医療法改正でクリニック開業は本当に難しくなる?|外来医師過多区域から考える開業判断
この記事は、現在開業準備を進めている先生、またはこれから開業を検討している先生へ向けてまとめています。2025年の医療法改正や医師偏在対策、2026年度診療報酬改定など、公表されている資料をもとに整理しています。今後、新たな通知や都道府県ごとの運用が示された場合は、必要に応じて内容を更新します。
医療法改正や医師偏在対策について調べていると、次のような疑問や不安を感じる先生も多いのではないでしょうか。
- クリニック開業は本当に難しくなるのか
- 外来医師過多区域とは何か
- 都市部では開業できなくなるのか
- 今の開業計画を見直した方がよいのか
結論から言えば、今回の制度変更によって全国一律にクリニック開業が難しくなるわけではありません。
一方で、外来医師過多区域で新たに無床診療所を開設する場合は、開業前の事前届出や地域医療への協力など、これまで以上に確認しておく事項が増えます。
この記事で分かること
- 医療法改正によって新規開業はどう変わるのか
- 外来医師過多区域と外来医師多数区域の違い
- 開業予定地や診療体制について確認したいこと
- 地域で役割を果たし続けられるクリニックを考える視点
制度の情報が増えるほど、開業予定地、診療内容、融資、物件、採用、設備投資といった判断は、互いに影響し合うようになります。
だからこそ今回の改正は、「開業できる・できない」という話だけではありません。
地域でどのような役割を担い、患者さんにどのような価値を届けるクリニックを目指すのか。
その軸を開業前から整理するきっかけとして捉えることが、これからの開業準備ではより重要になります。
目次
医療法改正でクリニック開業は本当に難しくなるのか
まず押さえておきたいのは、今回の医療法改正は、全国一律にクリニック開業を制限する制度ではないということです。
無床診療所の開設は、引き続き届出制が基本です。すべての開業について、都道府県が自由に許可・不許可を判断する制度へ変わったわけではありません。
一方で、外来医師過多区域で無床診療所を新たに開設する場合には、開業前の事前届出や、地域で不足する医療機能への協力など、新たな仕組みが設けられています。
そのため、「開業できなくなる」と考えるのも、「これまでと何も変わらない」と考えるのも、どちらも実態とは少し異なります。
今回の制度で大きく変わるのは、「開業できるかどうか」ではなく、「地域でどのような役割を担うクリニックとして開業するのか」を、これまで以上に整理する必要があることです。
これまでも地域医療への貢献は大切にされてきました。
しかし今回の制度では、その考え方が開業前の手続きや診療報酬、地域医療計画とも結び付き、より具体的な形で確認されるようになります。
そのため、物件や融資、医療機器の選定だけではなく、次の視点も並行して整理しておくことが重要です。
- 開業予定地では、どのような医療が求められているのか
- どのような患者さんを継続して支えたいのか
- 自院は地域でどの役割を担うのか
- その役割を無理なく続けられる体制になっているか
外来医師過多区域とは何か
外来医師過多区域とは、外来医療の提供状況や医師偏在指標などを踏まえ、外来医療が過密となっている地域として都道府県が指定する区域です。
これまで「外来医師多数区域」という言葉を目にした先生もいると思います。
今回の制度では、それとは別に「外来医師過多区域」という枠組みが整理され、一定の地域では開業前の届出や地域医療への協力などと結び付けられています。
そのため、外来医師多数区域と外来医師過多区域を、同じ意味として理解しないことが大切です。
全国すべての都市部が対象になるわけではありません
外来医師過多区域は、全国すべての都市部が一律に対象となるものではありません。
地域ごとの医療提供体制や医師偏在の状況を踏まえて、都道府県が指定する仕組みです。
そのため、「都市部だから対象」「地方だから対象外」と単純に判断することはできません。
まず確認したいのは、自分が開業を検討している地域が、制度上どのような位置付けになるのかです。
制度名だけで不安になるのではなく、その地域ではどのような医療が求められているのか、自院はどのような役割を担えそうかまで確認しておくことが大切です。
自由開業制はなくなるのか
今回の医療法改正によって、自由開業制が直ちになくなるわけではありません。
