開業準備やクリニック経営で、 「自院ではどうするか」が決めにくくなったときに。 院長の代わりに決めるのではなく、 現状・論点・優先順位・次の一歩を整理します。

クリニック開業・経営コラム

医療法改正で開業は本当に難しくなるのか?|外来医師過多区域と自由開業制見直しを整理

更新日:2026年6月14日
※本記事は、2025年10月6日に公開した内容を、2025年12月に成立した医療法改正および2026年度診療報酬改定の内容を踏まえて加筆修正したものです。

開業準備・制度対応Q&A

医療法改正でクリニック開業は難しくなる?|自由開業制見直しと外来医師過多区域を整理

「医療法改正で、これからクリニック開業は難しくなるのではないか」と不安に感じている先生もいらっしゃると思います。

2025年12月、医療法等の一部を改正する法律が成立しました。報道や解説では、「自由開業制の見直し」「開業規制」「外来医師過多区域」といった言葉が使われ、開業準備中の先生にとっては気になる内容です。

結論から言えば、今回の改正で全国一律にクリニック開業が禁止されるわけではありません。

一方で、外来医師過多区域での無床診療所の新規開設については、事前届出や地域で不足する医療機能への協力要請など、これまでよりも確認される事項が増える方向です。

つまり、これからの開業準備では、「制度上、開業できるか」だけでなく、「その地域で自院はどのような役割を担うのか」を整理することが重要になります。

本記事では、開業準備中・開業検討中の先生に向けて、医療法改正と自由開業制見直し、外来医師過多区域の考え方をQ&A形式で整理します。

Q1. 医療法改正でクリニック開業は本当に難しくなるのですか?

全国どこでも一律に開業できなくなる、という話ではありません。

今回の改正は、特定の地域における無床診療所の新規開設について、事前届出や地域医療に関する協議、地域で不足する医療機能への協力を求める仕組みを強めるものです。

そのため、「開業禁止」と見るのは行き過ぎです。

一方で、従来と同じ感覚で「届出をすれば終わり」と考えるのも危うくなります。とくに外来医師過多区域では、開業予定者が地域の中でどのような役割を担うのかが、これまで以上に問われやすくなります。

押さえておきたい整理

今回の改正は、開業そのものを一律に止める制度ではありません。ただし、開業予定地、診療科、地域で不足している医療機能、自院が担える役割について、事前に整理しておく重要性は高まっています。

Q2. 自由開業制はなくなるのですか?

今回の改正で、自由開業制が完全になくなるわけではありません。

無床診療所の開設は、引き続き届出制を前提としています。都道府県がすべての開業について、自由に許可・不許可を判断する制度に変わったわけではありません。

ただし、自由開業制のあり方については、医師偏在や外来医療の地域差を背景に、見直しの方向が示されています。

これまでのように、開業予定地や診療科を決め、物件を押さえ、届出を出せばよいというだけではなく、地域医療との関係をどのように説明できるかが、開業準備の中で重要になっていきます。

「自由に開業できるか」だけでなく「地域の中でどう続けるか」へ

開業準備では、制度上の可否だけでなく、次のような視点も必要になります。

  • その地域で本当に求められている医療は何か
  • 自院が担える役割は何か
  • 初期救急、在宅医療、公衆衛生、慢性疾患管理などにどこまで関われるか
  • 医師不足地域への協力を求められた場合、現実的に対応できるか
  • 自院の理念や診療方針と、地域から求められる役割をどう接続するか

制度改正は、単なる規制強化として見るだけでなく、開業前に自院の役割を言葉にするきっかけとして捉えることもできます。

Q3. 外来医師過多区域とは何ですか?

外来医師過多区域とは、外来医師偏在指標や可住地面積あたりの診療所数などを踏まえて、外来医療が特に過密とされる区域です。

ここで注意したいのは、従来の議論で使われてきた「外来医師多数区域」と、今回の改正で重い手続きの対象となる「外来医師過多区域」は、同じ言葉ではないという点です。

外来医師多数区域だから、ただちに今回の新しい手続きの対象になる、という単純な話ではありません。実務上は、今後の都道府県の指定や案内を確認する必要があります。

全国一律の話ではない

外来医師過多区域は、全国すべての都市部が一律に対象になるものではありません。

そのため、開業準備中の先生がまず確認すべきことは、「自分が検討している開業予定地が、どの区域に該当する可能性があるのか」です。

制度の名称だけで不安になるのではなく、開業予定地の自治体情報、外来医療計画、医師偏在の議論、地域で不足している医療機能を確認することが大切です。

Q4. 外来医師過多区域で開業する場合、何が変わるのですか?

