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クリニック開業・経営コラム

趣意書とは?クリニック開業の事業計画書との違い・書き方・考える順番

最終更新日:2026年8月13日

クリニック開業の準備を進めるなかで、金融機関や開業支援会社などから「趣意書を作りましょう」と言われ、そもそも何を書く資料なのか分からず手が止まることがあります。

また、事業計画書との違いが分かりにくく、「趣意書と事業計画書はどちらを先に作るのか」「何をどこまで書けばよいのか」と迷うこともあります。

趣意書とは、なぜその地域で開業するのか、誰にどのような医療を届けたいのかなど、開業の背景や目的を言葉で整理する資料です。

一方、事業計画書は、患者数、売上、費用、人員、借入、返済などを数字で整理し、その開業が事業としてどのように成り立つのかを確認する資料です。

ただし、趣意書と事業計画書を別々に作ればよいわけではありません。

「どのような診療をしたいのか」という言葉と、「その診療を何人のスタッフで、何人の患者さんに提供し、どの程度の売上・費用になるのか」という数字がつながっている必要があります。

この記事では、趣意書とは何かを入口に、クリニック開業における趣意書の書き方、事業計画書との違い、患者数・人員・資金計画までどうつなげて考えるかを整理します。

1.趣意書とは?クリニック開業での意味を整理する

趣意書は「なぜこの開業をするのか」を伝える資料

趣意書とは、事業や活動を始める背景、目的、考え方などを説明する文書です。

クリニック開業では、単に「開業したい」という希望を書くのではなく、なぜその地域で開業するのか、どのような患者さんを支えたいのか、自院がどのような役割を担うのかを整理します。

たとえば、これまで病院で慢性疾患の患者さんを診療してきた医師が、地域で継続的な外来診療を担いたいと考えて開業する場合、その経験と地域の状況、提供したい診療をつなげて説明します。

クリニック開業の趣意書で整理したい3つのこと

趣意書では、まず次の3点を考えると整理しやすくなります。

  • なぜ:なぜ開業するのか、なぜこの地域なのか
  • 誰に:どのような患者さんを想定しているのか
  • 何を:どのような診療や役割を提供するのか

ここが整理できると、診療科目や標榜内容だけでは表しにくい「自院が地域で何を担うのか」が見えやすくなります。

趣意書は金融機関向けだけの資料ではない

趣意書は融資の際に説明資料として使うことがありますが、金融機関に見せるためだけに作るものと考えない方がよいでしょう。

開業の目的や患者像が整理されると、物件、医療機器、スタッフ採用、ホームページ、診療時間などを選ぶ際にも、「自院では何を優先するのか」を考えやすくなります。

開業準備全体の順番で迷っている場合は、クリニック開業準備は何から始める?物件・資金計画の前に整理したい判断軸でも整理しています。

2.趣意書と事業計画書は何が違うのか

趣意書は「言葉」、事業計画書は「数字」で開業構想を示す

趣意書と事業計画書は、同じ開業構想を異なる角度から確認する資料と考えると分かりやすくなります。

  • 趣意書:「なぜこの開業をするのか」を言葉で整理する
  • 事業計画書:「その開業がどう成り立つのか」を数字で整理する

たとえば趣意書で「慢性疾患の患者さんを丁寧に継続フォローする」としているのであれば、事業計画書でも、その診療スタイルに合った診察時間、患者数、人員配置、売上計画になっている必要があります。

どちらか一方だけでは開業計画を説明しにくい

言葉と数字が別々になっていると、開業計画に矛盾が生じることがあります。

  • 丁寧な診療を掲げているのに、短時間で非常に多くの患者さんを診る売上計画になっている
  • 地域連携を重視しているのに、紹介元や連携先の想定がない
  • 多くの患者さんを見込んでいるのに、スタッフ数や検査体制が追いつかない

大切なのは、趣意書の言葉を事業計画書の数字で確認し、数字に無理があれば診療体制や開業構想に戻って考えることです。

趣意書と事業計画書はどちらから作る?

必ず一方を完成させてから他方を作る必要はありません。

ただ、最初から患者数や売上だけを決めるより、「誰に、何を、なぜ届けるのか」を大まかに言葉にしてから数字へ落とし込み、再び言葉へ戻って確認する方が整理しやすくなります。

3.クリニック開業の趣意書には何を書く?