無床診療所の開設は、これまでどおり届出制が基本です。
一方で、医師偏在への対応として、地域によっては開業前の届出や地域医療への協力など、新たな制度が始まります。
つまり、「自由に開業できるか」という議論だけではなく、地域の医療提供体制の中で、自院はどのような役割を担うのかまで考えることが求められるようになっています。
今回の制度変更は、自由開業制を直ちに否定するものではなく、地域医療とのつながりを踏まえて開業を考える方向へ進んでいる、と理解すると整理しやすくなります。
そのため、駅前であること、患者数が見込めそうなこと、競合が少ないことだけではなく、次の視点も必要になります。
- どの患者さんを支えたいのか
- 地域で不足している医療は何か
- 自院は何を強みとして提供するのか
- その診療を継続できる体制をつくれるか
外来医師過多区域で開業する場合、何が変わるのか
外来医師過多区域で新たに無床診療所を開設する場合は、原則として、開設予定日の6か月前までに都道府県への事前届出が求められます。
届出では、所在地や診療科だけでなく、地域外来医療を提供する意向などについても確認されます。
そのため、物件契約や融資を進めた後ではなく、開業準備の早い段階から次の内容を整理しておくことが大切です。
- なぜその地域で開業するのか
- どのような患者さんを支えたいのか
- 地域で不足している医療は何か
- 自院はどこまで現実的に担えるのか
- 診療体制や収支計画と矛盾しないか
物件、融資、採用、医療機器、システム導入などを個別に考えるのではなく、地域で果たす役割という一つの軸で整理すると、判断の優先順位が見えやすくなります。
開業スケジュールにも影響します
事前届出が必要となる場合は、物件契約、融資、採用、内装工事、システム導入などとの順番も確認する必要があります。
制度対応だけを切り離すのではなく、開業準備全体のスケジュールの中で整理しておくことが大切です。
地域で求められる医療とは何か
地域外来医療としては、例えば次のような役割が想定されています。
- 夜間・休日などの初期救急
- 在宅医療
- 学校医、予防接種、健診などの公衆衛生
- 地域で不足する医療機能への協力
ただし、これらを一つのクリニックですべて担う必要がある、という意味ではありません。
院長の専門性、診療方針、スタッフ体制、診療時間、家庭や生活とのバランスなどを踏まえ、どこまでなら無理なく続けられるのかを整理することが大切です。
要請に応じない場合の影響
地域で不足する医療機能への協力要請に応じない場合は、段階的な対応が想定されています。
- 事前届出・協議
- 要請・勧告
- 医療情報ネット等での公表
- 保険医療機関の指定期間短縮
- 一部の診療報酬や届出への影響
特に確認しておきたいのは、制度上の対応だけでなく、開業後の診療体制や収支計画にも影響する可能性があるという点です。
例えば、次のような項目が関係します。
- 機能強化加算
- 地域包括診療加算・地域包括診療料
- 小児かかりつけ診療料
- 在宅療養支援診療所の届出
今回の制度は、開業そのものを一律に止めることを目的としたものではありません。
一方で、地域で担う役割を整理しないまま開業準備を進めてもよい、という制度でもありません。
制度は何を目指しているのか
今回の制度の目的は、開業医を減らすことそのものではありません。
背景には、地域によって医師数や医療機能に偏りがあり、必要な医療を受けにくい地域があるという課題があります。
患者さんにとって大切なのは、単にクリニックの数が多いことではありません。
- 必要なときに相談できること
- 自分の症状を相談してよい医療機関が分かること
- 継続して診てもらえること
- 地域で必要な医療が維持されること
だからこそ、これからの開業では、「何を診療するか」だけではなく、地域でどのような役割を果たすクリニックなのかまで考えることが重要になります。
制度への対応はゴールではありません。
制度をきっかけに、患者さんや地域から必要とされ、院長やスタッフも無理なく続けられるクリニックを考えることが、これからの開業準備ではより重要になります。
これからの開業で求められること
これからの開業準備では、制度へ対応することだけが目的ではありません。
制度を理解したうえで、自院は地域でどのような役割を果たすクリニックを目指すのかを考えることが重要になります。
例えば、次の内容はそれぞれ別の課題ではありません。
