クリニック開業の事業計画書の書き方|趣意書との違いと考え方の整理
更新日:2026年5月5日
クリニック開業の準備で、事業計画書や趣意書を作り始めると、手が止まることがあります。
「書き方」を知りたいと思って読み始めたものの、
実際には“何から考えるべきか”で手が止まることがあります。
それは、文章力や数字の作り方だけの問題ではありません。
数字で何を説明するのか
言葉で何を伝えるのか
金融機関はどこを見ているのか
が整理できていないと、フォーマットを埋めても、どこか説得力の弱い資料になりやすいからです。
この記事では、クリニック開業における事業計画書と趣意書の違いを整理しながら、融資審査や開業後の経営判断につながる考え方をまとめます。
1問1答:
Q. 事業計画書と趣意書は、どちらを先に作ればよいですか?
A. まずは趣意書で「誰に、何を、なぜ届けるのか」を言葉にし、その後に事業計画書で数字の根拠を整える順番がおすすめです。
先に数字だけを埋めると、診療方針・患者像・人員計画・売上構成が後から噛み合わなくなることがあります。
1.クリニック開業における「事業計画書」と「趣意書」の違い
事業計画書と趣意書は、どちらも開業準備で重要な資料です。
ただし、役割は少し違います。
- 事業計画書:売上、費用、資金繰り、返済計画などを数字で示す資料
- 趣意書:地域背景、患者像、診療理念、開業理由などを言葉で示す資料
言い換えると、趣意書は「なぜこの開業をするのか」を伝える資料であり、事業計画書は「その開業がどう成立するのか」を説明する資料です。
金融機関は、数字だけを見ているわけではありません。
数字の前提となる診療方針、地域での役割、患者像、人員体制もあわせて見ています。
そのため、事業計画書と趣意書が別々に作られていると、次のようなズレが起きることがあります。
- 趣意書では「丁寧な慢性疾患フォロー」を掲げているのに、事業計画書では短時間で多くの患者を診る前提になっている
- 趣意書では「地域連携」を重視しているのに、紹介元や連携先の想定が数字に反映されていない
- 事業計画書では高い患者数を見込んでいるのに、人員計画や診察時間から見ると対応が難しい
大切なのは、言葉と数字を行き来しながら整えることです。
事業計画書と趣意書は、別々の書類ではありますが、本来は同じ開業構想を別の角度から説明するものです。
2.事業計画書の基本構成と書き方
事業計画書は、単なる売上予測表ではありません。
開業後の経営方針を、数字に翻訳するための資料です。
基本構成
- 初期投資:内装、医療機器、電子カルテ、予約システム、広告、内覧会など
- 運転資金:人件費、家賃、リース料、材料費、水道光熱費、広告費など
- 資金調達:自己資金、金融機関借入、親族借入など
- 月次損益計画:診療単価、患者数、売上、人件費、固定費、利益
- 資金繰り計画:入金と支払いのタイミング、返済額、手元資金
- 中期計画:開業後3〜5年の人員、診療体制、収益構造の見通し
作成時に見落としやすい視点
事業計画書で特に注意したいのは、患者数の根拠です。
診療圏に需要があることは大切ですが、それだけでは十分ではありません。
金融機関は、その患者数を実際に診られる体制なのかも見ています。
- 1人あたりの診察時間
- 診療時間
- 医師の人数
- 看護師・受付・検査スタッフの体制
- 予約制か、当日対応中心か
- 検査や処置にかかる時間
たとえば、1人あたり10分程度の診察を大切にしたい方針なのに、1日80人以上を診る計画になっていれば、診療スタイルと売上計画が矛盾してしまいます。
事業計画書では、理想の診療スタイルと、物理的に対応できる患者数が合っているかを確認することが重要です。
感度分析も入れておく
開業計画は、予定通りに進むとは限りません。
そのため、事業計画書では、条件が変わった場合の耐性も確認しておきたいところです。
- 患者数が想定より10〜20%少なかった場合
- 材料費や外注費が想定より上がった場合
- 採用が遅れた場合
- 紹介会社の利用などで採用コストが増えた場合
- 人件費相場が想定より高かった場合
- 設備トラブルや追加投資が発生した場合
特に近年は、医療スタッフの採用難や人件費高騰が大きな論点です。
「予定通りに採用できる」ことを前提にしすぎると、開業直後の運営が苦しくなる可能性があります。
金融機関から見ても、採用リスクや人件費上昇を織り込んだ計画は、現実を踏まえていると受け止められやすくなります。
あわせて読みたい:
資金計画全体を整理したい場合は、
クリニック開業に必要な自己資金はいくら?|融資・生活費を含めた資金計画の考え方 も参考になります。
3.趣意書の基本構成と書き方
趣意書は、開業の背景や診療方針を言葉で伝える資料です。
金融機関にとっては、院長の経験、地域との関係、患者像、診療方針を理解するための資料でもあります。
趣意書で整理したい3つの柱
- ① なぜこの地域で開業するのか
勤務経験、地域の医療資源、患者層、生活圏、既存医療機関との関係を整理します。 - ② 誰に何を届けるのか
どのような患者に、どのような診療を提供したいのかを具体化します。 - ③ 地域でどのような役割を担うのか
他院、病院、ケアマネージャー、介護事業所、行政などとどのように連携するのかを整理します。
ここで大切なのは、競合を「倒す相手」として見るのではなく、地域の中で自院がどの役割を担うのかを明確にすることです。
近隣の病院や診療所、介護事業所、ケアマネージャーとの連携は、単なる理念ではなく、患者紹介や継続支援の具体的なネットワークにもつながります。
