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クリニック開業・経営コラム

サイゼリヤに学ぶ、「値上げせずに強くなる」経営術── 医療機関の赤字が増える今こそ、“構造で支える経営”を考える



値上げせず黒字化を実現したサイゼリヤの経営




外食大手サイゼリヤは、物価や人件費の上昇が続く中で、あえて「値上げをしない」という方針を貫き、国内事業の黒字化を達成しました。一般的にコスト上昇時には値上げが「正攻法」とされますが、サイゼリヤは異なる道を選びました。


同時期、多くの外食チェーンは価格改定を行い、原価高騰や人件費増に対応していました。そのなかで価格を据え置きながら黒字化を果たしたサイゼリヤの経営判断は、まさに異例のものといえます。




経営構造で利益を生み出す仕組み


サイゼリヤは、「誰もが気軽に食事を楽しめる社会を」という理念を軸に据え、価格を上げるのではなく、経営構造そのものを変えることで利益体質への転換を図りました。


1. 店舗数の最適化による効率化


店舗数を約5%削減し、1店舗あたりの来店客数を増やすことで、売上の集中化と回転率の向上を実現しました。その結果、人件費や家賃・光熱費といった販管費率の低減につながりました。


2. 「安さ」よりも「安心」を重視


他社が値上げに踏み切る中で、サイゼリヤはあえて価格を維持しました。その「変わらない安心感」が顧客の信頼を高め、客数増加という形で支持を集めました。


3. 理念 × 戦略 × 執行力


営業利益率は2%台にとどまりながらも、理念を軸に戦略と執行を徹底したことで黒字化を実現。経営を支えたのは「理念・戦略・執行力」の三本柱でした。




理念 × 戦略 × 執行力 ― 強い経営の共通点


サイゼリヤの事例が示すのは、価格ではなく構造で強くなる経営です。理念を中心に置き、その理念を実現するための戦略を設計し、最後までやり切る執行力を発揮する。この考え方は、医療機関における経営にも通じる部分があります。


理念


経営の「なぜ」を明確にする。たとえば「地域の健康を支える」「安心できる医療を提供する」といった基本理念を再確認することが、あらゆる経営判断の出発点になります。


戦略


理念をどのように実現するかを設計する。動線や人員配置、予約導線、情報発信などを“仕組み”として整備し、属人的な運営から仕組みで支える体制へ転換します。


執行力


継続的にやりきる力。現場で改善を積み上げ、仕組みを回し続ける文化を育てる。一度つくった施策を継続し、日々の実践に落とし込む力が組織を強くします。




医療機関の赤字が増える今こそ、構造を見直すとき


近年、医療機関の赤字が増加していると報じられています。診療報酬の伸びが限られる一方で、光熱費や人件費は上昇しています。「診療を一生懸命行っても経営が厳しい」と感じる院長も少なくありません。


こうした中で問われるのは、
「診療報酬の範囲でどう経営を維持するか」ではなく、
「どうやって信頼を守りながら、持続可能な経営を築くか」
という視点です。


制度や報酬に左右されず、「価格」ではなく「構造」で安定性を高める。サイゼリヤのように理念を中心に据え、現場の仕組みを磨くことで、医療機関も持続的な経営基盤を築くことができます。




クリニック経営に応用できるヒント


得意分野に集中する


サイゼリヤが店舗を減らして効率を高めたように、クリニックも「何でも診る」から「得意分野に集中」することで、限られたリソースを最大限に活かせます。


固定費を見直す


動線やシフト、委託業務などを再点検し、固定費の削減を図る。小さな積み重ねが経営全体を支えます。


安心感を提供する


「安さ」よりも「安心感」を重視する姿勢。患者にとって「ここなら大丈夫」と思える説明や誠実な対応が、長期的な信頼を築きます。


判断の軸を一本化する


理念を判断基準に据え、“患者・スタッフ・地域”の三方よしを目指す。経営判断の一貫性が組織の安定につながります。



※サイゼリヤの戦略をそのまま医療に当てはめることはできませんが、「理念を軸に構造を設計し、執行で支える」という考え方は、医療経営にも確かなヒントを与えてくれます。





「価格」ではなく「信頼」で支える経営へ


サイゼリヤの経営は、「理念に基づき、構造で支え、執行しきる」姿勢の成果といえます。医療機関もまた、理念に立ち返り、現場の仕組みを整えることで、短期的な赤字を超えた「持続する経営」を実現できます。


価格を上げることはできなくても、信頼を積み上げることはできる。そして、その信頼を支える仕組みを整えることが、今後の医療経営の大きなテーマとなるでしょう。




おわりに


飲食店と医療機関の経営は、もちろん同列に語るものではありません。しかし、他業種の経営には、医療現場にも応用可能な構造的な示唆があります。


理念を軸に、仕組みを整え、継続して実行する。その姿勢こそが、医療機関が地域の信頼を守りながら、長く続いていくための根幹になると考えます。




参考出典


【非常識】サイゼリヤ、値上げなしの黒字化を読み解く(NewsPicks/Kuboki Nijie氏)
本記事は上記内容をもとに、医療経営の視点から再構成しています。





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