勤務医から開業医へ──QOLより先に“経営の土台”を整える理由
勤務医から開業医への一歩は、働き方の変化だけでなく、“事業を営む”という視点の始まりです。 開業を「自由になる手段」と捉える前に、まず事業の土台をどう固めるかを考えることが、その後のQOLを支える鍵になります。
はじめに
勤務医として病院に所属している間は、診療に専念できる仕組みが整っています。給与は安定し、経営リスクは組織が負担します。そのため「どうすれば生活の質を高められるか」という発想が自然に生まれます。
しかし、開業医として独立した瞬間から、その構造は大きく変わります。患者数・単価・人件費・広告費・資金繰りなど、すべての判断が経営に直結します。 自由を手に入れるはずが、かえって不安定になるのではという葛藤を抱える先生も少なくありません。 この段階で大切なのは、まず“土台”を整えること。QOLを追うよりも、仕組みを整えるほうが、長く自由に働ける未来につながります。
勤務医と開業医で変わる「前提」
立場が変わると、求められる視点も変わります。
- 収入の性質: 固定給から、診療報酬や患者数に応じた変動型へ
- 意思決定の幅: 診療行為中心から、投資・採用・広報など“経営判断”へ
- 時間配分: 診療中心から、改善・採用・渉外を含む多面的な業務へ
これらの変化を受け止めるには、「経営」を避けるのではなく、自院を安定させる仕組みを早い段階から整えることが欠かせません。
開業初期に整えたい“4つの土台”
① 経費感覚と“買い物のクセ”を見直す
医療機器や備品、システム利用料など、わずかな差が月次損益を左右します。 「念のため」「これくらいは必要だろう」で判断すると、固定費がじわじわ積み上がります。 開業初期こそ、必要十分の視点で経費を見極める力を養いましょう。
② “時間の棚卸し”で、収益を生む時間設計を
同じ1時間でも、診療収入を生む時間と、スタッフ教育や改善活動のように“将来の再診や紹介”につながる時間があります。 「忙しくて経営に手が回らない」という先生ほど、時間設計が曖昧な傾向があります。 勤務医のうちから1週間単位で時間を可視化し、“経営に使う時間”を確保する習慣を持つことが、開業後の安定につながります。
③ 交渉力と「わからないを聞ける力」
建築業者、医療機器メーカー、ITベンダー、金融機関、専門家など、多様な相手と関わるのが開業後です。 「質問したら失礼かも」と遠慮してしまうと、後で不利な契約や過剰投資につながることも。 納得できるまで聞く勇気と、「わからないことをそのままにしない姿勢」が、結果的に経営の安定を守ります。
④ 勤務医時代は“最高の準備期間”
開業はゴールではなく、新しいスタート。 経費感覚・時間管理・チーム運営・交渉経験といった「診療以外の筋力」を勤務医のうちから鍛えておくと、開業後の立ち上がりが格段にスムーズになります。 実際、支援の現場では「勤務医時代にどこまで準備できたか」が、その後の明暗を分ける例を多く見てきました。
“土台 → QOL”という時間軸で考える
開業直後は、まずキャッシュフローの安定(売上確保・コスト最適化・未収対策)が最優先。 次に再診率・紹介率を高める仕組みづくりを整え、徐々にスタッフの育成や業務委譲を進めていきます。 こうして土台が整うほど、診療時間や働き方の“選択肢”が増えていきます。
つまり、土台づくりはQOLを犠牲にするものではなく、QOLを守るための前提。 「経営=自由の制限」ではなく、「経営=自由を支える仕組み」と捉えると、開業後の視界が変わります。
まとめ
勤務医から開業医へと立場が変わるとき、まず意識したいのは“QOLよりも基盤づくり”。 経費感覚、時間設計、交渉力、そして「わからないを聞ける力」は、すべて開業後の安心を支える土台です。
医師資格を持たない立場ではありますが、これまで多くの先生方を伴走してきた経験から、少しでも参考になれば幸いです。
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