外来医師過多区域で無床診療所を新たに開設しようとする場合、原則として、開設の6か月前までに都道府県への事前届出が必要になる方向です。

届出では、所在地や診療科だけでなく、地域医療の中でどのような機能を担うのかについても確認される流れになります。

つまり、開業準備の早い段階から、次のような内容を整理しておく必要があります。

  • なぜその地域で開業するのか
  • その地域で不足している医療機能は何か
  • 自院はどのような患者層を想定しているのか
  • 初期救急、在宅医療、公衆衛生などにどこまで関われるのか
  • 医師不足地域への協力を求められた場合、どの範囲なら対応可能か

ただし、親の死亡により子が急きょ承継する場合など、やむを得ない事情がある場合には、事前届出義務の扱いについて例外的な整理がなされる可能性があります。実務上は、該当する地域の都道府県や保健所の案内を確認する必要があります。

開業準備への影響

物件探し、資金計画、内装、採用、システム選定と並行して、地域で担う医療機能を整理する必要があります。開業準備の後半で慌てて考えるのではなく、初期段階から「自院の役割」を言葉にしておくことが重要です。

Q5. 地域で不足する医療機能とは何ですか?

都道府県は、外来医療に関する協議の場での議論を踏まえ、地域で不足する医療機能について、開業予定者に対応を求めることがあります。

想定される内容としては、たとえば次のようなものがあります。

  • 夜間・休日等の初期救急への対応
  • 在宅医療への対応
  • 学校医、予防接種、産業医などの公衆衛生に係る医療
  • 都道府県内外の医師不足地域での定期的な外来診療
  • 医師不足地域の夜間休日急患センター等への出務

ここで大切なのは、これらを単なる「行政対応」として見るのではなく、自院が地域の中でどのような役割を担うのかを整理する材料として捉えることです。

すべてを引き受けるという意味ではない

地域から求められる役割があるとしても、すべてを一つのクリニックで引き受けられるわけではありません。

診療科、院長の専門性、スタッフ体制、診療時間、家庭事情、資金計画、将来的な採用可能性によって、現実的に担える範囲は変わります。

そのため、開業準備中に大切なのは、「できる/できない」だけでなく、「どこまでなら継続して引き受けられるか」を整理することです。

Q6. 要請に応じない場合、経営上どのような影響がありますか?

今回の改正と2026年度診療報酬改定をあわせて見ると、要請に応じない場合の影響は、単なる「行政からの注意」にとどまらない可能性があります。

具体的には、地域で不足する医療機能等に係る医療提供の要請に応じず、保険医療機関の指定期間が3年以内とされた診療所については、一定の診療報酬上の評価や届出が制限される方向が示されています。

算定・届出に影響し得る項目

2026年度診療報酬改定では、保険医療機関の指定期間が3年以内とされた診療所について、たとえば次のような項目が影響を受けることになります。

  • 機能強化加算
  • 地域包括診療加算
  • 地域包括診療料
  • 小児かかりつけ診療料
  • 在宅療養支援診療所の届出

これは、かかりつけ医機能、地域包括ケア、小児、在宅といった、これからのクリニック経営において重要な機能評価と関係する話です。

そのため、今回の改正は、「開業禁止の法律」ではない一方で、「地域医療との関係を軽視しても大きな影響はない」と考えられる制度でもないと整理しておく必要があります。

経営判断として見るべきポイント

地域医療への協力姿勢や、自院が担う機能の説明は、今後の施設基準、診療報酬上の評価、地域での信頼形成にも関係していく可能性があります。

Q7. 既存クリニックにも関係がありますか?

今回の制度改正は、主に外来医師過多区域における無床診療所の新規開設に関する内容です。

そのため、すでに開業しているクリニックが、ただちに同じ手続きの対象になるわけではありません。

ただし、既存クリニックも無関係とは言い切れません。

新規開設者だけでなく、外来医師過多区域における既存の無床診療所についても、将来的に提供している医療機能の実態把握が検討される流れがあります。

既存クリニックも「地域の中での役割」が見られやすくなる

今後は、既存クリニックであっても、次のような点を整理しておくことが重要になります。

  • 自院は地域の中で何を担っているのか
  • どの患者さんに、どのような医療を提供しているのか
  • 在宅医療、初期救急、公衆衛生、慢性疾患管理などにどう関わっているのか
  • 医療DX、賃上げ、施設基準対応をどう整理するのか
  • 今後も続けられる診療体制になっているのか

制度が変わるたびに慌てるのではなく、自院の方針や地域での役割を定期的に言葉にしておくことが、今後の経営判断の土台になります。

Q8. 開業準備中の先生は、今何を整理すべきですか?

