小児科経営シリーズ⑤|小児科クリニックの“数字の見方”──経営を安定させるKPIと収益設計のポイント
小児科の数値管理は「安心の可視化」と「現場改善の積み重ね」です。 KPI・収益設計・制度対応の三本柱で、季節変動に強い経営基盤を育てていきます。
はじめに
感染症の流行、年齢による来院頻度の変化、予防接種・健診といった継続的サービス── 小児科は構造的に“変動が大きい診療科”です。だからこそ、日々の診療と直結した 「数字の見方」を持つことで、経営の揺らぎを抑えることができます。
本記事では、小児科クリニックが取り組みやすい KPI(現場に直結する指標)・ 季節変動に左右されにくい収益設計・ 制度・加算の活かし方 の三つの視点から、明日から始められる経営管理の方法を整理します。
(関連: 制度から考える小児科クリニックの未来像 )
1. 小児科経営で押さえておきたい“現場に強い”KPI
財務指標だけでは、小児科特有の“安心”や“継続”の状況を十分に把握できません。 まずは次の指標を押さえることで、日常診療の改善と直結した管理がしやすくなります。
- 患者継続率:予防接種・健診が計画通り完了している割合
- 年齢層別の平均来院回数:乳児・幼児・学童での受診傾向を把握
- 紹介・逆紹介の件数:地域連携の深さを示す指標
- スタッフ定着率:サービス品質と運営の安定性を左右
- 保護者満足度:“また来たいと思える体験か”を数値で確認
Googleフォームで始める保護者アンケート
口コミサイトの評価に受け身で向き合うのではなく、 自院が主体的にフィードバックを集める仕組みを持つことが大切です。
- 受付・会計・サイネージでQRコードを掲示し、数分で回答できる導線を整備
- 設問例:「待ち時間」「スタッフ対応」「説明のわかりやすさ」「施設環境」「再診意向(NPS)」
- 回答はスプレッドシートに自動集計 → 月次・四半期で推移を確認
- 匿名性により率直な意見が集まり、具体的な改善点が見えやすい
小児科にとって、この仕組みは 最も導入しやすいKPI運用であり、 保護者との信頼関係づくりにも直結します。
2. 季節変動を踏まえた収益設計 ─ “柱を分散させる”考え方
小児科は感染症シーズンに患者数が増え、オフシーズンに落ち込むという特性があります。 この波をならすためには、 健診・予防接種の通年運用を安定収益の柱として設計することが有効です。
さらに近年では、 小児肥満・思春期の生活習慣病予備群への支援ニーズが急増しています。 「発症してから診る」だけでなく、 生活習慣の早期介入をサービス化することで、季節変動に左右されにくい新しい柱を育てられます。
- 健診時の生活習慣チェック:睡眠・運動・食事・スクリーンタイムの簡易評価
- 個別指導の標準化:保護者と行動目標を共有(資料はHPと統一)
- フォロー外来・オンライン相談:継続支援の仕組み化
- 地域連携:必要に応じて内科・専門医へ橋渡し(移行期医療)
これらは、 安定収益の分散 差別化(生活習慣に強い小児科) 長期的な信頼関係の構築 の三つに貢献します。
3. 制度・加算への対応 ─ “投資に変える”視点
医療DX推進加算、感染症対応加算など、診療報酬は年々“運営の質”を問う方向へ進んでいます。 単なる収益増減として捉えるのではなく、 「患者・スタッフの安心に資する投資」 と位置づけることで、取り組みが経営にプラスに働きます。
- 予約・問診システムの標準化(待ち時間の予測精度が向上)
- 説明資材の整備(保護者満足度の改善)
- 地域連携の強化(紹介・逆紹介の質向上)
4. 経営者が押さえたい“数字の見方” ─ 難しい分析は不要
重要なのは、数字を“評価”ではなく、現場改善のトリガーとして使うことです。
- 継続率:保護者の安心度を測る指標。「また来たいと思えるか」を数字で把握
- 予防接種の受け漏れ:リマインド導入前後の改善幅を確認
- アンケート結果:月次で改善テーマを決め、小さな修正を積み重ねる
数字は“現場の日常”と直結しています。 大きな改革よりも、小さな改善を続けるための道具として活用することが大切です。
まとめ
小児科の経営管理は、 KPI(保護者満足の能動的把握)、 季節変動を補う収益設計、 制度対応の前向きな活用 の三本柱で考えることが重要です。
数値管理は、院長先生を“縛る”ものではありません。 むしろ、安心の可視化と改善の積み重ねを通じて、 小児科が本来大切にしている「家族に寄り添う医療」を続けるための基盤となります。
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