最終更新日:2026年7月23日
クリニック開業を考え始めると、「自己資金はいくら必要なのか」「自己資金が少なくても融資を受けられるのか」が気になる先生は少なくありません。
結論から言えば、自己資金ゼロでも開業できる可能性はあります。
ただし、金融機関から借りられることと、借入を返済しながらクリニックを続けられることは別です。
開業後は、家賃、スタッフの給与や社会保険料、リース料などの固定費を支払いながら、借入を返済していくことになります。
そのうえで、クリニックの利益から院長自身や家族の生活費も確保しなければなりません。
そのため、自己資金を考えるときに大切なのは、「開業できる金額があるか」だけではなく、事業として支払いと返済を続け、その後の生活も維持できる状態をつくれるかという視点です。
また、開業準備では、資金計画だけでなく、物件、設備、採用、システム、診療体制など、複数のことを並行して考える必要があります。
一つひとつを確認していても、考えることが増えると、何から決めればよいのか分からなくなることがあります。情報や選択肢は増えているのに、比較するだけで準備が進まないという状態も起こります。
本記事では、クリニック開業に必要な自己資金の目安を確認したうえで、自己資金が少ない場合に考えたい融資、固定費、運転資金、設備投資、生活費について整理します。
目次
1.クリニック開業の自己資金はいくら必要か
クリニック開業では、一般的に総開業資金の1〜2割程度を自己資金として準備できると、融資相談を進めやすいといわれます。
例えば、総開業資金が5,000万円であれば、500万円〜1,000万円程度が一つの目安です。
ただし、これはすべてのクリニックに当てはまる絶対的な基準ではありません。
診療科、開業エリア、物件、設備、採用人数、システム、開業後に必要な運転資金によって、必要となる資金は大きく変わります。
自己資金を考えるときの基本
- 総開業資金の1〜2割程度は一つの目安
- 自己資金だけで開業の可否は決まらない
- 診療科や開業規模によって必要な資金は変わる
- 融資額、固定費、運転資金まで含めて考える
目安を知ることは必要です。しかし、本当に確認したいのは、一定額を用意できるかどうかではありません。
開業後も固定費を支払い、借入を返済しながら、クリニックを続けられる資金構造になっているか。
この視点を持つことが、開業後も地域で役割を果たし続けるためには大切です。
2.自己資金ゼロでも開業できる可能性はある
自己資金がほとんどない状態でも、融資やリースなどを組み合わせることで、クリニックを開業できる可能性はあります。
日本政策金融公庫や民間金融機関からの融資、医療機器のリースなどを活用することで、初期費用の多くを借入で準備することは不可能ではありません。
ただし、自己資金が少ないほど借入額は大きくなり、開業後の返済負担も増えます。
また、自己資金の額だけでなく、次のような点も確認する必要があります。
- どのような診療を行うのか
- どの程度の患者数や売上を見込むのか
- 固定費や借入返済を支払える計画になっているか
- 開業後の運転資金を確保できているか
自己資金ゼロで開業できるかどうかは、単に「借りられるか」ではなく、 借入を返済しながらクリニックを続けられる計画になっているか という視点で考えることが大切です。
3.借りられる額より、返済しながら続けられるか
クリニックを開業すると、毎月さまざまな支払いが発生します。
- 物件の家賃や共益費
- スタッフの給与や社会保険料
- 医療機器やシステムのリース料
- 材料費や保守費などの運営費
- 金融機関への借入返済
これらを事業の売上から支払い、返済後に残る利益の中から、院長自身や家族の生活費を確保することになります。
事業のお金と生活費を同じものとして考えると、クリニックとしてどの程度の売上と利益が必要なのかが見えにくくなります。
まずは、クリニックが事業として支払いと返済を続けられる状態を考える。そのうえで、院長や家族の生活に必要な金額を確保できるかを確認することが大切です。
事業が続かなければ、院長自身や家族の生活も長く支えることができません。
厳しく感じられるかもしれませんが、開業後も地域で役割を果たし続けるためには、事業として成り立つことと、生活を維持できることを分けて考える視点が必要です。
