最終更新日:2026年7月29日
クリニック開業では、開業資金をどのように準備するか、創業融資をどこまで利用するかで悩む先生は少なくありません。
「自己資金はどれくらい必要なのか」
「借入額はいくらが適切なのか」
「事業計画書には何を書けばよいのか」
このような疑問を抱えたまま、物件、医療機器、採用、内装などの検討を同時に進めていることもあります。
創業融資の準備で大切なのは、事業計画書の書式を先に埋めることではありません。
診療方針、患者数、必要な設備、運転資金、返済可能性が、一つの計画としてつながっているかを確認することです。
創業融資の前に確認したい5つのこと
- 開業理由と診療方針
- 地域で担う役割と想定する患者像
- 患者数と売上予測の根拠
- 設備投資と必要な借入額
- 運転資金と返済可能性
これらの前提が整理されていないと、数字を何度作り直しても、自院として納得できる資金計画にならないことがあります。
本記事では、クリニックの創業融資を検討するときに、事業計画書を書く前に確認したい5つのポイントと、判断が止まりやすい場面を解説します。
この記事の立場について
私は金融機関の担当者ではありません。一方で、2011年から医療機関の開業・経営支援に携わり、事業計画書の作成、融資相談の準備、金融機関との面談に同席してきました。
本記事では、融資審査の可否を断定するのではなく、開業準備を進める医師が、自院として資金計画を判断するための確認事項を整理しています。
1. 開業理由と診療方針を整理する
創業融資の準備では、自己資金、売上予測、借入額、返済計画などの数字が確認されます。
しかし、数字だけを整えても、計画全体に説得力が出るとは限りません。
まず確認したいのは、次のような開業の前提です。
- なぜ開業したいのか
- どのような診療を行いたいのか
- 勤務医時代の経験や専門性をどう生かすのか
- どのような患者さんを支えたいのか
- 数年後にどのようなクリニックでありたいのか
開業理由や診療方針は、事業計画書を立派に見せるために作るものではありません。
医療機器、物件、スタッフ数、診療時間などを決める際の、判断基準になります。
例えば、「専門的な検査まで院内で行いたい」のか、「日常的な診療を中心に、必要な検査は連携先へつなぐ」のかによって、開業時に必要な設備や人員は変わります。
先に設備を決めるのではなく、どのような診療を行うのかを確認したうえで、必要な投資を考えることが大切です。
2. 地域で担う役割と患者像を整理する
次に整理したいのは、開業する地域と、自院が支えたい患者像です。
金融機関に説明する場面では、単に「この場所で開業したい」と伝えるだけでなく、なぜこの地域で、この診療を行うのかを言葉にする必要があります。
- 地域の人口構成や年齢層
- 地域で求められている医療
- 周辺医療機関の診療内容や診療時間
- 病院、薬局、介護事業所などとの連携可能性
- 自院が主に支えたい患者さん
- 地域の中で自院が担える役割
ここで大切なのは、周辺のクリニックとの違いを無理に作ることではありません。
地域の患者さんにどのように知ってもらい、どのような場面で来院してもらうのかを、診療内容や地域の状況とつなげて考えることです。
地域での役割が整理されていると、患者数の見込みや診療体制にも根拠を持たせやすくなります。
3. 患者数と売上予測の根拠を確認する
創業計画では、「これくらいの患者さんが来ると思う」という感覚だけでは、売上予測の根拠として十分ではありません。
診療圏調査の数値だけでなく、次の内容を組み合わせて考える必要があります。
- 診療圏の人口構成
- 周辺医療機関の分布
- 診療科や対象患者
- 診療日数と診療時間
- 医師一人が対応できる患者数
- スタッフ数や検査体制
- 予約や受付の運用
特に注意したいのは、患者数の見込みと、実際の診療体制が合っているかです。
事業計画書では高い患者数を見込んでいても、診察時間、検査時間、スタッフ数、予約導線を踏まえると、現実には対応が難しい場合があります。
反対に、開業直後から患者数を多く見込みすぎることで、人員や設備への投資が先行し、固定費が重くなることもあります。
売上予測は、融資を受けるために数字を大きくするものではありません。
開業後に無理なく診療を続けられるかを確認するための材料として考えることが重要です。
4. 設備投資と必要な借入額を整理する
開業時には、内装、医療機器、電子カルテ、予約システム、Web問診、会計設備など、多くの提案を受けます。
それぞれに導入する理由があっても、すべてを開業時にそろえる必要があるとは限りません。
設備投資を考える際は、次の点を確認します。
- 診療方針に照らして、本当に必要な設備か
- 開業時に必要か、後から導入できるか
- 患者さんの来院理由や院内運用につながっているか
- 購入とリースのどちらが資金計画に合うか
- 保守費用や月額費用まで見込んでいるか
- 設備を増やすことで、必要な人員も増えないか
設備投資だけでは決められない例
診療圏調査では一定の患者数が見込めても、希望する医療機器、人員配置、物件費まで含めると、借入額が想定以上になることがあります。
