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クリニック開業・経営コラム

クリニック経営とリスク管理 ― 感染症・災害・クレーム・情報セキュリティにどう備えるか(クリニック経営の基本視点シリーズ第5回)



はじめに


近年の新型コロナウイルス感染症や度重なる自然災害を経て、クリニックにおける「リスク管理」の重要性が改めて浮き彫りになりました。医療機関は地域にとって不可欠なインフラであり、診療を継続できない事態は患者さんだけでなく地域全体に影響を及ぼします。


例えば、突然の停電で電子カルテが使えなくなったとき外来が混乱し、患者さんへの説明に追われた経験がある先生もいらっしゃるかもしれません。あるいはSNSでの書き込みが広がり、意図せず評判に影響を受けたケースも耳にします。


リスク管理は医療安全の問題であると同時に、クリニックの経営課題でもあります。本記事では、クリニックが直面するリスクの全体像を整理し、持続可能な経営のためにどのような備えが必要かを考えます。




1. クリニックが直面する主なリスク


感染症



  • インフルエンザやコロナなどの流行で、一時的に外来が発熱患者であふれる

  • スタッフが同時に感染してシフトが組めなくなる

  • 予約システムが未整備だと、電話が鳴り止まなくなる


自然災害



  • 地震や台風で停電が起き、診療機器や電子カルテが使用できなくなる

  • 豪雨で通院できない患者さんが続出し、外来数が大幅に減少

  • 駐車場が冠水して休診せざるを得なかったケース


クレーム・トラブル



  • 「待ち時間が長い」と受付で声を荒らげる患者さん

  • 小さな行き違いがSNSで拡散され、地域での評判に影響

  • 記録が不十分で、説明責任を果たしづらくなる


情報セキュリティ



  • 電子カルテのサーバートラブルで、診療履歴が一時的に見られない

  • 予約システムの不具合でダブルブッキングが発生

  • メール誤送信による個人情報の漏洩




2. リスクが経営に与える影響



  • 外来中断が続けば、患者さんが他院に流れてしまう

  • スタッフの不安が高まれば離職につながり、人手不足が加速

  • 苦情や不満が地域に広まれば、信頼を取り戻すのに長い時間がかかる


つまり、リスクは突発的なトラブルでは終わらず、クリニックの「経営基盤」を揺るがす要因となり得ます。




3. 実務的な備え


感染症対策



  • 発熱患者専用の動線や診察室を準備しておく

  • オンライン診療や電話再診を活用し、来院集中を避ける

  • マスクや防護具、検査キットの在庫を定期的に確認


災害対応



  • 停電時に「まず誰が何をするか」をまとめた簡易マニュアルを作成

  • 発電機やポータブル電源を備え、電子カルテが最低限使える環境を確保

  • 地域の病院や薬局と「災害時連携」を事前に確認しておく


クレーム対応



  • 苦情があった際の対応フローをスタッフと共有

  • 「すぐに否定せず、一度受け止める」姿勢を全員で徹底

  • その日のトラブルは必ず記録し、次回の改善につなげる


情報セキュリティ



  • 毎日バックアップを自動で取る仕組みを整える

  • IDやパスワードの管理を徹底

  • 定期的に業者とシステム点検を実施




4. クリニックそれぞれのやり方がある


リスク管理には「絶対の正解」はありません。


例えば、発熱患者の受け入れ体制についても、



  • 院内で動線を分けて診療する

  • 近隣医療機関と役割分担する

  • オンライン診療を積極的に活用する


など、さまざまな方法があります。


災害対応でも、非常用電源を自院で備えるクリニックもあれば、地域の病院や薬局と協定を結び「いざという時の連携」で補うケースもあります。クレーム対応についても、院長先生が直接対応するところもあれば、まずスタッフが一次対応して院長先生がフォローする体制を取るところもあります。


大切なのは、すべてを完璧にそろえることではなく、自院に合った方法を選び、持続可能な形で備えることです。この記事が、そのための考えるきっかけになれば幸いです。




5. 経営者としての視点


リスク管理は「コスト」ではなく「投資」です。



  • 発熱外来を整えることは、感染症流行時にも診療を続けるための投資

  • 発電機や備蓄を整えることは、災害時に患者さんから信頼されるための投資

  • クレーム対応のマニュアルづくりは、スタッフを守るための投資

  • セキュリティ対策は、電子カルテを安心して使い続けるための投資


すべてを自院だけで抱える必要はありません。地域連携や外部委託をうまく組み合わせることで、院長先生やご家族のQOLを守りつつ、持続可能な経営を実現することができます。


当社「まえやまだ純商店」では、院長先生が主体的に判断できる伴走型支援を掲げ、リスク管理を経営の一部として無理なく取り込むためのお手伝いをしています。




まとめ


リスクは「いつか起こる」ではなく「必ず起こる」と考えることが大切です。感染症、災害、クレーム、情報セキュリティ――こうした事態への備えは、医療安全だけでなくクリニック経営の安定にも直結します。


持続可能なクリニック経営を実現するために、リスク管理を「経営戦略の一部」として位置づけ、予防と対応の仕組みを整えていきましょう。



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