最終更新日:2026年6月30日
クリニック開業では、開業資金をどのように準備するか、創業融資をどこまで利用するかで悩む先生は少なくありません。
「自己資金はどれくらい必要なのか」
「借入額はいくらが適切なのか」
「事業計画書はどう作ればよいのか」
このような不安を抱えながら、開業準備を進める場面もあります。
一方で、事業計画書を書こうとして手が止まる理由は、書類の書き方が分からないからとは限りません。
どのような診療を行うのか、どの地域で開業するのか、患者数をどのように見込むのか、設備投資をどこまで行うのか。
こうした判断の前提が整理できていないために、事業計画書が進まないこともあります。
創業融資では、自己資金や売上予測などの数字も重要です。
しかし、それらの数字がどのような考え方に基づいているのかも、あわせて整理しておくことが大切です。
本記事では、クリニックの創業融資を検討するときに、事業計画書を書く前に整理しておきたい5つのポイントを解説します。
この記事の立場について
私は金融機関の担当者ではありません。
一方で、これまで医療機関の開業支援に携わる中で、事業計画書の作成、融資相談の準備、金融機関との面談に同席する機会がありました。
本記事では、融資審査の可否を断定するのではなく、開業準備の段階で整理しておきたい論点としてまとめています。
目次
1. 創業融資の準備は、事業計画書を書く前から始まっている
クリニックの創業融資では、自己資金、売上予測、借入額、返済計画などの数字が重視されます。
ただし、数字だけを整えても、計画全体の説得力が出るとは限りません。
創業融資の準備では、次のような点を整理しておく必要があります。
- どのような診療を行うのか
- どの地域で開業するのか
- なぜその地域で自院が必要なのか
- どのように患者さんに来てもらうのか
- 開業後も無理なく返済を続けられるのか
つまり、創業融資の準備は、単に書類を埋める作業ではありません。
開業構想そのものを、数字と言葉の両面から整理する作業でもあります。
2. 診療方針・地域・患者像を整理する
創業融資の前にまず整理したいのは、開業の理由と地域での役割です。
診療科、立地、対象患者は、開業準備の中で自然に決まっていくように見えることがあります。
しかし、金融機関に説明する場面では、なぜこの地域で、この診療を行うのかまで整理されているかが重要になります。
- これまでの専門性や診療経験
- 地域の人口構成や医療ニーズ
- 既存医療機関との役割分担
- 病院、薬局、介護事業所などとの連携可能性
- 自院が支えたい患者像
これらが整理されていると、事業計画書の数字にも意味が出てきます。
「なぜこの地域で開業するのか」を整理することは、融資のためだけでなく、開業後の方向性を決めるうえでも重要です。
3. 患者数や売上の見通しに根拠を持たせる
創業計画では、「これくらいの患者さんが来ると思う」という感覚だけでは説得力が弱くなります。
金融機関に説明するうえでは、希望的な数字ではなく、その患者数にどの程度の根拠があるかを整理しておく必要があります。
- 診療圏の人口構成
- 年齢層
- 周辺医療機関の分布
- 競合クリニックの診療内容や診療時間
- 自院が担う患者層
- 診療時間と実際に診られる患者数
特に注意したいのは、患者数の見込みと診療体制が合っているかです。
事業計画書では高い患者数を見込んでいても、診察時間、スタッフ数、検査体制、予約導線から見ると対応が難しい場合があります。
売上予測は、単に数字を大きく見せるためのものではありません。
開業後に無理なく診療を続けられるかを確認するための材料でもあります。
4. 設備投資・借入額・資金繰りを無理のない計画にする
開業時には、医療機器、内装、電子カルテ、予約システム、Web問診、会計導線など、多くの設備投資を検討することになります。
大切なのは、「入れたい設備」なのか「必要な設備」なのかを分けて考えることです。
- その設備は開業時点で本当に必要か
- 後から導入してもよいものではないか
- 患者さんの来院理由や診療方針とつながっているか
- リースか購入か、資金繰りへの影響を比較しているか
- 保守費用や月額費用まで見込んでいるか
