まえやまだ純商店

クリニック開業・経営コラム

クリニックでスタッフが定着しない理由|院長が見直したい役割・体制・運用

更新日:2026年8月10日

「採用しても、なかなかスタッフが定着しない」

「また退職者が出た。給与や待遇を見直した方がよいのだろうか」

スタッフが定着しないとき、給与や勤務条件を見直すことは大切です。しかし、理由を条件面だけで説明できるとは限りません。

実際には、誰が何を担当するのか、どこまで自分で判断してよいのか、困ったときに誰へ相談するのか、教育や業務負担が特定のスタッフへ集中していないかなど、役割・体制・日々の運用が関係していることがあります。

この記事では、「誰が悪かったのか」を探すのではなく、スタッフが定着しない状況を振り返り、院長が自院で見直せることを整理する考え方を解説します。

スタッフが定着しないときは、給与・採用・本人の適性のどれか一つに原因を決める前に、働く前提そのものを確認します。

退職までの経緯、負担が集中している業務、役割と判断範囲、採用時との認識差を確認し、そのうえで役割・体制・運用のどこから見直すかを決めます。

スタッフが定着しない理由を、給与だけで考えない

スタッフの退職が続くと、「給与が低いのではないか」「もっと待遇を良くする必要があるのではないか」と考えることがあります。

もちろん、給与、勤務時間、休日などの条件は、働き続けるうえで重要です。

一方で、条件面に大きな問題がなくても、日々の働き方に負担が積み重なっている場合があります。

  • 業務量が増えているのに役割分担が変わっていない
  • 忙しい人ほど仕事を任され続けている
  • 新人教育が特定のスタッフへ集中している
  • 困ったときの相談先が分からない
  • 患者さんへの対応基準が人によって違う
  • 院長へ確認しないと進められない仕事が多い
  • 採用時に聞いていた仕事と実際の業務が違う

こうした状態では、スタッフ個人の努力だけでは解決しにくくなります。

また、退職理由には転居、家庭事情、本人の希望など、クリニック側では変えられない事情もあります。

大切なのは、「辞めた理由」を一つに決めることではなく、自院で見直せることと、見直せないことを分けることです。

退職そのものが起きた直後に何を整理するかについては、クリニックでスタッフが辞める理由とは?退職が起きたとき院長が整理したい判断ポイントで扱っています。

スタッフが定着しないとき、まず確認したい5つのこと

対策を考える前に、何が起きていたのかを順番に確認します。

1.退職までの経緯を確認する

最初に見るのは、「誰が悪かったのか」ではなく、退職までに起きていた事実です。

  • いつ入職し、どのくらい勤務していたか
  • 主にどの業務を担当していたか
  • 途中で仕事や責任が増えていなかったか
  • 教育や相談を誰が担当していたか
  • 困りごとを共有する機会があったか
  • 退職前に業務や人員の変化がなかったか

本人から伝えられた退職理由だけでは、院内で起きていたことのすべては分かりません。

事実・本人から聞いたこと・院長や周囲の解釈をできるだけ分けて考えます。

2.どこへ負担が集中していたか確認する

「仕事が多かったか」だけではなく、特定の人しか処理できない仕事や、判断が必要な仕事が偏っていなかったかを見ます。

  • 電話・予約変更
  • 患者さんへの説明
  • 新人教育
  • レセプトや書類業務
  • システム対応
  • 院長との調整
  • 例外的な患者対応

「できる人へ任せる」が積み重なると、業務だけでなく、周囲から相談を受ける役割まで一人へ集中することがあります。

3.役割と判断範囲を確認する

役割は、単に業務一覧を作れば決まるものではありません。

少なくとも、次の3つを確認します。

担当範囲

その人が、どの業務を担当するのか。

優先順位

複数の業務が重なったとき、何を優先するのか。

判断範囲

どこまで本人が判断し、どこから確認するのか。

例えば「電話対応を任せる」と決めても、予約変更をどこまで本人判断で行えるのか、医学的な相談が入った場合に誰へつなぐのかが分からなければ、本人は動きにくくなります。

役割と判断の境界については、クリニックの業務はどこまでスタッフに任せる?院長が決めたい役割と判断の境界で詳しく整理しています。

4.採用前の説明と実際の働き方を比べる

採用時に説明した内容と、実際に任せていた仕事に違いがなかったかも確認します。

  • 仕事内容を具体的に説明していたか
  • 勤務時間や残業の実態に違いはなかったか
  • 採用後に担当業務が大きく増えていなかったか
  • 教育担当や相談先を説明していたか
  • 患者対応や院内ルールを共有していたか

採用時には「受付中心」と説明していたのに、実際には電話、書類、診療補助、新人教育まで増えていれば、本人にとって働き方の前提が変わっています。

求人票だけを書き直すのではなく、実際に入職した後の役割・教育・運用まで一致しているかを見ることが大切です。

5.最初に変えることを一つ決める

ここまで確認すると、複数の問題が見つかることがあります。

すべてを一度に直そうとすると、診療を続けながら変更するスタッフ側の負担も大きくなります。

まず、影響の大きいものから一つ選びます。

  • 電話対応の流れを整理する
  • 教育担当を分ける
  • 院長へ確認する場面を明確にする
  • 役割分担を見直す
  • 繰り返し迷う業務の手順を共有する

