正解を急がず、 クリニック経営で重なりやすい論点を整理するために。 患者さんの視点も踏まえながら、 開業準備や日々の経営で迷いやすい場面の前提を整える時間です。

クリニック開業・経営コラム

医師偏在対策で診療所開業の前提はどう変わる?改正医療法と2026年制度変更から整理する開業判断のポイント

この記事は、現在、開業準備を進めている先生、あるいはこれから開業を検討し始めた先生に向けて書いています。
2025年12月に成立した改正医療法や、2024年12月25日に示された医師偏在の是正に向けた総合的な対策パッケージを踏まえると、開業判断の前提条件は少しずつではなく、すでに現実的に変わり始めています。
不安を煽るのではなく、いまの段階で何を整理しておくとよいかを落ち着いて整理していきます。

何が変わったのか|「減算の可能性」ではなく、具体的な算定制限が示された

今回の制度変更で押さえておきたいのは、外来医師過多区域における無床診療所の新規開業について、一定の場合に具体的なペナルティが制度化されたことです。

  • 都道府県知事から地域外来医療の提供を要請される
  • その要請に応じない
  • その結果、保険医療機関の指定が3年以内とされる場合がある
  • その場合、機能強化加算、地域包括診療加算、地域包括診療料、小児かかりつけ診療料の算定ができず、在宅療養支援診療所の届出もできない

つまり、今回の話は「そのうち減算があるかもしれない」というぼんやりした話ではありません。
開業の仕方によっては、最初から収支計画に影響するところまで、すでにルール化が始まっています。

「すぐに一律で不利になる」わけではないが、軽く見ない方がよい

もっとも、すべての新規開業者が直ちに不利になるわけではありません。
対象となるのは、あくまで外来医師過多区域で、無床診療所を新規開業し、さらに協議・要請の流れを経ても地域外来医療を担わないと整理された場合です。

その意味では、「今すぐ開業できなくなる」と受け止める必要はありません。
ただし一方で、今回の制度は「開業すれば何とかなる」という発想が通用しにくくなったことを、かなり明確に示しています。

開業判断の「前提条件」は、すでに変わっている

今回の本質は、ペナルティの有無だけではありません。
なぜこの地域で開業するのか地域医療の中でどの役割を担うのかを、後からではなく最初から整理しておくことが制度上も求められるようになったことです。

  • なぜこの地域で開業するのか
  • 地域医療の中で、どの役割を担うのか
  • 行政や地域から、どう位置づけられるのか
  • その役割を、事業計画や収支計画にどう落とし込むのか

制度上も、外来医師過多区域で無床診療所を開設する場合は、開設日の6か月前までに、地域外来医療を提供する意向や、提供しない場合の理由などを都道府県へ届け出ることが原則になりました。
つまり、「後から説明するもの」ではなく、最初から整理しておくものとして扱われ始めています。

地域から求められる役割とは何か

では、行政から求められる「地域外来医療」とは何か。
厚生労働省の資料では、例えば次のような機能が挙げられています。

  • 夜間や休日等における地域の初期救急医療
  • 在宅医療
  • 学校医・予防接種等の公衆衛生に係る医療

開業準備の初期段階から、自院の強みと無理のない運営体制の中で、どの役割なら担えるのかを考えておくことが、制度リスクへの最も現実的な備えになります。

なぜ今、ここまで踏み込んだのか

背景には、ここ数年続いている医療政策の流れがあります。

  • 地域医療構想
  • かかりつけ医機能の整理
  • 外来医療の役割分担
  • 医師偏在是正に向けた総合的な対策

いずれも共通しているのは、医療を「点」ではなく「面」で捉えるという考え方です。
今回の制度変更は、その考え方を理念だけで終わらせず、開業実務や診療報酬にまで接続し始めたものと見ることができます。

今回は「予告編」ではなく、本編の始まり

今回の制度変更は、単なる予告編ではありません。
機能強化加算等の算定不可という形で、すでに具体的な実害が生じうる段階に入っています。

そのうえで法律上は、2026年4月1日の施行後3年を目途に、外来医師過多区域で新たに開設された無床診療所が、廃止された無床診療所を上回る区域がある場合、新たな無床診療所の開設の在り方について検討し、所要の措置を講ずるとされています。

つまり、今回ですでに本編は始まっており、さらに先も続くという理解の方が実態に近いと思います。

すでに開業している院長先生へ

同じ2026年診療報酬改定の流れは、既存の診療所経営にも影響します。
「今すぐ決めなくていいこと/今から考えておくこと」を整理した記事はこちらです: 2026年診療報酬改定で、今すぐ決めなくていいこと|情報が多い時期に院長が落ち着いて整理したい視点

開業準備中だからこそ、考えておきたいこと

開業そのものが否定されているわけではありません。
ただし、考える順番を整えないままの開業は、これまで以上に制度面・収支面のリスクを伴いやすくなっています。

  • どの地域で、どの患者層に、どんな医療を届けるのか
  • 地域から求められる役割のうち、何を現実的に担えるのか
  • その役割が、診療体制・人員配置・収支計画と矛盾しないか
  • 無理なく続けられる形で、地域との接点をどう持つのか

制度が厳しくなったというより、曖昧なまま始めることのリスクが見えやすくなったと捉えると、整理しやすいかもしれません。

まとめ|制度が変わるほど、先に整理しておく意味が大きくなる

制度が変わっても、開業判断の本質まで変わるわけではありません。
ただ、これからは「どこで開業するか」だけでなく、「地域の中で何を担うか」まで含めて整理しておくことが、より重要になります。
正解を急ぐよりも、納得できる判断軸を先に整えること。それが、これからの開業準備ではますます大切になっていきます。

参考文献

本記事は、2026年4月時点で確認できる制度資料をもとに整理しています。今後、厚生労働省から追加の通知や事務連絡等が公表された場合は、内容を順次更新していきます。

開業判断の前提を、
一度落ち着いて整理したい先生へ

こうした制度の変化に触れると、「どこから考えればよいのか分からなくなる」ことがあります。
実際には、判断が重くなり始めた段階で相談されることが多く、最初から論点が整理されている必要はありません。

こちらでは、正解を提示するのではなく、開業場所・地域で担う役割・事業計画の優先順位など、判断の前提を整理する支援を行っています。

相談内容が整理できていない段階でも問題ありません。
むしろ、何から考えるべきかを整理するところから始まることが多くあります。
臨床と同じように、経営判断も「症状が出てから」ではなく、「違和感の段階」で整理することに意味があります。

はじめて利用される方へ

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