正解を急がず、納得して続けるために。 クリニック開業・経営の判断の前提を、静かに整える時間。

クリニック開業・経営コラム

なぜ多くの開業相談は『どう開業するか』から始まるのか ― 変化の時代に問われる“医療の出発点”

開業を考える先生方とお話ししていると、最初に出てくる言葉の多くは 「どうやって開業すればいいか」「経営を成り立たせるにはどうすればいいか」です。

一見、当然の出発点のように思えます。 しかしその裏には、「なぜ開業するのか」「どんな医療をつくりたいのか」という 根本の目的が整理されないまま話が進むケースも少なくありません。 なぜ、私たちは「どう」から始め、「なぜ」を後回しにしてしまうのでしょうか。

第1章:「目的」と「手段」の逆転

多くの勤務医の先生にとって、「開業を考える」とは、今の働き方を変えたいという想いの延長線上にあります。 「どうすれば辞められるか」「どこに物件を探すか」「どんな形態で始めるか」。 そうした行動の設計が中心になるのは、ごく自然な流れです。

一方で、「どんな価値を提供したいか」「自分の経験をどう活かしたいか」といった 意味の設計は後回しになりがちです。 この「意味より手段が先に立つ」構造こそ、開業相談でよく見られる共通点です。

第2章:医療という構造の特性

日々の診療を通じて得られる収入の多くは診療報酬によって成り立っており、 開業はその延長線上にある「独立のかたち」として位置づけられてきました。 そのため、「経営=診療をどう成り立たせるか」という発想が自然に根づいています。

一方で、「自分の経験や理念をどう事業に変えるか」「医療の形をどう再構成するか」といった発想は、 教育や制度の中ではあまり扱われてきません。 結果として、「自分の価値をどう社会に還元するか」という問いを立てる機会が乏しいのです。

第3章:成功モデルの偏り

世の中の開業モデルの多くは、「◯年で黒字」「1日◯人来院」といった 数値的成功を前提としています。 こうしたモデルは、「経営を成り立たせたい」という発想を強化する一方で、 「どんな医療を続けたいか」「何を大切にしたいか」という本来の視点が、 意識されにくくなっています

その結果、「経営を続けること」が目的化し、 「なぜその経営を行うのか」という出発点が薄れがちになります。

第3.5章:変わりゆく「需要と供給」のバランス

医療の需要は、急性期中心から、生活支援・慢性疾患・地域包括へと移りつつあります。 一方で、医師側のキャリアや開業モデルは、依然として「治す医療」を前提に設計されていることが多いのが現状です。

つまり、社会が求める医療の形(需要)と、医師が提供したい医療の形(供給)とのあいだにズレが生じています。 このギャップが、開業を考える際に「まず経営を成り立たせたい」という焦りや不安を生む要因にもなっています。

「需要と供給のズレ」を理解することは、 「どんな医療を提供したいのか」という原点に立ち返るための、大切な出発点でもあります。

第4章:社会構造の変化が求める「新しい出発点」

診療報酬改定を含む医療保険制度では、 物価や賃金の上昇、人口減少、人材確保の難しさなど、 社会全体の変化を踏まえながら、 社会保障給付費の伸びを高齢化による増加分の範囲に抑える方向性が示されています。 (財務省「持続可能な社会保障制度の構築」、厚生労働省「診療報酬改定の基本方針」より)

こうした流れのなかで、診療報酬を積み上げて経営を維持するモデルは、次第に限界を迎えつつあります。 いわゆる「数をこなすことで経営を成り立たせる」発想だけでは、 医療の質や働く人の持続性を守ることが難しくなっているのです。

一方で、労働人口の減少が進み、スタッフの確保や業務負担の分散にも限界が見え始めています。 こうした状況は、単に「厳しい環境」というよりも、 「医療の形そのものを問い直す機会」と捉えることができます。

これからの時代に求められるのは、「どれだけ診療するか」ではなく、 「何を軸に価値を生み出すか」という視点です。 自分の経験・価値観・専門性をもとに、 医療サービスと経営の両面から事業を再定義する力。 それこそが、変化の時代における新しい「医療の出発点」です。

結び:意味から始める開業へ

開業・独立という行為は、単に場所や仕組みを整えることではなく、 自分自身の理念や価値観を社会のなかでどう形にしていくかを問う行為です。

「経営を成り立たせたい」という願いは、ごく自然な出発点です。 大切なのは、その内側にある「なぜ」を丁寧に言葉にし、共有していくこと。 そこにこそ、「続く医療」「納得できる経営」の基盤があります。

参考文献

  • 財務省『持続可能な社会保障制度の構築(令和6年 財政制度等審議会資料)』 (PDF)
  • 厚生労働省『令和8年度診療報酬改定の基本方針(案)』 (PDF)

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「どう開業するか」より「なぜ開業するか」──変化の時代に、医療を始める意味を考える

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