クリニックの開業準備では、内装、医療機器、スタッフ採用、ホームページ、届出、資金繰りなど、多くのことを同時に進める必要があります。

その中で、開業を考えている先生が迷いやすいテーマの一つが、「開院前に内覧会を開催した方がよいのか」ということです。

開業に関わる事業者からは、「地域の方に知ってもらうためにも開催した方がよい」と勧められることがあります。一方で、開院直前は準備だけでも慌ただしく、「本当に自院にも必要なのだろうか」と迷う先生も少なくありません。

内覧会を開催するには、企画内容、告知、当日の人員配置、院内の案内、来場者への対応などを決める必要があります。内装や採用、スタッフ研修、届出などと並行して進めるため、院長先生やスタッフに負担がかかることもあります。

また、多くの方が来場してくださったとしても、開催後には、「ここから実際に何人の患者さんが受診につながるのだろう」「費用や準備時間に見合う意味があったのだろうか」と不安になることがあります。

来場者数が多ければ、それだけで内覧会が成功したとは限りません。反対に、来場者数が想定より少なかったとしても、地域の医療・介護関係者との関係や、開業後の受診につながる第一印象をつくれた可能性もあります。

だからこそ、内覧会は「開催すること」や「人を集めること」自体を目的にしないことが大切です。

結論から言えば、内覧会は、すべてのクリニックで必ず開催すべきものではありません。

一方で、地域の方や医療・介護関係者へ、自院の考え方や雰囲気を直接伝える機会として、大きな意味を持つ場合もあります。

内覧会を考えるときに重要なのは、単に「やるか・やらないか」を決めることではありません。

その地域で、どのようなクリニックとして認識されたいのか。患者さんに、どのような第一印象を持ってもらいたいのか。地域の医療・介護関係者と、開業後にどのような関係を築いていきたいのか。

本記事では、内覧会を単なる集患イベントとしてではなく、地域との最初の接点としてどのように考えればよいのかを整理します。

この記事で分かること

  • クリニックが内覧会を開催する目的と役割
  • 患者さんがクリニックを知り、受診や継続受診につながるまでの考え方
  • これからの地域医療の中でクリニックに求められる役割
  • 「内覧会をやるか」ではなく、「どんなクリニックとして記憶に残りたいか」を考える視点
  • 内覧会を開催するかどうかを判断するときに整理したいポイント
  • 内覧会を行わない場合に考えられる、地域との接点のつくり方

患者さんは、どのようなクリニックを選んでいるのか

内覧会の必要性を考える前に、まず患者さんがどのような流れでクリニックを知り、受診を考えるのかを整理しておきましょう。

患者さんがクリニックを知るきっかけは、一つではありません。

ホームページやGoogleマップなどの検索、家族や知人からの紹介、近隣で見かけた看板、地域での口コミなど、複数の接点を通じて「このクリニックに行ってみようか」と考えます。

地域や診療科目、対象とする患者層によって、検索や口コミ、紹介など、それぞれの接点が持つ比重は異なります。

そして、実際に受診するかどうか、受診後に継続して通うかどうかには、設備が新しいかどうかだけでなく、医師やスタッフの対応、説明の分かりやすさ、通いやすさ、安心して相談できそうかといった体験も関わります。

つまり、患者さんとの関係は、次のような流れの中で少しずつ育っていきます。

知る気になる体験する信頼する継続受診や紹介につながる

内覧会は、このうち「体験する」という接点を、診療が始まる前につくる方法の一つです。

地域の方が院内へ入り、院長先生やスタッフと話し、クリニックの雰囲気に触れることで、「ここなら安心して相談できそう」と感じてもらえる可能性があります。

ただし、内覧会を開催すれば、必ず受診や継続受診につながるわけではありません。

患者さんとの信頼は、内覧会だけで完成するものではなく、開業後の診療、説明、スタッフの対応、待ち時間、予約のしやすさなど、一つひとつの体験によって積み重なっていきます。

そのため、内覧会を考える際は、来場者数だけを見るのではなく、患者さんや地域の方へ、どのような最初の体験を届けたいのかを考えることが重要です。

これからの地域医療の中で、クリニックに求められる役割

患者さんとの最初の接点を考えるときには、患者さんの視点だけでなく、これからの地域医療の方向性も踏まえておくことが大切です。

現在の地域医療では、高齢化や人口減少、医療従事者不足などを背景に、それぞれの医療機関が地域の中で役割を分担し、連携しながら医療を提供していくことが、これまで以上に求められています。

そのためクリニックも、外来診療だけでなく、地域の医療機関や薬局、訪問看護ステーション、介護事業所などと連携しながら、地域の中でどのような役割を担うのかを考える場面が増えていくと考えられます。