また、保険診療を中心とするクリニックでは、診療報酬の入金までに一定の時間差があります。
患者さんが窓口で支払う自己負担分は比較的早く現金化されますが、保険請求分は診療月の翌々月下旬頃に入金される流れになります。
その間にも、家賃、人件費、リース料、広告費、システム利用料、借入返済は発生します。
そのため、創業融資の準備では次の点を確認しておきたいところです。
- 開業後数か月分の運転資金は足りるか
- 診療報酬の入金ラグを見込んでいるか
- 患者数が想定より少ない場合でも返済できるか
- 人件費や採用費の上振れを見込んでいるか
- 院長自身の生活費も含めて無理がないか
事業計画は複数のパターンで考える
創業融資の準備では、事業計画書を1パターンだけで作るのではなく、複数の見方で整理しておくことが大切です。
- 現状に即した計画:診療圏、物件、採用状況、診療方針を踏まえた現実的な見通し
- 厳しめに見た計画:患者数や売上が想定より伸びない場合、支出が上振れした場合の確認
- 金融機関提出用の計画:融資相談に必要な説明資料として、事業の考え方や返済可能性を整理したもの
実際の融資相談では、提出した事業計画書について、患者数の見込み、人件費、設備投資、返済計画などの説明を求められることがあります。
また、金融機関は過去の融資事例や業界動向なども参考にしながら、計画に無理がないかを確認していると考えられます。
そのため、「うまくいった場合」の数字だけではなく、患者数が想定より少なかった場合や、採用費・人件費が上振れした場合でも継続できるかという視点で整理しておくことが重要です。
こうした前提を整理しておくことで、金融機関に説明しやすくなるだけでなく、設備投資や借入額を決めるための迷いが減り、開業準備の時間を診療体制づくりやスタッフ採用に回しやすくなります。
5. まとめ|創業融資で大切なのは「書類」より前に判断を整理すること
創業融資では、自己資金、売上予測、設備構成、返済計画といった数字が重要です。
一方で、数字だけを整えても、診療方針、地域での役割、患者数の根拠、設備投資の優先順位、開業直後の資金繰りが整理されていなければ、計画全体の説得力は弱くなります。
融資の準備とは、書類を整えることだけではありません。
どのような診療を続けていくのか。
地域の中でどのような役割を担うのか。
その計画は、資金繰りと返済計画として無理がないのか。
このような論点を整理することで、借入額、設備投資、運転資金、患者数の見込みについて、自院として判断しやすい状態に近づきます。
創業融資の準備は、金融機関に説明するためだけのものではありません。
開業後も続けられる運用を考え、院長が診療やスタッフに向き合う時間を確保していくための準備でもあります。
創業融資の準備で判断が止まったときは、まず状況を整理してみませんか
開業準備では、創業融資だけを考えればよいわけではありません。
診療方針、物件、設備投資、採用、資金計画、診療圏調査など、複数の判断を同時に進める必要があります。
そのため、次のような状態になることもあります。
- 借入額をどこまで増やすべきか決められない
- 診療圏調査と患者数の見込みが結びつかない
- 設備投資の優先順位に迷っている
- 事業計画書を書こうとしても手が止まる
そのようなときは、事業計画書を急いで作る前に、現在の状況や論点、優先順位を整理することで、次の一歩が見えやすくなることがあります。
判断の前提を整理することで、比較に使う時間や迷う時間を減らし、院長が本来向き合うべき診療体制づくりや開業後の運用設計に集中しやすくなります。
まえやまだ純商店では、院長の代わりに判断するのではなく、開業準備で整理しておきたい論点を一緒に整理しています。
まずは、現在の状況や相談内容を確認する「状況確認面談(無料)」をご覧ください。
※実務代行や融資交渉の代行ではありません。現状・論点・優先順位を整理し、自院として納得して判断しやすい状態を整えるための支援です。
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参考資料
本記事の整理にあたっては、金融庁が公表している資料も参考にしています。