この場合は、設備だけを削るのではなく、開業時に必要な診療機能、後から追加できる設備、スタッフ数、運転資金の余裕を分けて考える必要があります。
借入額は、借りられる上限だけで決めるものではありません。
希望する診療体制と、返済を続けられる資金計画の両方から考える必要があります。
5. 運転資金と返済可能性を確認する
保険診療を中心とするクリニックでは、診療報酬が入金されるまでに時間差があります。
一方で、開業直後から次のような支出が発生します。
- 家賃や管理費
- スタッフの人件費
- 医療機器のリース料
- システム利用料
- 広告やホームページに関する費用
- 借入金の返済
- 院長自身の生活費
そのため、創業融資では、設備資金だけでなく運転資金も確認する必要があります。
- 開業後数か月分の運転資金を確保できているか
- 診療報酬の入金までの期間を見込んでいるか
- 患者数が想定より少ない場合でも返済できるか
- 採用費や人件費の上振れを見込んでいるか
- 追加の設備投資が必要になった場合に対応できるか
事業計画は複数のパターンで確認する
事業計画は、うまく進んだ場合だけでなく、想定より患者数が少ない場合や、支出が増えた場合も確認しておきます。
- 基本となる計画:診療圏、物件、採用状況、診療方針を踏まえた現実的な見通し
- 厳しめに見た計画:患者数が伸びない場合や、支出が上振れした場合の見通し
- 金融機関へ説明する計画:事業の考え方、必要資金、返済可能性を説明できる内容
提出用の数字だけを作るのではなく、計画の前提が変わったときに、何を見直すのかまで考えておくことが大切です。
創業融資の準備で判断が止まりやすい場面
創業融資の準備は、確認事項を一つずつ調べれば進む場合もあります。
一方で、複数の問題がつながっていると、一人では考えを分けにくくなります。
複数の関係者から異なる提案を受けている
金融機関、税理士、設計会社、医療機器会社などから、それぞれ異なる提案を受けることがあります。
どの提案にも理由があっても、自院が何を優先するかによって、選ぶ内容は変わります。
借入額を減らすと診療方針にも影響する
借入額を抑えるために設備や人員を減らすと、希望していた診療内容や院内運用まで変わる場合があります。
この場合は、「何を削るか」ではなく、開業時に守りたい診療方針と、後から変更できることを分ける必要があります。
数字はできていても判断理由を説明できない
事業計画書が完成していても、なぜその患者数なのか、なぜその設備が必要なのか、なぜその借入額なのかを、自分の言葉で説明できないことがあります。
判断基準が言葉になっていれば、金融機関だけでなく、設計会社、医療機器会社、税理士、家族などにも、自分が何を優先しているのかを説明しやすくなります。
整理するとは、考えることを増やすことではありません
現在の状況、確認できている事実、本当に判断する論点、今決めること、後で決めること、誰に何を確認するかを分けることです。
まとめ|創業融資は書類を作る前の整理が重要
クリニックの創業融資では、自己資金、患者数、売上予測、設備投資、運転資金、返済計画など、複数の内容を確認する必要があります。
大切なのは、それぞれの数字を個別に整えることではありません。
診療方針、地域での役割、患者数の根拠、設備投資、資金繰りが、一つの計画としてつながっているかを確認することです。
判断の前提を整理しておくことで、次のことが分かりやすくなります。
- 今、本当に決める必要があること
- 自院として優先したいこと
- 後から変更できること
- 誰に何を確認する必要があるか
- 金融機関や関係者へどのように説明するか
- 次に行う小さな一歩
創業融資の準備は、金融機関へ説明するためだけのものではありません。
開業後も無理なく診療を続け、地域で役割を果たしていくために、開業前の計画を確認する機会でもあります。
創業融資の準備で判断が止まっている方へ
開業準備では、創業融資だけでなく、物件、設備投資、診療体制、採用、資金計画など、複数の判断を同時に進める必要があります。
次のような場合は、情報をさらに集める前に、一度状況を整理することが役立つ場合があります。
- 借入額をどこまで増やすべきか決められない
- 診療圏調査と患者数の見込みが結びつかない
- 複数の提案を比較しても決めきれない
- 設備投資の優先順位を決められない
- 金融機関や家族へ説明する考えがまとまらない
まえやまだ純商店では、院長や開業を考えている医師に代わって判断するのではなく、現在の状況、背景、論点、判断基準、選択肢、次に確認することを整理します。
必要な確認事項や、計画に無理がある可能性、見落としている論点があれば、その点は率直にお伝えします。
状況確認面談は、その場で融資の正解や完成した事業計画書を提示する場ではありません。現在の準備状況や相談内容を確認し、どのような整理が必要か、支援が合いそうかを確かめる場です。
※実務代行、融資交渉の代行、融資可否の保証を行うものではありません。
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参考資料
本記事の整理にあたっては、金融庁が公表している資料も参考にしています。
