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クリニック開業・経営コラム

心療内科は、どこまでを引き受けるのか──2026年改定を前に「全部やらない」判断を整理する

2026年改定を前に、心療内科クリニックの院長から、こんな声を聞くことが増えています。

  • 「結局、何をやればいいのかわからない」
  • 「全部やらないと置いていかれる気がする」
  • 「でも現実的に全部は無理だとも思っている」

これは、情報不足や準備不足の問題ではありません。
むしろ、制度が示している方向性が、これまで以上に“重く”なっていることの表れだと感じています。

この記事では、2026年改定を前に、心療内科クリニックが 「全部やらない」という判断をどう考えるかを、いったん言葉にして整理します。

※本記事は、点数や算定要件の細かい解説を目的としません。
※「この加算は必ず取るべき」と誘導するものでもありません。
※損得ではなく「引き受けられる責任」という観点で、判断の材料を並べます。


1. 導入:「何をやるか」より「何を引き受けるか」が問われている

2026年改定で問われているのは、単に「何を算定するか」ではなく、 どこまで関わるのか/どこまで責任を持つのかという線引きです。

たとえば、同じ「加算」という言葉でも、実態は大きく違います。
形だけ整えて取れるものもあれば、取った瞬間に「体制」「時間」「説明責任」がセットでついてくるものもある。

2026年改定では、この後者が増えました。
つまり、加算は「点数」ではなく、役割の引き受けとして重みを持ち始めています。

だからこそ今、「全部やらない」という判断が必要になります。
それは逃げではなく、現場で診療を続けるための、現実的な選択肢のひとつです。


2. なぜ「全部やらない」という判断が必要になるのか

少し強い言い方をすると、2026年改定では「全部やる前提」が制度的に崩れ始めています

これまでの改定では、「頑張れば何とかなる」「形を整えれば取れてしまう」という余地が、少なからずありました。
しかし今回の改定では、複数の加算に共通して、 初期対応・継続関与・体制整備・記録と説明が求められる流れが強まっています。

つまり、ある加算を取ることは、単発の点数を取りに行くことではなく、
「この領域を、当院が担う」と社会に示す行為に近づいている。

この構造の中で「全部やる」を選ぶと、どこかで無理が出ます。 それは根性論ではなく、設計上の必然です。

「全部やる」で起きやすい、静かな崩れ方

  • 診療の質が、バラつく(丁寧にできる日/できない日が増える)
  • スタッフが疲弊する(新しい対応が増え、日常業務が詰まる)
  • 院長の判断力が落ちる(判断が増え、決めきれなくなる)
  • トラブル時の責任が院長に集中する(想定外対応が増える)

もし「全部やる」が現場のキャパを超えるなら、
やらない判断を“先に”置くほうが、結果的に安定することがあります。


3. 心療内科として“引き受けられる範囲”には限界がある

心療内科の診療は、構造的に「引き受け」が重くなりやすい領域です。

  • 患者背景が複雑になりやすい(生活・家族・仕事・対人など)
  • 介入期間が長くなりやすい(短期で終わらない)
  • 医師個人の関与が深くなりやすい(説明・合意形成・継続判断)

これは強みでもありますが、同時に「引き受けられる量には上限がある」という現実も含みます。

たとえば、初期対応を丁寧に行うほど、初診枠や再診枠の設計は影響を受けます。
遠隔(情報通信)を広げれば、受診行動のハードルは下がる一方で、
境界が曖昧になり、「どこまで応じるか」の線引きが難しくなることもあります。

