内科開業と持続可能な経営 ── 三方よし/四方よしの視点から
                内科一般の特徴
内科クリニックは、地域医療の「入口」として最も広い役割を担います。風邪や発熱などの急性疾患から、高血圧・糖尿病・脂質異常症といった生活習慣病、さらに高齢者の慢性疾患管理まで幅広く対応する必要があります。
「まず内科に相談しよう」という住民の安心感を支える存在ですが、その分だけ経営課題も多面的です。
三方よしで考える内科経営
近江商人が大切にした「三方よし」は、医療経営にも通じます。
- 売り手よし(医師):仕組みを整えて無理なく診療を続けられる
 - 買い手よし(患者):急性疾患から慢性疾患まで幅広く相談できる安心感を提供
 - 世間よし(地域社会):予防医療や地域包括ケアに関わり、地域全体の健康を底上げ
 
患者や地域のために頑張りすぎて医師自身が疲弊してしまっては続きません。三方よしの視点は、バランスを保ちつつ長期的に信頼される経営の軸になります。
四方よし──スタッフも加える
現代のクリニック経営では スタッフ の存在を抜きに語れません。採用難・定着難の時代に、スタッフを大切にする仕組みを持たなければ経営は持続しません。だからこそ「スタッフよし」を加えた 四方よし が必要です。
スタッフよし:働きやすく、誇りを持って働ける職場環境を整える
外部やAIを活用した業務効率化
- AI電話やオンライン問診で事務負担を軽減
 - 電子カルテ・予約システムで診療フローを効率化
 - 経理・清掃・事務作業は外部委託し、院内は医療に集中
 - 教育・研修を外部と協力し、定着率を高める
 
スタッフが働きやすい環境は、結果的に患者満足・地域貢献・医師の働きやすさすべてにつながります。
内科に特有の経営課題
- 診療報酬改定:生活習慣病管理料や在宅医療関連の評価など、制度変更が収益に直結
 - 人口減少・高齢化:若年層の受診は減少する一方、慢性疾患や複数疾患を抱える高齢者は増加
 - 人材不足:看護師・医療事務の採用難と定着難
 - 医師の働き方改革:長時間労働に依存した経営は持続不可能
 
この現実に対応するためにも、「三方よし/四方よし」を軸に据えて柔軟に経営判断を行うことが欠かせません。
キャリアシナリオ(あくまで一例)
ここで紹介するのは、あくまで一つのモデルケースです。実際のキャリアは医師それぞれ十人十色ですが、方向性を考える参考としてご覧ください。
開業直後(30〜40代)
- 内科一般として幅広く患者を受け入れつつ、生活習慣病診療を軸に信頼を築く
 - 呼吸器・消化器など、自分の専門性を一部に加えて差別化
 - DXや外部委託を導入し、開業当初からスタッフ負担を軽減
 
50代
- 地域包括ケア・在宅医療・介護施設との連携が増える
 - 経営課題は「人材定着」と「制度改定への柔軟対応」へシフト
 - 自分一人で抱えず、チームで診療を回す仕組みを整備
 
70代
- フルタイム診療から段階的に退き、週数日の診療や相談役へシフト
 - 後継者(子世代・弟子・信頼できる医師)への承継準備
 - 法人化・承継・M&Aなど、経営の出口戦略を検討
 - 「地域に医療を残す」ことを最終目的に据える
 
まとめ
内科クリニックは「地域の入口」として幅広い役割を果たす一方、制度改定・人口変化・人材不足といった大きな課題に直面しています。
だからこそ、江戸時代の近江商人が実践した「三方よし」に「スタッフよし」を加えた「四方よし」の視点が不可欠です。
- 医師が無理なく診療を続けられる
 - 患者が安心して通える
 - 地域全体の健康を支えられる
 - スタッフが誇りを持って働ける
 
この四重の「よし」を意識することが、変化の時代にクリニックを持続可能にする最大のポイントです。
※本記事は当社が執筆したnoteに掲載している「近江商人がもし現代の医師だったら──三方よしで歩む内科クリニック開業ストーリー」を推敲した記事になります。
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