なぜこの地域で開業するのか

勤務経験、生活圏、地域の人口構成、医療機関の状況、病院との役割分担などから、開業地とのつながりを整理します。

「競合が少ないから」だけではなく、その地域でどのような医療需要があり、自院が何を担えるのかまで考えることが大切です。

どのような患者さんに、どのような医療を届けるのか

「地域医療に貢献したい」だけでは、実際の診療像は見えにくいものです。

年齢層、疾患、受診場面、継続診療の必要性などを考えながら、どのような患者さんを支えるのかを具体化します。

地域でどのような役割を担うのか

地域にはすでに病院、診療所、薬局、介護事業所などがあります。

そのため、競合医療機関だけを見るのではなく、どこから患者さんを受け、どのような場合に病院や他院へつなぐのかという協業・連携の視点も重要です。

自分の経験・地域背景・診療方針をどうつなげるか

書き出し例
私はこれまで〇〇病院で、生活習慣病や慢性疾患を抱える患者さんの診療に携わってきました。〇〇地域では高齢化が進むなか、日常的な通院や継続管理を担う外来機能が重要になっています。これまでの診療経験を生かし、病院と地域をつなぎながら継続的な診療を行うことを目的として開業を計画しています。

文章を立派に見せることよりも、自分の経験、地域の状況、患者像、提供する診療がつながっていることを意識した方がよいでしょう。

4.クリニックの事業計画書には何を書く?

事業計画書は、単なる売上予測表ではありません。

趣意書で整理した診療構想を、患者数、売上、人員、費用、資金調達、返済などへ落とし込んで確認する資料です。

診療方針を患者数・売上計画へ落とし込む

診療単価と患者数を置けば売上は計算できますが、大切なのはその数字の根拠です。

診療科、患者層、診療時間、検査・処置、予約方法などによって、実際に対応できる患者数は変わります。

初期投資・運転資金・資金調達を整理する

内装、医療機器、電子カルテ、什器、広告などの初期投資だけでなく、開業後の人件費、家賃、リース料などを支払う運転資金も考えます。

自己資金をいくら用意するか、どの程度借り入れるかは、開業時に必要な金額だけではなく、開業後にどの程度の余力を残したいかによっても変わります。

自己資金と借入、運転資金の考え方については、クリニック開業の自己資金はいくら必要?ゼロでも開業できる?続けるために考えたい資金計画も参考にしてください。

人員計画と診療できる患者数を確認する

売上計画と人員計画は切り離せません。

医師だけでなく、受付、看護師、検査スタッフなどがどの業務を担うのかを確認し、想定患者数を実際に受け入れられる体制なのかを考えます。

返済後にも経営上の余力が残るかを見る

損益計画が黒字でも、それだけで安心とは限りません。

借入返済後に、設備修繕、採用費、売上の遅れ、追加投資などへ対応できる余力があるかも確認しておきたいところです。

5.事業計画書で患者数を考えるときの注意点

診療圏の需要だけで患者数を決めない

診療圏調査は患者数を考える重要な材料ですが、「地域に患者さんがいる」ことと「自院にその人数が来院する」ことは同じではありません。

競合・協業関係、認知、診療内容、アクセスなども含めて考える必要があります。

診療時間・スタッフ体制から実際の診療キャパシティを考える

1人あたりの診察時間、検査や処置に必要な時間、診療時間、スタッフ数などから、実際に何人程度まで対応できるのかを確認します。

患者数を増やせば売上は増えますが、診療の質やスタッフの業務量に無理が出れば、長く続けることが難しくなる可能性があります。

診療方針と患者数の前提が矛盾していないか確認する

趣意書で掲げた診療方針と、事業計画書の患者数を並べてみると、計画の矛盾に気づくことがあります。

「この診療を、この人数・時間・スタッフ体制で本当に提供できるか」という視点で確認してみることが大切です。

6.金融機関は事業計画書・趣意書の何を見る?