心理職の関与を増やせば、支援の幅は広がりますが、
運用・連携・院内合意が追いつかなければ、現場が詰まることもあります。

ここで大事なのは、「できる/できない」の二択ではなく、
“引き受けても崩れない形”になっているかを見に行くことだと思います。


4. 「やる価値がある加算」に共通する考え方

ここからは、加算を「得か損か」ではなく、
“引き受けられる責任”の観点で整理してみます。

心療内科が「やる価値がある」と感じやすい加算には、共通点があります。
たとえば次のような方向性です。

共通点①:初期(初診・初期介入)に重心がある

例として、通院・在宅精神療法や、初期対応を重視する加算群は、
「最初にどう関わるか」を問います。

初期の見立て・説明・方針共有が整うと、その後の診療が安定する。
これは心療内科の臨床感覚とも一致しやすい部分です。

共通点②:「時間」を引き受ける覚悟が前提になっている

早期診療体制を充実させるような加算(例:早期診療体制充実加算)は、
どこかで「時間」を要請します。

短時間で大量に回す設計と相性が悪い。
逆に言えば、当院が「時間を使う診療」を明確に選んでいるなら、制度の方向性と噛み合います。

共通点③:責任の所在が比較的言語化しやすい

何を担い、どこまでを担わないか。
この線引きが院内で合意できると、現場運用が安定します。

逆に、線引きが曖昧なまま始めると、トラブル時に院長へ責任が集中しやすくなります。

要するに、「やる価値がある」は、点数の大小ではなく、
自院の設計(時間・体制・責任)と一致しているかで決まる、ということです。


5. 無理にやらなくていい加算に潜むズレ

反対に、無理にやらなくていい加算にも、共通する“ズレ”があります。
ここで言いたいのは、「やるな」ではありません。
体制・人・責任が伴わないまま広げる危うさがある、ということです。

ズレ①:「体制が先行」しやすい

たとえば、心理支援の拡充や児童思春期対応(例:心理支援加算児童思春期支援指導加算)は、
体制の設計が要になります。

体制の名前だけが先に立ち、現場の運用が追いつかないと、
「回っているように見えるが、実は院長が抱え込む」状態が起きやすくなります。

ズレ②:関与範囲が広がりすぎやすい

情報通信機器を用いた精神療法は、患者にとっての利便性が高い一方で、
クリニック側の「応答範囲」が曖昧になりやすい面があります。

「いつ、どの程度、どこまで対応するか」を言葉にしないと、
現場が疲弊しやすくなります。

ズレ③:「やっているつもり」になりやすい

例として、認知療法・認知行動療法のような領域は、質が非常に重要です。
形だけ導入しても、院内の共通言語がないと続きません。

これは能力や意欲の問題というより、設計(運用と合意形成)の問題で詰まることが多いです。

無理にやらなくていい、というのは、能力が足りないからではなく、
「責任の重さに対して、現場の設計がまだ追いついていない」という意味で起こります。


6. 「やらない」と決めた心療内科は、何に集中するのか

「やらない」と決めることは、空白をつくることではありません。
むしろ、診療の芯を守るための選択です。

たとえば、次のような方向に集中が起きることがあります。

  • 初診・初期対応の質を安定させる(見立て・説明・合意形成)
  • 継続患者の診療を崩さない(予約設計・安全運用・フォローの線引き)
  • スタッフが無理なく回る体制を守る(院長が抱え込まない設計)
  • 紹介・連携の方針を明確にする(院内で迷わない)

結果として、

  • 診療の質が安定する
  • クレームやトラブルの芽が減る
  • 院長の判断疲れが軽くなる
  • 経営の見通しが立ちやすくなる

という形で、中長期的な安定につながるケースがあります。


7. まとめ:加算選択は、診療方針の言語化そのものである

2026年改定を前に、心療内科に求められているのは、
「全部取るか、取らないか」という二択ではありません。

問われているのは、

  • どこまでを引き受けるのか
  • どこから先は引き受けないのか
  • その判断を、どう説明できるか

「やらない」という判断は、逃げではありません。
自院の診療方針と、現実の体制を一致させるための経営判断です。

加算を選ぶという行為は、そのまま、 「このクリニックは何を大切にして診療しているのか」 を言語化する作業でもあります。

制度に振り回される出来事にするのか。
自院の軸を確認する機会にするのか。
その分かれ目は、「どこまでを引き受けるか」を静かに考えられるかどうかにあります。

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判断を整理したい院長へ

もし、この記事を読みながら、

  • 「自分のクリニックでは、どこまでを引き受けるべきか」
  • 「やらない判断を、どう言葉にすればいいのか」
  • 「制度と現場の間で、考えが止まっている」

そんな引っかかりを感じた場合には、
判断そのものを整理する時間を取ってみる、という選択肢もあります。

まえやまだ純商店では、加算を「取る/取らない」で結論づけるのではなく、
何を引き受けるのか/何を引き受けないのか/その判断をどう説明できるかを、いっしょに言葉にします。

無理に結論を出す場ではありません。考えがまとまっていない段階で大丈夫です。
制度に振り回されず、自院の診療方針と判断を一致させたいと感じたときに、参考としてご覧ください。

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