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クリニック開業・経営コラム

小児科クリニックにおける経営管理・数値の視点


小児科の数値管理は「安心の可視化」と「改善の積み重ね」です。KPI・収益設計・制度対応の三本柱で、揺らぎに強い経営基盤を構築します。




はじめに


制度の変化や少子化を背景に、小児科クリニックの経営には数値管理の視点が不可欠です。感染症シーズンの変動や、予防接種・健診といった継続的サービスを踏まえ、 KPI(現場に直結する指標)収益設計を意識することで、安定した経営基盤を築くことができます。 (関連:制度から考える小児科クリニックの未来像




1. 小児科経営で押さえるべき基本指標(KPI)


財務指標だけでなく、日常診療に直結する次の指標を重視します。



  • 患者継続率:定期健診や予防接種を最後まで受けている割合

  • 平均来院回数:年間の受診回数(年齢層別の推移も確認)

  • 紹介・逆紹介の件数:地域連携の深さを示す指標

  • スタッフ定着率:職場の安定性とサービス品質に直結

  • 保護者満足度:アンケート等で定量・定性の双方を把握


Googleフォームを活用した保護者アンケート


口コミサイトの評価に受け身で向き合うのではなく、自院が主体的にフィードバックを集める仕組みを持つことが重要です。Googleフォーム等を用いれば、低コストで導入でき、データの蓄積と改善が容易になります。



  • 外来後に受付・サイネージ・会計時にQRコードを掲示し、スマホで数分で回答できる導線を整備

  • 設問例:「待ち時間」「スタッフ対応」「施設環境」「説明のわかりやすさ」「再診意向(NPS)」

  • 回答は自動でスプレッドシートに集計し、月次・四半期で推移を確認(改善前後の比較が可能)

  • 匿名性により率直な意見が集まり、具体的な改善点(掲示・動線・説明文言など)が見えやすい


この仕組みは、低コストで今すぐ始められるKPI運用であり、保護者の信頼向上にも寄与します。




2. 季節変動を踏まえた収益設計


小児科は感染症シーズンで患者数が増え、オフシーズンに減少する特性があります。年間を通じた安定化のために、 予防接種・乳幼児健診を「通年の安定収益源」として位置づけ、計画的な実施とリマインド運用(メール・LINE)で受け漏れを防ぎます。


生活習慣病の早期介入という新しい柱


近年、小児肥満・思春期の糖尿病予備群・高血圧予備群への関心が高まっています。感染症・健診に加え、生活習慣の予防・早期介入をサービスとして整備することで、季節変動に左右されにくい新たな柱を育てられます。



  • 健診時の生活習慣チェック:睡眠・食事・運動・スクリーンタイム等の簡易評価を導入

  • 個別栄養・生活指導:保護者同席で行動目標を設定(配布資料はHPと統一)

  • フォロー外来・オンライン相談:行動変容の継続支援(再診と遠隔の組み合わせ)

  • 地域連携:必要に応じて内科・糖尿病専門医へ橋渡し(移行期医療の整備)


経営面では、安定収益の分散差別化(生活習慣支援に強い小児科)保護者の長期的信頼の獲得につながります。




3. 制度・加算への対応


医療DX推進加算や感染症対応加算など、診療報酬の変化は経営に直結します。単なる収益増減として捉えるのではなく、 「患者・スタッフの安心に資する投資」として、予約・問診・情報連携・説明資材の標準化などに活用します。




4. 経営者が押さえておきたい“数字の見方”


難解な分析に偏る必要はありません。日常診療に直結する数値を見て、改善につなげることが重要です。



  • 継続率は保護者の安心指標:「また来たいと思える体験か」を数字で確認

  • 予防接種の受け漏れはリマインドで是正:導入前後の改善幅を記録

  • アンケートはKPI運用の起点:月次で要因別の改善アクションを決める


数字は“結果の記録”ではなく、現場改善のトリガーとして活用します。




まとめ


小児科の経営管理は、KPI(保護者満足の能動的把握を含む)/季節変動を補う収益設計(健診・予防+生活習慣病予防)/制度対応の三本柱で考えることが重要です。 今後の時代を考えると、数値管理を通じた「安心の可視化」と「改善の積み重ね」の姿勢こそが、持続可能な小児科経営の基本となるでしょう。




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