クリニック開業後、院長が病気やけがで診療できなくなったら?従業員・診療・資金への備えを考える
更新日:2026年8月13日
クリニックを開業すると、院長自身が診療の中心になります。では、開業後に病気やけがで数日、数週間、あるいは数か月にわたって診療できなくなったら、患者さんへの対応や従業員の勤務、家賃・人件費・借入返済などはどうなるのでしょうか。
開業前には、物件、資金調達、内装、医療機器、採用など、決めることが数多くあります。そのため、「自分が診療できなくなった場合」まで考える余裕はなかなかありません。
一方で、院長一人が診療を担うクリニックでは、院長の不在が診療体制や収入に直接影響します。大切なのは、あらゆるリスクをなくしてから開業することではありません。自院ではどの程度の休診なら対応できるのか、何が止まり、何を残す必要があるのかを開業前に一度確認しておくことです。
この記事で扱うテーマ
院長が病気やけがで診療できなくなったとき、影響するのは院長自身の収入だけではありません。患者さんへの対応、従業員、固定費や借入返済、院長自身と家族の生活など、複数の問題が重なります。
この記事では、保険への加入だけを答えとするのではなく、「自院では何日程度なら対応できるのか」「何が止まり、何を残す必要があるのか」「開業前に何を確認しておくか」という視点から整理します。
院長が病気やけがで診療できなくなると、何が起こる?
院長が診療できなくなった場合、考える必要があるのは「院長の収入が減る」ということだけではありません。患者さん、従業員、クリニックの資金、取引先など、複数の問題が同時に発生します。
診療を休むと、患者対応と収入の両方に影響する
院長一人が診療を担っている場合、院長が休むと診療そのものを停止せざるを得ないことがあります。
予約患者への連絡、継続治療中の患者への案内、処方や検査予定の変更、必要に応じた他院への受診案内などを考える必要があります。同時に、休診期間が長くなれば診療収入にも影響します。
診療を休んでも、すべての支出が止まるわけではない
休診によって診療収入が減っても、家賃や借入返済などの支出が同時になくなるわけではありません。
- スタッフの人件費
- 家賃・共益費
- 医療機器やシステムのリース・利用料
- 借入金の返済
- 保守契約・通信費
- その他の固定的な支出
そのため、「売上の何か月分を持てばよい」と考えるよりも、自院では診療を休んだ場合でも毎月いくら支出が残るのかを確認する方が具体的です。
従業員への対応も必要になる
院長が診療できない場合、従業員の勤務や院内業務をどのように扱うのかも考える必要があります。
休診中にどの業務を残すのか、勤務や給与をどのように扱うのかは、雇用契約、就業規則、休診の状況などによって異なります。
※給与、休業手当、有給休暇など労務上の取り扱いについて個別の判断が必要な場合は、社会保険労務士や関係機関等へご確認ください。
まずは「何日休むと対応を変える必要があるか」を考える
院長不在への備えを考えるとき、最初から長期間の休診だけを想定する必要はありません。休む期間をいくつかに分けると、必要な対応が見えやすくなります。
数日程度の場合
予約変更や休診案内で対応できるのか、スタッフだけで行える業務は何かを確認します。
数週間に及ぶ場合
休診を続けるのか、診療日を限定するのか、代診医を依頼できるのか、患者さんを他院へつなぐ必要があるのかを考えます。
数か月以上になる場合
患者対応だけでなく、従業員の雇用、固定費、借入返済、資金繰り、今後の診療体制そのものを見直す必要が出てきます。
重要なのは、病気が何日続くかを正確に予測することではありません。自院ではどの時点から対応方法を変える必要があるのかを考えておくことです。
開業前に「診療を休んでも出ていくお金」を確認する
人件費・家賃・リース・借入返済を洗い出す
まず、診療を行わなくても一定期間支払いが続くものを確認します。
- 毎月の人件費はいくらか
- 家賃・共益費はいくらか
- 借入返済はいくらか
- 医療機器やシステムのリース・利用料はいくらか
- 休診時に停止・縮小できる契約はあるか
- 診療をしなくても必要となる支出はいくらか
開業時に作成する通常の事業計画とは別に、「院長が診療できない状態」を一つのケースとして考えてみると、自院の弱い部分が見えやすくなります。
診療収入が減った状態で、どの程度維持できるかを見る
手元資金が多ければよいというだけではありません。
現在想定している運転資金から、休診中にも残る支出を差し引いた場合、どの程度の期間を維持できるのかを確認します。
そうすると、「短期間は自己資金で対応する」「一定期間を超える場合に別の備えを考える」といった判断がしやすくなります。
クリニックの資金と家族の生活費を分けて考える
クリニックを維持するためのお金と、院長自身・家族が生活するためのお金は分けて考える必要があります。
それぞれにどの程度必要なのかを確認すると、預貯金や既存の保障でどこまで対応できるのか、不足する部分はどこなのかを考えやすくなります。
院長が診療できないとき、従業員をどうする?
