クリニック経営の相談事例|スタッフから退職の申し出があったとき院長と整理したこと
クリニックを運営していると、スタッフから突然退職の申し出があることがあります。
例えば、産休・育休に入る相談、家庭の事情による退職、急な転職などです。こうした状況になると、院長は「人手が足りなくなる」「すぐに求人を出した方がいいのだろうか」と悩むことがあります。
実際、開業1〜5年目のクリニックでは、診療体制がまだ固まりきっていないことも多く、一人の退職や休職が与える影響は小さくありません。受付、会計、電話対応、診療補助など、日々の業務が限られた人数で回っているからです。
ただ、こうした場面で、私はいきなり「採用ノウハウ」の話から入ることはあまりありません。まず行うのは、今のクリニックで何が起きているのかを整理することです。
今回は、スタッフから退職の申し出があったときに、院長とどのようなことを整理したのかをまとめます。採用のテクニックを解説する記事ではなく、院長の思考整理の過程を共有する相談事例としてお読みください。
目次
クリニックの院長からの相談|スタッフ退職による人手不足
ある院長から、こんな相談をいただきました。
「スタッフから産休の申し出がありました。」
「もう一人のスタッフも、将来的には退職を考えているようです。」
「このままだと人手が足りなくなりそうです。」
「すぐに求人を出した方がいいでしょうか。」
人が減ると、診療の流れにどこで影響が出るかが見えにくくなります。受付が滞るのか、会計が詰まるのか、電話対応が追いつかなくなるのか、診療補助が不足するのか。院長の頭の中では、さまざまな不安が一気に立ち上がります。
そのため、「まずは求人を出そう」と考えるのは自然な反応です。実際、採用活動そのものが必要なケースもあります。ただ、相談の中でよくあるのは、採用を急ぐ前に整理した方がよいことが残っているという状況です。
クリニックで人手不足になったとき院長が最初に考えること
スタッフの退職や休職が見えてきたとき、院長が最初に考えることはおおむね共通しています。
- すぐに求人を出す
- 求人媒体を変える
- 時給や月給を上げる
- 派遣やスポット人材を探す
- 既存スタッフの勤務時間や残業で対応する
どれも現実的な選択肢ですし、状況によっては必要です。ただ、ここで少し立ち止まって考えたいのは、「今の業務の持ち方のままで、本当に採用だけが解決策なのか」という点です。
採用が難しい時代だからこそ、求人を出す前に、今の体制で抱えている業務を一度見直しておくことには意味があります。そうしないと、仮に採用が決まっても、「入った人が続かない」「思っていた業務と違う」「現場の負担感が変わらない」という別の問題につながることもあるからです。
採用が決まらないときの考え方については、
クリニックの採用が決まらないとき、院長は何を見直すべきか、
クリニックの採用が決まらない理由|院長が見落としやすい5つのポイント
でも整理しています。
相談の中で整理したこと
今回の相談では、主に3つのことを整理しました。すぐに求人原稿の話に入るのではなく、クリニックの中にある業務や体制を見直すところから始めました。
① クリニックで抱えている業務内容
最初に確認したのは、今のクリニックでどのような業務を抱えているかです。
- 受付業務
- 会計業務
- 電話対応
- 診療補助
- 書類作成
- 院内掲示や案内の整備
- レセプト関連の事務
こうして並べてみると、「何となく忙しい」が少し具体的になります。そのうえで考えたのは、「本当に今のやり方のまま持つ必要がある業務なのか」ということでした。
例えば、工数を適切に減らせる業務はないか、手順を整理することで負担を軽くできないか、そもそも頻度ややり方を見直せるものはないか。人が足りないと感じるときほど、今ある業務をそのまま前提にしがちですが、実際には仕事の持ち方そのものを見直す余地があることも少なくありません。
② 外部に依頼できることはないか
次に整理したのは、院内スタッフが行うべき業務と、外部に依頼できる業務の切り分けです。
クリニックでは、スタッフが対人業務に多くの時間を使う方が、患者さんとの接点の質が安定しやすい場面があります。その一方で、必ずしも院内で抱えなくてもよい業務もあります。
- ホームページ管理
- 一部の事務作業
- 清掃や環境整備の一部
- 制作物の作成や更新
もちろん、すべてを外部化すればよいという話ではありません。ただ、外部に依頼することを検討するだけでも、「人を一人増やさないと回らない」と思っていた状況が、少し違って見えることがあります。
人手不足の問題は、人数の問題であると同時に、業務構造の問題でもあります。
③ 求人を出すなら、何を明確にするか
そのうえで、やはり採用が必要だと判断した場合には、求人募集の文章を曖昧なまま出さないことが大切です。
例えば、
- どの業務を担ってほしいのか
- どの時間帯の負担を軽くしたいのか
- どんな働き方を想定しているのか
- このクリニックは地域の中でどんな役割を担っているのか
こうしたことが整理されていないと、求人票の条件面だけでは伝わらない部分が残ります。逆に、役割や業務内容が明確になると、応募する側にとっても「自分が働くイメージ」が持ちやすくなります。
採用は求人媒体だけの問題でも、条件だけの問題でもなく、何を任せたいのかをどれだけ明確にできているかが大切だと感じます。
採用問題の本質は条件だけではない
現在は、多くの業界で採用が難しくなっています。医療機関も例外ではありません。物価高や賃金上昇の影響が続く中で、「以前と同じ条件で人が採れる」とは考えにくくなっています。
医療分野でも処遇改善が求められるようになり、その一つの制度としてベースアップ評価料があります。制度の整理については、ベースアップ評価料とは?、ベースアップ評価料を算定すべきか?でも触れています。
ただ、ここで大事なのは、ベースアップ評価料を算定するかどうかだけではなく、その背景にある「採用難」「賃金上昇」「体制維持の難しさ」を、クリニック経営としてどう受け止めるかだと思います。
ベースアップ評価料という制度も、院長がクリニックの体制や役割を整理する視点とつながっています。
「スタッフが退職したとき、どうすればいいのか」と考えてこの記事を読んでいる院長もいるかもしれません。すぐに採用を考えることも一つの方法ですが、まずはクリニックの役割や業務の構造を整理することで、別の選択肢が見えてくることもあります。
採用は条件だけで決まるものではありません。どんな診療をしているのか、どんな役割を担っているのか、どんな働き方になるのか。そうしたことが整理されていると、働く側にとってもクリニックの輪郭が見えやすくなります。
最後に|すぐ求人を出す前に問い直したいこと
採用の相談を受けるとき、私は「この媒体がいい」「この条件にすべき」といった答えを急いで出すことはあまりありません。それよりも、
- 今のクリニックはどんな役割を担っているのか
- どの業務を院内で持ち、どこを見直せるのか
- 本当に今、採用が最優先なのか
こうした問いを、院長と一緒に整理することを大切にしています。
クリニック経営には、一つの正解があるわけではありません。だからこそ、他人の正解をそのまま当てはめるのではなく、今の自院に合った納得解を見つけることが大事なのだと思います。
この地域で、
自分のクリニックはどんな役割を担うのか。
その役割に対して、今の業務の持ち方は合っているのか。
スタッフから退職や産休・育休の申し出があったとき、すぐに求人を出すかどうかを考える前に、まずはその問いから整理してみるのも一つの方法かもしれません。
整理することが、経営の第一歩になることもあります。
開業準備や経営の整理を一緒に進めたい方へ
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