「正解は分かっているのに、決めきれない」医師に起きていること ──開業前後で判断が止まる理由は、能力ではなく構造にある
なぜ「もう分かっている」はずなのに、前に進めないのか
開業を考え始めたとき、多くの医師はこう感じています。
「論点は見えている」「選択肢も分かっている」。
勤務医を続けるか、開業するか。
開業するとしたら、いつ・どこで・どの規模でやるのか。
頭の中では、一通りの整理はできている。
それでも、判断の手前で止まってしまう。
決めきれないまま、時間だけが過ぎていく。
この状態は、決して珍しいものではありません。
そして多くの場合、「覚悟が足りない」「まだ本気じゃない」と、自分自身に理由を求めてしまいます。
けれど、実際に起きているのは、判断力の問題ではないケースがほとんどです。
「判断が重い」状態は、能力不足ではなく“役割の重なり”から生まれる
医師が開業を考えるとき、ひとつの判断に、いくつもの役割が重なります。
- 医師としての専門性・使命感
- 将来、院長になる立場としての責任
- 経営者としての現実的な視点
- 家族や周囲との関係性
それぞれが、同じ判断に対して別の基準を求めてきます。
医師としては「必要だ」と思っている。
一方で、経営者としては「リスクが気になる」。
家族の立場を考えると、踏み切れない。
これらが整理されないまま重なっていると、判断はどうしても重くなります。
それは、能力が足りないからではありません。判断すべき論点が多すぎる状態になっているだけです。
相談しているのに、なぜ決断が軽くならないのか
「一人で考えていても進まないから、相談している」
そう感じている方も多いと思います。
それでも、相談したあとに
「少しは分かったけれど、決断は変わらず重い」
という感覚が残ることがあります。
これは、相談の内容が悪いわけでも、助言をくれた相手が悪いわけでもありません。
多くの場合、「正解を提示される相談」になっていることが原因です。
正解をもらえば楽になるはず、と思っていたのに、実際には「その判断を自分が引き受けきれない」感覚が残る。
結果として、決断が先延ばしになる。
判断を軽くするつもりの相談が、かえって判断を重くしてしまう構造が、ここにはあります。
判断を“早くする”のではなく、“置きどころを変える”という考え方
この状態で必要なのは、「早く決めること」ではありません。
むしろ、判断をどこに置いているかを見直すことです。
- どの立場で考えているのか
- どの役割の基準で迷っているのか
- 何と何が混線しているのか
これらが分かれないままでは、どれだけ時間をかけても、判断は前に進みません。
判断を急がせるより、一度、考えを分けて置き直す。
そのほうが、結果として判断は自然に動き始めます。
医師ではない第三者が関われる余地について
私は医師ではありません。
医療の正解や、経営の答えを持っている立場でもありません。
その代わり、「どの判断を、どの立場で、どの基準で考えているのか」を一緒に整理することには関われます。
正解を教えることも、判断を代行することもありません。
ただ、頭の中で絡まっている論点を言葉にし、並べ直す。その過程に、第三者として同席する。
医師ではないからこそ、評価もしないし、結論も急がせない。
そういう関わり方が、必要になる場面があります。
決めないまま時間が過ぎる、というリスク
決められない状態が続くと、「何も決めていない」ようでいて、実際には時間だけが進んでいきます。
環境は変わり、周囲の前提も少しずつ積み上がる。
あとから振り返ったときに、「考える余裕がなかった」と感じることも少なくありません。
ここで大切なのは、不安を煽ることでも、今すぐ決断を迫ることでもありません。
ただ、決めない状態にも、構造があるという事実に目を向けることです。
考えを整理するという選択肢──正解を渡さない関わり方
判断に迷ったとき、答えを探す以外の選択肢もあります。
一度立ち止まり、いま頭の中にある論点を整理する。
自分がどこで引っかかっているのかを言葉にする。
正解を渡さない。
代わりに、判断軸を取り戻す時間をつくる。
そういう関わり方が必要になる場面も、確かにあります。
整理したからといって、すぐに決断できるようになるとは限りません。
ただ、「何に迷っているのか分からない状態」からは、少し離れることができます。
その結果として、判断が少しだけ軽くなったり、次に何を確かめればよいかが見えたりすることがあります。
もし今、「分かっているのに、決めきれない」という感覚が続いているなら。
それは、能力や覚悟の問題ではなく、構造の話なのかもしれません。
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