診療報酬は、診療した日に全額入金されるわけではありません
保険診療では、診療した日に診療報酬の全額が入金されるわけではありません。患者さんの窓口負担分を除き、保険請求分はレセプト請求後に入金されるため、売上が立っていても実際の入金までには時間差があります。
その間も、家賃、スタッフの給与や社会保険料、リース料、借入返済などの支払いは発生します。
そのため、開業後数か月を支える運転資金をあらかじめ見込んでおくことが大切です。
4.自己資金の金額より迷いやすい3つの判断
自己資金の目安が分かっても、実際の開業準備では、金額だけでは決められない判断が続きます。
「借入額を増やして後悔しないだろうか」「設備を削ることで診療や院内運用に影響しないだろうか」「自己資金を使い切っても大丈夫だろうか」と迷うこともあります。
自己資金を設備投資に使うか、運転資金として残すか
自己資金を多く設備投資へ回せば、借入額を抑えられる場合があります。
一方で、自己資金を使い切ってしまうと、患者数が計画どおりに増えなかったときや、想定外の支出が発生したときに対応できる余白が少なくなります。
設備へ使う金額と、開業後の運転資金として手元に残す金額を分けて考えることが大切です。
借入を抑えるか、必要な投資を優先するか
借入額を抑えることは、毎月の返済負担を軽くすることにつながります。
ただし、何でも削ればよいわけではありません。
診療に必要な医療機器、スタッフの業務負担を減らすシステム、患者さんが利用しやすい受付や予約の仕組みなど、開業時から整えた方がよいものもあります。
大切なのは、単純に安くすることではなく、自院がどのような診療を行い、どのような運営を続けたいかを踏まえて投資の優先順位を決めることです。
借りられる金額と、無理なく返せる金額を分ける
金融機関から融資を受けられる金額が、そのまま自院にとって無理のない借入額とは限りません。
患者数や売上が計画を下回った場合でも、固定費と借入返済を続けられるかを確認する必要があります。
「計画どおりに進めば返済できる」だけでなく、患者数の増加が遅れた場合や、費用が想定を上回った場合も考えておくことが大切です。
借りられる額ではなく、厳しい条件でも返済を続けられる範囲から借入額を考える必要があります。
5.自己資金が少ない場合に確認したいこと
自己資金が少ない場合は、金額だけで開業の可否を判断するのではなく、次の項目を順番に確認します。
- 現在用意できる資金を確認する
- 生活費として残す資金と、事業に使う資金を分ける
- 開業時に必要な支出と、開業後に追加できる支出を分ける
- 毎月発生する固定費と借入返済額を確認する
- 患者数が計画を下回った場合の資金繰りを確認する
- 設備投資、借入、運転資金の優先順位を決める
- 次に確認することと、決めることを明確にする
現在の資産を確認する
自己資金というと、普通預金や定期預金だけを考えがちです。
実際には、保険の解約返戻金、有価証券、不動産なども含め、現在の資産状況を確認することがあります。
すべてを現金化する必要があるという意味ではありません。
事業に使える資金と、生活を守るために残す資金を分けるためにも、まず現在の状況を把握することが大切です。
計画は一つの前提だけで考えない
資金計画では、希望する患者数や売上だけを前提にすると、開業後に余裕がなくなる可能性があります。
少なくとも、複数の前提で資金計画を確認することが大切です。
- 現実的な計画:診療圏や診療方針を踏まえた見通し
- 厳しめの計画:患者数の増加が遅れた場合や、支出が増えた場合の見通し
- 融資相談に使う計画:事業の考え方や返済可能性を説明するための計画
「うまくいけば返済できるか」ではなく、想定より遅れてもクリニックを続けられるかを確認することが重要です。
6.複数の準備が重なり、進まなくなったとき
開業準備では、資金だけを考えればよいわけではありません。
物件、設備、採用、システム、患者さんへの認知、行政手続き、家族との生活設計など、複数のことを並行して進める必要があります。
一つひとつの情報は集まっていても、考えることが増えると、何から決めればよいのか分からなくなることがあります。
確認事項が増える。比較する選択肢も増える。しかし、優先順位が見えなくなり、結局何から始めればよいか分からない。考えているのに、準備が前へ進まない。
