開業時の医療機器導入は「購入」か「リース」かの選択が重要です。臨床に専念してこられた先生方にとって、 資金繰り・税務・契約条件を同時に判断するのは負担が大きくなりがちです。本稿では、リースと購入の特徴を整理し、 実務上の見落としを減らすための“読みやすい判断軸”を提示します。比喩として、 スマホの一括購入(=購入)と分割払い(=リース)に置き換えると直感的に理解しやすくなります。
1)そもそもリースとは?
- リース会社が機器を購入し、先生は一定期間「借りて使う」仕組み。
- 所有権はリース会社に帰属(クリニックは使用権のみ)。
- 期間は5・7・10年などの定額払いが一般的。
- 満了後は返却または更新(入替)。
- 初期費用を抑えつつ、毎月の支払いを平準化できる。
2)購入の特徴(資産化・減価償却の観点)
メリット
- 自院の資産となり、長期使用ほど1台あたりの実質コストが低下。
- 減価償却により、毎期計画的に費用化。
- 条件が良い場合、低金利の銀行融資で総額優位になりやすい。
デメリット
- 初期費用が大きい(複数機器同時導入時は資金圧迫)。
- 技術進歩が速い分野では数年で古く感じやすい。
故障・破損時
- 修理・代替機手配は原則クリニック負担。
- メーカー保証・保守契約の適用範囲と費用は別途。
3)リースの特徴(費用構造・所有権の観点)
メリット
- 初期費用の抑制、毎月定額で資金繰りが安定。
- 契約満了に合わせて最新機器へ入替しやすい。
デメリット
- 資産化されない(所有権はリース会社)。
- リース料には金利・事務手数料・損害保険料等が含まれ、総額では高くなりやすい。
- リース会社は営利事業のため、利益相当分もコストに内包。
故障・破損時
- 多くの契約で損害保険料がリース料に含まれ、修理・代替機がカバーされることがある。
- ただし免責・対象外の条件は契約ごとに異なるため要確認。
4)スマホで例えると・・・
- 一括購入(=機器購入):初期費用は大きいが自院のものになり、長く使うほど割安。
- 分割払い(=機器リース):月々は軽いが手数料等が上乗せされ、合計は割高になりやすい/新機種へ替えやすい。
5)判断の軸
- 資金繰り:開業初期は運転資金を厚く持ちたい→リース有利。余裕があれば購入も現実的。
- 税務処理:購入=減価償却/リース=支払リース料をそのまま経費化(処理が簡便)。
- 更新サイクル:新しい機種が出て買い替えが必要になるまでの速さを評価。
- 故障対応:リースは保険込みの安心感。購入は保守契約・修理費を別途手当て。
- 融資枠・資金配分:低金利融資の活用余地/他用途(内装・採用・広告等)との配分方針。
- 経営方針との整合:診療コンセプト・提供価値(最新性重視か、定番安定運用か)。
6)契約年数と償却年数は「別物」
- 購入:国税庁の耐用年数に基づき減価償却。
- 診断用X線装置:7年
- 内視鏡:5年
- 超音波診断装置:5年
- 心電計・脳波計:5年
- 人工呼吸器・麻酔器:7年
- 診察台・椅子など(家具):8年
- リース:契約で決めた年数(5・7・10年など)で支払い(耐用年数と一致しないことが多い)。
- 示唆:支払期間と費用配分が異なるため、キャッシュフローの見え方/総額に影響。
7)開業前に起きがちな見落とし
- 月額だけで判断し、合計支払額を見ない。
- 途中解約・返却・残価・更新費・修理/保守範囲・保険の免責など、重要条件の盲点。
- 提案側の報酬構造(紹介料など)が不明で、意図せざるバイアス。
- 多案件同時進行により、横並び比較に時間が割けない。
8)実務の“かんたん比較”手順
ステップ1:総額を先に見る
- リース:毎月支払 × 回数 + 最初/最後の費用(設置・撤去・残価)
- 購入+融資:本体価格 + 利息 + 手数料 +(保守・保険)
- 「月◯万円」ではなく、合計でいくらかを同じ物差しで比較。
ステップ2:条件を同じ観点で横並び
- 期間、毎月の支払、初期・満了時の費用。
- 途中解約の可否と費用、返却/買取条件、原状回復。
- 修理・保守の範囲(部品・出張・代替機)、保険の免責。
- 更新時の費用・再リース条件。
- 空欄が多い見積は要注意。
ステップ3:決める順番の目安(スケジュール)
- 開業6〜4か月前:必要機器の洗い出し/資金配分の方向性を決定。
- 開業3〜2か月前:3社以上の見積を同条件で取得・横並び比較。
- 開業1か月前:契約書の要点(途中解約・返却条件・修理/保守・残価)を最終確認。
9)迷ったときの三箇条
- 長く使え、機能が大きく変わらない機器 → 購入が有利になりやすい。
- 新機種の登場が速く、最新性が診療価値に直結 → リースが選びやすい。
- 「月◯万円」に惹かれたら一呼吸 → 総額と途中解約条件を先に確認。
まとめ
どちらが絶対に正しい、という結論はありません。重要なのは、 資金計画・税務・更新サイクル・故障対応・経営方針を同じ画面上で並べ、 総額と条件を揃えて比較することです。これだけで、開業後の「こうしておけばよかった」を大きく減らせます。 必要に応じ、院内の体制や資金配分に合わせて微調整し、先生方の診療コンセプトに最も近い選択をお取りください。
関連記事
・クリニックにおける医療機器選定と導入後のポイント ― 価格交渉から患者説明まで ―
・人材×DX×仕組みで実現する、持続可能なクリニック経営(クリニック経営の基本視点シリーズ・第3回目)