雇用契約や就業規則を確認しておく
院長の病気やけがによって休診する場合、従業員について「診療がないから休んでもらえばよい」と単純に判断できるとは限りません。
勤務の扱い、給与、休業、有給休暇などについては、自院の雇用契約や就業規則、実際の状況を踏まえて確認する必要があります。
開業準備中であれば、社会保険労務士へ雇用契約や就業規則を相談する際に、「院長が診療できず、一時的に休診する場合はどうなるか」も確認項目に加えておく方法があります。
休診中に残る業務と止める業務を分ける
診療を休んでも、すぐにすべての業務がなくなるとは限りません。
- 予約患者への連絡
- 問い合わせ対応
- 郵便物や書類の確認
- 取引先との連絡
- 院内の保守・管理
- 診療再開時の予約調整
どの業務を続け、どの業務を止めるのかをあらかじめ考えておけば、突然休診することになった場合にもスタッフが対応しやすくなります。
院長が連絡できない場合も考えておく
院長本人が入院するなど、十分にスタッフへ連絡できない状況も考えられます。
その場合、誰がスタッフへ連絡するのか、緊急時に必要となる連絡先や契約情報をどこで確認できるのかなど、最低限のルールを決めておくことも備えの一つです。
患者さんへの対応は、休診する前から考えておく
予約患者への連絡方法を確認する
電話、予約システム、ホームページ、LINEなど、自院が普段利用する予定の連絡方法を確認します。
院長が急に不在になった場合、誰がどの方法で休診を案内するのかが決まっていれば、スタッフも動きやすくなります。
継続治療が必要な患者さんをどうつなぐか
定期的な診察、処方、検査などが必要な患者さんは、休診期間によって対応が変わります。
自院の診療再開を待ってもらえるのか、別の医療機関への受診を案内する必要があるのか。診療科や患者層によっても異なるため、開業する地域でどのような医療機関と連携できるかを知っておくことも大切です。
休診・代診・他院への案内を分けて考える
すべての事態を想定した詳細なマニュアルを作る必要はありません。
例えば、「短期間なら休診」「一定期間を超えたら代診を検討」「さらに長期化する場合は他院への案内も含めて考える」といった大まかな考え方でも、緊急時の判断材料になります。
代診を頼めれば解決するとは限らない
必要な時期に代診医を確保できるか
院長不在時の方法として、代診医を依頼することがあります。
ただし、必要なタイミングで必ず医師を確保できるとは限りません。診療科、地域、曜日、診療内容などによっても状況は変わります。
院長以外でも診療を続けられる運用になっているか
代診医を確保できても、電子カルテ、予約、検査、処方、スタッフとの役割分担などが院長個人のやり方に強く依存していると、すぐに通常どおり診療できないことがあります。
開業前からすべてを標準化する必要はありませんが、院長しか分からない業務をどこまで減らしておくかという視点は、普段の業務設計にもつながります。
無理に診療を続けない選択肢も持つ
診療を継続することだけが正解とは限りません。
一度休診して安全に再開する方がよい場合もあれば、診療日を限定したり、代診をお願いしたりする方が適している場合もあります。患者さんの安全、スタッフの運用、資金面を合わせて考えます。
「備える=保険に入る」だけではない
院長が働けなくなるリスクへの備えとして、所得補償保険や就業不能に備える保険、GLTD(団体長期障害所得補償保険)などを検討することがあります。