もちろん、すべてのクリニックが同じ役割を担うわけではありません。

診療科目、地域の人口構成、周辺医療機関との関係、スタッフ体制、そして院長先生が実現したい医療によって、自院に期待される役割は変わります。

だからこそ、開業前から「地域でどのようなクリニックとして認識されたいのか」を考えておくことには意味があります。

その最初の機会の一つが、内覧会になることもあります。

「内覧会をやるか」ではなく、「どんなクリニックとして記憶に残りたいか」を考える

内覧会を考えるとき、多くの先生は「何を企画するか」から考え始めます。

例えば、野菜を配る、屋台を出す、子ども向けの職業体験を行う、健康測定を実施する、院長先生のミニ講演を行う、訪問看護ステーションやケアマネジャー向けの説明会を開催するなど、さまざまな方法があります。

しかし、大切なのは企画そのものではありません。

その企画が、自院として地域へ伝えたいことと一致しているかどうかです。

例えば、高齢者を支える地域のかかりつけ医を目指すのであれば、訪問看護ステーションやケアマネジャー、薬局など地域の医療・介護関係者へ診療方針を伝える時間を設けることは、大きな意味を持つかもしれません。

一方、小児科やファミリークリニックであれば、子どもや保護者が安心して来院できる雰囲気を体験してもらうことの方が重要になることもあります。

また、生活習慣病や健康づくりに力を入れたいクリニックであれば、健康相談やミニセミナーを通じて、「気軽に相談できるクリニック」という印象を持っていただくことが、自院らしい内覧会になるかもしれません。

反対に、「来場者数を増やしたい」という目的だけで企画を増やしてしまうと、イベントとしては盛り上がっても、どのようなクリニックなのかという印象は残りにくくなることがあります。

実際に内覧会終了後には、

  • 「多くの方に来場していただけたが、本当に受診につながるのだろうか」
  • 「想像以上に準備へ時間と労力がかかった」
  • 「もっと診療方針やクリニックの考え方を伝える時間を作ればよかった」

と振り返る院長先生も少なくありません。

だからこそ、開催前に考えておきたいのは、

どれだけ人を集めるか
ではなく
地域へどのような第一印象を届けたいか

ということです。

内覧会は、イベントを成功させることが目的ではありません。

地域にどのようなクリニックとして記憶されたいのか。

その第一印象をつくる機会として考えることで、企画の内容や規模、誰へ何を伝えるべきかも自然と見えやすくなります。

その中で、内覧会はどのような役割を持つのか

ここまで見てきたように、内覧会は単なるイベントではありません。

ホームページやGoogleマップ、チラシだけでは伝わりにくい「クリニックの雰囲気」や「人柄」を、実際に体験していただく機会でもあります。

例えば、

  • 院内の明るさや清潔感
  • 受付スタッフの対応
  • 院長先生の話し方や雰囲気
  • 診療方針の伝え方
  • 待合室の空気感

こうしたことは、実際に足を運んでみなければ分からない部分でもあります。

つまり内覧会には、診療が始まる前に「ここなら安心して相談できそう」と感じてもらう体験を届ける役割があります。

また、患者さんだけではありません。

地域の薬局、訪問看護ステーション、介護事業所、近隣医療機関などにとっても、開業前に顔を合わせておくことは、その後の連携や相談のきっかけになることがあります。

もちろん、内覧会を開催したからといって、すぐに患者さんが増えるとは限りません。

しかし地域の方にとっては、

  • 「一度院内を見たことがある」
  • 「先生と少し話したことがある」
  • 「スタッフの雰囲気が良かった」

という体験が、初めて受診するときの心理的なハードルを下げることがあります。

だからこそ内覧会は、集患だけを目的に評価するものではなく、地域との最初の対話をつくる機会として考えることが大切です。

内覧会を開催するかどうかは、クリニックによって異なる

一方で、すべてのクリニックが必ず内覧会を開催すべきだとは言えません。

例えば、開院直前の準備状況によっては、スタッフ研修や予約導線、受付対応、ホームページの整備などを優先した方がよい場合もあります。

また、診療科目や地域によっても、内覧会に期待できる役割は変わります。

だからこそ、他院が開催しているからという理由だけで決めるのではなく、自院として判断することが大切です。

判断するときには、例えば次のような点を整理してみると考えやすくなります。

  • 地域の方へ最初に伝えたいことは何か
  • 主な対象となる患者さんは誰か
  • 診療科目と内覧会は相性が良いか
  • 地域の医療・介護関係者との接点をどうつくりたいか
  • 開業準備全体の中で優先順位はどうか
  • スタッフへ無理な負担がかからないか
  • 内覧会以外で目的を達成できる方法はあるか