趣意書では、競合だけでなく協業の視点を入れることで、地域での開業の必然性が伝わりやすくなります。
書き出しの例
たとえば、次のような書き出しが考えられます。
「私はこれまで、〇〇病院の内科で、生活習慣病や心不全などの慢性疾患を抱える患者さんの診療に携わってきました。〇〇市では、高齢化が進む一方で、日常的な通院を支える外来機能が限られており、病院と地域の間をつなぐクリニックの役割が重要になっていると感じています。」
このように、自分の経験、地域の背景、患者像、担いたい役割をつなげて書くと、事業計画書の数字にも意味が生まれます。
4.金融機関が見るポイント
金融機関は、きれいな文章や見栄えのよい資料だけを見ているわけではありません。
特に見ているのは、計画が現実的で、返済を続けられるかです。
① 数字の現実性
売上計画では、診療圏の需要だけでなく、実際に対応できる患者数かどうかが見られます。
- 患者数が過大ではないか
- 診察時間と患者数が矛盾していないか
- 診療時間、スタッフ数、検査体制と合っているか
- 単価や自費売上の見込みが楽観的すぎないか
② 返済後の余力
借入返済ができるかどうかだけではなく、返済後に余力が残るかも重要です。
利益や減価償却費を含めたキャッシュフローのすべてを返済に充てるような計画では、突発的な設備修繕や売上変動に対応しにくくなります。
事業計画書では、借入返済後に院長の生活を支える手残りに加えて、機器の修繕、採用費の増加、運転資金の不足に備える余力資金が残る設計になっているかを確認しておきたいところです。
③ 地域での必然性
趣意書では、なぜその地域で開業するのかが問われます。
- その地域にどのような医療ニーズがあるのか
- 自院はどの患者層を支えるのか
- 既存医療機関とどう役割分担するのか
- 紹介・逆紹介・地域連携の見通しがあるか
ここが整理されていると、事業計画書の数字も単なる予測ではなく、地域での役割に基づいた計画として伝わりやすくなります。
審査の全体像を整理したい場合:
クリニック開業融資の準備については、
数字より“考え方”を問われる審査|クリニック開業融資を通す6つの準備視点 でも整理しています。
5.よくあるつまずき
事業計画書と趣意書でよくあるつまずきは、次のようなものです。
- フォーマットを埋めることが目的になる
数字や文章は入っているが、診療方針や地域での役割とつながっていない。 - 患者数の見込みが強すぎる
診療圏の需要はあるが、実際の診療時間やスタッフ体制から見ると対応が難しい。 - 人件費や採用コストが甘くなる
予定通りに採用できる前提で計画してしまい、開業直後に負担が大きくなる。 - 返済後の余力が少ない
黒字には見えるが、突発的な支出や売上の遅れに耐えにくい。 - 競合分析だけで終わる
近隣クリニックとの比較はあるが、協業や紹介ネットワークの視点が弱い。
これらは、文章力や資料作成スキルの問題というより、開業構想の前提がまだ整理しきれていないことで起きる場合があります。
そのため、事業計画書や趣意書で手が止まったときは、いきなり書類を完成させようとするより、何を前提に判断しているのかを一度外に出してみることが大切です。
6.まず何から整理するか
最初から完成度の高い事業計画書や趣意書を作ろうとすると、かえって進みにくくなります。
まずは、次の3つをA4・1枚程度で整理してみることをおすすめします。
- 診療圏の要点
人口構成、年齢層、競合、病院との距離、地域で不足している役割を整理します。 - 患者像と診療方針
誰に、どのような診療を、どのようなスタイルで届けたいのかを言葉にします。 - 簡易PLとキャパシティ
患者数、単価、人件費、固定費、返済額に加えて、実際に対応できる診療時間と人数を確認します。
この3つが見えてくると、趣意書の言葉と事業計画書の数字がつながりやすくなります。
診療圏の考え方から整理したい場合:
「需要・供給・競合・協業」の整理は、
診療圏調査シリーズ|まとめページ にて段階的に解説しています。
おわりに|書類を作る前に、判断の前提を整える
事業計画書は数字の資料です。
趣意書は言葉の資料です。
しかし、本当に大切なのは、数字と言葉のどちらが正しいかではありません。
自院は誰を支えたいのか。
そのために、どのような診療体制が必要なのか。
その体制は、売上・人件費・返済計画として成立するのか。
この行き来を通じて、開業前の判断の前提が少しずつ整っていきます。
事業計画書や趣意書で手が止まるときは、資料作成が苦手だからではなく、まだ整理すべき論点が残っているサインかもしれません。
開業準備の判断が重くなり始めた院長へ
事業計画書や趣意書の前に、考える順番を整理することも大切です
開業準備では、資金計画、診療圏、患者数、人員計画、診療方針など、複数の論点が同時に動きます。
事業計画書や趣意書を書こうとして手が止まるときは、文章力や数字の問題ではなく、判断の前提がまだ整理しきれていない場合があります。
まえやまだ純商店では、正解を提示するのではなく、院長が自院として判断できるように、論点と優先順位を整理する支援を行っています。
相談内容が整理できていない段階でも問題ありません。
むしろ、何から考えるべきかを整理するところから始まることが多くあります。
臨床と同じように、経営判断も「症状が出てから」ではなく、違和感の段階で整理することに意味があります。
判断が重くなり始めた段階で、ご相談いただくことが多いです。
※実務代行ではなく、判断の前提を整理するための支援です。
※売り込みは行いません。合わないと感じた場合は、その時点で終了して構いません。