※本記事は、2025年10月27日に開催された第120回社会保障審議会 医療部会の議論をもとに、開業医・開業準備中の医師向けに実務視点で整理したものです。
参考:厚生労働省|第120回 社会保障審議会 医療部会(外部サイト)
1.「2026年度改定」は、“待つ改定”ではなく“備える改定”に
今回の改定は、物価・人件費上昇や人手不足といった現場の実態を背景に、「経営の持続性」や「働く環境」をどう守るかが焦点です。注目すべき論点は以下の5つです。
- 物価・人件費の上昇に対応する仕組み
- 賃上げの促進
- 業務の効率化(DX・デジタル化)
- 仕事の分担(タスクシフト)
- かかりつけ機能・地域連携の強化
言い換えれば、“経営者として何を準備するか”がクリニックの未来を左右する改定です。
2.クリニック経営の現実 ― 4割が赤字というデータ
無床診療所の約4割が赤字に転じています。要因は物価・人件費の上昇に対し、収入構造の見直しが遅れているため。一方で、患者構成は高齢化・慢性疾患の増加・在宅医療の拡大など大きく変化しています。
いま求められるのは、「治す医療」から「支える医療」への設計転換です。
3.これからの医療で求められる経営視点
これまでの医療は「病気を治すこと」を中心に成り立ってきました。 しかし、これからの時代に求められるのは、「生活を支え、地域とつながる医療」です。 単に治療の質を高めるだけでなく、患者さんの日常や地域全体を視野に入れた「支える力」が重要になります。
経営の面でも、以前のように院長個人の判断だけで動くのではなく、クリニック全体で情報を共有しながら判断する体制が求められます。 医師・看護師・スタッフが、それぞれの立場から意見を出し合い、同じ方向を見て動ける組織づくりが欠かせません。
また、情報管理の方法も大きく変わりつつあります。 これまでは紙や人の記憶に頼ることが多かった業務も、デジタル化による可視化と標準化が進み、より正確で効率的な医療提供が可能になっています。 DX(デジタルトランスフォーメーション)は単なるツール導入ではなく、「仕組みとして残すこと」を意味します。
そして、これからの医療現場では「技術」だけでなく、人を生かす仕組みづくりが評価される時代になります。 どれだけ高度な医療を行っても、それを継続できる体制やチーム運営が伴わなければ、地域医療としての信頼は積み上がりません。
つまり、これからのクリニック経営に必要なのは、 「治す力」と「続ける力」を両立すること。 患者さん、スタッフ、そして地域にとって“持続可能な医療”をどう形にするかが問われています。
4.院長が今から取り組むべき3ステップ
【①まず30日以内】“現状の見える化”を行う
- 月次KPI(利益率・加算取得率・滞在時間など)を整備
- 書類・説明・問診の分担と、ボトルネックの特定
- 「小さく試すDX」を1領域から導入(問診・会計・予約 等)
【②次の60日以内】“クリニック全体で回る仕組み”をつくる
- 在宅・介護・地域との連携ルートを見える化
- 医師・看護師・事務が情報共有できる運用を整備
- 働き方(時間・役割・負担)の見直しと再配置
【③90日以内】“改定を待たない準備”を始める
- 2026改定に向けた自院ロードマップの作成
- 研修・勉強会で認識合わせ(算定・記録・連携)
- 投資すべき領域の明確化(人材・DX・地域連携)
5.「改定を読む」から「改定を先取りする」へ
今回の方向性は、単なる点数改定ではなく、現場の努力を報いる仕組みへの転換です。 「制度が整ってから動く」ではなく、制度が変わる前に“動ける形”を整えることが、これからの競争優位になります。
🔍 今後の見通し
11月下旬に「改定の骨子案」、12月上旬に「基本方針案」が公表される予定です。 公開され次第、当ブログでも内容を整理し、開業医が今から何を準備すべきかを具体的に解説します。
改定の波を前に、“考え”を整理したいときに
診療報酬や制度改定のニュースを前に、「何から考えればよいのか」と感じる先生は多くいらっしゃいます。
初回整理セッションでは、経営判断の土台となる“考え”を丁寧に言語化し、改定に振り回されない方向性を一緒に見つけていきます。
制度を読む前に、“自院の軸”を整えることから。
その整理が、次の一手を決める第一歩になります。
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経営方針・診療体制・採用・DX・情報発信など、幅広いテーマに対応。
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