そのような状態では、新しい情報を集めても、判断しやすくなるとは限りません。
まずは、 「今決めること」と「あとで決められること」を分けることが大切です。
判断を整理するときの考え方
- 今すぐ決めること
- 先に確認すること
- 他の判断が決まってから考えること
- 開業後に見直せること
- 現時点では決めなくてもよいこと
このように整理することで、次に何を確認し、何を決めればよいかが見えやすくなります。
整理すること自体が目的ではありません。 止まっていた開業準備を、次の一歩へ進められる状態をつくることが大切です。
7.クリニックを続けるための資金計画
自己資金ゼロで開業できるかどうかは、単純に「できる」「できない」で答えられるテーマではありません。
自己資金が少なくても、借入額、固定費、運転資金、設備投資のバランスが取れていれば、開業を検討できる可能性があります。
一方で、自己資金が一定額あっても、過剰な設備投資、楽観的な患者数予測、運転資金不足、固定費の増加があれば、開業後に資金繰りが苦しくなることがあります。
大切なのは、自己資金の額だけではありません。
- 固定費を毎月支払えるか
- 借入を無理なく返済できるか
- 患者数が計画を下回っても運営を続けられるか
- 必要な設備や院内運用を維持できるか
- 事業の利益から生活費を確保できるか
- 想定外の事態にも対応できる余白があるか
同じ自己資金の額でも、診療科、開業エリア、開業規模、設備投資、採用人数、家族の状況によって判断は変わります。
そのため、「一般的な正解」を探し続けるよりも、自院の状況を確認し、どの組み合わせならクリニックを続けられるかを考えることが重要です。
事業計画書は、開業して終わりではありません
開業前に作成した事業計画書は、融資を受けるためだけの資料ではありません。
開業後は、実際の患者数、売上、固定費、借入返済、手元資金などを計画と見比べながら、必要に応じて運営を見直していくことが大切です。
毎日確認する必要はありませんが、定期的に計画と実績の違いを確認することで、早めに改善策を考えやすくなります。
開業時に資金を使い切るのではなく、診療や院内運用を見直せる余白を残すことが、地域で役割を果たし続けられるクリニック運営につながります。
8.まとめ
クリニック開業では、総開業資金の1〜2割程度が自己資金の一つの目安といわれます。
ただし、これは絶対的な条件ではありません。自己資金ゼロでも、融資などを利用して開業できる可能性はあります。
一方で、開業できることと、借入を返済しながらクリニックを続けられることは別です。
開業後は、家賃、スタッフの給与や社会保険料、リース料などの固定費を支払い、借入を返済しながら運営を続けていく必要があります。
また、開業準備では、自己資金だけでなく、物件、設備、採用、システムなど、多くの判断が重なります。情報を集めるだけでは、かえって何から決めればよいのか分からなくなることもあります。
そのようなときは、現在の状況を整理し、今決めることと、あとで決められることを分けることで、次の一歩が見えやすくなります。
自己資金の額だけで開業を判断するのではなく、 固定費を支払い、借入を返済しながら、地域で役割を果たし続けられるクリニック運営につながる資金計画になっているか を考えることが大切です。
考えることが増え、開業準備が進まなくなったときに
開業準備では、自己資金、借入、設備投資、運転資金だけでなく、物件、採用、システム、診療体制など、複数の判断が重なります。
考えることや比較する選択肢が増えるほど、何から確認し、何を決めればよいのか分からなくなることがあります。
まえやまだ純商店では、正解を代わりに決めるのではなく、現在の状況やこれまでの経緯、確認できている事実、判断する論点、選択肢、優先順位を整理します。
そのうえで、今決めること、あとで決めること、誰に何を確認するのかを整理し、自院として次の一手を決めやすい状態を整えます。
比較を続けても決めきれないとき、一人では考えを整理しきれないときは、現在の状況を整理するところから一緒に始めています。
クリニック経営で相談できる場面 | 支援で大切にしていること
※融資や申請の代行ではありません。現在の状況や論点を整理し、自院として判断しやすい状態を整える支援です。
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