- どの地域で開業するのか
- どの患者さんを継続して支えたいのか
- 診療方針と診療時間は一致しているか
- スタッフ体制や設備は現実的か
- 収支計画に無理はないか
一つの方向性として整理することで、開業準備全体の優先順位や、開業後の判断基準が見えやすくなります。
制度への対応だけではなく、地域で役割を果たし続けられるクリニックづくりまで考えることが、これからの開業準備ではより重要になります。
地域で果たす役割をどう整理するか
地域での役割を整理するときは、「何を診療するか」だけでは十分ではありません。
誰に、どのような価値を届けるクリニックなのかまで考えることで、開業後の判断基準も明確になります。
患者さんから見て分かりやすいクリニックになっているか
情報が多い時代だからこそ、患者さんも医療機関を比較しやすくなっています。
診療科だけではなく、次のような視点でも受診先を考えます。
- どんな悩みを相談できるのか
- 何を大切にしているクリニックなのか
- 自分に合う医療機関なのか
そのため、自院の役割は院長の頭の中だけで整理されていれば十分ではありません。
ホームページ、診療内容、予約方法、受付対応などを通して、患者さんにも分かりやすく伝わることが大切です。
スタッフとも共有できているか
院長だけが役割を理解していても、日々の診療では十分とはいえません。
受付、看護師、医療事務などが同じ方向を理解することで、患者さんへ伝わる内容にも一貫性が生まれます。
例えば、次のような場面です。
- ホームページでの説明
- 電話や受付での案内
- 問診や診療中の説明
- 次回受診の案内
これらに一貫性があると、患者さんは「どのようなクリニックなのか」を理解しやすくなり、スタッフも判断に迷いにくくなります。
無理なく続けられる運営になっているか
地域で必要とされる役割を担うことは大切です。
しかし、院長やスタッフが疲弊してしまっては、その役割を長く続けることはできません。
そのため、次の項目まで含めて、役割と運営に無理がないかを確認する必要があります。
- 診療時間
- スタッフ体制
- 予約方法
- 院内運用
- システム
- 収支計画
役割が整理されると、日々の判断もしやすくなります。
- 比較する時間が減る
- 迷う時間が減る
- 優先順位が見えやすくなる
- スタッフや関係者へ説明しやすくなる
- 診療や開業準備に意識を戻しやすくなる
- 長く続けられる運営につながる
まとめ|外来医師過多区域は、自院の役割を考えるきっかけになる
今回の制度変更によって、全国一律にクリニック開業が難しくなるわけではありません。
一方で、これからの開業準備では、次の内容を開業前から整理する重要性が高まっています。
- 地域でどのような役割を果たすのか
- 患者さんへどのような価値を届けるのか
- その役割を無理なく続けられる体制になっているか
開業準備で確認したいポイント
- □ 開業予定地の制度上の位置付けや地域特性を確認したか
- □ 地域で果たす役割を言葉にできるか
- □ 患者さんへ届けたい価値が整理できているか
- □ スタッフと共有できる内容になっているか
- □ 診療体制や収支計画と矛盾していないか
制度は今後も変わり続けます。
しかし、地域で役割を果たし続けられるクリニックを目指すという考え方は、制度が変わっても大きく変わるものではありません。
外来医師過多区域という制度を、開業を諦める理由ではなく、自院の役割や判断基準を開業前から整理するきっかけとして捉えることに意味があると考えています。
参考文献
本記事は、2026年7月時点で確認できる公表資料をもとに作成しています。
- 厚生労働省|医師偏在の是正に向けた総合的な対策パッケージ
医師偏在対策に関する資料 - 厚生労働省|令和8年度診療報酬改定「外来医療の機能分化・強化等」
診療報酬改定資料 - 厚生労働省|医療法等の一部を改正する法律の成立について
医療法改正資料
地域でどのような役割を果たすクリニックを目指すのか、
一度整理したい先生へ
制度を理解することは大切です。しかし、それだけでは「自院の場合はどう判断するのか」までは決まりません。
開業予定地、地域で担う役割、患者さんへ届けたい医療、スタッフ体制、収支計画などを整理すると、本当に判断するべき論点や優先順位が見えやすくなります。
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