正解を急がず、 判断が詰まった論点を、静かにほどくために。 患者の視点も踏まえて、 クリニック開業・経営の「考える前提」を整える時間。

クリニック開業・経営コラム

クリニックの採用とスタッフ定着をどう考えるか ──ベースアップ評価料が問いかけている「役割」

結論から言うと、採用と定着の鍵は「給与」だけではなく、「役割」です。

採用が難しい/採用しても辞めてしまう——その背景には、業務の範囲や期待される役割が曖昧で、働き方のイメージが持てない、という構造が隠れていることがあります。

本記事では、採用・スタッフ定着・少人数運営を中心に整理しつつ、ベースアップ評価料は“背景”として位置づけ、院長が判断しやすくなる考え方をまとめます。

役割が整理されているクリニックは強い

採用の話になると、どうしても給与の話が中心になります。もちろん給与は重要です。

ただ最近は、もう一つ、採用と定着に効いてくる要素があると感じます。それが役割です。

求職者は、採用された場合に「自分は何を担当するのか」「どこまで任されるのか」「どんな働き方になるのか」を見ています。役割が見える職場では、働き方のイメージが持ちやすくなる。その結果、採用だけでなく、スタッフ定着にもつながります。

採用が以前より難しくなったと感じる院長もいる

医療に限らず、多くの業界で採用環境は変化しています。人口減少や働き方の変化の影響もあり、「募集を出せば自然と人が集まる」という前提は、以前ほど当たり前ではなくなってきました。

そのためクリニック経営の現場では、

  • 採用が難しい
  • 給与を上げる必要性が高まる
  • 人件費が上がる

という流れが生まれることもあります。ただ、給与だけで採用の問題が解決するとは限りません。

採用しても辞めてしまう理由

採用の問題は「採用できないこと」だけではありません。もう一つの課題は採用しても定着しないことです。

定着は給与だけで決まりません。例えば、

  • 業務の範囲が曖昧
  • 誰が何を担当するのか分からない
  • 院長に業務や判断が集中している

こうした状態では、スタッフは働き方の見通しが立ちにくくなります。結果として、採用→退職→再び採用という循環に入りやすくなることもあります。

「役割」を言語化するための3つの観点

役割が大事、と言っても抽象的になりがちです。ここでは、言語化の入口として3つの観点を置きます。

1)担当範囲:どこまでが“自分の仕事”なのか

受付中心なのか、診療補助も含むのか。レセプトや電話対応、クレーム一次対応、物品管理——担当範囲が曖昧だと、働く側は不安になります。

2)優先順位:忙しいときに何を優先するのか

すべてを完璧に、は現実的ではありません。混雑時に「何を最優先にするか」が共有されていると、スタッフは判断しやすくなります。

3)裁量:どこまで自分で決めてよいのか

その場で判断してよい範囲と、院長(またはリーダー)判断に戻す範囲。これが決まっているだけで、日々のストレスは変わります。

ポイント:役割は「業務一覧」だけでは決まりません。担当範囲・優先順位・裁量がセットになると、働き方が“見える”形になります。

少人数運営という選択

採用が難しい状況の中で、もう一つの考え方として少人数運営があります。人数を増やすことだけが解決策とは限りません。

むしろ、役割を整理し、業務を分担し、診療体制を整えることで、少人数でも安定して運営できるクリニックもあります。

院長が抱え込むと続かない

ただし少人数運営では注意点もあります。院長がすべてを抱え込んでしまうと、長く続きません。

  • 経営判断
  • スタッフ管理
  • 診療

これらが院長一人に集中すると、運営は少しずつ不安定になります。だからこそ少人数運営では、むしろ役割の整理がより重要になります。

背景としてのベースアップ評価料

ここで、背景としてベースアップ評価料に触れます。制度の趣旨は、医療従事者の賃上げを支えることです。

まず前提として、ベースアップ評価料は“利益”ではありません。原則として、賃上げの原資として人件費に充てることが前提になります。

よくある勘違い(短く整理)

  • 利益になると思っている
  • とりあえず一時金で出せばいいと思っている
  • 計画書は形式だけだと思っている

ベースアップ評価料も補助金も、活用できるものは活用してよいと思います。ただ、「賃上げする気はないけど、とりあえずもらう」という姿勢で進めると、後から運用で困る可能性があります。

そして現場では、こんな矛盾も起きがちです。

  • スタッフの給料は上げたくない。でも人は辞めてほしくない。
  • ベースアップ評価料は届出しない。でも補助金は欲しい。

診療報酬の中に賃上げ原資が組み込まれている以上、最後は「やる/やらない」をどう判断するか。制度は背景として、経営の前提を整理する材料になり得ます。

最後に

採用とスタッフ定着、人件費、診療体制。これらは切り分けられるようで、現場ではつながっています。

その中で改めて問われているのは、役割かもしれません。

誰が何を担当するのか。どこまでを任せるのか。どんな体制で医療を続けていくのか。ベースアップ評価料という制度も、そうした問いを“背景”から静かに照らしているのだと思います。

整えるための相談窓口

開業準備・経営整理セッション

採用や定着の悩みは、制度や給与の話だけでは片づかないことが多いものです。
いま起きている事実を並べて、役割と体制の前提を整理し、「次に何を決めるか」を一緒に明確にします。

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