開業準備中の先生にとって大切なのは、「開業できるか/できないか」だけで判断しないことです。

むしろ、制度改正をきっかけに、開業予定地や診療科、地域での役割、自院の体制について、早い段階から整理しておくことが重要です。

開業前に整理しておきたい問い

  • なぜその地域で開業したいのか
  • その地域では、どのような医療機能が不足しているのか
  • 自院はどのような患者さんを支えたいのか
  • 初期救急、在宅医療、公衆衛生、慢性疾患管理などのうち、どこを担うのか
  • 医師不足地域への支援を求められた場合、どこまで対応できるのか
  • 制度対応と自院の理念をどう両立させるのか
  • 物件、資金、採用、システム選定にどのような影響があるのか

医師偏在是正の流れと開業への影響を整理した記事でもお伝えしているように、立地や診療圏、地域ニーズを踏まえながら、自院の役割を具体化すること自体が、制度変化への備えになります。

市場環境も、開業のハードルを上げている

制度改正だけを見ると、「開業が規制されるのか」という話に意識が向きがちです。

しかし、実際の開業環境を大きく変えているのは、制度だけではありません。

  • 都心部ではすでにクリニック間の競争が過密になっている
  • 建設費、内装費、医療機器、人件費が上がっている
  • 診療報酬全体は大きく伸びにくい
  • スタッフ採用が難しくなっている
  • 賃上げ対応や医療DX対応が経営課題になっている

制度で開業を抑制しなくても、市場環境そのものが、自然に開業のハードルを上げています。

これからの開業判断では、「制度上、開業できるか」だけでなく、「その地域で、どのような役割を持って、どのような体制で続けられるか」を考える必要があります。

制度の枠内で、院長が設計できること

制度のルール自体を、個々のクリニックが自由に変えることはできません。

しかし、その枠内で、院長が設計できることは多くあります。

地域に届く情報発信を整える

高額な広告費をかけなくても、ホームページやSNS、院内掲示、地域との関係づくりを通じて、自院の役割を伝えることはできます。

大切なのは、単に「集患する」ことではなく、どのような患者さんに、どのような医療を提供したいのかを言葉にすることです。

医療DXを患者体験と業務設計の両面から考える

予約、問診、会計、マイナ保険証、電子処方箋、電子カルテ情報共有サービスなど、医療DXへの対応は、患者体験だけでなく、今後の診療報酬上の評価や施設基準とも関係していきます。

DXは「流行っているから入れるもの」ではありません。少人数で回すクリニックほど、スタッフが本来の業務に集中できるようにするための仕組みとして考える必要があります。

スタッフが定着しやすい職場づくりを仕組みにする

採用が難しい時代には、「辞めにくい職場」「続けやすい職場」をどう作るかが問われます。

賃上げは単なるコストではなく、採用・定着・診療継続のための経営判断です。給与だけでなく、業務分担、面談、教育、マニュアル、院長とのコミュニケーションも含めて、職場づくりを仕組みとして整えることが大切です。

自費診療・予防医療を無理なく組み合わせる

すべてを保険診療だけで支えようとすると、診療報酬改定や患者数の変動に影響を受けやすくなります。

一方で、自費診療を無理に広げればよいわけでもありません。

地域ニーズと自院の専門性を踏まえながら、患者さんの生活をどう支えるかという視点で、予防医療や自費サービスを検討することが重要です。

まとめ|開業できるかだけでなく、どのように続けるかを考える

2025年の医療法改正は、自由開業制をいきなり終わらせる「禁止の法律」ではありません。

しかし、地域医療の観点から開業医に役割を求め、それに応じない場合には、保険医療機関の指定期間短縮や診療報酬上の制限につながり得る、より踏み込んだ仕組みが整理されたと見る必要があります。

その意味で、今回の制度改正は、過度に怖がる必要はありませんが、軽く見るべきものでもありません。

これからの開業医に問われるのは、「どこで、どのような医療を、どんな体制で続けたいのか」を言葉にすることです。

国民皆保険制度、診療報酬、療養担当規則、医療法改正、医療DX、賃上げ対応。これらはすべて、院長の判断に影響します。

ただ、制度の動きにばかり目を奪われると、自院の軸が見えにくくなります。

制度・地域ニーズ・自院の理念という三つの層を行き来しながら、自分たちはどこで、どのように役割を果たしたいのかを整理すること。

それが、不確実な時代においてもぶれにくいクリニック経営の土台になると考えています。

開業準備や制度対応で判断が止まったときに

医療法改正や外来医師過多区域への対応は、制度を理解するだけでは判断が決まらないことがあります。

開業予定地、地域で担う役割、将来の運営体制、資金計画、採用、システム選定など、複数の論点が重なるためです。

まえやまだ純商店では、制度の正解を一方的に示すのではなく、院長が自院の立地・役割・体制を踏まえて判断できるように、現状・論点・優先順位・次の一歩を整理する支援を行っています。

相談内容がきれいにまとまっていない段階でも問題ありません。むしろ、何から考えるべきかを整理するところから始まることが多くあります。

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