導入:自己資金ゼロでも開業できる?


「自己資金ゼロでもクリニックを開業できますか?」というご相談をいただくことがあります。
結論から言えば、制度上は可能です。ただし、現場の感覚としては慎重な準備が欠かせないテーマです。
本記事では「自己資金ゼロ開業」という言葉の裏にある現実と、リスクを抑えながら実現するための考え方を整理します。


第1章 制度上の仕組みと現実のギャップ


医師向けの融資制度は整っており、日本政策金融公庫や民間金融機関を活用すれば、全額借入(フルローン)での開業も制度上は可能です。
また、高額な医療機器はリースや割賦契約により初期費用を抑えられます。見かけ上は「自己資金ゼロ開業」も実現できますが、実際には次のようなギャップがあります。



  • 融資審査が厳しく、提出資料や計画の精度が求められる

  • 返済負担が重く、軌道に乗るまで資金繰りに余裕がない

  • 予備資金がないと突発的な支出に対応しにくい


制度が整っている=成功しやすい、ではありません。開業を「スタート」として続けるための視点が重要です。


第2章 自己資金ゼロ開業のリスクを理解する


① 融資審査の難易度が上がる


金融機関は、開業資金の1〜2割程度の自己資金を想定しています。ゼロの場合は「リスクをすべて銀行が負う」と判断され、審査が厳格化します。勤務実績・診療圏・事業計画書の完成度など、複数の加点要素がなければ通過は難しくなります。


② 返済負担の増大


フルローンでは毎月の返済額が高くなり、開業初期のキャッシュフローが圧迫されます。入金が安定するまでの数か月は、資金繰りが極端にタイトになりがちです。精神的な負担も無視できません。


③ 予備資金の不足


開業初期は患者数が想定より少ないことも珍しくありません。生活費や人件費を数か月分確保できないと、不測の事態に対応できないリスクがあります。経営が苦しくなると診療にも影響が及びかねません。


第3章 自己資金が少ない場合の対応策


資産の棚卸と可視化


自己資金が少なくても、現預金・保険の解約返戻金・有価証券など、資金化可能な資産を整理して提示することが大切です。金融機関は「いざという時の備え」を重視します。資産一覧と事業計画をセットで準備しましょう。


また、ここでいう自己資金とは、単に「手元にある現金」だけを指すものではありません。
保険の返戻金や投資信託・株式などの有価証券、不動産など換金可能な資産も自己資金として評価されることがあります。
つまり、「実際に現金化しているか」よりも「資金化の裏付けがあるか」が重要です。こうした資産をリスト化して示すことで、融資審査時の安心材料になります。


計画の緻密化


融資担当者は「数字の整合性」よりも「計画に納得感があるか」を見ています。診療圏分析や収支計画に加え、開業後3年間の見通しを具体的に描くことが信頼につながります。


スモールスタートの発想


診療科や規模を絞り、低コストで始めて徐々に拡張する方法もあります。最新機器や内装にこだわるよりも、地域に根づく運営体制を早期に確立する方が長期的な安定につながります。


開業時期を見直す


勤務医として1〜2年準備期間を設け、自己資金を蓄えるのも賢明な選択です。焦って「借りられるうちに借りる」よりも、「続けられる形を整える」ことが結果的に近道です。


第4章 実務的な目安と判断の考え方


経験上、総開業資金の1〜2割(例:総額5,000万円なら500〜1,000万円)を自己資金として用意できると、融資は比較的スムーズに進みます。
ただし、自己資金とは「貯金額」ではなく、「開業後の資金余力」を含む考え方が大切です。
現預金だけでなく、保険の返戻金・有価証券・不動産・親族からの支援など、換金可能な資産や資金化の裏付けを含めて整理しましょう。


一方で、ゼロでも不可能ではありません。勤務実績・地域ニーズ・計画内容がしっかりしていれば、銀行担当者が「支援したい」と感じるケースもあります。
つまり、自己資金の多寡よりも、“考えの整理と戦略”がカギになります。


第5章 伴走支援という選択肢


資金計画は「いくら借りるか」だけでなく、「どのように続けるか」の設計でもあります。
まえやまだ純商店では、資金計画や融資交渉の準備を含め、先生の考えを丁寧に伺いながら伴走型で支援しています。
数字の前に、まず“考え”を整理することで、融資担当者にも伝わる事業計画が生まれます。


まとめ


自己資金ゼロでの開業は制度上可能ですが、審査・返済・運転資金の面でリスクが大きいのが実情です。
現実的には数百万円の自己資金を準備したうえで挑む方が安心です。
ただし、自己資金が十分でなくても、資産の棚卸と考えの整理によって、融資は前向きに進められる可能性があります。
まずは「どういう開業をしたいのか」を言葉にすることから、支援は始まります。


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