開業医が診療を続けるために――“働けないリスク”への備えを考える
クリニックを開業すると、設備投資や採用、人件費など、多くの支出が発生します。ローン返済も長期にわたることが一般的です。そんな中でふと頭をよぎるのが、「もし自分が病気やケガで診療できなくなったら?」という問いではないでしょうか。
勤務医時代のように傷病手当があるわけではなく、開業医は働けなくなった瞬間に収入が途絶えるという現実に直面します。本記事では、そのときクリニック経営に何が起こるのか、そして備えとして注目される「GLTD(団体長期障害所得補償保険)」の考え方を整理します。
勤務医と開業医で異なる“リスク構造”
勤務医であれば、健康保険組合や共済組合により、一定期間の傷病手当金が支給されます。ところが、開業医が加入する国民健康保険にはその仕組みがありません。
つまり、院長が休むと収入はゼロでも支出は続く。スタッフ給与、家賃、リース、光熱費――これらは止まりません。数週間の休診ならまだしも、数か月単位になると経営に深刻な影響を及ぼします。
就業不能がもたらす“資金の空白期間”
診療を止めると、売上は急減します。代診の先生を依頼する場合でも、依頼料が発生します。こうした状況に備え、一般的には3〜6か月分の売上相当額を手元資金として確保しておくことが目安とされます。
しかし、実際には「そんなに余裕はない」と感じる院長も多いはず。だからこそ、保険や積立といった仕組みで“空白期間”を埋める発想が必要になります。
GLTD(団体長期障害所得補償保険)とは
GLTDとは、Group Long Term Disabilityの略で、「病気やケガによって長期間働けなくなった場合に、所得を補償する保険」です。日本では「団体長期障害所得補償保険」と呼ばれています。
簡単に言えば、“長期の休業”に備える仕組み。短期的な傷病補償ではカバーしきれない、開業医ならではのリスクに対応します。
なぜ“長期補償”が重要なのか
- 借入返済が続く:開業時の設備投資は数千万円規模。返済期間は10年以上に及ぶこともあります。
- 固定費は止まらない:スタッフ給与・家賃・リース料・光熱費など、経営を支えるコストは毎月発生します。
- 家庭の生活も守る必要がある:院長自身と家族の生活を維持するには、一定の収入確保が不可欠です。
つまりGLTDは、「働けない期間の経営と生活を支える“時間の保険”」と言えます。
加入を検討するときの3つの視点
① 免責期間(待機期間)
休業開始から保険金が支払われるまでの期間を指します。商品によっては60日〜365日と幅があります。自院の資金繰りを踏まえ、どの期間が現実的かをシミュレーションしておくと安心です。
② 補償額の設計
「どのくらい必要か」を感覚ではなく、生活費+クリニック固定費から逆算して設定します。補償が不足すると意味がなく、過剰だと保険料負担が重くなります。
③ 保険と資産のバランス
すでに十分な資産がある場合、保険に頼らず自己資金で備える選択も可能です。年齢・健康状態・家族構成などをふまえ、“どこまでを保険で、どこからを資産で”と考えるのが現実的です。
制度理解よりも、“考え方”の整理を
GLTDは経営リスクの一部を軽減する有効な手段ですが、目的は「保険加入」ではなく、自分やスタッフ、家族をどう支えるかを考えることです。
「病気やケガで働けなくなったとき、自分のクリニックはどうなるか」――この問いに向き合うことが、持続可能な経営の第一歩になります。
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