泌尿器科クリニック経営シリーズ 第6回 泌尿器科が内科を標榜するという選択 ― 専門性と経営のバランスをどう取るか
                はじめに
近年、「内科を標榜すべきか」という相談が増えています。高血圧・糖尿病・脂質異常症など内科疾患は腎機能と密接に関わり、「排尿」だけでなく「腎臓を守る医療」へのニーズが高まっているためです。ただし標榜の追加は看板の変更ではなく、経営構造・診療体制・地域ポジションを見据えた判断が必要です。
制度的には可能 ― ただし「診療実態」が前提
医師免許は包括的であり、泌尿器科専門医が「内科」を標榜すること自体は制度上可能です。しかし保険診療上は実態のある診療が求められます。
標榜を届け出る前に確認したい3点
- 検査体制: 採血・心電図・血圧測定などをルーチン運用できるか。
 - 人員体制: スタッフが生活習慣病指導・測定補助を担えるか。
 - 診療設計: 内科的慢性疾患を継続管理するフロー(来院頻度・検査・説明資料)があるか。
 
経営面でのメリット
- 患者層の拡大: 「泌尿器+内科」の表示で高齢層・慢性疾患層の受診ハードルが下がる。
 - 診療報酬の多様化: 生活習慣病管理料など、点数の幅が広がる。
 - “かかりつけ機能”の確立: 全身管理の安心感が地域での信頼を高め、再診基盤が安定。
 
注意点とリスク
- 専門性の分散: 泌尿器科の強みがぼやけ、「何でも屋」に見えるリスク。
 - 運営コストの増加: 検査設備・試薬・電子カルテ設定・スタッフ教育にコストと手間。
 - 患者ニーズの多様化: 感冒・健診全般など対応範囲が拡大しやすい。
 - 診療効率の低下: 専門外相談の比率が増えると、泌尿器科診療の時間が圧迫される可能性。
 
実務的判断のステップ
- 地域分析: 近隣内科の数・距離・競合状況を把握。
 - 導線設計: 「腎・排尿・生活習慣病」患者の通院動線を描く。
 - 診療範囲の明文化: 何を内科として診るか(例:高血圧・糖尿病に限定)を院内ルール化。
 - スタッフ運用: 看護師・事務がスコア記入、生活指導、検査案内を担う体制。
 - 発信の統一: HP・院内掲示で「泌尿器科+腎・生活習慣病フォロー」を一貫して訴求。
 
代替戦略 ― 標榜せずに「内科的視点」を持つ方法
- 検査設計の拡張: HbA1c・脂質・eGFR・尿蛋白の定期測定と見える化。
 - 生活指導の仕組み化: 水分・塩分・運動の目安をスタッフが説明、配布資料で継続率維持。
 - 伝え方の工夫: Webで「腎臓を守る医療」「血圧・生活習慣病も一緒にサポート」を明示。
 - 内科との提携: 紹介ルートをHPや院内で明示し、連携の信頼性を可視化。
 
判断基準の整理
専門性・体制・地域性・ブランディングの4観点で検討します。
泌尿器のコアを保ちつつ無理のない体制、地域ネットワークとの調和、そして「腎臓を守る医療」という一貫したメッセージを維持できるか――これらが満たされるなら、内科標榜は有力な選択肢です。
まとめ
内科標榜は“やる・やらない”ではなく、目的を明確にし、導線を設計できるかが鍵。泌尿器科の専門性を軸に、腎臓・血圧・生活習慣病の管理まで一貫して支援できる体制が整えば、標榜の有無に関わらず地域から選ばれるクリニックに育ちます。
頭の中の“もやもや”を整理し、次の一歩を見つけたいときに
記事内容を前提に、自院では何をどう整えるかを“考えの整理”からご一緒します。
即答よりも、「腑に落ちる」時間を大切に。
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