結果でした。

整理④:睡眠時無呼吸症候群(SAS)の場合

具体例として、睡眠時無呼吸症候群についても整理が行われました。

SASは、

  • 診断
  • 治療導入
  • 治療継続・管理

というプロセスが比較的明確な疾患です。

そのため、

  • 診断や治療導入は対面を基本
  • 治療が安定してからの定期フォローは、オンラインも選択肢

という線引きがしやすいと整理されました。

CPAPの使用状況や数値は客観的に確認できるため、
再診・管理のフェーズでは、必ずしも毎回対面である必要はないと判断したからです。

一方で、

  • 使用状況が不安定な場合
  • 症状の変化がある場合

には、迷わず対面に戻す。
「オンラインありき」にしないことが、この院長にとっての重要な前提でした。

「やらない」のではなく、「守るために線を引く」

対話の終盤、院長はこう語っていました。

「便利なのは分かっているんです。
ただ、これ以上、現場を複雑にしたくなかった」

オンライン診療は、設計を誤ると、

  • 判断に迷う場面が増える
  • スタッフ対応が煩雑になる
  • 想定外の負荷が積み重なる

という側面も持っています。

だからこそ、

  • 無理に広げない
  • 対面診療の質を落とさない範囲にとどめる

という判断は、診療と現場を守るための経営判断とも言えます。

まとめ|判断軸を言葉にするということ

オンライン診療に限らず、これからのクリニック経営では、

  • やる/やらない

ではなく、
どこまでやるかを、どう説明できるかが問われる場面が増えていきます。

もし自院でオンライン診療を検討するなら、
「導入するかどうか」ではなく、

  • どのフェーズまでなら安心して任せられるか
  • どの症状なら診療の質を保てるか

そうした視点から整理してみてもよいのかもしれません。

こうした制度と現場のあいだで揺れる判断を、一人で抱え続けるのは、意外と負荷がかかるものです。
私は、院長自身が「この判断でよかった」と納得できる形を、一緒に言葉にしていく時間を大切にしています。

「やらない」という判断も、整理され、共有されていれば、
十分に前向きで、続けるための戦略になります。


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