これは、一般的なチェックリストだけで正解が決まるものではありません。

同じ内科でも、住宅地で地域密着型のクリニックと、駅前で働く世代を中心とするクリニックでは、地域へ伝えるべき内容は異なります。

小児科、皮膚科、整形外科、心療内科、在宅医療を重視するクリニックでも、内覧会の意味合いは変わります。

さらに、同じ診療科であっても、院長先生がどのような診療を行いたいのかによって判断は変わります。

大切なのは、「他院はどうしているか」ではなく、「自院として何を目的にするのか」を整理することです。

実際には、

  • 内覧会を開催する
  • 規模を小さく開催する
  • 地域の医療・介護関係者向けの時間を設ける
  • ホームページやGoogleビジネスプロフィールなどの情報発信を充実させる
  • 近隣医療機関や薬局への挨拶を重視する

など、さまざまな選択肢があります。

「開催する」「開催しない」の二択ではなく、目的に応じた方法を考えることで、自院らしい地域との最初の接点をつくりやすくなります。

内覧会を行わない場合にも、地域との接点は必要になる

もし内覧会を開催しない場合でも、地域との接点を考えなくてよいわけではありません。

例えば、

  • ホームページで院長先生の考え方を伝える
  • 院内写真や診療の流れを分かりやすく掲載する
  • Googleビジネスプロフィールの情報を整える
  • 地域の薬局や介護事業所、医療機関へ挨拶に伺う
  • 電話や予約導線を分かりやすく整備する

こうした一つひとつも、患者さんや地域との大切な接点です。

つまり、内覧会は地域との接点をつくる一つの方法であって、唯一の方法ではありません。

だからこそ、「内覧会を開催しない」という判断をする場合でも、

では、自院は何によって地域との最初の接点をつくるのか。

という視点は整理しておきたいところです。

その答えは、診療科目や地域性、院長先生が実現したい医療によって異なります。

大切なのは、内覧会を行うこと自体ではなく、地域へどのような第一印象を届け、その後どのような関係を築いていきたいのかを考えることです。

判断が整理されると、比較に費やす時間が減り、スタッフや関係者とも考え方を共有しやすくなります。

結果として、開院直前に場当たり的な判断を繰り返すのではなく、開業後も無理なく続けられる運営につながっていきます。

まとめ|地域との最初の関係づくりを、自院らしい形で考える

クリニックの内覧会は、必ず開催すべきものではありません。

しかし、開業前に地域と出会い、患者さんや関係者に自院の考え方や雰囲気を伝える機会としては、大きな意味を持つことがあります。

大切なのは、内覧会を「やるか・やらないか」だけで判断しないことです。

地域にどのようなクリニックとして認識されたいのか。患者さんにどのような体験を届けたいのか。開業後にどのような関係を築いていきたいのか。

そこを整理したうえで、内覧会が必要なのか、別の方法がよいのかを考えることが、自院として納得できる判断につながります。

内覧会は、集患イベントではなく、地域との最初の接点をどうつくるかを考えるテーマです。

その答えは、クリニックごとに異なります。

だからこそ、一般的な正解を探すのではなく、自院の地域性、診療科目、患者層、スタッフ体制、開業方針を踏まえて整理することが大切です。

判断が整理されると、比較に費やす時間が減り、スタッフや関係者とも共有しやすくなります。開院直前に場当たり的に決めるのではなく、開業後も無理なく続けられる運用につなげやすくなります。

内覧会を含め、開業準備の判断が重なっているときに

内覧会を開催するかどうかだけでなく、採用、ホームページ、医療機器、システム、診療体制、資金計画など、開業準備では複数の判断が同時に重なることがあります。

一つひとつの情報は集められても、「今、本当に決める必要があることは何か」「自院では何を基準に判断するのか」が分かりにくくなることも少なくありません。

まえやまだ純商店では、院長先生が一人で抱えている考えを、クリニック外の立場から整理し、現状・背景・論点・判断基準・選択肢・優先順位を確認しながら、自院として判断しやすい状態を整えることを大切にしています。

状況確認面談では、現在気になっていることや、これまでの経緯を伺い、何を整理する必要がありそうか、まえやまだ純商店の支援がお役に立てそうかを確認します。

無料で答えや解決策を提示する場ではありません。相談内容が整理できていなくても構いませんので、まずは現在の状況をお聞かせください。

まえやまだ純商店 前山田純

この記事を書いた人

前山田 純 まえやまだ純商店

2011年から医療機関の開業・経営支援に従事。院長が一人で抱えきれない経営課題について、現状・背景・論点・判断基準・選択肢・優先順位を整理し、自院として判断理由を持ち、次の一手を決めやすい状態づくりを支援しています。正解を押し付けるのではなく、院長ご自身が納得して判断できることを大切にしています。

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