金融機関への説明では、資料の見栄えだけではなく、計画の根拠や返済可能性を説明できることが重要です。

売上や患者数の前提に無理がないか

患者数、診療単価、診療日数などの数字が、地域の状況や診療体制と大きく離れていないかを確認します。

借入返済後にも資金の余力があるか

予定どおり患者数が増えなかった場合でも、一定期間運営を続けられるかという視点も必要です。

なぜその地域で開業するのか説明できるか

開業地を選んだ理由と、自身の診療経験、地域の患者像、提供する診療がつながっていれば、事業計画の前提も説明しやすくなります。

趣意書と事業計画書の内容がつながっているか

趣意書では丁寧な慢性疾患管理を掲げながら、事業計画では非常に高い回転率を前提にするなど、言葉と数字に矛盾がないかも確認しておきたいところです。

7.一つの事業計画だけでなく、複数の前提で確認する

開業前の計画は、予定どおり進むとは限りません。

そこで、一つの数字だけを見るのではなく、いくつか条件を変えて確認してみます。

現実的な患者数・売上で考えた場合

診療圏、診療時間、スタッフ体制などを踏まえ、まず基準となる計画を作ります。

患者数が想定より伸びなかった場合

たとえば患者数や売上が想定より10〜20%少なかった場合でも、家賃、人件費、返済などを賄えるかを確認します。

人件費や採用費が想定より増えた場合

予定した条件で採用できない場合や、人材紹介会社の利用が必要になった場合なども想定します。

追加投資や設備トラブルが生じた場合

医療機器やシステムの追加、設備修繕など、開業時には想定していなかった支出が発生する可能性もあります。

複数の前提で見ておくことで、「どこまでなら耐えられるのか」「どの支出を後ろへずらせるのか」が見えやすくなります。

8.趣意書・事業計画書でよくあるつまずき

フォーマットを埋めることが目的になっている

書類が完成していても、なぜその数字になったのか説明できなければ、開業後の判断には使いにくくなります。

患者数や売上の見込みが強すぎる

開業後すぐに予定患者数へ到達する前提にすると、患者数が伸びるまでの資金繰りが苦しくなることがあります。

人員計画と診療体制がつながっていない

必要なスタッフ数だけを決めるのではなく、誰がどの業務を担い、患者さんがどのように院内を動くのかまで考える必要があります。

融資を受けることだけが目的になっている

融資を受けることは開業の通過点です。

大切なのは、開業した後に診療を続け、スタッフへ給与を支払い、借入を返済しながら経営を続けられることです。

開業前から経営を考える意味については、開業前からクリニック経営を考える必要はありますか?|診療だけではない院長の役割を解説でも詳しく整理しています。

9.趣意書や事業計画書を書く前に、まず何を整理する?

最初から完成度の高い資料を作ろうとすると、かえって手が止まりやすくなります。

まずは次の3つを簡単に書き出してみるとよいでしょう。

① 地域と患者像を整理する

地域の人口構成、医療機関、病院との距離、患者さんが困っていることなどを確認し、自院が想定する患者像を整理します。

② 自院が提供する診療と役割を整理する

誰に何を提供するのか、そのためにどの程度の診療時間を使うのか、他院や病院とどのように役割分担するのかを考えます。

③ 患者数・人員・資金計画をつなげる

患者数だけ、スタッフ数だけ、借入額だけを個別に決めるのではなく、それぞれをつなげて確認します。

最初に確認したいこと
誰に、どのような医療を届けるのか。
そのために、どのような診療体制が必要なのか。
その体制では何人程度の患者さんを診られるのか。
その患者数で、必要な費用と返済を賄えるのか。
予定どおり進まなかった場合にも、続けられる余力があるのか。

この順番で考えると、趣意書の「言葉」と事業計画書の「数字」がつながりやすくなります。

おわりに|趣意書と事業計画書は、開業構想を言葉と数字で確認するための資料

趣意書とは、開業の背景や目的、患者像、地域で担いたい役割を言葉で整理する資料です。

事業計画書は、その構想を患者数、売上、人員、費用、資金調達、返済などの数字で確認する資料です。

どちらかをきれいに完成させることだけが目的ではありません。

自院は誰を支えたいのか。そのためにどのような診療体制が必要なのか。その体制を無理なく続けられるのか。

趣意書と事業計画書を行き来しながら、この前提を確認することが、開業後を見据えた計画づくりにつながります。

事業計画書や趣意書を作るなかで、確認したいことが出てきた方へ

クリニック開業では、事業計画書や趣意書だけでなく、患者数、人員体制、設備投資、資金計画など、複数のことを同時に考える場面があります。

「この患者数の前提でよいのか」「設備にどこまでお金をかけるか」「人員計画と収支が合っているか」など、具体的に気になっていることからご相談いただけます。

まえやまだ純商店では、現在の状況や必要な情報を確認し、選択肢や優先順位を整理しながら、次に何をするかを一緒に考えます。

まえやまだ純商店 前山田純

この記事を書いた人

前山田 純 まえやまだ純商店

2011年から医療機関の開業・経営支援に従事。開業準備や開業後に生じる具体的な課題について、現在の状況や必要な情報を確認し、選択肢や優先順位、次に何をするかを一緒に整理しています。

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