国民皆保険制度の持続可能性を考える ― 財務省・厚労省の視点から読み解く2026年改定への示唆
公開日:2025年11月8日(2025年10月・11月時点の情報をもとに作成)
はじめに
「国民皆保険制度をどう守るか」。この問いが、いよいよ現実味を帯びてきました。
2025年10月・11月にかけて、財務省・厚生労働省の両省から、 2026年度診療報酬改定を見据えた資料が相次いで公表されています。 それぞれの立場や問題意識は異なりますが、共通しているのは── 「限られた資源の中で、持続可能な医療をどう築くか」という視点です。
本記事では、最新の動きを踏まえつつ、 クリニック院長・経営者の方に向けて「今どこを押さえておくべきか」を整理します。
財務省の視点:「制度を持たせるための引き締め」
財務省が示した社会保障関連資料では、 「利益率の高い診療所・薬局への適正化」や「生産性改革」といった方針が示されています。 医療費の伸びを抑え、国民皆保険制度を“持たせる”ための方向性です。
- 診療所や調剤薬局の高収益構造に対する「適正化」の検討
- 医療・介護提供体制の機能分化・連携、再編を含む効率化
- 医療費の伸び率を1〜2%台にコントロールしていくという問題意識
今後の診療報酬改定は、 「どの領域を維持し、どこを見直すか」という選択と集中の要素が強くなることが予想されます。 クリニックとしては、「自院がどの役割で評価されるべきか(あるいはされにくいか)」を 客観的に把握しておくことが重要です。
厚労省の視点:「人を守るための仕組みづくり」
一方、厚生労働省の医療部会では、次のようなテーマが示されています。
- 物価・人件費上昇への対応
- 医療スタッフの賃上げと処遇改善
- 業務効率化・医療DXの推進
- タスクシフト/タスクシェアの推進
- かかりつけ医機能・地域連携の強化
無床診療所の約4割が赤字という状況も踏まえ、 「人を支えなければ、制度も持続しない」というメッセージが強調されています。
財務省が「上からの引き締め」を通じて皆保険財政の持続を図るのに対し、 厚労省は「現場を支える仕組み」を通じて支える人材と体制を守ろうとしています。 アプローチは異なりますが、 いずれも「国民皆保険制度を持続可能にする」ための一体の議論として捉えるべき動きです。
3つの視点で整理する「国民皆保険制度のこれから」
- 財源・分配(財務省の視点):限られた財源の中で、どの医療を優先的に支えるか
- 現場・人材(厚労省の視点):誰が、どのような体制で医療を提供し続けるか
- 意識・文化(現場と社会の視点):私たちは医療をどう使い、どう支えるのか
この3つがかみ合って初めて、 国民皆保険制度は「制度」としてだけでなく「文化」として続いていきます。
院長・経営者として備えておきたい視点
- 業務の可視化と効率化: ムリ・ムダ・ムラを洗い出し、小さなDXから始める。
- チーム体制の整備: タスクシフトを前提に、医師・看護師・事務の役割を再設計する。
- コスト構造の点検: 人件費・外注費・固定費を整理し、「なぜこの体制か」を説明できるようにする。
- 地域連携の再構築: 「診る」だけでなく「支える」医療へ。地域包括的な関係性を強化する。
- 患者・家族との対話: 医療の限界や適切な受診行動を共有し、「支える文化」を育てる。
制度を支えるのは、制度そのものではなく、現場と地域の関係性です。
12月上旬の「基本方針案」に注目
2026年度診療報酬改定に向けて、 2025年12月上旬に厚生労働省から「診療報酬改定の基本方針案」が公表される予定です。
当サイトでは、この基本方針案の内容が公表され次第、 今回のテーマ(国民皆保険制度の持続可能性・財務省と厚労省の視点)と結びつけながら、 クリニック経営に直結するポイントを整理した記事を改めて掲載いたします。
制度の動きを俯瞰しつつ、「自院として何を選び、どう備えるか」を一緒に考えていく材料として、ご覧いただければ幸いです。
まとめ
「国民皆保険制度の持続可能性」は、 単に「財政をどう守るか」ではなく、 「人と人との関係をどう続けるか」という問いでもあります。
制度の裏側には、現場で努力を続ける人たちと、 医療を信頼して受けとめる人たちの存在があります。 その積み重ねこそが、これからの医療を支える土台になっていくはずです。
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