正解を急がず、納得して続けるために。 クリニック開業・経営の判断の前提を、静かに整える時間。

クリニック開業・経営コラム

2026診療報酬改定|忙しい開業院長が、今すぐ決めなくていいこと/考えておくこと

※本記事は「既に開業して日々の診療を行っている院長先生」向けの整理記事です。

更新(2025年12月28日)
令和7年12月26日(金)に開催された中医協(総会)で公表された資料を踏まえ、改定の基本方針(柱)制度関連事項(改定率以外の論点)、および今後のスケジュールの見立てを反映しました。

なお、開業準備中・これから開業を検討している先生向けには別記事で整理しています:
医師偏在対策は「開業判断」にどう影響するのか ──2025年12月24日通達から考える、これからの開業準備

導入

2025年12月24日、令和8年度診療報酬改定に関する通達が示されました。 本記事は、すでに開業して日々の診療を行っている院長先生を対象に、この通達をどう受け止め、どう向き合えばよいかを整理するためのものです。

改定率や配分の話が出てくると、「何か対応しなければならないのではないか」「今の運営のままで大丈夫だろうか」と、自然と考え始めてしまうものです。

ただ、今回の通達と、12月26日の中医協資料をあわせて読んで感じたのは、これは“今すぐ結論を出すための文書”ではないということでした。 示されているのは、細かな点数の話というよりも、これからの医療提供体制や診療所経営を、どのような前提で考えていくのか──その方向性に近い内容です。

この記事では、通達と中医協資料の要点を踏まえ、 今すぐ決めなくていいことと、今から考えておくと後が楽になることを切り分けて整理します。 判断を急がず、ご自身のクリニックのペースで考えるための材料としてご活用ください。

今回の通達で、まず押さえておきたい全体像

今回の通達は、いわゆる「点数表」ではありません。 どちらかといえば、今後の診療報酬改定をどう設計していくかという考え方を示した文書です。

大きな軸として読み取れるのは、次の3つです。

  • 賃上げへの対応
  • 物価上昇への対応
  • 効率化・生産性の向上

通達全体を通して見ると、診療所は「手厚く守られる存在」というより、 自立的に工夫し、経営を組み立てていく存在として位置づけられている印象です。 この前提を押さえないまま読むと、必要以上に自分を追い込みやすくなります。

(追記)改定の基本方針として示されている柱

  • 経営改善/従事者の処遇改善
  • 現役世代の保険料負担抑制
  • 後発医薬品への置換促進を踏まえた対応
  • 調剤報酬の適正化
  • 長期処方・リフィル処方の取り組み強化
  • 適切な在宅医療の推進

ここから読み取れるのは、賃上げ対応だけでなく、 医療費全体の持続可能性と、 診療のあり方そのものの見直しを同時に進めるという姿勢です。

診療所の院長が「今すぐ決めなくていいこと」

通達が出ると、「早く判断しないと不利になるのでは」と感じやすくなります。 ただし、今回の内容には、すぐに結論を出さなくてもよい項目が多く含まれています。

賃上げ・ベースアップ評価料について

賃上げは、今回の改定における大きな柱として明確に置かれています。 一方で重要なのは、賃上げ分=自由に使える増収ではないという前提です。

ベースアップ評価料の流れを踏まえると、賃上げ原資として措置された部分は、 職員の処遇改善に充てたことが分かる形での評価・報告を求められる可能性があります。 つまり、賃上げ分は「経営を楽にするためのお金」というより、 人材確保・定着のために確保して回すお金として位置づけられやすい、ということです。

また、今回の通達では、ベースアップ評価料の対象職種が実質的に広がる可能性も示されています。 賃上げの議論は、「一部職種の話」として整理し続けるのが難しくなっていくかもしれません。

賃上げやベースアップ評価料は、「制度として用意されているから実施する」という姿勢だけでは、 かえって現場の混乱を招きやすくなります。 重要なのは、クリニック経営として、なぜ実行するのか、その意味合いを先に整理することです。

人材確保・定着のために最低限守りたい水準はどこか。 制度対応として拾う部分と、自院の判断で上乗せする部分をどう切り分けるのか。 その整理がないまま進めると、「賃上げはしたが、経営は楽にならない」 「説明だけが増えて疲弊する」という状態に陥りやすくなります。

だからこそ、賃上げやベースアップ評価料については、 制度への即応を急ぐのではなく、経営として実行する意味合いを考えたうえで対処する ──その順番で十分だと考えています。

長期処方・リフィルについて

制度上は推進されていますが、画一的に広げる前提ではありません。 患者さんの状態やフォロー体制を踏まえ、 どの患者さんなら安心かを考え始める段階で十分です。

在宅医療・連携について

在宅医療や多職種連携も「推進」と「適正化」が同時に示されています。 今の診療内容と地域で担っている役割を整理することが先です。

一方で、今から「考えておいた方がいいこと」

将来を見据えた「見える化」への備え

今後は、診療所経営についても、人件費や外注費などがより細かく見られていく流れが進みます。 完璧な管理を目指す必要はありません。 把握できている状態をつくることが第一歩です。

防御的対応として現実的に取り得る4点

  1. ベースアップ評価料を取りこぼさない(人材確保のため不可避)
  2. 長期処方・リフィル前提の外来設計へ徐々に寄せる
  3. かかりつけ医機能を見据えた体制・講習の準備
  4. 可能であれば在宅・訪問診療を選択肢として残す

いずれも「今すぐ大きく変える」話ではありません。 選択肢を持ったまま、確定情報を待てる状態をつくることが目的です。

今後のスケジュール感

  • 2026年2月上旬:答申相当(方向性・項目が見える)
  • 2026年3月:点数表・通知・施設基準・算定要件が具体化
  • 2026年6月1日 施行予定

まとめ|令和8年度改定は「きっかけ」として使う

2026年度の診療報酬は、2026年6月に施行予定です。 確かに“半年”ありますが、私はこの期間を 「点数が確定するまで待つ時間」だとは捉えていません。

今回の改定は、賃上げ・物価・効率化といった時代背景が、 診療所経営に本格的に入り込んでくる転換点だと受け止めています。 だからこそ、目先の点数対応を先回りすることよりも、 変化が来ても崩れにくい、持続可能な経営体制を整えることに意味があります。

決めなくていいことは無理に決めない。 一方で、次の時代に向けて、どんな判断軸で経営していくのかだけは先に整えておく。 この記事が、そのきっかけになれば幸いです。

今いちど。
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引用文献

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