ただし、保険は備えの一つです。加入している制度や商品、契約条件によって補償内容は異なるため、「開業するならこの保険に入ればよい」と一律に決めるものではありません。
まず手元資金でどこまで対応するかを見る
数日から一定期間までは自己資金で対応し、それより長期化した場合に保険などを組み合わせるという考え方もあります。
不足する部分から保障を考える
保険を検討するときは、商品名から選ぶよりも、まず「診療できなくなった場合、何日目から毎月どの程度不足する可能性があるのか」を確認します。
そのうえで、現在加入している公的な制度や既存の保険、預貯金などでどこまで対応できるのかを確認し、不足する部分への備えを検討します。
資金・保障・診療体制を組み合わせる
- 一定の手元資金を確保する
- 院長自身の保障内容を確認する
- 休診しても残る固定費を把握する
- 代診や地域連携の可能性を確認する
- スタッフへの連絡方法を決める
- 患者さんへの案内方法を考える
一つの方法ですべてを解決しようとせず、自院の条件に合わせて組み合わせて考えることが大切です。
開業前だからこそ決めておきたい「院長不在時の最低限」
誰が何を確認できるのか
院長が連絡できない場合に、スタッフがどこまで対応してよいのかを決めておきます。
診療上の判断をスタッフへ任せるという意味ではありません。休診連絡、予約変更、取引先への連絡など、院長本人がいなくても進められる事務的な対応を整理しておくということです。
契約や連絡先を誰が確認できるのか
金融機関、税理士、社会保険労務士、医療機器会社、システム会社、建物管理会社など、緊急時に連絡する可能性がある相手を整理しておきます。
重要な契約書や連絡先が、院長本人にしか分からない状態になっていないかも確認しておくとよいでしょう。
家族やスタッフと、どこまで共有しておくか
すべての経営情報を共有する必要はありません。
一方で、「院長と数日連絡が取れなければ誰へ連絡するか」「休診時に何を確認するか」など、緊急時に最低限必要となる情報は共有しておくことができます。
リスクをゼロにするのではなく、自院で対応できる範囲を把握する
クリニックを開業する以上、院長自身が病気やけがで診療できなくなる可能性を完全になくすことはできません。
だからといって、考えられるすべての事態に備えて、多額の資金や保険を用意しなければ開業できないということでもありません。
まずは、
- 数日休んだら何が起きるか
- 数週間になったら何を変える必要があるか
- 診療を休んでも毎月どの程度の支出が残るか
- 患者さんや従業員へ誰が連絡するか
- どこまで自己資金で対応できるか
- 不足する部分をどの方法で補うか
を、自院の条件に合わせて確認します。
開業準備で大切なのは、リスクをすべてなくしてから始めることではありません。
何か起きた場合に、自院ではどこまで対応できるのかを把握し、必要な部分に備えておくことです。
物件や資金計画、採用、診療体制を考えるときに、「院長自身が一時的に診療できなくなった場合」という視点も一度加えてみてはいかがでしょうか。
開業前の課題を、自院の状況に合わせて考えたい方へ
開業準備では、院長自身が診療できなくなる場合だけでなく、資金計画、採用、スタッフ体制、システム、診療の進め方など、複数の条件が関係することがあります。
まえやまだ純商店では、現在の状況や条件を確認し、必要な情報や選択肢を比較しながら、自院では何を確認し、次に何を行うかを一緒に検討しています。
支援内容・料金・進め方を見る※支援内容や進め方をご確認いただいたうえで、必要な場合は状況確認面談をご利用いただけます。