問題をすべて解決してから運営するのではなく、現在最も負担を生んでいる場所から小さく変えていきます。

役割・体制・運用を分けて考える

スタッフが定着しないとき、「採用が悪かった」「教育が足りなかった」と一つの原因へまとめると、次に何を変えるべきか分かりにくくなります。

そのようなときは、役割・体制・運用に分けると整理しやすくなります。

役割|誰が何を担い、どこまで判断するか

役割を見るときは、業務を公平に分けることだけを目的にしません。

確認したいのは、

  • 誰が主に担当するのか
  • 誰が判断するのか
  • 困ったとき誰へ相談するのか
  • 不在時に誰が代われるのか

です。

「できる人しか分からない仕事」が増えるほど、その人が休んだとき、辞めたときの影響も大きくなります。

体制|現在の人数と業務量で続けられるか

役割を決めても、そもそもの仕事量が現在の人数で受け止められなければ、負担は残ります。

  • 特定の曜日・時間帯だけ忙しくないか
  • 急な欠勤があると診療が回らなくならないか
  • 新しく増えた業務を誰が担っているか
  • 教育する時間を勤務の中で確保できるか
  • 人を増やす以外に業務を減らせないか

必要であれば採用する判断もあります。一方で、業務の流れやシステム、役割分担を見直した方がよい場合もあります。

人数ありきではなく、現在必要な仕事を、どの体制で受け止めるかを考えます。

運用|決めた役割が実際の現場で機能しているか

組織図や担当表を作っても、診療中に使えなければ意味がありません。

  • 忙しいときに優先順位を確認できるか
  • 判断に迷ったときの相談先が分かるか
  • 教育する人によって説明が大きく違わないか
  • 患者さんへの対応方針が共有されているか
  • 決めた運用を振り返る機会があるか

というように、日々の動き方まで確認します。

教育や業務手順が特定スタッフへ依存している場合は、すべてを一度に文書化するのではなく、繰り返す業務・迷いやすい業務から整理する方法があります。

クリニックマニュアルは何から作る?|院長や特定スタッフへの依存を減らす6つの視点でも整理しています。

例えば、受付スタッフの退職が続いている場合

「受付の人が合わなかった」と考える前に業務を書き出したところ、電話対応、新人教育、患者さんへの説明、院長への確認事項の取りまとめが一人へ集中していたとします。

この場合、次の採用だけを工夫しても、同じ役割を新しい人へ渡せば負担が再現する可能性があります。

教育担当を分け、電話対応の流れを決め、院長へ確認する範囲を整理してから採用する方が、何を任せる人なのかも説明しやすくなります。

次の採用を始める前に確認する

スタッフが辞めると、診療への影響を抑えるために採用を急ぐ必要がある場合があります。

一方で、以前と同じ働き方のまま新しいスタッフを迎えても、同じ負担が再現しないかは一度確認したいところです。

  • 今回採用する人に何を任せるのか
  • どこまで本人が判断するのか
  • 誰が教育を担当するのか
  • 困ったときの相談先を決めているか
  • 既存スタッフへ負担が偏らないか
  • 求人票で実際の仕事を説明できるか

採用すること自体を目的にするのではなく、採用後にその人が無理なく役割を担える状態になっているかまで考えます。

応募が来ない・採用できない段階でどこを確認するかについては、医療事務・受付の応募が来ないとき、何から見直す?|クリニック採用の確認ポイントで整理しています。

採用決定後の受け入れについては、採用が決まったあと、入職までに何を整える?|クリニックの受け入れ準備も参考にしてください。

まとめ|定着しない理由を「人」だけに求めず、働く前提を整理する

クリニックでスタッフが定着しないとき、給与や待遇、採用した人の適性だけを見直しても、同じ問題が続くことがあります。

まず、

  1. 退職までに何が起きていたのか
  2. どの業務・判断へ負担が集中していたのか
  3. 担当範囲・優先順位・判断範囲は明確だったか
  4. 採用時の説明と実際の働き方にずれがなかったか
  5. 最初にどこを変えるのか

を確認します。

そのうえで、役割・体制・運用を分けて考えると、採用を急ぐのか、教育を見直すのか、役割分担や業務の流れを変えるのかを判断しやすくなります。

スタッフ定着を「辞めない人を採る問題」だけにせず、自院で無理なく働き続けられる役割と体制を整える問題として考えることが大切です。

スタッフが定着しない背景を、自院だけでは整理しきれないときに

スタッフの定着には、採用、役割分担、業務量、教育、既存スタッフへの負担、院長への判断集中など、複数の論点が関わることがあります。

まえやまだ純商店では、現在の状況や背景、論点、判断基準、考えられる選択肢を整理し、院長ご自身が自院として次の一手を判断しやすい状態づくりを支援しています。

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まえやまだ純商店 前山田純

この記事を書いた人

前山田 純 まえやまだ純商店

2011年から医療機関の開業・経営支援に従事。院長が一人では整理しきれない経営課題について、現状や論点、選択肢を整理し、自院として判断しやすい状態づくりを支援しています。一つの正解をお伝えするのではなく、院長ご自身が納得して判断できる状態づくりを大切にしています。

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